デプレジオンの憂鬱   作:サボリーマン先輩

5 / 9
第五話

「そうして私たちの住む世界は、デプレジオン様みたいな化物の皆様に蹂躙されていったんだねー。あーあー何処まで本当の話なのかは知らないけど、聞くんじゃ無かったなぁーこんな事なら、あの時デプレジオン様に殺されておけば良かったなぁー。あぁ、急激に生きていく自信が無くなってきた。もう、楽になりたい」

 

「不敬であるぞ、クレマンティーヌ。主が、デプレジオン様のお役に立てぬ時が来たならば…その時は儂が死なせてやるから、安心せい。 今はまだその時では無い。それだけの事よ」

 

部下その1とその2に、俺たちがこの世界へやって来た日の話をしてやった。都合の悪いトコロはバッサリカットして、面白可笑しく適当に脚色したが、まあ問題ないだろう、多分。

そう。どうやら俺は異世界へ迷い込んでしまったらしい。 そして、俺は熟慮に熟慮を重ねて一つの結論を得た。

-どうせ、訳なんて分からないんだ。だったら、目一杯やりたい事やって気ままに楽しんでやるぞ-、と。

 

「はぁ、嫌だねー。自由に死ねすらしないなんて。てか、カジッちゃんはズルいよ。もう、とっくに死んでんじゃん。念願のアンデッドになってさぁ?エルダーリッチだっけ?まともな人間の精神で、今の環境はキツイのよぉーマジで」

 

「エルダーリッチでは無い。不死者<ノスフェラトゥ>じゃ。エルダーリッチなぞと同じにせんで貰いたい」

 

「はあ…迷宮の主“なぞ”ねぇ…常識って概念も破壊されて久しいわーあぁ、マジキッツイわぁ。泣ける」

 

この2人との出会いは偶然だった。彼らがこの国で、テロリストとして活動していたトコロに偶々鉢合わせた結果、紆余曲折あって、こうなった。

2人には『命尽きるまで絶対服従』と言う事で納得して貰っている。個々に別々の手段を以って“死ねない身体”にしてあげた時などは2人とも泣いていた。よっぽど、感動したのだろう。

 

「いやいや、お前…全然、まともじゃないから。まともな精神してる奴は、主人の前でそんな堂々と愚痴言わないよ」

 

「はい。目の前で愚痴れば、不敬を理由にデプレジオン様直々に御ぶっ殺し頂けるかと、愚考致しました次第でございます」

 

「成る程…そんなに罰が欲しいのか。よし理解した。では、罰としてストックを1つ追加してやろう」

 

「ちょ…そんなご無体な…マジ止めて。許して、お願い。なんでもするから」

 

「ん?今なんで-いや、止めておこう。それよりも…喜べクレマンティーヌよ。これで、お前のストックはまた合計5つになったぞ。この幸せ者」

 

「ギィイヤァアア。鬼、悪魔、ヒトデナシ」

 

「ハハハハハ。クレマンティーヌよ、私はれっきとした“人間”である。安心すると良いぞ」

 

「んな訳あるかぁーーッ」

 

リ・エスティーゼ王国 主席宮廷魔導師

 

それが、現在の俺の肩書きである。まあ、本来の所属はナザリックであるから、こっちは趣味と実益を兼ねた仮宿。

ぶっちゃけ、異世界で地道にコツコツ稼ぐなんて超面倒臭かったので、手っ取り早く、出来上がってるモノを頂いた。

まあ、その頂いたモノがとんでもない不良債権だったお陰で、だいぶ苦労するハメになったりしているのだが……

 

「毎度、漫才としか思えん掛け合いは止めていただきたいものだな。仕事の依頼と聞いて居たのだが?」

 

傷だらけの黒い甲冑に身を包んだ偉丈夫が、雄々しく立派な声を発する。

 

「いやいや、申し訳ございませんね。つい、調子に乗ってしまいまして」

 

こちらの英雄様は、俺と違って地道にコツコツ稼いだ偉人である。

 

冒険者の最高位-アダマンタイト級-

 

最近では、英雄ロールも板に付いて来たらしくコスプレ中はずっとこんな調子である。

 

