仮面が掌を向けると共に赤い閃光がファランに向けて放たれた。
同時に地を蹴ると共に孤を描くように閃光を交わす。
返しにフォトンの刃が飛ばされる。
ファランとは違い避ける姿勢を見せる様子も無い仮面の鎧に、青いフォトンの刃が突き刺さる。
刃先が零れるようにポロポロとフォトンの刃は芯に届く事も無く落ちると共に青い粒子へと戻っていく。
それらを一切気にする様子等見せず大剣をファランへと振り下ろす。
「また……来る!!」
瞬時にファランが後ろへと飛んだ。
目の前を巨大な大剣が過ぎていく。
険しい表情のまま、ファランは地面へと足が付いた瞬間、瞬時に大きく回り込む。
同時に空を斬った大剣が地面へと叩きつけられた。
ファランが居た場所の岩肌が捲り上がる。
土が掘れた、等と言うものでは終わらない。
その場に爆発を引き起こしたかのように地面が抉れる。
異常な威力は、文字通りの異常な衝撃破を生み出し、後ろへと回り込んだファランがバランスを崩しながらも着地する。
周りは土が捲り上がり、衝撃で岩は砕け散り、生い茂っていた木々は凪倒され残骸が広がっていた。
戦い始めて十分程度。
それだけにも関わらず、仮面の持つ破壊力はその場を別の世界へと変えていた。
囲むダーカー達すら、その衝撃波に巻き込まれ数を減らされている程。
辛うじて距離を取るファランは、眉を潜めてしまう。
近づけない。
あれ程の大振りであれば、攻撃が当たる事は無いだろう。
しかし致命打を与えられる事も無い。
ファランには決定的な攻撃力が無い。
だからこそ隙を突き、弱点部分のみにフォトンの刃を叩き込んでいた。
首や鎧の隙間、弱点と思われる部分すら、異常に固いのだ。
時間が掛かれば、人外である仮面に勝算がある。
自身の呼吸が荒くなっている事も気づいていた。
当たらないと言えど、戦いから逃げ続けた彼女の体力が尽きる方が早いだろう。
「なん、で……私、は……」
自分のこれまでの情けなさに唇を噛む。今更後悔しても仕方が無いのは解っている。
仮面を強く、睨みつける。
彼女の心の中で既に答えは出ている。
方法は有る。
フォトンの刃が通らないのであれば。
この手で直接斬る。
剣を握る手が更に強くなる。
チャンスは一番柔らかいであろう部分。
仮面が動く度に薄っすらと見える部分。
仮面と鎧の隙間。
見え隠れする首。
そこであれば、非力な彼女でも、瞬発的に首を切り落とせる。
しかし、その意味は、仮面が大剣振るう度に起こる嵐のような衝撃に近づかなければいけないという事。それも完全に力を溜めた一撃で無ければならない。
振るう度に発せられる衝撃波はそれだけでも十二分な殺傷力。
弾ける石や砂は散弾銃のように辺りに巻き散らされ、衝撃の突風は辺りを瓦礫へと変える。
だからこそ仮面の周りを飛びながら遠距離で戦っていた。
当たらないからこそ、そういう戦い方になる。
「……だった、ら」
ファランの速度が上がる。
ならばもっと早く近づけば良い。
一瞬で、切り落とせばいい……!
仮面の周りを回っていたファランの動きは、仮面に向けて直線的に飛んだ。
迎え撃つように、仮面の大剣が振り上げられる。
もう何度も見た動作。
振り落とす瞬間に、ファランはもう一度地面を蹴る。
自身のフォトンによる無理矢理な方向転換、孤を描くように後ろへと回り込む。
最短で一番近い距離、衝撃は前に飛ぶ。
後は次に地面に足がついた瞬間に。
首に向けて一直線に飛ぶ。
足が付く。
仮面の背中が見える。首筋が見える。
仮面の動作はまだ振っている。
行ける。行ける!
