女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 刀を鞘に収めると、ルーファの視線はカナタ達の方へと変わる。


 突然向けられた赤い瞳に、一部始終を見ていたカナタは硬直してしまう。
 先程のような残酷な笑みではなく、優しい笑みだが、その変貌ぶりにカナタは言葉を失い何も言えない。
 二人に近づくと、ルーファはロランの目の前でしゃがみ込む。

 膝枕をするようにロランの頭をそっと持ち上げ、優しく頬を撫でる。

「手酷く、やられましたね……」
 先程まで残酷な行為を行っていた人間とは思えない優しい声色。
 その言葉に、青白くなっているロランは震える唇を動かす。

「あ、ぁ……いてぇ、よぉ……俺、ここで死ぬのか、なぁ……折角アンタと戦えると思ったのに……やっと横並びで戦えると思ったのに……」
 ぽつぽつと話す言葉に力は無く、今にも消えてしまいそうな灯しさを感じた。

 その姿は先程まで元気に話しかけてくれていた人物とは同じとは思えず、カナタの目尻にも涙が溜まる。
 会ってまだ間もなくとも、不安で仕方なかったカナタをロランは十分救ってくれていた。
 彼がいなければ、遅かれ早かれカナタも同じ様な姿になっていただろう。

「ロラン……さん……」
 二人の横槍をしたくはなかった。それでもつい名前を呼んでしまった。
 ロランの視線はルーファからカナタに映ると、弱弱しい笑みを浮かべる。

「さん……は、いらねぇ…って」
 その笑みが心配させまいとしてくれているのが解ってしまう。

「ル、ルーファ……この子……保護して、くれ」
 震える言葉に対してルーファの表情は変わらない。

「嫌ですよ、いつから私に頼める程になったんです?」
 残酷な一言、カナタはついルーファの顔を見てしまう。
 ルーファの表情は優しいまま、そっとロランの手を取ると言葉を続ける。

「自分でやりなさい。自分の足でこの子を助けなさい……男の子でしょう? 弱気だなんて許しませんよ、貴方には似合いませんよロラン……何事も全力で一生懸命……そうでしょう? 」
 優しい声色に、ロランがまた笑う。
 今度はさっきよりも力強く、豪快に笑って見せる。

「やっぱ、アンタは……最高、だよ」
 無理矢理笑って見せる表情は痛々しく、それでも彼は笑う。

「……そうだよ、なァ、俺らしくねェ、よなァ……安心、してくれ、足の痛みが、消えてきたんだ、もうちょっとしたら歩ける、から、ちょっとだけ……待ってくれよ」
 そんな筈が無い。知識の無いカナタにだって解る。
 足は既に胴体から離れているのに、血を流し続けているのに、立てる筈等無いのに。
 痛みが消えている事が、最後が近いのだと考えてしまう。

「アンタと……一緒に……歩くって、決めてん、だか、ら」

 その言葉にルーファはクスリと小さく笑う。

「そんな事を言うのは物好きなアナタぐらいですよロラン。これでも私に付いて来ていたのは評価してたんですよ……ほら、また稽古付けてあげますから、さっさと帰りますよロラン……聞いていますか?」

 ルーファが数度名前を呼ぶ。 

「……ロラン?」  
 それに対し、ロランが応える事は無い。
 薄っすらと灯っていた目の光は消えていた。


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 熱い風が吹く。

 顔に掛かる砂をロランが払う事は二度と無い。
 項垂れるカナタと、まだ名前を呼ぶルーファだけがその場に存在していた。


Act.7 「変身シーンを待つのはフィクションの世界だけでしょう」

 ルーファはロランの手を離す。

 持たれていた手は砂の上に倒れる。

 小さな砂煙を上げる乱雑なその姿に、カナタは思わず固まる。

 その瞳に、既に優しさは消えていた。

 カマキリを倒した時と同じ様に、興味を無くした色の無い瞳。

 

 ルーファは立ち上がると、視線をロランからカナタへと映す。

 

 見下すような瞳がカナタに向けられていた。

 光の無い、瞳。

 カナタの背筋に寒気が走る。

 

 ルーファは、手に持つ刀をゆっくりとカナタに向ける。

 

「で、貴方は何者ですか」

 ロランに向けていた声のトーンでは無い。

 どちらかと言えば挑発をするような、敵対するような言い方。

 

 涙が止まる。

 圧迫されるような、妙な威圧に唾を飲む。

 単純に、恐怖を感じた。

 

「……い」

 振り絞った声はそこで止まる。

 

「い?」

 カナタの零した言葉を繰り返しながらルーファが首を傾げる。

 綺麗な顔立ちから見せるその仕草は状況が状況で無ければ可愛いらしく感じたかもしれない。

 カナタの瞳には不気味にしか映らない。

 

 向ける黒い切っ先が、先程のカマキリを切った事を思い出させる。

 躊躇いのないルーファの動きは、十二分にカナタの心に恐怖を擦り付けていた。

 

 口が渇く。

 

 それでも。

 

 体が恐怖を感じても、彼女の意地が跳ねる。

 

 

「い、今は、それどころじゃないでしょう……! ロ、ロランさんを運んであげま……しょうよ!」

 

