女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 賢くなれば、人に好かれると思っていた。

 おかしいな、間違えたのかな。

 そうだ、クラスで委員長なんてしてみよう一番地位のある場所へ行けば皆見てくれる。

 何で? 規律を守る事が良い子なんでしょう? 大人は褒めてくれたよ? 何で煙たがるの?

 また、間違えたの?

 何であの人の周りには人が集まるのだろう。ああ、私も敬語で話してみよう。

 きっちりとしなくちゃ、秩序って言葉、皆好きでしょう?

 ああ、そうか、皆みたいに差別をすればいいんだ、下げずんで影で悪口を言い合えば、友達になるのかな?

 やった! やった! 皆私を褒めてくれる! 私の傍にいてくれる!
 天才だなんて言ってくれる!
 そうだ! 最初からこうすれば良かったんだ! 私が中心に回る世界!

 嬉しいな。嬉しいな。友達、こんなにいっぱい出来たよ。嬉しいな。



 一人ぼっちじゃないよ。


Act.72 一人ぼっちじゃないよ。

 

 画面は変わる。

 

 ノイズのような者が走りながら、別の世界へ。

 

 おぞましい闇が、明るかった日差しを隠し空を覆う、砂の荒野が広がっていた。

 茶色の荒野を埋め尽くす黒。

 ひしめき合うダーカーの群れ。

 その中央で武器を構えるのはファランとその仲間。

 

「ど、どうなってるんだよこれェ!! 予行演習じゃなかったのかよォ!!」

 

「落ち着きなさい!!」

 悲鳴を上げる一人にファランが怒声を上げる。

 

「アークス達とは連絡が取れないのですか!?」

 

「と、取れません!! 電波障害が起こってます!!」

 

「ック!!」

 こんな筈では無かった。

 

 アークスの戦闘予行演習に選ばれたアークス候補生の者達。

 そしてそれらの隊長約として特例アークスからファランが選ばれた。

 予定通りだった。後は今の力でどれだけ通用するか、監視役のアークスの目が届く範囲でギリギリを試す。

 

 その筈だったのに。

 

「ファ、ファランさんが、このメンバーでも行けるって言ったから……!」

 

「私が悪いと言うのですか!?」

 後ろから思わずという風に零した声にファランは振り返る。

 

「だ、だって、そうじゃなかったら……!!」

 震える声を零す肩から血を流すアークス候補生の一人。

 自分の見立てが甘かったのか、そんな筈は無い。

 こんな簡単な場所で、まずこれ程の数が沸く事自体がおかしい。

 

「……想定外の事は仕方ありません」

 

 ファランは後ろの仲間達を守るようにダーカー達へと向き直る。

 

「私が時間を稼ぎます!! 早く! 行って!」

 

 ファランの周りを、青い粒子が舞い始める。

 

「そんな、そんな! 幾らファランさんでもこの数は無理ですよ!!」

 

「問題ありません!! アークスさえ呼んで来て下されば30分は保ちます!!」

 殺させる物か。

 やっと手に入れた物だ。

 

 ファランが飛び出すと、後ろのアークス候補生は一歩遅れて走り出す。

 

「直ぐに! た、助けを呼んでくるから! 待っていてファランさん!!」

 

 

 また。

 ノイズが走り。

 画面は変わる。

 

 砂煙を上げて、ファランの何倍もの化け物が倒れる。

 

「ッハァ……ッハァ……ッハァ……」

 荒い息と共にファランも膝を付く。

 辺りは自身の何倍ものサイズのダーカー達の死骸で埋まっていた。

 

 日は既に、夕焼けに暮れていた。

 衣服はボロボロになり替わってた。

 しかし、汗は流れていても血は垂れていない。

 天才の名前は伊達では無い。

 ぎりぎりの致命傷を避け続けた結果。

 傷だらけのまま、ファランは荒い呼吸を繰り返していた。

 

 その瞳は大きく見開かれていた。

 