地面を思いっきり蹴り上げた。
次に自身のフォトンを後ろから爆発させるファランの知る中での最速。
閃光の粒子を残しながら、真っすぐに、青い切っ先を首に向けて走らせる。
瞬間。
彼女の背筋に寒い物が走る。
異常な感覚が、彼女の体に無理矢理危険信号を走らせる。
視線は動かしていない。何処からの何からの危険なのかなど解るわけも無い。
一瞬のスローモーション。
危険信号の主は。
真横から。
縦に振り下ろされていた筈の大剣が横から迫っていた。
仮面がそのまま回転するように大剣を振り回している。
ぎりぎりまで見ていた。
確かに縦に振り切ろうとしていた。
しかしその疑問を頭の中で模索する余裕すら無い。
直線状に飛んでしまった彼女には避ける事は出来無い。
迫る大剣に対し、彼女は空中を飛びながら前転するように体を丸め込んだ。
大剣は、彼女の頭上を紙一重で振り切られる。
巨大な空気を切る音にファランが唾を飲み込む。
仮面の真横を通り過ぎ、空中で丸めた体を数度回転させ、そのまま砂煙を上げながら着地。
口が渇く、仮面の動きに絶句している自分がいる。
先読みをされた。
ダーカーに?
ダークファルスという知恵の高い物ならばいざ知らず、唯のダーカーが?
この仮面は確かに縦に振り切るフェイントを交えて、回り込む彼女を横から仕留めようとしていた。
先程の現状が脳裏を過ぎる、再び強い寒気が走った。
大剣を携え、こちらに赤い瞳を向けている仮面は動く様子は無い。
一度、深呼吸をする。
勿論、視線から仮面を外さない。
大きく息を吸い込み、息を吐く。
腹の底の恐怖を吐き出すように。
ゆっくりと。
何故動かないのか解らないが、その時間はファランを落ち着かせるには十分だった。
覚悟を決めるように。
動きを読まれているのであれば、それ相応のやり方も。
在る
「怖く……ない」
■
両の手に一つずつ青い剣を携え、飛翔する事無く仮面に向けて歩を進める。
速さも、何もいらない。
本当に歩く速度で仮面に向けて移動する。
そんなファランに対し、仮面は大剣を持っていない手を掲げた。
赤い光線がファランの顔に向けて飛ばされた。
それに対し、彼女は先程のように大袈裟に飛ぶのでは無く頭を傾けるだけで避ける。
ワンアクションに合わせ、地面を蹴った。
赤い光線と共に大きく砂煙が舞い上がる。
それに埋もれるように突き進むファランの姿が消えていく。
仮面にたじろぐ様子は見せない。
やり方は変わらない。
砂煙が舞う中、仮面は辺りに視線を走らせる。
仮面にもファランの動きは見えてきていた。絶対に当たらないからこそ、回避する先を判断する。
何度も目にしていた。
ファランが常に後ろに回り込む事も理解していた。
躊躇う様子もなく、巨大な大剣を目前に振り下ろす。
姿が見えなくとも、関係は無い。
そして、おぞましい衝撃波が辺りに広がる中、そのまま引き抜くと同時に、頭上で腕を回し真後ろへと振り切る。滅茶苦茶な関節の動きは不気味な音を立てるも仮面自身は気にする様子もない。
それは前に振り下ろしたのよりも更に巨大な威力。
衝撃と共に、再び地面が捲れ上がり一帯を薙ぎ払う。
草木が、地面が、巻き込まれるダーカー達が消し飛ぶ。
次に上がるのは最早砂煙だけでは無い。土が、小石が、吹き飛ぶ全ては散弾銃のように捲り上がり、流れ弾に当たるダーカーも木々も粉々の姿へと変わる。
それ程の破壊は仮面の視野すら塞ぐ。
当たる必要は無い。衝撃だけが生命を吹き飛ばす力がそこにあった。
どのような小細工が来ようが、全てを踏み潰す絶対的な力を示す。
手応えはなくとも確実に仕留めたと確信していた。
仮面が空いている手を虚空にて横に振るう。
煙が晴れていく。
無残に転がる破壊の象徴たるクレーターや自然物の破片やダーカーが広がっていた。
しかし、そこに赤い血のような物が見当たらない。
仮面の冷たい視線が左右に動く。
視線にか弱き存在の成れの果ても、欠片すらも見えない。
先に、聴覚が音を拾った。
それは真下から。
「痛く、ない……痛く、ない……」
嗚咽を零しながら振り絞るような声。
見下ろした先に、涙を流しながら、ボロボロの姿のファラン。
