女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.6 人では無い何か

 一瞬の砂煙の後、彼女がそこから消えたと思った瞬間、彼女は目の前に居た。

 いつのまに砂の山から降りたのかカナタには解る筈も無い。

 呆然とするカナタを他所に彼女は手に持つ帯刀を、揺ら揺らと遊ばせながら優雅に歩を進めていた。

 絶望的な状況である筈なのに、彼女の落ち着いた雰囲気は妙に不釣合いに感じる。

 

 赤い瞳はロランやカナタへと一瞬視線を動かすも、直ぐに視線は何も無い虚空へと動く。

 

 燐とした姿勢で、守る様にロラン、カナタ、二人の前に立つ。

 見えない敵に対して黒髪の彼女の瞳に恐怖は無い。

 

「ル……ルーファ……」

 空ろな瞳で彼女の背を見つめるロランの台詞で、彼女が誰なのかを理解した。

 探していた可憐な女性。天使のような笑顔の女性。

 聞いていたのとは程遠い無表情な女性は、女性とは思えない鋭い瞳を睨む様に向ける。

 

 

 彼女の姿は、カナタの心を揺らがせる。

 

 清楚に思わせる膝裏まで伸びる黒く長い髪は風に舞う。

 

 大和撫子を思わせる綺麗な顔立ちに赤色のセーラー服。

 可愛らしく揺れる大きな白いリボンが特徴的に感じる女性だ。

 スラッとした足や、整った体のライン。理解する美しい風体をしていた。

 そして腰に据えられた異様に黒い刀の鞘。

 その姿は、カナタが知っている世界の物に酷似していた。

 

 奇怪に思わせる未来と過去をごちゃ混ぜにしたような服装だが、間違いなく彼女がいた世界の姿をしていた。

 

 唯一、日本人らしからぬ赤い瞳が目を細める。

 

「新種……?」

 

 高い声が零れる。

 見た目の凛とした美しさに比べると、小さな違和感を感じる程度の高さ。

 彼女が言葉を零したのと、彼女が姿勢を後ろへと傾けるのは同時だった。

 大きく空を斬る音。

 彼女の髪が数本舞う。

 その後に瞬時にルーファは体を、くの字に曲げるように姿勢を曲げる。

 再び合わせるように聞こえる空を斬る音。

 

「二体」

 

 ぽつりと零す彼女は刀を横へと振るわれる。

 黒い刀身は姿を表していた。

 黒い塚と同じ程の漆黒の刃は、見えない何かを捉えるように衝撃を走らせる。

 鉄が鉄を叩くような金属音が響く。

 

 その瞬間、一瞬だけ見えた不気味なカマキリのような両手に刃が付く化け物がカナタにも見えていた。

 

「見、見えて、る?」

 

 思わず零すカナタの声にルーファが振り返らずに答える。

 

「見えているわけが無いでしょう」

 冷たい声でそう言いながらも、上半身だけを緩やかに揺らす彼女の目の前を悍ましい空音だけが響く。

 砂煙が上がる。

 二匹の化け物。四つの巨大な刃。

 見えていないそれ等の存在を彼女は紙一重で避け続けていた。

 

 二度、三度、何度も振るわれる鎌は柔らかなルーファの肢体に触れる事無く紙一重で避けられる。

 見えていなくてもその巨大な鎌が風を斬る感覚をルーファは肌にびりびりと感じていた。

 一度でも当たれば致命傷は避けられない巨大な鎌。

 それを知っていて、ルーファの表情は緊張も恐怖も見せる様子が無い。

 

 軽やかに避けながらも視線は左右に移動する。

 その視覚から、二体の存在を捉える事は出来ない。

 

 見えないという絶望的な状況に、ルーファの目の色が興味深げに光る。

 

「ふうん面白い」

 一言呟きながらも二体の見えない連撃を舞うように避け続ける。

 黒くしなやかな髪が靡く。

 その場で続けられる優雅なステップのような動きにカナタは思わず見惚れる。

 それ程のしなやかな動き。

 

