デプレジオンの憂鬱   作:サボリーマン先輩

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第九話

「クソッ!!各軍の被害状況はどうなっている!?最優先で戦況を報告させろ!!私の名を使って構わん。情報を整理し、手遅れになる前に戦線を立て直すぞ。死にたく無ければ急げッ」

 

「皇帝陛下、戦況を申し上げます。そちらの戦線は既に瓦解。使い物になりません。加えて、要塞内に我々の侵入を許した事から考えて…『王手』で御座います」

 

「敵の本陣まで一足飛びなんて、ちょっと反則じゃないかなー?転移の魔法って凄いよねー便利だよねー」

 

正確には、スキル<瞬間移動>なんだけどな…<上位転移>の亜種だから、まあ似た様なモノだけど。

 

「そ、そなたらは…な、何者だ!?」

 

「おや?私をご存知でない?それは妙だな…密偵の報告を受けていないのか?まあ、良いか。ならば自己紹介をさせていただきましょうか。私の名はデプレジオン。王国軍の司令官であり、普段は宮廷魔導師などさせて頂いている」

 

「一応、傭兵部隊長とかやってるクレマンティーヌだよー短いお付き合いになりそうだけど、皆宜しくねー」

 

あの、やや派手な衣装の美男子が帝国皇帝かな?何かイメージ違うなぁ。“鮮血帝”とか言うから…もっとヤバ目な奴を想像していたよ。だって、素面でうちの国王陛下と同じ様な事した奴だって聞いてたし。割と、まともそうじゃないか。

と言う事は周りの護衛が噂の四騎士かな?周囲の一般兵士君との差異があんまり無くて、見分けが付き辛い。強いて言うなら右端の艶っぽいお姉さんのムッチリとした太腿が……その白く輝く絶対領域くらいしか、目を見張るものは無いな。

よーし、適当に魔法を放って残った奴が四騎士だ。面倒だから、そう言う事にしよう。

 

「<イグニッション>」

 

皇帝と思しきヤツ以外をターゲットに魔法を発動させた。対象を紅蓮の炎で包み“火傷”の状態異常を引き起こす第3位階魔法。その見た目の派手さとは裏腹に殺傷能力は殆ど無い。ユグドラシルでは、よく“爆竹”“ネズミ花火”などと呼ばれたものだ。

 

ボッ…

 

兵士君達は声無き悲鳴をあげ、その身を燃料に燃え上がる。この世界のやたらと脆い一般人だと、もしかしたら耐えられないかも知れないが…仮にも帝国四騎士とか呼ばれてる奴らなら耐えるだろう。たぶん。

 

「あちゃーちょっとマズくない?もしかしなくても、全員死んじゃうよーコレ」

 

いやいやいや、それは無いだろう。それは困る。だって、俺はこの後に生き残った四騎士を相手に……

『私と闘う資格が有るのは…“雷光”バジウッド・ペシュメル、“激風”ニンブル・アーク・デイル・アノック、“重爆”レイナース・ロックブルズ、“不動”ナザミ・エネック、うぬら4人か』

と、格好良く告げる予定なのに……アインズさんでは無いが、こんな台詞を一度は言ってみたかったのだ……練習したのに…こいつらのアホみたいに長い名前を…覚え辛い名前を…噛まない様に、間違えない様に、あんなにいっぱい練習したのに……

半月の間、瞑想と称して一人の時間を作っては、毎日コツコツ練習したのに……こんなんで死なれちゃ台無しじゃないか…おのれ許すまじ。

 

「拍子抜けだな……よくもまあ、これしきの兵力で我らに戦争を挑んだものだ。これも若さ故の過ちと言うやつなのか?なあ、愚かなる皇帝よ。そろそろ何か、喋ってくれないか?でないと、こちらもリアクションの取り様が無い」

 

結局、誰一人として立ち上がるものは居なかった。とんだ失策だ…どう収拾つけようか……ここで皇帝も殺して『ハイ終わり。解散』は流石にマズイ。本来なら、適当に力を誇示し、あちらさんから自主的に降伏して頂く算段だったのだ。

