「時にシャルティアよ、お前の守護領域に教会があったと記憶しているのだが……解呪とか、やってたりするか?」
「はい。確かに妾の守護領域内には、地下聖堂がありんすが、解呪の儀式などが出来る僕は居ないでありんす。お力になれず申し訳ないでありんすぇ」
「ん〜そうか。なら仕方ないな」
「も、もしや御身に何らかの禍が!?それでしたら、今すぐにペストーニャを連れて参ります」
「あ、いやいやそれには及ばないよ。仮に呪われてたとしても、俺じゃあ無いし。もし、そーいう事があったらどうしようかな〜と思っただけだ」
「ホッ。それは、良ござんした。安心したでありんす。それで、妾に御用命と言うのはその件でありんすか?」
ナザリック地下大墳墓-第六階層・円形劇場-
俺たちは、その闘技場内のVIP席に鎮座している。
別に一般の観客席で良かったのだが、一般席は観客ゴーレム君達で埋め尽くされていた。
それなら、立ち見で良いかと思ってたら、此処の管理人たる双子の闇妖精たちに捕まりVIP席まで連行された。
「シャルティア、今時間ある?」
あるから此処に来ているに決まっているのだが、一応礼儀として聞いてみた。
「はっ。御用命であればなんなりと」
「一緒に観戦していかないか?」
「観戦……でありんすか?」
「そう。今から、アインズさんと、うちのクレマンティーヌ……あ〜部下その2だな。その2人が練習試合的な何かをするから、良ければ見て行かないか?」
せっかくの観戦だし、解説役でも欲しいなぁ、と思いシャルティアを誘ってみた。
本当はコキュートスが良かったのだが、何処かに出張しているらしい。
仕方ないから、とりあえず前衛職で暇そうな奴を探したらシャルティアに白羽の矢が立った訳である。
「うぅ…アインズ様の勇姿……是非とも、応援したいでありんすが……」
蚊の泣くような、消え入りそうな声で何事かを呟くシャルティア。
アレ?喜ぶと思ってんだが……シャルティアの性癖的に考えて全身鎧姿のモモンでは興味を惹かれないのかも知れないな。
「ダメでありんすッ!!謹慎中の身でありながら、その様な禍福を頂く訳には行かないでありんす」
ん?謹慎中の身って何の事だ?
「そ、そうか。非常に残念だな……ところでその謹慎と言うのは、一体何に対するモノなのだ?」
「クッ……それは…先日の件でありんす。あの様な失態はもう二度と……」
ああ、あの件か。
俺は思う。アレを失態扱いされているシャルティアが不憫でならない。あの件のお陰でモモンさんはアダマンタイト級の冒険者になれた。結果論かも知れないが、手柄と言っても差し支えないと言うのに……
それに、俺個人として、シャルティアには非常に感謝している。
あの件以降、俺はナザリックの配下たちから信頼される様になった気がする。約1名、未だに不信感丸出しのサゲマンが例外的に存在するが、概ね、デプレジオンと言う存在が持っていた“余所者感”や“外様感”は消えた。
今後の課題が全く残らなかった訳では無いが……それでもシャルティアが、その責任を負わされると言うのは酷な話だ。
「シャルティア、アンタさぁ……デプレジオン様の仰る事の真意が解らない訳?」
さっきまで、俺が持ってきたご機嫌取りの賄賂に夢中だった肉食系なお姉ちゃんの方が、会話に割り込んで来た。
「はぁ?真意…でありんすか?」
はて、真意?何のこっちゃ、俺にも分からんでありんす。何言ってんだ?コイツ。
「そもそも、何でアンタはあんな失態を演じる事になったのさ?」
「それは……その、油断していたんでありんす」
「そう。たかが、人間相手だーってね」
「…反省してるでありんすよ。」
「獅子は兎を狩る時も全力を尽くす。これは獣の世界でも常識なの。私の可愛いペットたちだって、その辺心得てるわよ」
「け、結局、何が言いたいんでありんすかッあんまり苛めないでくんなまし」
「アンタ、アインズ様の対戦相手は誰だかちゃんと聞いてた?」
「デプレジオン様のペットでありんしょう?それが何か?」
「アレは人間の世界では最高峰の戦士だったんだってさ。流石にそのままだとアインズ様に対して役不足過ぎるから、それをデプレジオン様が手塩にかけて磨きあげた。勿論、アインズ様の練習台って目的には違い無いんだけど…本当にそれだけかな?」
「………分からないでありんすよ。意地悪しないで、教えてくんなまし」
「デプレジオン様のお力で、彼女は、人間の限界値に近い力を得た。その彼女の戦いぶりを、人間相手に油断して不覚を取ったアナタに見せたい。人間もやるものだ…と、そうアナタに感じさせる為に」
「そ、そんな!?デプレジオン様自らが…」
「ですよねッ!!デプレジオン様ッ」
