女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.90 女子高生と七人のジョーカー

 

 

「ラッド、レイモンド、ガルド、デイド、ラストル……」

 文字を刻む小さな背中を見つけた。

 いつもの暑苦しい姿の癖に、彼は汗をかいている様子は無い。

 

「ホルンさん……」

 

 ホルンの手が止まる。

 振り返らずに、彼はポツポツと口を開く。

 

「…………俺の弟子ばっか死んでやがる。」

 少し、重々しい声色。

 

「血気盛んな馬鹿ばっかだが、仲間思いで良い奴らだったよ」

 土だらけで横繋ぎに立てられた船の破片達。

 

「だから率先して死んじまうんだよ、俺よりも先に死ぬ師匠不幸ものって奴だ」

 知っている名前も、知らない名前もある。

 シルカという名前も、見つけてしまう。

 思わず目を伏せてしまうが、直ぐに顔を上げる。

 

 そこに、振り返る彼が見つめていた。

 その表情は、いつもの厳しい様子では無い。

 憂いを帯びた、力の無い瞳。

 

「よう……ファランはどうやって死んだ」

 言葉に、思わず、ぐっと締め付けられるように喉が閉まる。

 

「……私を助けて、し、死にました」

 言葉の抵抗を無理矢理に破るように吐き出す。

 吐き出さないくては行けない。受け入れなくては行けない。

 

「……笑って、逝ったのか?」

 

「はい」

 そこだけはすんなりと言葉が出る。

 

「そうか」

 ホルンは薄っすらと笑う。

 何処か優しい、彼らしくない、少し情けない笑み。

 

「なら良い、アイツが最後に笑えたらなら……良い」

 

 ふっと降ろしていた顔を、ホルンは上げる。

 

「で? 何の用だ、勿論そんな事を聞きに来たわけじゃねーだろ」

 表情はいつもの彼の顔に戻っていた。

 いつもの子供らしくない鋭い瞳。

 仏頂面のまま、カナタを真っすぐに見据える。

 

 カナタもまた、ぐっとその瞳を見つめ返す。

 決めた事だ。

 もう、決めた事だ。もう、戻らない。もう、前に進む時だ。

 

「私に、戦い方を教えて下さい」

 

「戦わないんじゃねーのかよ」

 

 思わず言葉が詰まる。

 彼のピシャリとした言葉に、喉が締まる。

 

 思想だった。

 理想だった。

 正義だった。

 

 

 それが彼女の夢の形。

 

 現実だった。

 残酷だった。

 悲しかった。

 

 だから、だからこそ。

 

 理想を現実へ。

 思想を現実へ。

 正義を、この手に。

 平和を、この手に。

 

「…………私が、私が守るから!」

 

 それが私であるから。

 それでこそ、私であるから。

 世界に戻る? 二の次だ。

 

「この世界が残酷だと言うのなら! 私がこの世界を変えてやる!」

 響く。

 決意の言葉が響く。

 理想主義の【嘘フィクション】と言われようと。

 甘臭い【偽善者】だと言われようと。

 皮肉だろうと、私には【力】があるのならば。 

 

「だからこそ力が必要何です!! 私に戦い方を教えて下さい!!」

 

 見据える。

 強い瞳を、彼に向ける。

 それは、決意を示す瞳。

 

 ホルンは小さく溜息を吐く。

 

 掌を上向けに翳す。

 同時に彼の手の上で光が舞う。 

 光が舞うと共に、渦のような時空の狭間が現れる。

 ふわりと舞い現れたのは、薄汚れた赤いマフラー。

 カナタは、それに見覚えがある。

 

「そ、れ」

 

「あんな戦いの跡で、それだけでも残ったのは奇跡だ」

 放り投げられたそれは、カナタの手元へと収まる。

 まだ血や土で汚れている。

 それでも彼女の匂いが残っている。温もりすら、残っている気がした。

 

「ファ、ファラン……ちゃ……」

 

「アイツの遺品だ。お前が貰え」

 

「あ、ありがとうござ……い、いえ! そうじゃなくて!」

 

 フンっとホルンは鼻を鳴らして見せると、カナタへと背を向ける。

 先は、シップの方を向いていた。

 

「時間はねーんだ、腐れ偽善者。足手纏いにならない程度にはしねーと直ぐ死ぬぞ」

 

「そ、それって!!」

 

「師匠と呼べ、ひと月で物にしろ、もうテメーを守る戦力すら残されてねーんだ」

 

「はい!!」

 

 その小さくも、大きすぎる背中を追う。

 手にしたマフラーをぎゅっと握る。

 彼女の瞳は強い光を宿す。

 

 まっすぐと前を見る。

 

 その瞳に暗闇は無い。

 強い輝きは前を見据える。

 彼らと共に前を見据える。

 

 優しくて、強い私に。

 

 全てを守る私に。

 

 皆を助ける私に。

 

 元の世界に戻るのは、全てを終わらせてからでも遅くない。

 

 

 

 もう、誰も殺させるものか。

 

 

 私は屑木 星空。

 

 本当の正義の味方に、本当の私に。

 

 

【最悪(エンド)】【最強(スペシャル)】【最善(ガーデン)】【最害(サーカス)】

 

 欠陥と欠損と欠落のアークス。

 

 化け物と呼ばれた彼等達

 負の遺産と呼ばれた彼等達

 

 強い思いを心に宿す彼等達。

 

 一人の少女と、七人のジョーカー。

 

 終焉の道は始まったばかり。

 

 彼女等の物語は終わらない。

 

 

 

 

 

<完>




本日を持って【女子高生と七人のジョーカー】第一部、終了と致します。
一年間と少しの連載でしたが、友人の一言で始めてみたパロディ小説、個人的にはとても楽しく作る事が出来ました。
始めてのパロディ物でしたが、中々どうして以外に難しい物でした。
最初は一日一話ぐらいの更新を息巻いていましたが現実は難しい者で、自身の力の無さを痛感しました。
他にもキャラクター制としてお借りした友人達には感謝でいっぱいでございます、この場を借りてお礼申し上げます。
そして挿絵担当として頑張って下さったるーすん様、現実の忙しい合間から素晴らしいイラストを付けて頂き、見る度に予想よりも上の出来栄えを提示して貰い、数々のアドバイスも頂きました。
一重に私のみの作品では無く様々な方の協力から成りえた合作として、とても楽しませて頂ました。

さて、今回は一部を持って終了としましたが、無論、彼等、彼女等の物語は終わりではありません。

これからの【女子高生と七人のジョーカー】ですが、世界観諸々を一度作り直し、オリジナル小説として「小説家になろう」で一から作ろうと考えています。
作り直すにつれてストーリー制が変わる事があるかもしれませんが概ねは変わらないとは思われます。
そしてオリジナルとして作った後に、第二部をスタートして行こうかと考えております。
いつごろになるのか、それも含め多くの小説を作って行こうと考えて居る為に先は解りかねますが。

そして。

見て頂いた方々には感謝を言い表せません。
もしまた機会がありましたら、彼女の物語の続きをまた見た上げて下さい。

長々となりましたが本当にありがとうございました!

下部にURLを張らせて頂きますので、またそちらの方で宜しければこれからも御拝見願います!本当に本当にありがとうございました!!

最後に挿絵を担当させて頂いたルースン様からも言葉を頂いています。


『近いうちに何処かでまた会いましょう(意味深)』


との事でございます。


それではルースン様の言葉通り、また何処かでお会いしょう!


皆様に、カナタの様に何処までも真っすぐに未来に向けて歩を進める日々が続きますように。


https://mypage.syosetu.com/3821/

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