 

「あぁ、もしかして影武者か何かだったか?それはすまない事をした。ちょっとした手順違いで、こんな事になってしまったが…我々は“降伏”を勧めに来たのだ。ここからは平和的に話がしたい。本物の皇帝陛下に取り次いで頂けないかな?」

 

「ば、化け物め!!余がジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスである。降伏だと?バハルス帝国の皇帝として……いや人間として、お前達に降伏など出来ぬわッ」

 

「……だとさ、クレマンティーヌよ。皇帝陛下は随分と錯乱なさっている様だが…お前はどう思う?」

 

「んー確かにデプレジオン様は掛け値無しの化け物だけど…それにしても、随分と勝手な言い草だよねー」

 

おい、お前はどっちの味方だ。

 

「そうだな。皇帝よ、何か勘違いしてやいないか?よ〜く思い出して頂きたい。此度の戦争…その発端は、そちらが難癖を付け、一方的に仕掛けて来たものでは無かったか?それに対して、こちらは“最後通告”もした筈だ。『退かぬと言うなら容赦はしない。首を洗って待っていろ』と、まさかとは思うが…まだ戻っていないのか?そちらの使者殿にはキチンと伝えたが?それを聞いた上でなお、こんな場所でのんびり事を構えていたのなら…それはもう、皇帝陛下が悪い。それで、こちらを“人類の敵”扱いしてくれるのは、余りにも都合が良い“掏り替え”では無いか」

 

「ぐくっ….…」

 

「さらに言えば…そちらが宣戦布告をした、約一月程前から……こちらの情報、具体的には我々の存在を匂わせていただろう?随分とスパイを放ってくれていた様だから、土産を渡してやった筈。それでよくも6万ぽっちの兵力で挑む気になったものだ。“警告”のつもりだったのだが…見くびってくれたな」

 

「と、当然、警戒はしていた…最近になって王国が国力を増している話は良く耳にしていたからな。そちらの女…傭兵部隊長なる者の情報も得ていたさ。“オリハルコン級”に匹敵する実力を持つ油断ならぬ相手だと。だが…お前の情報など…影も形も無かったぞ!?」

 

「え?…いや、そんな筈は…」

 

なんでだよ。廊下ですれ違ったから挨拶して世間話した奴とか居た筈だ。城の居住区に“人間”の近衛兵など一人も居ないのだから、見間違う筈はない。アレは間違いなくスパイ君だった。

 

「此の期に及んで嘘などつくものか。例え、僅かにでも強大な魔法詠唱者の情報があったなら…戦力の出し惜しみなどしない。此方も最大の切り札を切った」

 

そんな事言われても……ふと、横を見ると…クレマンティーヌが気まずそうに目を逸らしていた。

 

「おい、お前何か知っているな?」

 

「いや、知ってるってゆーか……ねぇ、正直に言ったら怒らない?」

 

「おう、考えてやるよ」

 

「お姉様が…『デプレジオン様の周りを彷徨く害虫は駆除しておきますわ』って言って食べてました。あと、最近はダイエット中らしくて……妹さんにもお裾分けしてらした様です。あの…お姉様がダイエットしてるって事は内密にお願いします。特に、私がデプレジオン様に話したって言うのは…絶対に」

 

ビビリ過ぎでしょ…お姉様ってのはソリュシャンの事だろうな…お前、ナーベラルちゃんと随分扱いが違わないか?ナーベラルちゃんの事は完全に舐め腐ってたのに……に、しても…妹?