この時のアウラの瞳は、それはもうキラッキラッに輝いていた。その笑顔には燦然と輝く星々が散りばめられていた。
仮にも主人に対して<人間種魅了>を仕掛けてくるとは末恐ろしい奴。俺が変態バードマンであったなら一発で陥落していた程の威力があった。
チラと、助けを求めようとマーレの方を見るが、何故か頬を赤く染め微笑み返される。ふーん。そうかそうか<二重詠唱化>かーおじちゃん困っちゃうなぁ。
「……あ〜そうだよ。バレては仕方がないな。アウラ、そう簡単にネタばらしをしてくれるな。照れるであろう?」
それにしてもアウラよ……お前もか。お前もそうやって俺を困らせてくる組だったんだね。
デミウルゴスやアルベドよりはマシだと信じたいが、コイツも俺を謎の超理論で持ち上げて、自然と退路を断ってくる系のしもべだ。
きっと、俺よりも頭が良いのだろう。まだまだ若いのに大したもんだ。この分だとマーレも同じに違いない。いや、そう思っていた方が裏切られた時、精神的に楽だ。
「デプレジオン様ぁ。かような格別のご配慮頂きました事、ほんに感謝致しますぇ」
目の端に涙を浮かべつつ、震えて感謝の意を示すシャルティア。もう目も充血して真っ赤である。
………まあ、それは元々だが。きっとシャルティアの俺に対する好感度はいくらか上昇した事だろう。
「そう、畏るなシャルティア。難しく考える必要は無い。己に何が足りないか、などゆっくり考えれば良い事。気楽に生きよ」
ちなみに、俺のシャルティアに対する好感度はうなぎ登りである。
バカは可愛い。とくにこんな苦境に住む俺にとって、シャルティアは貴重だ。オアシスだ。天使だ。癒しだ。
シャルティアよ。お前はずぅっとそのままで居てくれ。俺よりもちょっとだけバカで良い。
流石に、ナザリック内で俺が一番バカなんて事態になったら生きていけない。俺を裏切ってくれるな、シャルティア・ブラッドフォールンよ。
「了解でありんす!一挙手一投足まで具に観察させて頂くでありんすよ!!」
お、おう。頑張ってな。
「ところで……先程から、このチビ助が何やら食べてる様でありんすが……これはアリなんでありんすか?」
「何か問題が?」
「いえ、デプレジオン様は別としましても、チビ助らがアインズ様の御前で食事など……不敬ではありんせんか?」
うん、そーだね不敬だね。やっぱり君達の共通認識だと、そーなるよね。知ってた。
「ふっふっふ。シャルティア〜良い試合を観る時には、美味しい物を食べながら、楽しく観るのが礼儀なんだよ。知らないの?」
と、先程まで知らなかったアウラは慎ましい胸を張りつつ、誇らしげに語った。絵に描いたようなドヤ顔である。
勿論、俺が適当に言った事を間に受けてるだけなのだが…
だって、こうでも言わないとコイツら絶対、食べないし。早く食べないと、せっかく持ってきたハンバーガー&コーラは味落ちるし、かと言って1人で食べきれないし、第一、こんなん独りで食べても楽しくないじゃないか。
「本当なら酒が最高なんだが、まだ昼だからな。無論、シャルティアの分もあるぞ。こっちに来て、一緒に食べてようじゃないか。さあ、隣に座れ」
「は、はい。で…ありんすぅ」
-そうして暫くして、“戦士モモン”と“人間クレマンティーヌ”の死闘が幕を開けた。
「さて、どう見る?解説のシャルティアよ」
「確かに、人間もやるものでありんすね。最初の印象とは大違いでありんす。流石は、デプレジオン様プロデュースでありんすね」
なんとなんとなんと、意外にも序盤の鍔迫り合いはクレマンティーヌが優勢であった。装備を一新したとは言え、アインズさんがまだ全然本気をだしていないとは言え、彼我のレベル差を考えれば拍手モノである。
「ほう、印象とな?」
「はい。妾が最初にあの者に抱いた印象は、まるでマッチ棒の様な儚さでありんしたが、今は蝋燭位にはみえんす」
見えるのか見えないのかどっちなんだよ。
「どちらにしても“風前の灯火”と言う訳だな」
「決して侮る訳ではありんせんが、もしもあの者が妾と対峙した場合は2秒で肉塊でありんすね」
「成る程、それは光栄な評価だな。手間をかけて育てた甲斐があると言うもの」
「……?それはどういう…」
「もし仮に、不足の事態があったとしよう。お前がクレマンティーヌレベルの敵に足止めを喰らった場合は2秒奪われる訳だ。守護者が自由に動けない2秒間が、俺やアインズさんの命取りにならねば良いな」
『ッ!!』
「なんてな。冗談だよ、そんなに強張るな」
シャルティアはともかく、何故かアウラやマーレまでもが戦慄している。本当に真面目な奴らだよ、君達は。
「そんな…そんな事は僕が絶対にさせません。許しちゃいけないんです、そんな事」
