「此方ニ敵対ノ意思ハ全クナイ。無論、味方トイウ訳デハナイガ……我々ノコトハ石カ何カダト思ッテ頂ケレバ良イ」
……。一体、何しに来やがったコイツ。アポ無しでいきなり“戦場”へ来るんじゃないよ。お陰で大混乱だよ、現場は。
「あの…どちら様でいらっしゃるのでしょう?……もしや、デプレジオン殿のお知り合いの方でしょうか?」
ヴッ……中々、鋭いなレェブン侯。だが、2.5mの巨大人型昆虫の知り合いを作る予定はまだ無いのだ。コキュートスには悪いが、他人の振りをさせて貰おう。
「いや、私の“知り合い”では無いな。一体、何処の何方様で?」
「オオ。申シ遅レマシタ。私ハ大森林ノ北ニ位置スル亜人ノ集落ヲ代表スル、コキュートスト申シマス。オ見知リオキヲ」
「私はザリューシュ・シャシャと申します。コキュートス様の下、湖に住むリザードマンの集落“緑爪族”の族長をさせて頂いております」
「俺はゼンベル・ググー。“竜牙族”の族長を任せて貰っている」
ああ、そう言えば出張先で若手をスカウトしたとか言ってましたね…彼らがそうか。ウチのと違って輝いてるなぁ……ウチのは、もう死んだ魚の様なモノだからなぁ……
「成る程。私の名はデプレジオンと言う。一応、この戦場の指揮官……と、言う事になっている者だが…コキュートス殿は、一体何用で此方へ?もう、間も無く開戦故…貴殿らを人間同士の争いに巻き込んでしまうのは忍び無い」
ホントに何しに来たんだよ…帰れよ。
「心配ハ御無用デス。我々ニ参戦ノ意思ハ無ク、ソノ目的ハコノ戦ノ顛末ヲ見届ケル事。カカル火ノ粉ハ払イマスガ無用ナ戦闘ハ御遠慮願イタイ」
ふーん。要は見学に来た訳か。おそらく、アインズさんに何か言われて来たのだろう。コキュートスが独断でナザリックの守護から離れる訳無いしな。……おいおい、報連相とやらは一体、どうなってるんだよ…。
「了解した。敵意が無いと言うのなら、見届け人として滞在を許可しよう。この戦、存分に見て行くと良い。」
「デ、デプレジオン殿ッ!?」
「ん?何か異論があるのか?見た目で判断する訳では無いが、“帝国”のスパイと言う事も無いだろう。戦闘の意思は無いと言っている訳だし、問題は無いと思うのだが」
アインズ・ウール・ゴウンのスパイなんだよなぁ……まあ、それ言ったら俺達もそうなんだけど。
「いや、しかし…」
「まあ、レェブン侯の憂慮も理解しているとも。帝国では無くとも、何処の勢力に属する者なのかは不明。後々、王国にとって……いや、ならばそうだな…お前達、邪魔者の排除に挑戦してみるか?」
「無理無理。勝てない。と、言うか既に本丸まで踏み込まれてるじゃないか…」
クビを超高速で横に振るクレマンティーヌ。阿修羅かな?
「無論、デプレジオン様の御命令であれば勝敗など問題では無いのですが……この場で、そのお方と交戦した場合、我が軍の全滅は必至。1分保てば大殊勲と言えましょう。さすれば利するは帝国のみ。賢明とは言えませぬ」
血なんか流れて無い筈だが、若干、青ざめてるカジット。まあ、気温下がってるしな……俺もちょっと肌寒い。
「と、言う事らしいが…どうする?」
「レェブン侯。仮に私が10人居たところで時間稼ぎにもなりません。この御仁を前にしては、腰に差している剣も…棒切れかと錯覚する程です」
「ガゼフ殿…」
「全ての秘宝を装備したストロノーフ殿が敵わぬ相手と言うのなら…指揮官としては“逃げろ”としか言えないな」
「それに、この御仁からは悪意などまるで感じられません。例え敵だとしても、尊敬すべき武人である…と、私は思います」
まあ、そう言うコンセプトだからね。ストロノーフ君は、人を見る目は全く無いけど…そう言う事は感覚的に解るんだろうか?俺は武人じゃないから、さっぱり分からないけど。
「…畏まりました。私からは特に御座いません…余計な口を挟み、申し訳ありませんでした」
「と、言う事だ。お待たせしたな、コキュートス殿。では案内人は……ストロノーフ殿、お願いしても良いかな?流石に、こんな最前線で見学して頂く訳にはいかないからな。否応なく巻き込まれる」
「承った。コキュートス殿達を安全な場所へお連れしたら、直ぐに戦線に復帰する」
「いや、ストロノーフ殿はそのまま後方にて待機で頼む」
「な、何故だ!?力及ばず、この地で果てようとも構わぬ。陛下の剣としての役目を全うさせて頂きたい」
