女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.84 女子高生VSジョーカー②

「うえーアイツに助けられたの俺? 泣いていい?」

 その場からでは見えない森の外。船の方にレオンは舌を出すような仕草をして見せる。

 

「おう好きなだけ鳴いてろアホウドリ」

 

「うっわーほんっとムカつくはこンのちびっ子は」

 

 軽い様子を見せる二人と、呆然と現状を見つめているカナタとの温度差は大きく。

 ふらふらと揺れるカナタは、ゆっくりと頭を両手で抑える。

 

「………ぁ、ぁ、ぁぁぁあああああああ!!! もおおおおおおおおおおおおおお!!!!! 邪魔ばっかりしやがってしやがってええええええ!!!!」

 ガリガリガリガリと頭を掻き毟る音が離れているルーファ達にも聞こえる。力任せなソレは、綺麗だった黒髪を乱雑に荒れさせ、血が垂れている事も彼女は気にしない。

 

「口調変わってますよ馬鹿ナタ、もうお遊びは良いでしょう」

 

 ひゅんひゅんとその場で刀を振るルーファが一歩前に出る。

 今度はその一歩に、手を止めてカナタはビクリと揺れながら後ろへとよろめく。

 

「は、ぁ!? 遊び!? 遊び!? あの子を殺したのも!? ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなああああああ!!! 壊れろ!! 無様に!! 盛大に!! あの子のように弾けろ弾けろ!!! 返せ返せ返せええええ!!!」

 

 彼女の両手が振りあがる、何かを掴んでいるような動きは、その形を徐々に成していく。

 光はどす黒い黒。漆黒の黒。残酷なまでの闇。

 黒いソレは長い棒に鋭い切っ先を持つ形。

 

 その棒状の武器に、最初に声をあげたのはレオンだった。

 

「俺の武器……!?」

 

 待つ間も与えずに、振り下ろす。

 絶対攻撃力に物を言わせた一撃が地面を割らせる。

 木々が一瞬で吹き飛ぶ風圧と共に弾き出される黒くまがまがしい巨大な斬激。

 勢いはあまり無い。走れば逃げれるのかもしれない。

 しかしそのサイズは到底逃げ切れる者では無い。

 地面を、巻き込む木々を、空気すらも飲み込む。

 全てを飲み込む絶対破壊。

 

「そんなの有りかよ!! 物体だけじゃなく!! 能力まで創造しちまうってーのかよ!!」

 呆然とするレオンはその能力を良く知っている。

 少し劣化しているのか、それでもそれは紛れも無い絶対破壊の力。

 レオンが暴れていた時に、カナタが見ていた力。

 

 アークスのジョーカー。

 アークスの切り札。

 

「すっげー、すっげーよ」

 

 その実力は対立すれば最強の矛同士の崩壊。

 

「……ぎゃっはっは!」

 

 その破壊の一端が笑う。

 思わずと言った具合に、笑う。

 

「だが、まぁ、俺の真似するにしちゃあ」

 

 本家が笑う。

 

「弱っちい!!」

 

 レオンが取り出した赤い錠剤が指で弾かれ上へと舞う。

 迫る黒の衝撃破を無視してレオンは吠える。

 その先の、彼女に向けて。

 

「カナタァ! おめーじゃ真似できねーよ! 所詮作りもんだ!フィクション!!」

 

 その声が、カナタに届いているかなど解らない。

 目の前に続く巨大な破壊音にかき消されているかもしれない。

 それでもレオンは叫ぶ。

 

「言ったよなぁ! 俺の事を『化物』じゃねーってよ! そう言ってくれたお前じゃ『化物』にゃなれねぇ!俺達にはなれねーよ!」

 

 舞う錠剤が、口の中でガリと音を立て消える。

 

「お前がなれるのは、絵面ごと見て―な甘くせえ主人公なだけだ」

 

 優しい声を終止符にレオンの体がぐらりと揺れる。

 

 ブレイクスタンス。

 

 彼の周りを赤と黒が入り交じるフォトンが舞う。

 徐々に体が黒へと色を変えていく。

 荒い呼吸のまま、レオンの瞳はまだ強い光を放っていた。その苦しみを無理矢理に捻じ込みながら、今も近づく破壊の光に背を向けた。

 