 

「それで、後は私やカジッちゃんをマークしてた奴らを捕縛して、妹さんの不気…じゃなくて可愛らしい虫を胎内に入れて、持ち帰らせてたみたい」

 

「虫…だと?」

 

「うん。脳味噌から直接脚が生えた蜘蛛みたいなヤツ。何か、人間の首から脊椎に直接体液を注入して、意のままに操る…って仰ってました」

 

エントマァアアアー?!あと、そのモンスター多分、<トリュプス>だ……何してくれてんのォオオー

 

「ちょっと待て。食べたって何だ?どう言う事だ?やっぱり化物じゃないか!?」

 

「いや、待て早合点するな。食べたってのは……つまり、その…言葉のあやだ。そちらだって、捕縛した他国のスパイには、それなりの対処をするのだろう?批難される謂れはないな」

 

「仮にそうだとしても、何やら悍ましい土産の話もしてなかったか?そのお陰で此方は情報を誤認したのだ。どうせ、その女だってオリハルコン級などでは収まらぬのだろう?」

 

「……黙秘させて貰おう」

 

「それは肯定したも同然だ。やはり、うぬらは化物だ。そして、私は決して魔には屈しない。それで歴史上、最後の皇帝になろうとも委細構わぬ。我がバハルス帝国を蹂躙しようと言うのなら…私を殺して、歩を進めるが良い。残念ながら私にうぬを止める力はない。口惜しいが……せめて魔の軍門に降らぬのが私の意地だ」

 

「いやいや、ちょっと待って下さいよ。皇帝陛下……そんなムキにならないで…ほら、冷静に話し合いましょう。早まってはいけない。こちらに侵略の意思などありませんから」

 

「もはや、聞く耳持たぬわ。さぁ、殺せ」

 

最悪だ…居直りやがった……。ヘソを曲げた皇帝陛下は、目を瞑って胡座をかいている。こいつの“クッ殺”なんて、どの層に需要があるんだよ……

それなら、さっきのムチムチプリンプリンの太腿お姉さんにして貰いたかった……うっかり焼き殺しちゃったけど……ん?そうだ……

 

「話は変わるが、皇帝陛下。貴方が偽物や影武者で無いと言うなら、当然…この場に帝国四騎士が居た筈だよなぁ?帝国の最高戦力なのだから」

 

「……。無慈悲なお前に殺されたがな。生きたまま…その身を焼かれ……さぞ苦しかっただろう。済まぬな、お前達…私も直ぐにそちらへ行く」

 

コイツ……いちいち嫌味を言いやがる…。なんとまあ、粘着質なヤツなのだろう。とても皇帝の器とは…いや、支配者とは存外ネチっこく嫌味たらしいものなのかも知れないな。脳裏にふと、とある骸骨の姿が浮かんだ。

 

「ならば蘇らせてやろう。この部屋の死者全員を。お前が我々の“和平”を受け入れるのであれば…だがな」

 

「要らぬ」

 

「疑っているのか?その位は容易い事だぞ?まあ、流石にこの戦争の死者全て…とはいかぬがな…」

 

「そういう事では無い。蘇らせればそれで良しと言う…その発想自体が既に人間のそれでは無いと言っているんだ。悪魔の慈悲など要らぬ」

 

コイツ……。何かだんだん腹立って来たな……B案で、さっさと片を付けてやろうか……

 

「ねー、ジルちゃんさー…死ぬつもりなんて無いんでしょ?実は」

 

ん?…なんだって?

 

「死に瀕した人間はもっと必死なもんだよ?強い弱いに関係なく…ね。今のジルちゃんは『決して自分は死なない』と思ってる人間だ…嘘つくならもっと上手くやらなきゃダメだよー。で、此処からが本題なんだけど…ムカつくにも程があんぞお前。私が教えてあげようか?死ぬより-

 

「落ち着けクレマンティーヌ。私の為だと言う事は理解しているし、嬉しく思うが…私はそれを望んでいない」

 

「ちょ…違うし。別にデプレジオン様の為じゃ無いし。私が腹立っただけだし」

 

「安っぽい照れ隠しだなクレマンティーヌ。だが、部下の態度としては如何なものか?別に私は気にしないが」

 

ツンデレは…まあ嫌いじゃ無いけど、好きじゃないよ。

 

「あ、ウソウソ。デプレジオン様の為です。決して、自分の感情を優先などしておりません。決して」

 

「ふふふふふ。ハハハハハ。アーッハッハッハ」

 