「ここか、な?」

 

 バックステップと共にルーファの刀身が引き抜かれる。

 いつ抜いたのかも解らないまるで手品のような瞬間。

 そこに黒い鞘よりも、更に黒い刀身が表れていた。

 

 カナタの近くに音を立てて何かが突き刺さる。

 事態が読めていないカナタは突然の音に短い悲鳴を上げ、慌てて辺りを見渡す。

 

 砂の上に突き刺さったカマキリの腕がノイズのようなものを走らせその姿を写していた。

 音の正体がカナタの目に写り、黒い血を滴らせる腕に再度短い悲鳴を上げる。

 

 カナタには何が起こったのか理解出来る筈も無く、そして カマキリ自身すらも気づいていなかった。

 その姿は、数回のノイズと共に姿が見え隠れし、いつ斬られたのかも解らずに、カマキリは不思議そうに自身の無くなった腕を見つめていた。

 

 そんなカマキリの頭が容赦無く宙に飛ぶ。

 

 躊躇等見せないルーファの刀がアッサリと首を飛ばす。

 

 次に彼女は流れるように刀を下から弧を描くように振り上げる。

 黒い刀身は砂漠に触れる。

 そのままVの字に突き上げると共に砂がまき散らされていた。

 砂が舞う。

 茶色い砂が辺りに広がる。

 それは倒れゆく首の無いカマキリに降りかかり、そしてその直ぐ横の見えない何かに砂が纏わりついていた。

 冷たい瞳と共に、ルーファは横へと一閃。

 事務的な動きは、自身の鎌を振り上げていたカマキリの胴と下を切り離していた。

 スローモーションのような一瞬の出来事。

 呆然と見ていたカナタの瞳は、カマキリが砂を捲りあげて地面へと落ちた瞬間にようやく元の時間軸へと動きだす。

 

 二匹の化け物が倒れていた。

 

 一体は首から上を無くし不気味な血を垂れ流し、もう一体は上半身を、今も小刻みに動かしていた。

 

 そんな一体に近づくと、ルーファはゴミを見るような視線で見下ろす。

 

「見えないから手元が狂いましたね……苦しめるつもりはありませんでしたが……まぁ、見えないから、仕方無いですよね……?」

 

 ゆっくりと紡ぐ言葉は不気味なまでの殺意が込められてた。

 遠くから見ているカナタすらも、その異様な雰囲気に息を飲む。

 

「まさか……消えるだけでは、無いでしょう? 戦ってみなさいダーカー……」

 無様にのたうち回るカマキリをルーファは光の無い瞳で見つめる。

 耳をつんざく声をあげる上半身だけになったカマキリのその姿は、悲鳴をあげているようにさえ見えていた。

 

「つまらない」

 無機質な声と共に悲鳴が消える。

 音を出していたカマキリの首から上が飛んでいた

 振り子の様に、事務的に、ただ刀を振るう。

 そこに感情性は無く、一閃と共に、尖った黒い顔の部分が地面に転がる。

 躊躇いなど見せない。

 化け物を一瞬で刈り取る姿は、カナタの背筋に寒気を走らせる。

 カマキリの体は、黒い霧へと再び代わり、消えていく。

 同時に、ルーファに付いていた返り血も黒い霧へと変わり風に飛ばされていく。

 

 彼女は助けてくれた筈だ。

 

 ロランすらあっさりとやられてしまった二体を簡単に倒してしまう頼もしい人の筈だ。

 

 なのに何故だろう。

 

 その美しい横顔も、顔だちも、黒髪も、全てがカナタには恐ろしく見えていた。

 

 化け物がどっちだったのかと、見間違える程に。

 




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1

「二人がふざけても私は真面目にやるよ! 糞がァ」
http://mypage.syosetu.com/3821/


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

「ルーファはワシが育てた」


曲  黒紫            @kuroyukari0412

「くうをきりさくくろかみのしょうじょはこうやをまういちりんのちょうのようだ」
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