喧騒が続いていた世界は、今は既に静けさに満ちていた。
広がるのは夥しい血。
そして、多くの武器や防具が転げ落ちていた。
朽ち果てた存在が広がる。
頭がゆれるような死の匂い。
しかしそれを発する存在は何処にもいない、足も、腕も、指一本も残らずに人の形をしている物は存在していない。
戦い続けていたアークス達が態々戦死者を片付けるような事はしない。
ただただ、まるで何も無かった様に砂が舞う。
割れた船の側。
船の欠損は酷く、辺りに人のサイズをゆうに超える瓦礫がそこらじゅうに広がっていた。
今はその周りを見えない壁のようなものが覆っていた。
その壁の中を慌しく動き回るアークスの中、一人カナタだけが呆然と立ち尽くしていた。
唇が震える。
力が抜けたように、砂の上へと膝を付く。
「お、ば……ちゃ、ん」
少し前まで、楽しく喋っていて、食堂でいつも優しくしてくれて、それで、それで。
それで。
目の前で瓦礫に潰れている人間が、瓦礫の下から広がっている血が、その人の。
その人の筈が無くて。
瓦礫から出ている上半身が無ければそういう風に錯覚出来た筈だ。
頭にいつもつけている三角巾。
似たような色を最初にくれた三角巾。
あの子をお願いと言ってくれたあの人。
苦痛の顔で、苦しそうで、それで、それで、それで。
帰って来たら、また楽しい生活に戻れるんだって、
食堂でおばちゃんと話ながら働いて、茶化すレオンやその友達をあしらって、
終わったらリースやアリスや、サーシャとご飯を食べて、
ムスッとしたホルンにそれとは正反対に笑いかけてくれるシルカが居て、
少しだけ怖いルーファとそれとなく話てみたりして。
それで、それで。
ファランは最近熱心にお菓子の勉強をしていて。
そこでふと顔を挙げる。
「ファラ、ン、ちゃん……」
震えながらその場からふらりと動き出す。。
逃げるように、状況の理解に頭が及ばず、妙にゆっくりと、歩を進める。
その歩は徐々に早まる。
「ファランちゃん ファランちゃん! ファランちゃん!!」
ぼそぼそと零れていた声は、徐々に大きくなる。
まるで悲鳴を上げるように、声を上げながらカナタは走る。
亀裂で開いた穴から船に入り、傾いた通路を走る。
自分の部屋に向かって必死に走る。
痛い、痛い、胸が痛い。
心臓が鳴る。
吐きそうになる不安は無理矢理に足を走らせる。
ようやく付いた自分の部屋の前で、息を切らしながら手を翳す。
いつもなら開く自動ドアが開く様子は無い。
慌ててカナタはドアにしがみついてた。
がちゃがちゃと繰り返し、何度も何度も思いっきり横へと開こうと力を込める。
「いや! いや! やだ! やだ!!」
悲鳴の声色は広がる。
ようやく開く隙間に無理矢理指を入れてドアを開く。
もはや指が痛い事も感じない。
何かが外れたように勢いよくドアが開いた。
突然に広がる光景。
目の前に広がる光景が、脳へと訴える。
思わず数歩後ろへと下がっていた。
部屋に広がる赤。
赤。
赤。
紅。
辺りの壁には、いつか見たであろう大量の切り傷が部屋中に広がっていた。
そしてそれを被せるように埋め尽くすようなべっとりと広がる血。
特に、彼女が眠っていた筈のベッドが鮮血と言う以上に、夥しい血の量で染まっていた。
その血の主はいない。どこにもいない。何もいない。誰もいない。
ファランはそこにいない。
その場でへたりこむカナタは、目を外す事すら出来ない。
口が渇く。
痛い、胸が痛い。
腹からの煮え返るような吐き気に、思わず両手で口を覆う。
脳が何度も嘘だと言葉を繰り返す。
彼女の世界が、善の世界が、楽しかった日々が、終わりを告げた。
噎せ返る死の匂いが、18歳の少女を襲う。
■
慌ただしく走り回るアークス達の中、少し離れた場所で立ち尽くしている人物達が居た。
円を作るように立ち並ぶ5人は、互いに視線を交わす。
女性が二人、男性が5人。
女性の二人は長い黒髪を揺らす物と濃い紫の大きな束を揺らす物。
片や男性の三人は一人は頭一つ分小さな少年の姿に、一人は長く黒い槍を持つ男。
そして、もう一人はタバコを優雅に空へと吐いている所だった。
「……ぶふっ!」
視線を交わしている中、一人が噴出したような声を出していた。
そのうちの一人が思わず噴出していた。
「ちょっとレオン……貴方血だらけじゃないですかその腕どうしたんですか? 最高に面白い化粧して来ないで下さいよ笑っちゃうじゃないですか」
まるでケガをしているのが有り得ないというような言い方に、レオンの表情がムッとしていた。
「てんめぇも血だらけじゃねーかボケ!!」
「コーディネートです、お洒落です。」
「最先端行き過ぎだろ!!」
言い合いをしているジョーカー二人を見てユラが頭を抱える。
「参った……全くやられたもんだ。未知数の敵が多すぎた。嫌、私が出たのが何よりの敗因か」
二人とは違いシリアスをしているユラにタバコの灰を落としながらブレインが答える。
「仕方がないさ、我々は最も出来る戦いをした。落ち度など見当たらない。最善の策だった……そう気に病むな」
「っつーか!! てっめーがサッサと出てきて全部サテライトかましときゃ話はもっと早く済んだんだよ!! 何隠れてかっこつけてんだテメー!! バーカ! この女恐怖症! ヘタレ!」
「ハハ……照れてしまう、止めてくれ」
「逆に何処を褒められたと思ったのか教えてくれねぇ!?」
「いえ、でも本当アナタ何をしてたんですか? 隠れてコソコソと……そんなに会いたくなかったのですか?」
「嫌……その……ハハハ、止めてくれピリオド態々俺に近づこうとする動作は必要が無いだろう十分この距離で聞こえるだろう止めてくれ頼む」
ルーファの無機質だった表情に悪戯染みた笑みが見えたユラは呆れたように手を翳す。
「ブレインで遊ぶのは後にしろルーファ……先に現状の報告から始めよう」
「……ダウナー止めてくれたのはありがたいのだがその言い方であると俺が後から大変になってしまう可能性が存在するのだがその点において論理的な話し合いを」
「解りましたよ、では始めましょう」
「だな」
「待て何故誰も話を聞いてくれないのだ。フフ、レッドイーグルとまで言われた俺が小鳥の囀りの扱いをされるとは……」
「いやお前どんだけ良い感じに捉えてんだよポジティブか」
「ハハ、まだ生きているお前程ポジティブでは無いよアルバトロス」
「ああ!? 誰が自殺しなきゃ行けないレベル!? 顔か!? 性格か!? どっちだろうがぶっ殺すぞテメー!!」
呆れたようにため息を零し顔に手を尽くユラを他所に言い合いを続けているジョーカー達の最中、白髪の少年、ホルンだけが俯きながら押し黙っていた。
その色の違う瞳が、ジッと地面だけを見つめ、何かを考えていた。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412
黒紫さんが現在CoCのリプレイ動画を作ってくれています!
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29987843