 声を震わせながらカナタはルーファを睨む。

 もっと悲しんであげろ、だなんて言わない。

 ここで唯俯いているわけで良い筈が無いのはカナタだって解っている。

 それでも、余韻を残す事無く、切り替える姿は我慢出来なかった。

 

 17歳の優しい女子高生。青く、甘い彼女だからこそ、ルーファの行動が許せなかった。

 

 一瞬だけキョトン、っとルーファの目が丸くなる。

 その後直ぐに溜息をつくように大きく息を吐いて見せていた。

 何故そんな風に出来るのか、カナタには理解出来るわけが無い。

 体を震わせ、意地を張るように彼女を睨む。

 

 カナタが叫んだ瞬間に、目に色が灯っていた。

 先程とは違う意味合いで、興味深げにカナタを見つめる。

 

「貴方……アークスじゃ、無いようですね」

 ポツリと零した後、ルーファは冷淡の声色のまま続ける。

 

「危険を増やす行為をしろと言うのですか?」

 

「は、は!? き、危険!?」

 カナタの瞳が見開く。

 先程までロランに声を掛けてくれていた人物だと思えない。

 思いたくなかった。

 真っ直ぐなカナタの瞳に、また小さな溜息をルーファは零す。

 

「貴方の言葉は、荷物を増やせと言っているのと同意でしょう」

 ルーファの言い方に、カナタが睨む視線は更に強くなる。

 カナタの青く若い瞳と、ルーファの色の灯らない瞳が交差する。

 

 対比する二人が見つめあう。

 

 暴力に屈し無いカナタの信念の瞳。

 感情に揺らされないルーファの瞳。

 

 先に瞳を逸らしたのはルーファ。

 

「死体にいつまでもピーピー言ってたら次に死ぬのは貴方ですよ?」

 

「ッ!! あ、貴方!!」

 言い返そうとする言葉はそこで止まった。

 それは、意識が別の方を向いたからだ。

 ルーファも同じ様に、カナタと同じ方向に視線が動く。

 

 それは突然の音。

 

 キリ。

 

 羽虫のような音。

 不愉快に感じる耳障りな音。

 音は直ぐ近くから聞こえていた。

 

 キリキリキリキリキリ。

 

 音は続く。

 音の先に、視線が動く。

 直ぐ後ろ。

 

「キリキリキリキリキリキリキリキリ」

 その音は。

 

 その声は。

 

 上半身を起き上がらせたロランの口から零れていた。

 

「え」

 声が零れる。

 理解が追いつかない。彼は確かに先程息を止めていた。

 ロランの瞳は空ろに、何処を見ているのか解らない。

 それでも不気味な声を溢す口は止まらずに動き続ける。

 

 

「……ロラン」

 ルーファの瞳が細まる。

 

 黒い霧がロランの周りに舞っていた。

 それはロランの斬られた部分から漏れている物。

 

 斬られた胴の部分からメキメキと不気味な音が零れていた。

 盛り上がるように、巨大な赤い芽が生える。

 

「何……何なの!?」 

 黒い霧はロランを覆う。

 霧は物体へ変わり、先ほどのカマキリのような甲殻がロランの体に張り付いていく。

 ロランの顔。半分が徐々に形を変えていた、赤黒く、不気味に。

 空ろな瞳が動く事は無い。確かに彼は死んでいるのだから。

 変わりにもう半分の顔。

 先程のカマキリのような横長な形状へと姿を変えている顔の目は、ギョロギョロと動きまわっていた。

 

「キリキリキリキリ」

 

 せわしなく動き回るロランだった瞳は動きを止める。

 見開かれた不気味な瞳は一点に、カナタを見つめていた。

 

 蛇に睨まれたカエルのようにカナタは動けない。

 それでも震える唇を何とか動かす。

 あんな姿になっても、それでも、助けてくれた人の姿をしているから。

 零れる言葉で声を掛ける。

 

「ロ、ロラン……さん」

 言葉に反応する様子は無い。

 それでも、生きているのだとしたら、何度でも。

 

「ロランさ」

 

 言葉はそこで止まった。

 目の前の光景に、言葉が続かなくなっていた。

 

 首が飛んでいた。

 

 ルーファが事務処理の様に。

 先程のカマキリの時の様に。

 アッサリと、簡単に、首を切り落としていた。

 

「変身シーンを待つのはフィクションの世界だけでしょう」

 

 首の飛んだロランの視線はまだカナタを見つめる。

 血を噴出させながら空中で舞う首。

 目の前で、人を殺す姿。

 そんなのを、少し前まで唯の女子高生だった彼女が見た事がある筈が無い。

 

 血の気が引くと共に、意識が遠のいていく。

 脳が理解処理を越えた。

 薄れ行く意識の中、刀を振り、血を飛ばしている彼女が見える。

 その表情は笑みを浮かべているわけでは無い。

 悲しんでいるわけでもない。

 

 唯々、無表情に首の無い死体を見つめていた。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1

「ロランはいい子」
http://mypage.syosetu.com/3821/


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

「パーフェクトジオング」


曲  黒紫            @kuroyukari0412

「入刀式」
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