最初の一撃。
大周りに避け続けていた彼女が、臆病者の彼女が。
最後に選んだ選択肢は。
避けない事だった。
両の手で下に突き刺したフォトンの刃は衝撃で体を吹き飛ばさない為に。
無論、完全に当たれば身体は粉々に砕け散る。
だから紙一重で避けた。
ギリギリまで近づく為に。
目と鼻の先で振り下ろされる巨大な脅威による恐怖。
衝撃だけでも身体を引き裂く威力。
振り絞ったフォトンの刃を身体の周りに展開し続け、少しでも衝撃を和らげようとしていた。
作り出す度に刃は砕け散り、服が破け、皮膚が裂け、それでも歯を食い絞る。
血だらけの姿へと変わる中。
その涙で濡れる瞳だけは強い意思を込めていた。
仮面が再び大剣を振り上げるよりも、構え続けたファランが飛び出すのが早い。
青い剣(つるぎ)が洗練されていく。
一閃、ただの一閃。
今迄よりもずっと鋭利に、高密度に。
握る手に力が入る。強く、強く握りしめる。
ギリギリまで貯めた最大強度。
視線を向ける仮面から覗く赤く光る線の跡が残る。
まるで数秒。
コンマ。
いや、時間すら『動かない』。
喧騒が止まっていた。
舞っていた砂が空中で止まっていた。
木々が揺れると共に落ちる葉が揺れている途中で止まっていた。
周りの蠢いていたダーカーすら動きを止めていた。
動いているのは振り下ろそうとする仮面。
仮面の後ろに現れたのは大きな時計の影。
準備も無く、瞬間的に展開されるダークファルス『ルーサー』の絶対能力。
見える、見えない以前のデタラメな世界。
世界が止まる。
動くのは一つ。
おぞましい黒のオーラを纏う最大威力の巨大な大剣。
動くのは一つ。
揺れる二つ結びの桃色の髪。
深紅の瞳と、桃色の瞳。
ファランは横へと飛んでいた。
簡単な横への反復横跳びのようなステップ。
『絶対回避』
『完全感知』
それは彼女の呪う能力。物理的な全てを触れさせない。
それは無意識化に起こる反射で避ける彼女が『ジョーカー』とする能力。
『最善』(ガーデン)が一人。 化け物の一人。
世界と世界の堺。
人と言う概念では最早見える筈の無い境界を避ける。
彼女だからこそ出来る絶対回避の能力。
『ハミングバード』
避けられる筈が無い、世界と世界の狭間を超えていた。
彼女は次元を超えていた。ジョーカーとしてのもう一つ上を。自身の限界の一つ上を。
無意識化でそれをしていた彼女はその異常制に気づいていない。
唯必死に、唯必死で、守る為に。
静止の世界を動くのは二人。
青い剣が、見下ろす、仮面の、首の隙間を貫いていた。
数秒の硬直、兜から黒い血が零れていた。
ファランはその場で回転する、最後の一歩、小さな体の筈の彼女の力強い一歩。
遠心力に合わせ、躊躇無く振りぬく。
勢いに合わせてふらふらとたたらを踏んだファランは、数歩進んだ後、情けなく膝から落ちる。
ゴトリと重い音が辺りに響く。
振り返らなくても解る。
確かな手応え。
同時に砂が落ちる。
喧騒が始まる。
木の葉が揺れ落ちる。
ファランは大きく息を吐くと、その場で力なく握りしめていたフォトンの剣を離す。
地面に落ちる前にその剣は消え、変わりに重力に合わせて血がぽたぽたと地面へと垂れる。
「やった……やった……」
血を気にする事も無く、ぐっと、胸元で握り拳を作った。
荒い息を繰り返しながらも、勝利を噛み締める。
「勝った……勝った!! 私が、この、わ、私が、一人で、一人で!!」
座り込んでいたのは数秒、直ぐに視線は周りのダーカー達に慌てて向けられる。
数は減っていても、カナタを傷つける存在はまだ多く存在している。
立ち上がると、ヨロヨロと身体をよろめかせるも、必死に歯を食い縛る。
青いフォトンの剣を作り出し、目前のダーカー達へと再び切っ先を向ける。
「まだ、終わって……無い!!」
無駄にするものか。
後少しで、後少しで戻れる。
あの人の元へ。
「その通り」
声が聞こえた。
それは後ろから。
頭が疑問に思うよりも身体が反射的に動いていた。
力の限りを使い、横に思いっきり飛んだ。
彼女の絶対感知の能力が、反射としてそう動かさせたのだ。