-た、た、大変だよ、コレェ。デプレジオン君、俺たちゲームの中に閉じ込められちゃった系のやつだよ。しかも、その仮想現実が現実になっちゃってるよ。いやいやいや、夢でも俺の頭がオシャカになった訳でも無いよ。そりゃ、俺だってありえないって思うけど……無茶苦茶で、理不尽だとは思うけど…それでもコレは……

などと、初日にえらい狼狽していた人物とは思えない…余りにも、落ち着いた佇まいである。まあ、この辺りの話は、墓まで持って行く事にしよう。

モモンガ先輩の……いや、アインズさんのリアルを知るのは俺だけで良い。俺のリアルだって、あまり知られたくはないからな……

特に…この子には……

 

「私の顔に何か付いていますか?」

 

「いいえ、何でもありませんよナーベさん。さて、依頼の話でしたね」

 

そうして、俺はテーブルの対面に座る漆黒の英雄様に、この世界基準では無理難題としか思えない依頼内容を告げた。元いた仮想世界では、チュートリアル程度の難易度ではあるが、こんなんでも英雄様の名声は高まるであろう。

我が国が誇る、アダマンタイト級冒険者、漆黒の英雄様にはまだまだ名声を高めて貰わなければならない。

 

「てか、毎度思うんだけどーコレ意味あんのぉ?私達5人しか居ない密室でさ……茶番感がハンパ無いんですけどー」

 

「口を謹まんか、クレマンティーヌ。偉大な方々のお考えになる事だ。お主に理解出来ぬのは当然」

 

「へぇ。じゃーそういうカジッちゃんは、解んの?」

 

「頭を使いなさい、下等生物。ここは、ナザリックの外なのよ?少し位は察せないのかしら?」

 

「カモフラージュって事?対外的にはデプレジオン様とモモン様は赤の他人だって事にしてるから?ふーん。それこそ意味あんの?確かに外かも知れないけど、王国はほぼ、デプレジオン様の支配下だし。今更一体この国の誰を騙すって言うの?あと、外だって言うなら本拠地(ナザリック)の名を出すのはどうかと思うなー私は」

 

「くッ。黙りなさい。雷撃で焼き尽くしますよ?愚劣な下等生物が」

 

「ナーベさん、お話聞いてましたか?私のストックが5つも貯まって困ってるって。そうお話してましたよね?もしかして、お耳がお留守でいらっしゃいましたか?」

 

「よせ、クレマンティーヌ。まだストックが欲しいのか?何個欲しいんだ?言ってみろこの欲張りめ」

 

「はい。申し訳ございませんでした。デプレジオン様。ナーベさんも生意気、申し上げまして大変申し訳ございませんでした。この度の無礼は、私の命で償わせて頂きます。雷撃で焼き尽くして頂いてもよろしいでしょうか?」

 

「こら、クレマンティーヌ。どさくさに紛れてストックを減らそうとするんじゃない。あ、それとナーベちゃん、ゴメンね。悪気は無い筈なんだ、このバカも。基本的には、ナーベちゃんの言う通りだよ。今、モモンさんが進めている計画は、今後の活動において重要な意味を持つ。そのサポート役であるナーベちゃんは、責任重大だ。大変だけど、頑張って。何かあったら、私を頼るんだよ?」

 

本当は大した意味なんか無い。アインズさんはともかくとして、俺自身はノリと勢いで適当にやってきただけである。アインズさんのロールプレイに、適当に合わせてたら、いつの間にか国一つを乗っ取ってしまっていた。

 

「はっ!有難きお言葉でこざいます。」

 

………。はあ、やっぱり傷付くなぁ、この他人行儀全開な感じ…もうちょっと、こうフレンドリーな関係になれないものか…敬意の表れだとか、誰か言ってたけど、どう考えても、警戒されて距離取られてる様にしか思えない。

この気持ちは、可愛い新入社員に気軽に声掛けたら、その子がすっげぇガード硬くて、なんか残念な事になった時の気持ちに似ている

あぁ、下心なんて……ほんの少ししかないのになぁ…

冒険者ナーベ。本名、ナーベラル・ガンマ。

ナザリック地下大墳墓が誇る戦闘メイド、プレアデスが一人、凄く可愛い“二重の影”である。

 

「デプレジオン様、何かナーベさんに対してだけ甘くない?贔屓じゃない?なんなの?好きなの?ご寵愛授けちゃう気なの?」

 

「そうだ。……と、言ったらどうする?」

 

