血相を変えてカナタ達に駆け寄るのは白衣の女性。
「カナタ! 怪我はない!?」
「だ、大丈夫ですよ! ユラさんが守ってくれましたから!」
詰め寄る彼女、レターにカナタは慌てて手を振る。
「ならいいんだけど……もうこっちは一人で走り回って大変なの! ラッセルを見てない!?」
彼女の言葉にカナタの表情が暗く落ちる。
「…………さん」
「ん?」
「ラ、ラッセル、さん、は……」
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
「そう……」
慌ただしかった彼女の顔が曇る。
あれだけ悪口を言っていても、彼が弟だった現実は変わりようはないだろう。
「この船に乗っていたのだから……あの子だって、いつ死んでもいい覚悟はしていたでしょう……それは、勿論私も……」
ぎゅっと胸を掴む仕草をする彼女の声は僅かに震える。
「でも、先にあの子が死んじゃうなんてね……決していい子では無かったけれど……弟である事は変わらないわね」
俯く彼女に、カナタは声を掛けようと前に出る。
出るだけで、言葉は出てこない。
ぱくぱくと魚のように動くだけの口は言葉を発さない。
何も、言えない。
目の前で、一瞬で殺された。
何もしてない何もできなかった。
見殺しに、した。
思わず上げていた手が落ちる。
彼女の中で、何かがピシリと音を立てる。
『何かが』
突然の肩の重力に、カナタはビクリと体を揺らした。
彼女がカナタの肩に手を置いていた。それは、気遣うような優しい手の暖かさ。彼女は微笑む。
「あの子の最後に、居てくれてありがとう……誰もいない所で死ぬのが当たり前の世界で、最後を見届けてくれてありがとう……」
「レターさん、私……」
カナタの言葉はそこで止まる。
それは彼女自身が止めたわけでは無い。
意図的に止められた。
「……はっ、ぁ?」
何で倒れている?
頭に走った衝撃と共に倒れていた。呆然としているカナタの目が赤く染まる。
ドロリとした液体が覆っていた。
震える手が頭に触れる。
ベッタリと手に着く紅。
何で? どうして?
呆然としながらも、ゆっくりと顔を上げる。
視線が合う。
沢山の視線と合う。その視線は憎しみや憎悪、殺意までも感じる視線。
それも一つではない。幾つもの視線がカナタへと向けられていた。
「カナタ!!! 血が!!!」
慌てて駆け寄るリースの様子も気にせずカナタの視線は動く。
血がついた大きめの石が転がっていた。
頭が揺れる程の痛みを無視してカナタは必死に状況を理解しようと辺りを見渡す。
まるでカナタを囲むように、逃がさないと言うように、アークス達に囲まれていた。
膝をついたままのカナタの目の前に白衣が過ぎる。
レターは囲むアークスを睨み返すように見渡していた。
「…………何をしているの貴方達」
レターの低い声に一人のアークスが叫ぶように応える。
「どけレター!! そいつはダーカーだ!!!この船をやったのはそいつだ!!!」
「何を馬鹿な!事を!!」
「映像も残ってんだよ!! 突然大量に現れたダーカーもそいつが手引きしてたに決まっている!!」
私が、この、私が?
囲む視線。
笑顔で食事を頼んでくれる人もいた。
話しかけてくれる人もいた。
彼等、彼女等が武器を向ける。
銃口を。
切先を。
殺す為の武器を向ける。
殺意の視線を向ける。
カナタ1人に。
「この子がただの人間であることは私が保証したでしょう!」
「黙れ! 貴様もヴォイドの生き残りだろうが!! ルーサーの部下など最初から信用出来るものか!!!」
「な!? こっちは弟が死んでるのよ!?」
「ちょ、ちょっと! 皆落ち着いてよ!」
「貴方もよリース! ジョーカーになりきれなかった欠陥品が!」
「そ、それは今は関係ないでしょ!?」
「この女のせいで皆死んだ! 連れていかれた! 殺せ! 殺せ!」
怒鳴り声が交差する。
罵詈雑言の嵐の中、カナタだけはがっくりと下を向き固まっていた。
何で、何故、どうして。どうして……?
