女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.85 女子高生VSジョーカー③

 ゆらりとルーファの体が揺れる。

 ホルンが着地したのと、それは同時。

 目を見開き挙動不審に眼球を動かすカナタも直ぐにホルンからルーファの挙動に気づく。

 

 地を蹴るルーファはその場に残像すら残さずに、まるで消えたように土煙だけを残す。

 

「っぐ! ぃ! ぃぃ!!」

 勢いに気圧された様に呻くカナタはたたらを踏むように後ろへと下がる。

 しかし直ぐに切り替わる。

 姿勢が低い物へ。

 脳裏に浮かぶのは新鮮な記憶。 

 想像されるのは今、目前の彼女。

 カナタへと走る彼女。

 創造するのは彼女が戦っていた姿。

 見ていた。最初から見ていた。

 ここに来て古い記憶。そして今一番新しい記憶。

 

 刀を抜くように低く構える手が何かを掴む。

 引き抜くと共にそれは何も無い所から、淡い光を零しながらそれを造形させて行く。

 

 純白ならぬ純黒。

 

 真っ白と言う程の真っ黒。

 

 白妙なまでに漆黒。

 

 唯一無二のたった一つのルーファの武器が手にされていた。

 

「来るな!! 来るな!!」

 

 引き抜かれる速度は、その速度をそのままに動きを創造する。

 同時に、引き抜いた腕が内側から破裂するように皮が裂け血を噴出す。

 彼女の、唯の人間でしかない身体はジョーカーの能力に耐え切れるわけも無く。

 早すぎる神速はその能力のままに距離すら無視した斬激を生み出す。

 

 駆けるルーファの体を斜めに両断させる一閃。

 

 刹那の一瞬。

 

 

 走りながらも体を傾けるルーファの髪を数本だけ刻みあっさりとそれを避けていた。

 

「猿真似にしちゃー上出来ですけど、鮮度がクッソ。所詮作り物ですねェ」

 吐き捨てる発言をしながらもルーファとカナタの距離は埋まって行く。

 

 

 振り抜いたカナタの手から刀が音を立てて落ちる。

 カナタの腕から血が噴出す。

 一般人でしかないカナタの体が、ジョーカーの力を二度も使った代償。

 自身の血で染まったダラリとたれている腕からは、白い部分すら見えていた。

 

「あああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 旧ブレーキを掛けるルーファは呆れた様に声を零す。

 悲痛の叫び声を煩そうに頭を振るいながら刀も数度振るう。

 

「限界でしょうカナタ、諦めなさい」

 

 痛みと苦しみ、悲痛と憎悪。

 涙でぐちゃぐちゃの瞳が上がる。

 

「甘ちゃん女」

 

 ルーファと目が合うと同時に、痛みも苦しみも、悲痛も全て、憎悪が塗り替える。

 血走った瞳は、涙で濡れならがらも彼女を睨む。

 

 言葉はスイッチへ。

 涙を流すカナタの瞳はルーファを睨む。

 淡い光りはカナタのもう一つの腕に集中する。瞬間的に作られるのは短いダガーナイフ。

 躊躇を見せることもなくナイフは動かなくなった自らの腕へと振り切られていた。

 

 吹き零れる血と共に、ボトリと不気味な音と合わせて落ちる。

 

「……貴方」

 

 強く目を見開くルーファをよそに、カナタの亡くなったはずの部分に淡い光がまとわれていた。

 

「リリリリリン酸カルシウム硫黄ナトリウムムムカカカカカリウム塩素マグネシウムフッ素セレンケ鉄亜鉛銅ヒ素マンガンンンンクロムバナジウムニッケルゥゥゥゥ!!!」

 

 早口過ぎて聞き取れない。ましてやルーファの知る言葉でも無い。しかし、その言葉と共に、彼女の腕が徐々に形を成す。何も無い所に、何も無かった筈の場に、呪文の言葉とともに、無くなっていた筈の部分に、まったく同じ腕が出来上がっていく。

 

「……貴方、もはや人を、アークスを、やめているわね」

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」

 悲鳴を挙げながら出来上がった腕を横へ振るう。

 

「おまえのせいだおまえのせいだおまえのdせいだだだだだだだあああrrrっらああああああああ!!!!」

 最早言葉にすら無っていない。

 悲鳴を喚き散らすカナタは頭を振りかぶる。

 辺りに飛び散る血も無視して濁った瞳がルーファを捉える。

 

「……ちょっとはマシな目が出来るようになったじゃないですか」

 皮肉を込めた言葉を吐き捨てると共にルーファは構える。

 

「態々待って挙げたんです」

 中途半端な気持ちでは無く、一心の純粋な心へ。視線を。そこにいるのは二人だけ。

 思いは直線状に、見つめあうのは憎しみと失念。

 