 震える。

 寒さでは無い。

 最悪の想定に心が震える。

 

 何分戦っていた。

 いや、もう分の領域では無い。

 ずっと、必死に戦いながら、心の中のそれを払拭しようとしていた。

 

「み、皆、は……」

 まさか途中で更なる脅威にやられたのかもしれない。

 思わず辺りを見渡す姿は、気品に溢れていた少女の表情では無い。

 姿のまま、よろよろと立ち上がるも、直ぐにそのまま倒れてしまう。

 天才と言えど、実戦が多いわけでは無い。

 異常な疲れに体が追いつかない。

 それでも思考はぐるぐると動き回る。

 駆け巡る最悪の予想にファランの表情は青ざめていく。

 

 今度は時間を掛けて立ち上がる。

 

「た、助けなきゃ、わ、私の、は、は、は、初めて、の……」

 

「お見事。素質は充分」

 

 突然の横からの声にファランはビクリと肩を揺らす。

 そこにいたのは高い身長の男。

 いつからそこに居たのか、気配を感じる事は無かった。

 本当に、『今』現れた男。

 白髪の髪に、全身を覆う白を基調とした服。

 

 その男のことを知っていた。

 異様なその冷たい瞳の事を知っていた。

 

「な、何で虚無機関(ヴォイド)の総長……ルーサーが、ここに……!?」

 

「さて、今君が思う疑問は、そこではないだろう?」

 

ルーサーが翳す手元は、淡く光ると共に数メートル程の四角い画面を作り出す。

 

 映っていたのは、助けを呼ぶと言っていた、彼等の姿。

 無事であった事はホッとした。

 彼らと共に目の前にいるのは今回監視として来ていたアークス。

 

「よ、良かった……出会う事が、出来て、たんです、ね」

 思わず胸を撫で下し顔を下げるファラン。

 

『早く!! オラクルへ戻りましょう!』

 

「―え?」

 間抜けな声と共に顔が上がる。

 その台詞は、ルーサーが表示している画面から聞こえた。

 

『大量のダーカーが向かって来ているんです!! は、早くここから離れましょう!!』

 

『待て君達の隊長に命じた物はどうした?』

 

『私達は止めたんですけど!! 真っ先に、そ、その大群に突っ込んでいって……こ、殺され、ました』

 

「―え。え、え、え、え?」

 無意識に零れるファランの声等気にせずに画面は続く。

 

『……成程、確かに遠くから大量のダーカーが観測されている。多すぎてフォトン感知は見えない様だが、特例アークス学校と言えど確かにこの数であれば難しいかもしれないな』

 

『ああ! そうなんだよ!! だから早く返してくれ!!』

 

「これが……約三時間前の話」

 ルーサーが大仰に腕を画面の前で下す、そして上げると、画面は変わっていた。

 

 今度は賑やかな場所。

 そこはファランも良く知っている所だ。

 アークス候補生達と良く一緒に居たフロアの一つ。

 楽しそうに笑いながら会話をしている彼等のそんな楽しそうな笑顔は、始めて見た顔。

 

 今、傷だらけの自分と、無傷で楽しそうに笑っている彼等を比べる。

 

「な、な、ん……で……?」

震える声に、画面の彼等が答える。

 

『でも良かったわけ? アイツ置いていってさ』

 

『いいに決まってんだろ? 天才様はどうせ生きてんだろうからよぉ! 適当に煽てときゃいいんだよ!』

 

『っつーか死んだらうるさいのがいなくなって最高じゃない?』

 

『確かにそうだ』と声を上げて馬鹿騒ぎをする彼等の姿。

 

『都合良くムカつく奴の処理してくれるから使いやすかったけど最近調子に乗り過ぎだったし丁度良いだろ! 結局ガキは使いようだよな!』

 

 もうその声は聞こえない。

 手の力が抜ける。

 同じ様に力が抜けた足が膝をつく。

 ただ、見開く瞳は画面を見つめる。

 

