すざまじい速さの瞬間速度。
一般人が見れば姿が消えたとも取れる程の俊足。
急ブレーキと共に巻き上がる砂煙、一瞬で詰まる距離は目と鼻の先。
砂煙を背に、超近距離での斬撃。
鞘から引き抜く一瞬は、一度しか振っていない様に見える異常な速さ。
その速さに対して、ファランは不気味に笑顔を浮かべるだけであっさりとその一撃に見えた三激を流すように体を揺らすだけで避ける。
続けてのルーファの横への一閃。
それもまた速さに対して、まるで予知していたかのように先に動き出す。
ファランの体は大きく仰け反っていた。
獲物を失った剣撃は異常な速さから生まれる真空波となり後ろの大木を斬り落とす。
舌打ちをするルーファに、アンバランスな体制からファランの巨大な腕が振るわれる。
ルーファには舐めているようにしか見えない横からの大振りの攻撃。
それを黒い刀が受け止める。
「……っ!?」
慌てて振るわれた巨大な腕を体を回転させながら衝撃を逸らす。
触れた瞬間に腕が痺れるような感覚に襲われていた。
絶対強度を誇るルーファの刀が折れる事は無い。
なれば、それは、久々の力負けをしたという事実。
『最悪』や『最強』に比べれば攻撃力に欠けると言われていた『最善』に。
フォトンでの無理矢理な身体ブーストを主とするルーファには久しぶりの感覚。
力強い二度目の舌打ち。
瞬間的に後ろへと飛んだルーファへと黒い空中に舞う剣が追撃を掛ける。
その十数本に対して、着地をする前に斬り落とすルーファもまた異状性は負けていない。
それでも、異状性という点では今のファランには負けているだろうが。
「ずっるい……」
『絶対回避』による最速の剣撃が当たら無い。
近づけば圧倒的攻撃力。
中距離になれば休む暇も無く狙い続ける黒いフォトンブレード。
おまけに今も空中で増え続けている剣の数は止まらない。
フォトンを使うアークスと違い、ダーカーに寄っているのか、その生み続けるガソリンは終わりを見せない。
質が悪い。
ぐらりと身体が揺れた。
それはルーファの体に無意識に訪れた眩暈。
慌てて後ろへと大きく飛んだ。
近距離型のルーファが、野性的な本能がそれを行っていた。
それを追うは黒い剣。
先程のように斬り落とす。そのつもりだった。
追う黒い剣、数十は数百へ数百は、龍へと姿を変えていた。
巨大な黒い龍を象るそれは、異常な剣が重なりその姿を変えていた。
受けた歪な骨の腕よりも、悍ましい威圧がルーファの背筋に寒気を襲わせる。
「そんなの知らない、わよ!!」
口を開きルーファへと飛ぶ黒龍。
空中でルーファは構える。
それは居合いの形。
目の前の迫る黒に対してルーファの周りの色が紫へと変わっていく。
着地と共に、その紫が大きく広がる。
振り抜かれた刀は、目前の黒い龍を切り刻む。
龍に対して放たれる空間を無視して放たれるルーファの必殺。
『次元斬』
何百もの剣撃は切り刻む。
その黒を散らせ、視野で見える程の剣撃は空中へとその異形を分解させる程の威力、その存在を消し去らせる。
崩れていく黒竜を睨むルーファの目は死んでいない。
薄っすらと赤く光り始める瞳とは別に鼻から零れる赤が地面へとポタポタと落ちる。
そして、轟音と共に崩れる竜を食らい大口を開ける二体目が迫る。
眩暈のような者を感じたルーファはその眩暈を無理矢理に噛み殺す。
「舐めるなァ!!」
『最悪』『人間失格(ピリオド)』が吠える。
答えるように倍以上もの紫色のオーラが広がっていた。
そして再び繰り出される目で追う事も出来ない居合いは、必殺を生み出す。
先程よりも大きく、また倍以上もの『次元斬』
ルーファの一帯を星が瞬くように見える程の数。
その場ある物、全てを切り裂く最大速度、最大威力、最大数量。
一瞬である筈のそられが数秒と続く。
舞う砂煙の砂すらも切り刻み、微粒子レベルで切り刻む必殺は跡形も無く黒を消し去らせていた。
「ぶはぁっ」と息を吐き出すと共にルーファの口からゴポリと音を立てて血が噴き出す。
ぼたぼたと自身の返り血を浴びた服に追加される赤等、ルーファは気にする様子も無く構え直す。
無理な『次元斬』は自身内のフォトン量を大幅に削る。
それは必然的に身体を蝕んでいた。
そんなルーファに対し、あれほどの高エネルギーを二体も作り出したファランは今も平然としていた。
弾を補充するように、無くなった黒い剣が増え続ける。
攻撃にのみ作り出した歪な龍は壊す事は出来ても、出続けるのであれば、一度でも当たれば一溜りも無い恐ろしい程の放出力。
近・中・遠、全てを兼ねそろえる目の前の化け物に、ルーファは血反吐を吐き出しながら苛立ったような三度目の舌打ち。
飛び出すルーファの額に、汗が滲んでいた。
飛び交う黒い剣を切り落とすルーファの呼吸は荒い。
恐ろしいまでの体力を持ち、桁違いの身体能力を持つ筈のルーファ。
しかし、ここに来るまでにかなりの無茶をしていた。
身体中の返り血。
連戦であるルーファに、先程の必殺はフォトンの上限を大きく超えてしまっていた。
素早い攻防、長引く戦いは徐々に差が出始める。
ファランの攻撃が、ルーファへと掠り始めていた。
ルーファの身体がよろめく。