黙りを決め込んでいた皇帝陛下が、堰を切ったように笑い始めた。狂ってしまったか……

 

「仕方ないな。B案で行くか」

 

「ハハハ。待て待て、私は狂ってなんかいないさ。早まるな。フフ、クレマンティーヌだったかな?そなたは、優れた戦士であるようだ。だが、指揮官には向かなさそうだな。貴殿もそう思うだろう?デプレジオン殿?」

 

急に馴れ馴れしくなった。これは狂ってますね間違いない。

 

「どうしたのだ?不思議そうな顔をしているが…敵国とは言え、優れた軍師殿に親愛と敬意を示すのは当然だろう?」

 

「…話が見えぬのだが?」

 

「ああ、そうだった。先ずは、詫びなければな。クレマンティーヌ殿が言う様に『殺されはせぬ』と知った上で、貴殿をからかっていた。すまぬな。だが、こちらとしては『和平』を結ぶ上で必須であった。許してくれないかな?」

 

は?こいつは一体何を仰っちゃってるのだ?もはや、理解不能。意味不明。

 

「貴殿の叡智には及ばずとも、私だってそれなりだと示さなければ…和平の甲斐が無いだろう?その甲斐なくば、私は皮だけ剥がれ、その辺りに打ち棄てられるやも知れん。私だって、流石にそんな死に方は御免だからな。ならば、デプレジオン殿に、バハルス帝国の皇帝は“王国の連中”とは一味違うと思って頂かなくてはな」

 

コイツ…なんでB案の事を知っているんだ?現在の王国に裏切り者が居るとは到底、思えないが…何処から漏れた?

 

「さて、許して頂けるのなら、私の事は皇帝陛下では無く、親愛をこめてジルクニフ殿と呼んで頂きたい。無論、呼び捨てでも構わないが、ジルちゃんは勘弁して頂きたいかな」

 

「ジルクニフ殿。貴方は何を何処まで知っているのかな?」

 

場合によっては……消すか。皇帝を殺してしまっては、終戦まで面倒な事になりそうだが…そうも言っていられない。

 

「何も知らないさ。デプレジオン殿が所属している何らかの勢力が……恐らくは『スレイン法国』と敵対、或いはそれに近い状態である事。また『王国』を使ってそれを解消する事が難しく…我々、『帝国』に何らかの役割を求めている…位かな?」

 

コイツの頭の中で、一体、どんなストーリーが組み上がっているのだろう?荒唐無稽も良いところだが、その妄想がナザリックの存在に辿り着かれるのは非常にマズイ。

 

「おお…怖いな。ここへ来て、初めて殺気を向けられた。まさに身も凍る想いだよ…言うまでも無い事だが、デプレジオン殿の不利になる様な事は一切、詮索しないさ。何を知ったとしても他言はしない。」

 

「……気のせいだろう。私の現在の所属は、リ・エスティーゼ王国だ。ジルクニフ殿が言う言葉の意味が、良く分からん」

 

「貴殿がそう言うのなら、そうなのだろう。ならば、私は『王国』では無く、『デプレジオン殿』個人に対して和平を申し入れたい。それではダメかな?」

 

「……一つ問いたい。私個人がスレイン法国との間に何か問題を抱えている…と、そう考えたのは何故かな?」

 

正直に言えば、スレイン法国への対応をイマイチ決め兼ねているのは確かである。いつかは何かしらのアクションを取らねばならない事は確かだが…

そこに関して『帝国』を利用する気なんかこれっぽっちも無かった。その時になって、要らぬ横槍を入れて来ない様に“警告”しておくつもりはあったが……

が、言われてみれば…そういう手段もあったのか……全く思いつかなかったが、それは決して悪い手段では無い。『帝国』を抱き込んでおいた方が、いざという時の選択肢も増えるというもの。

 

「考えたも何も、デプレジオン殿の口から言外に、そうハッキリと言っている様にしか聞こえなかったのだが?それで…私の『和平』は受け入れて頂けるのか…どうか」

 