「お、お戯れを……デプレジオン様。私など御身に相応しい筈もございません」

 

お前の寵愛とか冗談じゃね〜セクハラで訴えるぞオッサン。マジキモ。

と、言外に言われている気がしてならない

 

「いい加減、ハッキリと告げたらどうだ?私のパートナーに好意を持った、と言うのならば、そうやって茶を濁してはぐらかすべきではない。誠意がなければナーベに対して失礼だろう?」

 

面頬付き兜のスリットから、こちらを刺す様な赤い眼光が向けられる。

この野郎……アンタがそれを言うかよ……

覚えてろよマジで。

 

「モ、モモンさーーん。私は、決して、その様な……」

 

グ……なんだこの疎外感……

 

「ハハハ…すみませんねぇモモン殿。“ちょっとした冗談のつもり”でした。 ただ、臆病者の私には、“愛している”なんて感情でナーベさんを一生縛り付ける事など出来ないのですよ。ご理解、頂けますでしょうか?」

 

「ぬ……」

 

「いや、格好付けてるけど、要するにヘタレじゃん。何?フラレるのが怖いの?」

 

「クレマンティーヌ……ストック追加な」

 

「ゲーそれは八つ当たりでしょ!?いくらなんでもヒドイッ!!」

 

「決定に変更は無い」

 

「酷すぎるッ。誰か…誰か助けて……」

 

「多大なご慈悲を頂きながら、何を言っておるのだクレマンティーヌ。あまり、贅沢を言うでない。今に神罰が下るぞ」

 

「ふざけんなッ。もう手遅れなんだよ。この世に神なんか必要ねぇんだよ。私は、イヤってほど思い知ったね。今、まさに今!!」

 

「神など不要か……まあ、お主の言う事も理解出来る。神罰などとは、大変な失言であった……」

 

「いーや、違うね。カジッちゃんと私の間には、かなーり思考の隔りがあるね。絶対に相容れない溝を感じるねッ」

 

「こらこら、仲良くしなさいよ、お前達。我々は仲間でしょうが。あと、私は“神”では無いよ。あくまでも“人の身”だ」

 

「はっ!!デプレジオン様は神などではございません。口伝される神なぞよりも、遥かに尊き存在でこざいまする」

 

………若干、馬鹿にされてる気がしてきた。

まあ、このハゲも本気(ガチ)なんだろうけど…根拠に乏しいヨイショ程、哀しいモノも無いものだ。何だよ…神よりも尊き存在って……単なる人間って何回も言ってんのに……

 

コンコン

 

『恐れ入ります、デプレジオン様。陛下がお呼びでございます。宮殿までご足労願います』

 

「ああ。分かった。直ぐに行く」

 

「……。僭越ながら申しあげます。あの者がデプレジオン様の元へ馳せ参じるのが道理では?下等生物如きが、御身を呼び寄せるなどと……」

 

「ナーベよ。お前の抱く不快感はもっともだが、デプレジオンの計画に水を差す真似はするな。舞台上の演出だと思い、割り切れ」

 

「はっ!!申し訳ございません。」

 

「おや?“パートナー”に対して随分、高圧的な態度を取るんですねぇ、モモン殿。まあ、私の知った事ではありませんが、ともかく依頼の方はしっかりお願いしますよ。では、また後日お会い致しましょう」

 

「……。ああ、要らぬ配慮だ。依頼の完遂など容易い事だとも」

 

イラッ。本当に後で覚えていろよ。あの色情魔の手綱を握ってるのは俺なんだぞ?その辺分かってんのか…この人。

 

「じゃあ、そういう事だから失礼するねナーベちゃん。何も無いとこだけど、ゆっくりくつろいでっておくれ」

 

「は、はい…」

 

ちょ…そんな顔するなし……ああ、ダメだ、何かますますフレンドリーな関係から遠退いてる気がする……

 

「行くぞ、カジットにクレマンティーヌ。付き従え」

 

『はっ!』

 

そうして俺は、最近何考えてんだか分からない英雄様と、顔を強張らせて震えている気の毒なナーベラルを置いて、部屋を出た。

 

「お取り込み中に、大変申し訳ございませんでした。デプレジオン様」

 