身体に負担を掛け続ける戦闘方法。
長時間のフォトン放出状態。
絶対的な戦力として確立していた彼女は、いつも戦いすら瞬間で終わらせていた。
長引く事が無かった彼女に対して、ファランの黒いフォトンブレードが減る様子は見せない。
そしてルーファ側の攻撃は当たらない。
殺気を撒き散らす超攻撃的なルーファの戦い方。
超人的な察知能力によって常に後出し状態の後手を主とした戦い方。
その殺気は解り易い。
相性が、悪い。
一瞬で勝負を決めるルーファに対し、避ける事に秀でたファランは勝つ事がなくとも、負ける事が無い。
飛び交うフォトンブレードを切り刻みながら口周りの血を拭う。
ボタボタとファランの口から溢れる血、ダラダラと流れる鼻血。
彼女の体の中をズタボロに変えている証拠が、見た目から出ていた。
始めから大きなハンデを抱えている状態で戦える相手では無いのはルーファ自身も理解していた。
しかし、その血だらけの見た目とは裏腹に、彼女の顔は涼しいまま。
彼女は、負ける事を考えていない。
「さて……どうしましょ」
血を吐き捨てながら思考を繰り返す。
フェイントやタイミング。
効果的な戦い方を探すも、すべて見破られる。
次元を切り裂く力も、斬る前に察知される。
空間を指定してから切り裂く次元斬は、殺気をむき出しにしているファランは解りやすいのか、簡単に察知されてしまう。
指定した場所に体の部位を動かす事は無い。
ジョーカーとの戦闘。
簡単に終わるとは思っていなかったが、コレ程面倒だとは。
「察知能力ってのは面倒臭いですねぇ」
巨大な腕を刀で流しながら、ふと、考え直す。
ファランの特性、絶対回避。
鋭すぎる感性から生まれる感知能力。
その能力のせいで、彼女は怯える日々を繰り返していた。
振りかぶる巨大な腕を、大きくバックステップで躱す。
距離を空けた。
中距離の感覚でファランの身体、全体が見える。
追う様子のないファランの後ろに飛んだと同時に、再び巨大な龍が作り出されようとしていた。
ルーファは刀を鞘へと納める。
「ッハ、面倒臭い。最初からこうすりゃ良いじゃないですか」
ゆっくりと、ゆっくりと動く。
動きだけであれば、ただ姿勢を低く落とし、刀の塚に触れる。
いつもの、居合の構え。
変わったのは空間。
ぐにゃりと風景が変わる。それは物理的にではない。
ファランの身体にもズシリと重りのようなものを、その鋭い感知能力が察知する。
それはファランの身体にまとわりつく。
そのどす黒い物は、ルーファから放たれる殺気。
明らかに動きがぎこちない物へと変わって行く。
ファランの感知が、そうさせた。
集中が切れたように、後ろの龍が崩れる。
「避けなさい、避けてみなさい。避けれる物なら!!!」
言葉を放つだけでビリビリと肌に刺さる殺意。
常人であれば息が出来なくなるような、重苦しさ。
それでもぎこちない動きを見せるファランに、ルーファの紫色のフォトンがさらに膨れ上がる。
凄惨に血を吐きながら、刀を強く握る。
巨大に吐き出した殺意と、四方向の次元斬。
超えている筈の自身の上限を当たり前のようにもう一つ上へと超える。
口から零れる血など彼女は気にしない。
腹の中が絞られた雑巾のように臓器が締めらていようと彼女は痛がる様子すら見せない。
『最悪(エンド)』らしい無茶苦茶な力推し。
避ける隙間等与えない程の斬撃。異形へと姿を変えた彼女が見えなくなる程の斬撃数。
白で埋め尽くす。
それらは全て彼女が生み出した切り刻む為の最大出量。
煙が舞う。その煙すらも、砂すらも、空気すらも、微粒子レベルで切り刻む。
その場の酸素すら存在しえない程の真空を作り出す。
「はっぁ……!!!」
吐き出す息と共に十数秒と続いていた斬撃が止む。
既に形すら残さない程の威力が止んでいた。
そこに存在していた。
あれ程の数の攻撃を、その巨大な腕すらも傷一つ無く彼女は存在していた。
不気味に笑う彼女に疲れ等見えない。
ルーファは大きく目を見開く。
音が聞こえる程に、まるで痛みを堪えるかのように歯を食いしばる。
そして、ニヤリと笑う。
「……私の勝ちだ」
下から上へと乱雑に、力いっぱいに黒刀が振り抜かれる。
パワーにのみ特化させた真空刃はルーファの紫色のフォトンを乗せてファランへと、絶対回避へと一直線に飛ぶ。
迫る脅威に対し、動こうとするファランがビタリと、動きを止めた。
彼女の動きを止めさせたのは彼女を囲むように展開された巨大な殺意。
一歩でも出れば、その瞬間に次元斬が降り注ぐ。
高い感知能力が、機械的に身動きを止めさせていた。
その場が安全だと、解らせていた。
業と残した隙間。
ギリギリに避けさせる微調整。
学ばせる。
その場が安全であり、そこ以外が危険だと、機械的に動いていたダーカーという存在に解らせる。
今、迫るそれを避ければ跡形も無く消し去ると理解する余韻を残すおぞましい殺意。
『絶対回避』反射で動き、無意識下で動くそれは、用意された答えから抜け出せない。
必殺の『次元斬』すらフェイント。
「……考える脳味噌くらい残ってたら、少しは対応出来たかもしれませんねぇ」
トントン、と頭を叩いて見せるルーファは不敵な笑みを零す。