「それは残念だ…しんがりはストロノーフ殿が適任だと思ったのだが……仕方がないな。もしも挟撃にあった場合…事と次第によっては、コキュートス殿も自分達の身を守る為、帝国軍相手に交戦するかも知れないが……その際に王国軍に被害が出ない様、配慮して頂けるかな?」
「ソレハ難シイデショウ。ヨホド特徴ガナイ限リ、我々ハ人間ヲ個トシテ判別デキナイ」
「そうか……時と場合によっては後方を切り捨る事も考えておこう。無論、不慮の事故が起こらない事を切に願うが……そもそも、万が一の可能性を取り除いてくれる人間が居てくれれば……なぁ、ストロノーフ殿もそうは思わないかな?」
「……私が間違えていた。デプレジオン殿、しんがりの役目…この命に代えても果たさせて頂く」
「ありがとう、ストロノーフ殿」
よっしゃ。コレでコキュートスの相手をせずに済む。ついでに色々と生真面目で面倒なストロノーフも後ろに下げれた。まさに一石二鳥の妙案。俺のアドリブ力も大したものだ。
「さて、これで後顧の憂は無くなった。我々は前だけ見れば良い訳だが……あ、そうだ一つ良い忘れていた、ストロノーフ殿」
俺は背を向けるストロノーフを呼び止めた。怪訝な表情をしている。
「その装備、そちにやる。と、陛下のお言葉を伝えるのを忘れていたよ」
「は?」
「と、言う訳だからその秘宝は今日からストロノーフ殿のモノだ、良かったな」
「な、何故に……陛下はその様な事を……」
「曰く、それらの秘宝は王国の過去を象徴するモノ。私は過去の栄光になど興味は無い。過去を捨て、未来を掴む…そう、仰っていたよ。これはご期待に添える様、頑張らなくてはならないなぁ。あぁ、手入れはキチンとしてくれよ」
勿論、国王陛下はそんな事言っていない。俺が今、適当に考えた。だって、ストロノーフ君が貧弱過ぎるんだもの……一応、今の王国内の立場では、俺、カジット、クレマンティーヌ、ガゼフ、の四人はそれぞれ同格と言う事になっている。それならせめて、平時からあの位の武装はしていて欲しい。最低限の備えとして。
と言うか、陛下…俺の肩書きといい、だいぶ帝国を意識してたんだなぁ…レェブン侯から『帝国四騎士』の話を聞かされた時に強くそう感じた。
見れば、ストロノーフ君は絶句し、泣いていた。男泣きである。そんなストロノーフ君の肩をコキュートスが優しく叩き、2人並んで立ち去って行く。種族の壁を超えた、確かな男の友情がそこにはあった。…何だこの光景は……たまげたなぁ。
それからしばらく経て、中央から戻って来た使者君からの伝令によると、ようやく伝統と格式の“最後通告”とやらを終えたらしい。これで、めでたく“開戦”と言う訳である。
「では、予定通り…私が銅鑼を鳴らすとしよう」
実の処、最初に使う魔法についてはかなり悩んだ。と、言うのも俺が習得している魔法の総数は案外少ない。特化型の魔法詠唱者として構築したビルドであったし、何よりアインズさんと違って、雰囲気作りの魔法やスキルも取っていない。
通常、“狩り”の時など、単体魔法その1と範囲魔法その2しか使ってなかった程である。だが、折角こんな機会であるのに、いつも通り<サンダーストーム>と言うも味気ない。アレも見栄えはする方だが…折角、ド派手に魔法を披露出来る場だ。広範囲魔法なんて、まさに花形。乱戦における魔法詠唱者の見せ場である。
だが、この後を託すカジットの事を考えれば何もかもを消し飛ばす系は使えない。ああ、それさえ無ければ<メテオインパクト>か<アイシクルレイン>で迷惑狩り……もとい、殲滅したのに。
そう言う訳で、悩みに悩んだ末、俺はひとつの超位魔法を発動する事にした。
課金アイテム<エフェクトスイッチ・オフ>により、展開される魔法陣は不可視化されている。別に発動時間が短縮される効果とかはない。単に見えなくなるだけだ。最後のヤケクソ価格で無ければ購入カートに入れる事は無かっただろう。
わざわざ使った理由はただひとつ。アホみたいに派手な魔法陣を展開して数分棒立ちとかダサくない?と、思っただけだ。
そして---もう間も無く、超位魔法は発動する。
<アイスインパクト>
第何軍団かは知らないが……予定通り。帝国軍の一角。述べ一万の軍勢は、その命を凍らせ---果てた。