 そして、カナタとは逆側に、下向きに槍を構える。構える槍の黒が、腕の黒と同化していく。

 滅茶苦茶な、力任せの振り上げ。

 漆黒の槍が地面を大きく削りながら思いっきり振り上げられる。

 

 放たれるは黒一色のフォトン。

 爆発を繰り返すそれは本人のサイズの比では無い

 爆音を放ちながら巨大なフォトンの塊。

 光線というには荒々しく、刃というには形を成していない。

 唯、破壊する為の一撃。全てを飲み込む超圧縮の、超膨大の、最大必殺。

 カナタが作り出したソレのサイズを当たり前のように超える。

 巨大なダークラグネを両断した剣を当たり前のように超える。

 

 それは今そこにいる森のサイズも、その森を超えるカナタが作り上げた333メートルすらも。

 

 当たり前のように超える。

 

 異様で異常で異例で異論ない絶対破壊。

 

 レオンの最大攻撃力が頭上の333メートルを飲み込む。

 

 力を吐き出すレオンの身体は、纏わりついていた黒が剥がれるように粒子へと変わっていく所。

 黒い姿になる事も無く、よろめきながら大の字で後ろへと倒れる。

 

「だっはーーー! ひっさびさの全力全開だボケェ! 俺じゃ殺しちまうんだよ! 頼むぜおい! リースが泣いちまう!」

 

 倒れたままのレオンに、カナタが作り上げたフィクションの破壊は既に目の前。

 それでも、倒れているレオンを拾おうともせずに、ルーファもホルンも動かない。

 べきべきと辺りの木々を破壊しながら近寄るソレは前だけを見れば黒一色にしか見えない、だろう程のサイズ。飲み込むサイズである事は変わらない。

 

「そう……貴方はそっち」

 ルーファの視線は目前の黒よりも、倒れているレオンを見ていた。

 息も絶え絶えに、それでも馬鹿にしたような笑みは変わらない。

 レオンの意地悪な瞳も、冷めた瞳を見せるホルンも、何も答えない。

 

 代わりに別の声が答える。

 

「ああ、無論私もそちら側だ」

 

 高く、それでもハッキリとしたその口調は堂々とした言葉。

 振り返るルーファの目に映るはプラプラと脱力させるように手を下向きに降っているユラの姿。

 

「全く……忘れられたかと思ったぞ」

 

 もう逃げられない距離にまで来ている破壊の光にユラは動じる様子を見せない。

 ユラの右手が上がる。

 その指が弾くように形に変えて。

 

 パチン。という、弾ける音が広がる。

 その音に合わせるように世界が波打つ。彼女の後ろに等身大の時計。

 破壊の音が消える。

 静寂が包む世界、ゆっくりと手を下ろすユラ以外、世界が止まっていた。

 

 ユラの視線は俯くホルンへ、そしてユラをまっずくに見据えるルーファへ。そして、先にいる闇の隙間から見えるカナタへと映る。

 涙でぐしゃぐしゃの顔。その両手は耐え切れるはずのない威力の反動で血だらけで。

 何がそこまで彼女を追い詰める。

 何がそこまで彼女を追い詰める。

 

『それでも私は救いたい』

 

 そう言った彼女の言葉を、ユラは良く覚えている。

 

「カナタ、君の馬鹿さ加減……もう少し見たくなった」

 

 全てが動かない世界でユラの声だけが響く。

 

「私は最悪(エンド)のジョーカーが1人。存在否定(ダウナー)、最後(ラスト・ワン)……そう呼ばれたルーサーが手を加えた最後のジョーカーだ」

 

 ユラはゆっくりと、人差し指を掲げるようにあげる。

 

「不本意だが能力は、『ルーサー(敗者)』」

 

 

 指で斬るように素早く。

 掲げた手を力強く下ろした。

 

「お前を肯定しよう、カナタ」

 

 それに合わせるように、禍々しい黒い柱が振り下ろされる。

 破壊の闇が、光が、彼女の力に押しつぶされる。

 アークスを震撼させたダークファルスの力が破壊の光すら飲み込む。

 彼女の世界。

 その世界で彼女に勝てる物は到底いない。

 ダークファルスの力を持つ唯一無二と言っても良い最後のジョーカー。

 もっとも完成に近い不完全品。

 