絶対回避、無意識化の反射は見えない世界すら超えた。見えない攻撃すら物ともしない。
舞うのは白いリボン。
手が伸びていた。
無意識に体は動いていた。
しかし思わず意識的に伸ばしていた。
衝撃に耐えられずに外れて舞ってしまっていたリボンへと手を伸ばしていた。
大好きな人のプレゼント。
ファランが居た所を赤い閃光が飛ぶ。
無理矢理横へ飛んだ彼女はそのまま着地もままならず尻餅をつくような形になってしまう。
彼女の瞳に、空に舞う粉々になったリボンの破片が映る。
彼女の腕と共に。
「あ」
呆けた表情のまま、間抜けな声が出る。
空に飛んだ自身の腕を、ポカンとした表情のまま見つめる。
血を撒き散らしながら腕は地面にどさりと音を立てて落ちた。
呆然と固まっていたファランの瞳に映る光景。
ゆっくりと、実感が沸き始める。
絶叫が響く。
「アァァァアァァァアァァァアァァァァァァァ!!!!!!!!
痛みに体をよじらせながら必死に叫ぶ。
「腕が!!腕がアァァァ!!」
痛みを紛らわそうと声を出し続ける。それでも痛みが消えることはなく、彼女の体に苦痛が掻き毟る。
「痛いよぉぉぉぉ……血が、血が、痛い、痛い、痛いィィィィ!!!」
痛みに震えながら溢れる涙すら拭くことも出来ず悲鳴をこぼし続ける。
「アァァァ……カナ、タさん……!!! カナタさァァァァん!!! 痛いよ!! 痛いよ!! 助けて!! 助けて!!」
無意識に呼んだ声は、何があっても彼女が救うと誓った人の名前。
縋るように、二度三度と名前を呼んでしまう。
痛みで蹲り、必死に歯を食い縛る。
結局は、彼女は臆病者なのだ。
「カナタさァん‼ 痛いよォ!! 痛いよォ!! 怖いよォ!! ヤダよォォ!!」
救ってくれた彼女の名前を呼ぶ。
心を救ってくれた彼女の名前を呼ぶ。
どれだけ勇気を振り絞っても、どれだけ前を向いても。
根本から怖がりで、恐怖し、恐ろしいものを見ない為に思わず下を向く。
天性的な能力のせいで、ジョーカーとしての能力のせいで拍車がかかっていた。
だから、そうやって生きてきた。
戦いを前にしていた彼女の姿は最早そこにはない。
痛みで顔を歪ませ、泣きじゃくる子供でしかなかった。
そこに勇敢な様子など無く。
心の中を恐怖で引き詰められた臆病者の彼女でしかない。
「ヒィィ…イイイイイ……」
もはや言葉にもならない呻き声を上げていた。
恐怖に染まった、絶望の声。
彼女は臆病者なのだ。
健在している腕を必死に使いながら、起き上がる。
瞳は定まらず、恐怖の色に染まったまま。
振り返る。焦点の合わない瞳が仮面に向く。
首の無いまま立つ仮面が居た。
自身の首を拾い、元の位置へと戻そうとしている姿は、不気味にファランの眼に映る。
「怖い……怖い……ヤダ……ヤダ」
溢れる言葉は無意識のもの。
彼女は臆病者なのだ。
体をゆらゆらと揺らし、その度に腕があった場所から血が溢れる。
おびただしい血の量も気にせずに、恐怖で染まった視線と共に、恐怖に染まっている筈の彼女は。
剣先を向けていた。
彼女は臆病者なのだ。
「カナタさんを……失う方が、嫌だ、嫌だ!!!!!」
涙をボロボロとこぼす彼女の周りに、青い光が再び集まる。
今までの非では無い光は、一つ一つが刃へと変わっていく。
ダーカーが怖い。
痛いのが怖い。
死ぬのが怖い。
それよりも。
大切な人を失うのが怖い。
彼女は。
臆病者なのだ。
「嫌だアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
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挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
黒紫 @kuroyukari0412
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私も探索者として参加しているよ!
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