女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 大きなため息と共に刀を下し、片膝を付く。
 余裕を見せているが、振り絞った斬撃には変わらない。
 地面をえぐり、ファランへと走るそれを確認するために何とか顔を上げた。

 ルーファの瞳が、見開く。

 戦闘に集中していた。
 だから気づかなかったのか?
 そんな事が、あるのか?

 身動きが取れないでいるファランの前に、彼女が、カナタがいた。

 手を大きく広げ、守るように。

 誰を?

 何故?

 ルーファには理解出来ない。
 彼女は死んでいるのだ。ファランはもう、おぞましい敵の姿へと変わったのだ。
 解っているはずだ。

 なのに。

 何故。

 苦痛に顔を歪め、恐怖でぎゅっと目を瞑る。
 怖いだろう痛いだろう。
 それでも彼女は両手を広げる。
 放ったルーファにもそれを止めることは出来ない。

「バカ女……!!!!」
 よろめきながら立ち上がろうとする。
 力が切れた彼女はそのまま再び膝をついてしまう。
今から何を足掻いても、到底追いつくわけもない斬撃が、カナタへと迫っていた。 


Act.81 最後に貴方に

 

「あ………ぐ……が、ッ……!」

 

 

 息が詰まる。

 

 動き出そうとしていたカナタへ重苦しい殺意の重圧が襲う。

 息ができない。

 体が重い。

 空気が揺らいで見えるほどの重圧に、彼女の意識が遠ざかる。

 脳が無意識に危険だと判断し、逃避させようとさせる。

 

「馬………鹿ァッ!!!!」

 強く、強く唇を噛む。

 鉄の味が口の中に広がり、痛みが辛うじて意識を保たせていた。

 寝ている場合である筈が無い。ヨロヨロと一歩、二歩と進む。

 ぎこちなく動いているファランへと、歩を進める。

 遅い歩みは、徐々に早まり出す。

 

 空気が重い筈なのに、先程まで息ができなかった筈なのに。

 

 今、彼女は走り出す。

 戦闘経験が無い彼女だからこそ、その空間で真っ先に動くことが出来た。

 無頓着である彼女は、殺意から目を背け助けたい人にだけ視線を注ぐ。

 

 それとルーファが斬撃を放ったのは同時だった。

 

 巨大な斬撃に対し、彼女は堂々とファランの前へ出た。

 

 死体の前で、両手を広げる。

 

 守れなかった少女を守ろうと。

 

 手遅れになった彼女を救おうと。

 

 もう笑わない少女の為に。

 

 もう二度と名前を呼ばない彼女の為に。

 

 死んだ少女を前に、彼女は殺さないでと言うように、立ちはだかる。

 

 矛盾した思いをぶつける。

 

 迫り来る斬撃に対しカナタは、目を思いっきり瞑る。

 

 ああ。死ぬんだ。

 

 確信した。

 巨大な殺意が都合よく止まることは無い。

 

 地面を割る音が近づく。

 死の音が近づく。

 

 遠くから、「馬鹿女」と叫ぶ声が聞こえた。

 感情を恐怖から遠ざけるように、その言葉に薄い笑みを零し同意する。

 

 

 

 あぁ……ほんと、馬鹿みたい……。

 

 

 

 頑固で。

 

 

 感情的で。

 

 

 

 馬鹿な彼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな彼女が。

 

 

 

 

 

 

 

 ファランは好きだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナタさん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大好きな少女の声が、聞こえた気がした。

 

 思わず振り返っていた。

 その振り返りに合わせるように。

 回転する体が、ぐいと、そのまま横へと引っ張られる。

 その突然の動きに、視線は引っ張った先へと向けられる。

 まだ人の形をしている手が、カナタの服を思いっきり横へ引っ張っていた。

 

 尋常ではない力に、カナタの体が引っ張られるままに宙へ浮く。

 

 その場から足が離れ。

 

 離れていく。

 

 離れながらも、ファランに手を伸ばした。

 人とは言いまじき姿へと変わった彼女へ、救う為の手を向ける。

 

 それに対して。

 人ならざる異形な手は動かない。

 まだ人の形をしている手も動かない。

 赤く光る歪んだ瞳も、動かない。

 