 

 

 瞬間的に世界に色がつく。

 

 

 

「………………………………………………………………は、ぁ!? はぁぁぁぁぁ!? なんで!?なんで!?」

 悲鳴を上げるカナタには今何が起こったのか等、理解出来るわけが無い。

 空の影が消えたと思えば、破壊の闇が消え去っていた。確実に壊す絶対攻撃力。残っているのは破壊によって抉れるように粉々になっている木々や地面だけ。

 

「……む、流石にあんな重いのを持っていた後に時止め超重力は荷が重いな」

 

 先程の高く凛々しい姿は消え去り美しい声色が可愛い高さのトーンに変わっていた。

 

「後は任せよう」

 

 キセルを吹かす幼女は薄く笑う。

 その表情は優しい笑み。

 

 

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!! もぉ! もぉ! もぉ! もぉ! なんで! じゃま! するの! するのよ! もぉぉぉぉ!!!」

 掻き毟りながら頭を振るう。

 血走る瞳から零れる涙は止まらない。

 ただ。

 ただただ、彼女の心は壊れ続ける。

 思考は回らない。

 一点のみに思考が走る。

 自分の知る中の破壊を全て詰め込んで。

 

 壊せ、壊せ、壊せ。

 

 この世界が壊れればきっと。

 

 また最初からやり直せるから。

 

 またもう一度私でいれるから。

 

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェェェェェェェェェェ!!!!!」

 

 彼女の声とは思えない程のおぞましい悲鳴のような雄叫びと共に、カナタの後ろに光が集まり始める。

 光は集合体へ、形を変え、その姿を象る。

 ルーファが方眉を上げる。

 それは先程彼女が戦っていた相手の能力の一つ。

 ファランが作り出す三匹の竜。

 どす黒い色合いは、ルーファが見た姿と同じ物。

 

「……ファランの力、か」

 

 見上げるホルンがポツリとこぼす。

 

「あら知ってるの先生」

 

「当たり前だろ……俺が教えたんだからよ」

 フォトンで形成する追尾方でありながらの超圧縮型の攻撃力。

 繊細なフォトンを操る彼女と、高い感知能力だからこそ出来る力。

 しかし、それは空想上の理論でしかなかった。

 人、一人分では足りる筈の無い膨大なフォトン量と、それを維持する為の尋常でない精神力。

 ジョーカーとしての素質を含めても、結果的にファランがその技を完成に至らせる事は無かった。

 

 それを、カナタが作り出している。目で見た物を今作り出している。

 

 様々なフォトンの色合いが混ざるそれは、実在から作られたフィクション。

 微かながらにもファランのフォトンの癖のような物を、その中から感じ取る事が出来ていた。

 それだけで、ホルンは十分に理解する。

 

 ファランの最後を。

 

 

 

 呪いのようにブツブツ呟く言葉と共に、空にカナタの光が舞う。

 黒い竜だけでは無い。再び輝き広がる光達は次々と再び物体を作り上げる。

 

 彼女が目にした武器という武器。

 

 神話を象った武器。

 創作でしか無い筈の武器。

 漫画の世界でしか無い武器。

 

 破壊の為に、殺す為に、消し去る為に。

 

 フィクションでしか無かった筈の全て。

 その思いすらも。

 

 空一帯に広がる様々な何百といった武器達が、切っ先を向ける。

 今度はシンプルに、単純に、ハンマーやナイフや刀や剣や刀やサーベルや。多種多様世界も歴史も違う武器達が入り乱れる。先程の銃達とはまた違う絶対的な殺す為の近接型の武器。

 

「学習しませんね馬鹿ナタ」

 ため息交じりのルーファの声はもうカナタには届かない。

 もう、届かない範囲まで来ていた。

 彼女のグチャグチャの髪の隙間から見える瞳は、既に正気の域を超えてる。

 

 ため息交じりに、ホルンが口を開く。

 

「ルーファ、テメーがケリを付けろ」

 

「……はぁ? なんで私が命令されなくちゃ行けないんですか」

 

「理由はどうであれテメーが引き金だ。忘れるなよ青二才。信念を通せばまた、別の信念が目の前に立つ」

 

「……言葉の意味がわっかんねーですっての」

 