 ルーファの言葉は、カナタには聞こえていない。

 

 こんなのじゃ駄目だ。

 

 狂う自分とは別に、頭の中でもう一人の自分が冷静に見つめていた。

 

 彼女は殺せない。 彼らは壊せない。 世界を消し去る事は出来ない。

 

 もっと明確な破壊を。

 

 壊す。殺す。

 

 破壊を。

 

 撃滅を壊滅を潰滅を絶滅を破滅を消滅を粉砕を損壊を抹消を抹殺を打壊を解体を荒廃を没落を滅亡を衰亡を破砕を殺戮を殺害を殺人を破摧を決潰を崩潰を全潰を倒潰を崩壊を全壊を倒壊を。

 

 そして創造を。

 

 最初から。

 

 リセットして。

 

 ニューゲーム。

 

 今度はもっと、幸せな世界を。

 

 皆が皆、幸せな世界を。

 

 あの子が笑える世界を。

 

 限界を超えた彼女の体中か血が吹き出し。

 血だらけで、ボロボロの筈だった。

 それでも彼女はその両手を挙げる。

 祈るように両手を挙げる。

 終わらせる世界に、今の痛み等関係が無い。

 

 彼女の周りを纏う光は、更に輝く。

 その光は翳す両の手に集まる。

 全てを終わらせる為に、この世界を終わらせる為に。

 象る光は造形されていく。終わらせる為の想像が創造に変わる。

 

 遠くで見やるユラが眉をあげる。

 作り上げられたソレをユラは知っていた。

 

 創世記、『世果ヨノハテ』

 

 世界を終わらせる武器。六芒均衡、アークスのトップが持ちながらも、その異常な力に彼すらも封印に封印を施し、ようやく使える刀。

 

 史上最強にして、世界を終わらせると言われた武器。彼女が望む、最高の形。

 

「……ますます面白い子だ。がむしゃらに想像していた創造を、具体的に……この世界で最も破壊できる武器を創造したか。最後の最後に、自分の力を理解し物にしたか……嫌、つくづく恐ろしい子だ」

 

「あぁ!? ざっけんな!! あんなもん振ったらカナタちゃんも。ここらへんもぶっとぶぞ!!」

 

 椅子にされ仰向けで寝転がったまま吼えるレオンなど気にせずにユラはキセルを吹かす。

 

「しかし、彼女が願う物にこの世界が答えたとでも言うのか?」

 

「無視してんじゃねーぞチビ!! あいた!!」

 力を使い果たし、動けないレオンの頭を小さな足で踏みつけられる。

 

「案ずるな、馬鹿、向かっているのは史上最速だ」

 

 振り上げる。

 振り下ろす。

 その動作だけで、空気が止まる。

 一瞬の静寂が、まるでそのシーンを掻き立てるように。

 

 振り下ろす最強を、黒刀が受け止める。

 

 静寂の後に広がるのは真空破。

 互いと互いの鍔迫り合いが、行き場の無くなった脅威が辺りを噴き上げる。

 

 突風で掻き上がる髪も物ともせずに、三人のジョーカーは見届ける。

 二人のその一瞬を。

 

 

 瞳が重なる。

 スローモーションの様に続く瞬間。

 

 圧倒的な身体能力では当然の様にルーファに軍配が上がる。

 そのルーファと並べるのは彼女の生み出した武器の力。

 それは、カナタのような人間が持っていいものではない。身体が耐え切らずに身体中から噴き出す血などカナタは目も暮れる様子も見せない。

 

 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。

 

 体中が血で染まりながら、瞳に垂れ流れる血が入る事も気にせずにルーファへと一心に憎悪の瞳を向ける。

 受け止めながら、ルーファはその瞳を見返す。

 その瞳はカナタとは真逆の、妙な複雑な色が入り混じる。

 

「死˝ね˝ぇ˝ぇ˝ぇ˝ぇ˝ぇ˝ぇ˝ぇ˝ぇ˝ぇぇ˝ぇ˝ぇ˝!!!!!!!!!」

 叫び声と共に、均衡が崩れる。

 押し出したのはカナタ。割れるように笑みが広がる。

 

 カナタは気づきない。押し出したのでは無く、一対に構えていた刀をルーファが離していた事に。

 それは一瞬の出来事。弾かれた刀が宙に浮く。

 刀を無視して、ルーファは力強く拳を握り締める。

 勢いよく振り下ろしているカナタは止められない。カウンター交じりに、振りかぶる刀と、ルーファの拳が交差する。

 全速力の威力と共に、ルーファの拳がカナタの顔面へと放たれていた。

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