またどこかで音がする。
ピシリと響く、酷く小さな音。
しかしそれは、ゆっくりと広がっていた。
思わずカナタは乾いた笑みを浮かべていた。
こんな風に簡単に、信用が砕けるのか。
善に走る彼女には始めての経験。
嫌われる事。
殺意を向けられる側。
あぁ、痛い、痛い、これは。辛い。
「ハ、ハハ、私なわけ無いじゃないですか……私が、そんな事するわけ」
立ち上がり、ふらつく足が、思わず前に出る。
カナタの挙動に合わせるようにアークス達は武器を構えなおす。
鋭い視線と共に突然の沈黙が広がる。
カナタは気づく。
彼らの視線の中に、畏怖が含まれている事が。
また音がする。ピシリ。ピシリ。ピシリ。
「私じゃない!違う! 違うの!!」
目頭が熱くなる。始めて向けられた差別の瞳に、カナタの心は耐えきれない。
「動くなダーカーが!! 次動けば殺すぞ!!!」
「なんで! なんで! 何でこんなことになるの!? 昨日まで普通だったじゃないですか!」
必死に、必死に零れだしそうなそれを堪え叫ぶ。
訴えるように、彼女は前に出た。
「私は! 私はただの人間だもの! 何で信じてくれないの!? 何で私がこんな目に!!」
更に前に出るカナタに合わせるようにアークス達が武器を上げる。
重々しい音と共に銃が、剣が、その標準は全て彼女へ向けて。
「カナタ! 止まって!」
「駄目よカナタ!コイツら本気よ!」
「おい殺せ! 殺せ!」
「馬鹿か! ジョーカー達を待て!! ダークファルス扱かもしれんぞ!!」
「待つまでも無いわよ!! 撃って! 撃って! この人数で掛かれば殺せる!!!」
異様なその空間の中、レターは必死に声を荒げる。
「いい加減にしなさい貴方達!! 今は仲間割れしてる場合じゃないでしょう!?」
しかしその声は届かない。
渦巻く殺意は止まらない。
「よく狙え!!! そこの女2人も纏めて殺せ!」
目の前の光が消えていく。
カナタの瞳に輝く瞳がゆっくりと消えていく。
堪えているのが馬鹿らしいというように、何故自分が我慢しているのかも解らずに。
ああ。
あああ。
何で、何で、何で。
……………何て。
醜い。
カナタの瞳から、光が消える。
その瞳は前を見つめる。
目の前の黒髪の女性を見つめる。
「ルー、ファ、さん……?」
振り向くリース、レターも驚きで彼女の名前を思わず呼んでいた。
そちらを向く事も無く、澄んだ瞳は、一直線にカナタを見つめていた。
「酷い顔ですね、正義の味方さん……」
ポツリと零す声と共に、周りを囲んでいたアークス達の武器がバラバラの姿へと変える。
まるで一線を通すような美しい斬り口。
いつ抜いたかも解らない。いつ目の前に現れたかも解らない。
目の前の最速のジョーカーは、一度刀を空で振ると鞘へと仕舞う。
油のような黒い液体が空中に飛んだのは、ランチャーや銃を切ったからだろうか。
バラバラになった武器を呆然と見ていたアークスが我に返ったように声を荒げる。
「ジョ、ジョーカー!! 邪魔をするな!! そいつはダークファルスだぞ!!」
ルーファの視線がゆっくりと、ゆっくりと声の方へ、後ろを向く。
真紅の瞳が、鮮血の色がどす黒い歪みを見せていた。
「……………………口を開くな」
普段のトーンとは違う、めんどくさそうな声色はそこには無い。
低く、芯に響くような声色。
その場にいるアークス達全員の背筋が凍る。
動く事が出来ない。
その瞳に、蛇に睨まれた蛙のように動く事が出来ない。
おぞましい殺気を一身に注がれた先程の一人のアークスは、パクパクと魚のように口を開いていた。
視線は再びカナタへと戻る。
赤い瞳は、カナタを見つめる。
現状に絶望する彼女を見つめる。
「これが……貴方の信じる『人』よ、カナタ……」
カナタは始めてその声を聞く。
いや、始めて、そんな声色を向けられたと言うべきなのか。
同情のような、哀れみのような。
それでも、優しい、声色。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412
黒紫さんが現在CoCのリプレイ動画を作ってくれています!
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29987843