 楽しそうに下卑た笑いを上げる彼らを見つめる。

 

「あぁ……良い瞳だねぇファラァン」

 

 ファランの肩に手を置くルーサーの周りが、徐々に暗い闇へと飲み込まれていく。

 放心しているファランは抵抗を見せる事は無い。

 

「何か……探っていたようじゃないか? ならば君もこちら側に来ればいい……傑作品に仕上がったら、全て教えてあげるよ……」

 

 闇に、体が飲み込まれていく。

 ファランにはもう。

 何も見えない。

 何も聞こえない。

 

 何も見たくない。

 何も聞きたくない。

 

 

 また、世界の画面が変わる。

 

 

「ッああああああああああああ!!!」

 悲鳴と共にファランは跳ねるように起き上がっていた。

 呆然としながら辺りを見渡すと、そこは自室のベッドの上。

 そこは砂漠の上ではない。

 ルーサーも、大量のダーカーの死骸も見当たらない。

 冷や汗で体中はびっしょりになっていた。

 凍るような寒気に体が震える。

 

 体をぎゅっと抱きしめながら震える唇は白い息となって溜息を吐き出す。

 

「よ、よ、良かった……あんなの、夢に、き、決まってます、良かった……良かったよ……良かった、よ……」

 

 ファランの瞳の端に、いつもベッドの近くに置いているアラーム時計が目に入る。

 時間厳守の彼女が見てはいけない時間。

 

「わ! わ、わ、わ!!」

 慌てて飛び起きる。

 寒気をなんとかしようと、取り敢えず冬服のダッフルコート、貰ってから放りっぱなしだったマフラーを適当に首に巻き付け外に出た。

 

 走りながら、慌ててぐしゃぐしゃの髪を直そうとする。

 几帳面に、ファランは完璧でいなければならないと、必死に。

 そんな彼女の背に、声が掛かる。

 

「ファ、ファランさん……!?」

 

 その言葉に足を止めてファランは振り返る。

 グループの一人が、そこに居た。

 

「……あ、お、遅れているんじゃないですか? 集合場所は、い、いつもの処ですよ?」

 

 髪を直している途中にも関わらず強気な態度を向けるファランは気づかない。

 彼女がまるで偶然通ったと言うような、様子に。

 いつもの几帳面な服装では無いラフな格好である事に。

 

「あ、えっと! あ! あの! 良かった! 無事で! 助けに行けなくてごめんなさい! こっちでもトラブルがあって……」

 慌ててファランに近づく彼女の言葉に、ファランは目をパチパチとしてしまう。

 何の話か理解が出来無い。

 

 そうだ、あんなわけがない。ある筈がない。

 

「そ、それより、アナタその服装は何ですか?」

 今彼女の姿に気づいた自分に少し驚く。

 心の動揺が隠し切れないままも、いつもの自分を取り戻そうと彼女を睨む。

 

「減点ですよ? 減点!」

 いつもの様に笛を鳴らす。

 

「減て」

 

 言葉はそこで止まった。

 割るような頭痛が響いていた。

 

「ぎぁっ!?」

 

 悲鳴を上げながら、ぐわんと揺れる頭にファランは数歩よろめく。

 

「ファ、ファランさん? 大丈夫ですか?」

 

 心配そうにファランに伸ばされた手が、目に映る。

 その手をファランは慌て振り払う。

 力強く、全力で拒否を示す。

 

「……ファランさん?」

 

「な、な、な、え? え?」

 頭を抑えながら目を見開く。

 

 ファランの視線は、彼女の背後、奥を見ていた。

 何だと覗いていた彼らを見てしまう。

 自身の仲間達だった彼らも、そこにいた。

 