と、マーレ君は力強く手にしたスタッフを握り締めていた。健気な姿である。手にしたスタッフが軋んで歪みかけてさえしなければ…だが。
アレって<シャドウ・オブ・ユグドラシル>だよな?森司祭の力で破損する様なヤワな魔杖では無い筈だが……
「フハハハハ!あらゆる下等生物の中でも屈指の戦士と聞いて少しは楽しみにしていたのだが。ぬるすぎてヘソが茶を沸かすわーーっ!」
防戦一方であったモモンさんが攻勢に打って出た。
「少しはマシになったのかと思えばその程度。期待して攻防に付き合ってやったが…まだまだこの私に到底かなうレベルではないわーーっ!」
先程までの優勢が嘘の様に、鍔迫り合いで凄く不利な体制に追い込まれるクレマンティーヌ。あれは、もう半歩押し込まれたら、身体が縦に両断されるな、怖い怖い。
「クッ…」
「戦闘途中でパワーのオーラが突然に増えたので期待してみたら…なんのことはない。正真正銘のド下等が準ド下等に変わった程度ではないかエラそうに。その程度で思い上がるから虫ケラ同然に殺されるのだド下等どもはなーーーっ!」
これは…また何か変なロールスイッチ入ったな、モモンさん。まさか“英雄”のキャラ像、これで行く気じゃないだろうな。
「虫ケラ…同然」
ん?クレマンティーヌのようすが…
「ねぇ、モモン様。確かに貴方の言う通り私は虫ケラだ。自分の弱さと向き合わず、本当の自分はどこかへ置いてきぼりにしていたのかもしれないね」
「グ…グゥゥ〜ッ」
「だからさぁ、せめてこの闘いだけは嘘偽りなく…私はただ…貴方の様な強者との闘いを純粋に楽しみたい」
ズズン
何と、圧倒的に力で劣る筈のクレマンティーヌが鍔迫り合いを制しリバーススープレックスの様な体勢でモモンを投げ飛ばした。あと、何か黄金色に光ってる。
「フハハハハ!確かにおまえから嘘偽りは消えた様だ。そしてド下等にしてはなかなか…デプレジオンが目をかけるのも納得だ」
そうして、お互いに防御を捨て捨て身の攻撃を繰り出す。技も何も無い、命懸け(大嘘)の斬り合いである。
「今のおまえとなら、いい勝負ができるかもなーーーーっ!」
おお凄え。剣技の練習だった筈なのに、結局、力任せに剣を振り回してる脳筋は放っておいて、クレマンティーヌがおかしな事をやっている。
モモンさんの膂力で振り回すグレートソードの一撃など、人の身で受けて良いものでは無い筈だが、クレマンティーヌはその体に直撃させつつも平然としている。
良く見れば、直撃した箇所に痛々しい傷が付いては居るが、血が全く出ていない。以前見た武技<不落要塞>とは明らかに違う。
クレマンティーヌの奴、この土壇場で新しい武技に目覚めやがった。
「デプレジオン様ッ!あれ、止めないと」
「マズイでありんすよッ。あのままではアインズ様がッ」
クレマンティーヌが両の腕を振るう度に、モモンさんの鎧と剣がボロボロになっていく。
攻撃を受けた箇所が融解し、酷い有様になってきている。まるで愉快なオブジェの様だ。
と言うか、あれじゃあ本体にダメージ入ってるな。
おめでとうクレマンティーヌ。“英雄”の領域からの卒業だ。例え、与えたダメージが水滴が岩を、いやオリハルコンを穿つ様な気の長いモノだとしても、君はアインズさんを倒せる可能性を持った。本当に凄いものだ。
「まあ、待て。あんなもの、アインズさんからしてみれば、子猫に噛まれた様なもの。まあ、お前たちが止めに入ると言うなら、それでも良いが……」
「フハハハハ。お前は楽しいヤツだな!さっきまでのウソつきぶりはどこへやら。とても正直な闘い方をする!そして、正直になればなるほど…パワーの最大値も上げてくる!どこまで上がるのか、この私も見たくなってきたぞ。さあどんどんパワーを上げろーーっ」
「お前たち、あんなに楽しそうなアインズさんの邪魔立てする気か?臣下の分と言うモノを今一度、考え直してみるが良い」
「………ッ!?」
お願い、考え直して。あと、マーレ。魔杖が悲鳴を上げてるから……壊すなよ、絶対に壊すなよ。
「それでも、臣下として、アインズさんを助太刀したいと言うのなら、私は止めはせぬ」
「………。」
ふぅ、どうやら魔杖君の命は守られたらしい。我ながら、ナイスファインプレーであった。
「貴方達、何をそんなに悩んで居るのかしら?臣下の勤めなんて、そんなもの最初から考えるまでもない事よ」
瞬間。黒い羽が数枚、バサッと宙に舞った。
ーそれで守護者の皆様に不興を買って、目付けられでもしたらどうしてくれんの!?守ってくれんの?ー
クレマンティーヌの悲痛な叫びが走馬灯の様に蘇る。
最悪な奴が来た。
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