「行け、道は開いてやる。道を作るのも年上の役目だ。」

 

 ホルンが前に出るのと同時に黒い3匹の龍が禍々しく口を開く。

 そして、うねり狂う三匹の竜が飛び出し、次いで大量の武器が切っ先を向けて空を走る。

 標的は全て飛び出したホルンに狙いを定めて。

 たった一人によって、一瞬でその場が戦地へと作り出される。

 その戦場に、すざまじい脚力と共に文字通り飛ぶようにホルンは空中へと飛び出していた。

 

 

「…………」

 遥か頭上へと飛ぶ彼の事を見ずにルーファは真っ直ぐに彼女を見据える。

 凶器的な武器よりも、狂気的な憎しみの瞳を向ける彼女を見つめる。

 

 

 

 同じく飛び上がるホルンも見下ろすようにカナタを見つめていた。

 呆れたように小さく笑う。彼にしては珍しい、自嘲めいた笑み。

 

「武器を持つ事を、戦う事を、傷つける覚悟を否定した馬鹿が……哀れなもンだ」

 

 彼へと向けられる凶器達。

 その凶器達よりも巨大な黒い憎悪がホルンへと迫っていた。

 ホルンの小さな体を飲み込もうと、一匹目の黒い龍は大顎を開く。

 ばくん、という音が響くようにホルンの小さな体をあっさりと飲み込んでいた。

 

 黒い竜は口を閉じた瞬間に淡く光り出す。

 その光は先程閉めた竜の口の隙間から。

 金色のフォトンが舞っていた。

 

「リミットブレイク!!!」

 

 叫ぶ声は鼓舞するように。

 魂の叫びに答えるように。

 光は強く強くホルンを輝かせる。

 

 眩い光は消える。

 黒い龍は内側から弾ける。。

 内側から飛び出したのはフォトンで作り上げた巨大な刀。

 その巨大な刀の媒体であろう大剣を担ぐように持ち直す。

 重力に合わせて落下するホルンは空いている手で自身の瞳へと手をやると、鬱陶しそうな舌打ちを零す。

 

「あぁ? 右目かよめんどくせェ」

 

 『リミットブレイク』

 

 彼が最も強かった頃。

 まだ身体が大人の姿をしていた頃。

 体が縮んでからは能力も激減していた。

 その能力を、今の状態を一時的に飛び越え最も最善だったあの頃に近づける。

 それは体の機能の一部をランダムで失わせるかなりの不可を体に加えるホルンの奥の手。

 数分しか持たないが、その能力の底上げは絶大。

 彼の特徴的な全武器を使い分ける特異性、その全てを最大限まで引き出す。

 

 彼の周りを武器達が舞う。

 槍が、両剣が、刀が、銃の類までもが全て。

 

 放り投げる大剣がその内の一つに加わる、入れ替わるように彼の手に次に持たれたのはツインダガーと呼ばれる逆手で持つ両剣

 

 迫る大量の武器達を横目に、両手を広げるように両剣を持ったまま、ホルンは遠心力に任せて体を横へと回転させていた。

 回転に合わせるように、光が舞う。

 

 手に持つ両剣が強い光を放ち作り出されるのは先程のサイズの巨大な剣。

 フォトンで作り上げる大剣の技。

 

「ツインダガーのオーバーエンド、ま俺しか出来ねぇけど」

 

 回転に合わせて振られた二つの巨大な刃。

 まるで大きな円状の刃物は迫る大量の武器達を振れた瞬間に粉々の姿へと変形させる。

 

 武器の能力を最大限まで引き出し、他の武器の技すらも別の武器で対応させる。

 天性のセンスと、気が遠くなる長い間を生き手に入れた努力の結晶。

 守る為に手に入れた力。

 誰も殺させない為に、前に進む為に。増えすぎた大切な者達の為に。

 その力が、黒い竜をも一瞬で横に両断する。

 

 

 創造されたファランの技が黒い粒子となって姿を消していく。

 

 

 妙に皮肉めいていて、着地しながらホルンは情けない笑みを浮かべてしまう。

 

 唯一見える左目を彼女へと向けた。

 

 

「あの時の威勢はどうした馬鹿女、テメーの思いってのはそんなもんかよ」 

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