「な、なんで?」

 唇が震わせながらファランは思わず聞いてしまう。

 目の間の彼女に向かってなのか、その後ろから覗いているファランの姿を確認し青ざめ始める彼らに向かって言ったのか。

 彼等を、ファランの傍にいてくれた人達を、何度も何度も右往左往に視線を動かす。

 今度は痛みで無く、彼女自身が数歩後ろへと下がる。

 

「な、なんで!? なんでそんな目で見るの!?」

 悲鳴のような声に彼等は目を丸くする。

 何度も、何度も彼等を見直してしまう。

 

 こんな物は知らない。

 こんな物は覚えがない。

 

 伝わる、彼等の嫌悪が、憎悪が、嫌気が。

 

 ファランに対しての、どす黒い気持ちが。

 

 笛の音に反応した他の人達の視線も集まっていた。

 

 視線が集まるのが、ファランには見なくとも肌で感じていた。

 沢山の思いがファランの中に駆け巡る。

 

「え!? え!? い、嫌! 嫌! 嫌嫌嫌嫌嫌ァァァァァァ‼‼」

 叫び声を上げながら逃げ出していた。

 子供のように、その姿のままらしく。

 

 

 

 無様な私の姿は、また変わる。

 光景が変わる。

 

 

 

 ■

 

 

 

 暗がり。

 誰も来たがらない様な奥の奥。

 フロアの一室にも限らず既に過去の人間が出払ったであろう埃が舞う。

 

 

 そこにはファランを慕っていた彼女、彼らに囲まれている少女が居た。

 蹲り、悲鳴をあげる桃色の髪の少女。

 そんな彼女に、彼等は不気味な笑みを向けていた。

 

 それは、そこから数日の事だった。

 家から出ないようにしていたファランは、突然態度の変わった彼等に無理矢理引きずり出されていた。

 非力では無かった筈の彼女は、あっさりと彼らに捕まっていた。

 

 そして。

 一人一人の手に、笛が握られていた。

 

 一人が、笛を吹く。

 日に日に強くなっていた寒気が一気に彼女を襲っていた。

 そして頭に響く激痛。

 まるで、それが引き金だと言うように。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 悲鳴を上げ逃げ出そうとする小さな体は肩を強く押すだけで無様に地面を転がる。

 几帳面で、綺麗好きだった少女が埃だらけの床をのたうち回る。

 

「あの人が言った通りだったな! ガキの癖に散々偉そうにしやがってよ‼」

 吐き捨てる強い悪意は、突然生まれた異常な感知が彼女の中でそれを象らせる。

 ファランの身体の中で気持ち悪く蠢く。

 耐えられず悲鳴を上げながら身体をくねらせるファランに、彼等は見下す視線を向ける。

 1人がまた笛を鳴らす。

 するとファランはまた跳ねるように身体を動かし叫び声を上げる。

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!! やめてええええええええ!!」

 

 彼等はやめない。

 玩具を見るように、おぞましい視線は変わらない。

 人とは思えない不気味な笑顔を浮かべる。

 

 ファランの瞳には、化け物にしか見えない。

 

「い゛い゛い゛い゛い゛い゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 

 

 

 

 

 ■

 

 

 

 

 

 

 洞窟内で、彼女はひたすらに叫び声を上げる。

 声が枯れても叫び続ける。

 

「やめてよ!! やめて!! やめて!!」

 

 ファランに近づく友人だった物。

 振り払う彼女の手は友人達を通過するだけで終わる。

 知っている仮面だけの笑顔。

 上辺だけのセリフ。

 頭の中で響く笛の音。

 

「嫌!! 嫌!! イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!!! そんな目で見ないでよォォォ!! 友達が欲しかっただけなの!! 止めて! 止めて!! 革命なんてどうでも良かったの!! 一緒に居てくれる人が欲しかったの!! 私は!! 私は私は私は私は私はァァァァァ!!!! 好きだって言って欲しくてェェェェェ!!!!」

 

 頭を掻き毟るファランの声は届かない。

 目の前の光景が不気味に変わるだけ。

 

「や゛め゛でよ゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」

 

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