扉の先で片膝を付き待機していたのは、俺の“専属秘書官(パートナー)”で、艶やかな金髪ロングが印象的な超美人さん。名を“ソリュシャン・イプシロン”と、言う。

彼女の本来の役職は、ナザリック地下大墳墓が誇る戦闘メイド、プレアデスが一人、凄く綺麗な“不定形の粘液”…つまりはナーベラル・ガンマの同僚。もとい、妹であるらしい。

そんな彼女が何故、俺の専属秘書官なんてやっているのかと言えば、答えは簡単で…お目付役(建前)見張り(本音)である。

王国に単身赴任していた当初は、俺の行動をーそれこそ、おはようからおやすみまで、逐一、抜かり無く、余す事無く、詳細に、守護者らに報告していたに違いない。流石に、現在はある程度の信用を得ていると信じたいが……約一名を除いて。

 

「…お許しを。デプレジオン様のお怒りは最もで御座いますが、なにとぞ御容赦頂ける様、伏してお願い申し上げます」

 

せっかくの超美フェイスがカチコチに強張っていた。その表情、数秒前にも見たな。流石は姉妹、よく似ている……

で、何で会うなりいきなり、謝られてんの?もしや、俺の部屋のツボ(インヘーラ)でも割ったのか?……そう言えば、後ろの二人も何故か萎縮している様な気がする。……ああ、なるほど。

 

「表を上げよ、ソリュシャン。別に気分を害してなど居ないさ。ただ、ちょっと…もしかして、ひょっとしたら、多少は不機嫌に見えたかも知れないが…それは杞憂だ。ナーベちゃんを“パートナー”だと言って憚らないモモン殿に対して、すこ〜しばかり思うところがあっただけだ。お前が心配する様な事は何もない。陛下がお呼びなのだろう?私は喜んで馳せ参じるさ。それが、仕事なのだからな」

 

「…ふぅ。緊張して損した。単なる嫉妬じゃーん。ソレ」

 

おお、クレマンティーヌ。お前という奴は…いいゾ〜その調子で、この重い雰囲気何とかしろ。

 

「申し訳ございませんデプレジオン様。ご期待に添えない私に……挽回する機会を頂けませんでしょうか?何卒、なんなりとご命令を」

 

元が、スライムなだけに…ソリュシャンはプルプルと震えている。って、そんな事を考えてる場合じゃないな。

 

「あ、いや待て。違うのだソリュシャンよ。お前は本当に良くやってくれているさ。私のパートナーがソリュシャンで良かったと。そう感じた事は、両の指では数え切れぬ程だとも」

 

完全に、俺の失言だった。あの言い方では、ーあ〜ナーベラルが良かったなぁ〜俺もなぁ〜ーと、嫌味に取られても致し方ない。

嫌味な上司は嫌われてしまう。俺がこれまで腐心して築き上げて来た、親しみ易い上司のイメージ壊れるぅ〜お姉さん許して…

実際、ソリュシャンは良くやってくれている。と、言うかソリュシャンが居なければ、日々の睡眠時間が今の3分の1以下になっていたであろう事は間違いない。

“過不足無い”それが、彼女の仕事ぶりに対する俺の評価である。彼女は、その見た目通りに“出来る女”なのだ。

 

「私の想いは伝わらないか?私にはお前が必要である。お前に対して不満など感じた事はタダノ一度も無い。それだけはハッキリと真実を伝えたかった」

 

「……デプレジオン様。このソリュシャン、そのお言葉だけで励まされます。御身に一層の忠義を捧げますわ」

 

プルプル感が、特に凄い。誤解が解けた様でひとまず安心である。

そもそも、ソリュシャンをパートナーに指名したのは俺なのだ。

本当の事を言えば、-単身で王国へ行くなら目付け役を付けろ-と、煩いデミウルゴスに対して-ナーベラルならば共を許そう-と、内心ワクワクしながら返答したら、-ナーベラルは他の仕事があるから却下だ-と、アインズさんから直々に突き返された。

そこで、仕方ないからプレアデスの中で2番目に好みのタイプだったソリュシャンを渋々指名した。完全に外見のみでの採用であり、能力度外視のクソ人事であったが、彼女の仕事力は前述の通りである。まあ、こんな話は口が裂けてもソリュシャンには出来ないのだが……

 

「よろしく頼むよ。では、行くか」

 

道草食ってる場合では無い、わざわざ呼ばれるからには、何かあったのだろう。さっさと行かないと最終的に俺の睡眠時間が削られるのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。