 

 ただ。

 

 

 

 虚ろだった健在の瞳が。

 

 

 

 確かに、カナタを見つめていた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「ファランちゃ…………!!!!」

 

 呼ぼうとした声は、巨大な脅威によりかき消される。

 轟音と共に目の前のファランの身体が粉々へと砕かれ、紫色のフォトンに彼女の体は消されていく。

 

 カナタが尻餅をついた時、フォトンの衝撃は消え去っていた。

 カナタの目に映ったのは。

 粉々に砕かれた体の部位達が、丁度ぼたぼたと音を立てて落ちている所だった。

 

「は、ァ……?」

 へたりこんだまま呆然としてしまう。

 それは徐々に、実感へと変わっていく。

 

「い、や……! いや! いやァ!」

 粉々の死骸に、縋るようにカナタは四つん這いのまま慌てて近づこうとする。

 カナタが駆け寄る前に、強い風が吹いた。

 ファランの身体の一部一部が黒い霧へと変わり、それが風に乗り徐々に消え去っていく。

 

「まって! 行かないで! いや! ファランちゃん! 行かないで!! 嫌!! 嫌!! ファランちゃぁぁぁん!!!!」

 悲鳴を上げながら飛んでいく霧に手を伸ばす。

 霧が持てる筈もなく、カナタの手は無様に空を斬る。

 

「い、い、い、一緒に! いるよ! 私はずっと一緒にいるからァ! ねぇぇぇぇ! 行かないでよぉぉぉぉぉ!」

 消えかかる片腕を掴み、ぎゅっとそれを抱き締めた。

 腕の隙間から溢れる霧を少しでも出すまいと必死に体を縮こめる。

 

 カナタの必死な行動を笑うように、腕の中から物体の感覚が無くなる。

 恐る恐る広げた腕の中には。

 

 何も無い。

 

 ファランという存在が、今、消え去ったことを、頭が理解した。

 

「ファ、ファラ、ンちゃ? あ、あ、あ!」

 頭の理解を、無理矢理否定させるように頭を掻きむしる。

 

 むせび泣き、悲鳴を上げ、綺麗だった髪を掻き毟る。

 

 その姿は、異様で、異常で。

 

 明るかったカナタを知っているルーファには、酷く痛々しく写る。

 

 そんなカナタに触れようとせず、よろめきながらルーファは立ち上がる。

 

 血を流しすぎたのか、足をフラつかせながら座り込むカナタへと近づいていく。

 視線は、カナタを超えてファランが元いた場所を向く。

 そこに彼女がいた事を示す物は何も無い。

 

 眉を寄せるルーファの脳裏に、先程の戦いが過ぎっていた。

 

 ありったけの殺意を込めた。

 機械的に危険を感知する彼女の動きを止めるために。

 勝ちを確信した。その通りに彼女は撃退していた。

 しかし、彼女はあの時、動いた。

 あの殺意の中、カナタを守るように。

 偶然?

 死体である筈の彼女がそんな事を考える事が出来る筈がない。

 もしかするとすれば、攻撃を加えようとしたのが偶然、助けるような形になったのか。

 それが解るのは、今はもう存在しないファランだけ。

 

 しかし、そんな事はルーファにはどうでもよかった。

 

 思う事は一つだけ。

 

 刀をその場に突き立て、右手で拳を作る。

 

 その拳を強く、自信の胸を叩くように掲げる。

 

「見事…………腕一本分だけ………あなたの勝ちよ」

 

 

 あの巨大な恐怖を、殺意を越えて動いた。

 たった一つの小さな腕。

 その事に、ルーファのやり方で敬意を表する。

 

 ……臆病者め。

 

 勇敢な戦士に、ルーファは目を瞑る。

 

 彼女の死にむせび泣く者と、彼女の死に敬意を向ける者の、二つの背中。

 

 風が吹く。

 

 大量に、そして巨大な窪みや、斬り痕。

 なぎ倒された木々達。

 

 戦争でもあったかのような凄惨な現状は。

 

 今は、静かに砂を舞わせるだけ。

 

 カナタの泣き声と、葉の擦れる音だけが、響き続けていた。

 

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