「デプレジオン様……す、素晴らしい魔法で御座いました」
「こらこら、感動してくれるのは結構だが、ちゃんと働いてくれないと困るぞ?カジットよ」
「はっ!デプレジオン様の、絶大な魔力の余波に…一瞬、茫然自失としておりました。お許し下さい」
冷静になって周囲の様子を探ると……カジット以外も何か惚けていた。これは激寒ギャグで白けた時の雰囲気に似ている。まさか、魔法のチョイスをミスったか?先程よりも、気温が下がった様に感じる。……きっと、コキュートスのせいだな。そうに違いない。
と、言うかこの作戦を採用したのはラナー王女じゃないか…俺は指示に従ってやっただけなのに…何故、こんな白い眼で見られなければならないんだ……
いや、流石にちょ〜っとだけ、やり過ぎかな〜と、思わなくもない。ないが…戦争なのだし…仕方ないじゃないか。名も知らぬ帝国騎士君達の死は決して無駄にはしない。ちゃ〜んとチャート通りに有効活用するから許しておくれ。
「よい。それでは、予定通り…彼らを素体にスケルトンを1万体作成して貰おう。途方も無い量だが、この日の為に貯めに貯めた<死の宝珠>の力を全開させれば何とかなろう。そして、その後…コレを使え」
何故か、戦さ場のど真ん中で傅くカジットにスクロールを一つ渡してやる。
「デプレジオン様…此方の秘宝は一体?」
「使用してからのお楽しみだ。きっと気に入る」
手渡したモノは<珍級モンスター召喚スクロール・ジャンクドラガー>、タイアップイベントボスのレアドロップ品である。
良く考えたら、スケルトンでどれだけ数を揃えた所で、大した戦力にはならないだろう。そこで、こんなスクロールを用意してみた。
1万体のスケルトンを素体に作成されるジャンク・ドラガーか……あぁ、どう言う結果になるか、非常に楽しみだ。
-“ジャンクドラガー”はスケルトンを寄せ集めて作った巨大な骸骨のモンスターである。
上半身と下半身に分かれており、どちらかの半身のみでも活動できます。
上下でまったく別の吸収属性を持っているので、注意が必要な敵です。-
と、イベント当時の攻略掲示板に書かれていた様な記憶がある。確か、レベルは80台前半。色々な特殊能力を有するいやらし系である為に、攻防のステータスはそれなり…だったかな?まあ、何にせよ。囮としては最適の駒。この戦争をある程度は優位に進めてくれるに違いない。
そんな一つ目の巨大骸骨が、計3体。荒野に怨嗟の咆哮が響き渡る。
あれ?1万体のスケルトンから3体のジャンクドラガーが組み上がった…と、言うことは…スケルトンが1体足らなくないか?どんな風に配分されたのだろう?……まあ、良いか。誤差だな誤差。
「どうだ?気に入ってくれたかな?カジットよ。ちなみに、そのアンデッドモンスターの名はジャンクドラガーと言う」
「は、はい。死霊系の魔法には少々、自信が御座いましたが……自分を見失いそうで御座いまする」
あれ?いつもの感じなら、もっと喜んでくれると思ったのに、何かショック受けて落ち込んでないか?コレ。いまいち好みが掴めない奴だな。
「そ、そうか。まあ、手筈通りに頼むぞ。私とクレマンティーヌは、先に行っているからな」
「カジッちゃーん。しっかりしてよー今回の作戦はカジッちゃんが肝なんだからさ」
「ぬ、主にだけは言われとうないわ。ゆけ、ジャンクドラガー!魔王様の敵をたたきのめせ!」
おいこら、誰が魔王だ。そりゃアインズさんだっての。
「では行くぞクレマンティーヌ。いよいよ、大詰めだ」
「りょうかーい。私達、歓迎して貰えるかなー?ウェヒヒヒ楽しみだなー」
そりゃ歓迎してくれるだろう。急な来訪とは言え…アポ無しでは無いのだから。『今からその首を貰いに行くから、震えて待っててね』と、あちらさんの使者に伝えておいた。
未だに陣地から撤退する素振りが無いと言う事は『来れるものなら来てみろ』と言う事なのだろう。はぁ、出来ればさっさと“降伏”して頂きたいものだが…果たして、そう上手く行くかどうか……
期待と不安を胸に抱きつつ、俺はクレマンティーヌの肩を抱き寄せた。
-スキル<瞬間移動>発動。MAPカッツェ平原1 座標軸固定 F2へ移動-
これは聖戦なのか、虐殺なのか・・・。立ち込める濃霧、加熱した紛争は、遂に危険な領域へと突入する。
期間限定ガチャ・・・爆死しました。