終始、余裕の有る態度を崩さないジルクニフだったが、その頬に一筋の汗が伝うのを、俺は見逃さなかった。

解らん。これも演技なのか。はたまた本当にいっぱいいっぱいなのか。と、言うか何でこんな話になってるのかまるで理解出来ない。

凄く嫌な予感がする。先ほどから、ジルクニフが此方を見る視線が…ナザリックの下僕達から散々に向けられてきた、あの視線に酷似している。絶対、何か変な勘違いしてるよ、コイツ。はぁ、いつもこうだよ。いっつも勘違いから妙な事になって。気付いたら、俺が巻き込まれてるんだ……。

 

「今日のところは兵を引き上げ、帰ってくれないかな?和平交渉についてはまた後日、其方へお伺いしようじゃないか」

 

必殺、問題先送りの術。無い知恵絞って考えたところで、良い考えなんか浮かばない。それなら回答を保留にして、その間に誰かに相談する。我ながら、惚れ惚れする様な素晴らしいアイディアだぁ。

 

「そうか。ならば、その時は国を挙げ歓迎させて頂こう。で…大変、恐縮なのだが……彼らを蘇らせては貰えないだろうか?」

 

「え?さっきは、何かボロクソ言って無かったか?」

 

「そんな意地悪を言わないでくれ。ちょっとそれらしく振舞ってみただけだ。それに、デプレジオン殿が看破した様に、この部屋に居た者達は、それなりの地位にある者ばかり。今後、貴殿の力になる時に、居てくれた方が助かるのだが」

 

「ああそう。復活に必要なアイテムはくれてやるから、好きにすれば良い。但し、多少レベ-もとい、生命力は低下するだろうがな」

 

もっと早く蘇生させてやれば、デスペナルティは緩和出来ていたが、残念ながら時間切れだ。グズグズしていたジルクニフ君が悪い。

 

「ありがとう。恩に着る」

 

「では、さらばだ。いずれまた会おう」

 

そして俺はジルクニフに復活アイテム(ワンド・オブ・ワイドリザレクション)を手渡し、再度自陣へ転移した。

あ、そう言えば…今回、使う暇が無かった此方の切り札…カジットの方はどうなったのだろうか?………。まあ、良いや、いずれにせよ予定が大幅に狂った。これ以上、一人で進めて厄介な事になっても困る。これでも報連相の大切さは身に染みてるからな。

こんな時は“出来る奴”に丸投げするに限る。

 

 

 

------

 

 

 

「おめでとう御座います。デプレジオン様、此度の戦果は我々の想定以上。“計画”も少々の繰り上げが必要で御座いますね。いやはや…流石は至高の-」

 

とっても嬉しそうに美辞麗句を並べる牧場主の正体は、世界征服(ガチ)を企む秘密組織の大幹部である。

 

「世辞は良い。単刀直入に言うが、私は今後どうすれば良い?お前の意見を聞きに来た」

 

「私の意見…で御座いますか?」

 

「ああ。私は今、非常に困っている。可能ならばお前の知恵を貸して貰いたい」

 

「…何と光栄な事でしょう。このデミウルゴス、あまりの悦びにどうにかなってしまいそうです。えぇ、私などがデプレジオン様のお力になれるとは思いませんが……何でもお申し付け下さい。全身全霊を以って取り組ませて頂きます」

 

「あ、いや…ちょっと相談に乗ってくれるだけで良いのだが…」

 

「畏まりました。それで、デプレジオン様のお悩みとは一体?あぁ…もしやナーベラルの事でしょうか?」

 

「……違うわい。仮にそう(悩み)だったとしても、そんな事でわざわざ此処まで足を運ぶ訳無いだろ。お前…さては、分かってて揶揄ってるな?帝国…と、言うか皇帝への対応についてだよ」

 

「デプレジオン様を揶揄う(からかう)だなどと……滅相も御座いません。私は、いつでも真剣ですから。えーそれで、あの可愛らしい人間の皇帝を飼育するかどうか…で御座いましたか?」

 

「ああ、そうだ。私としては、またお前の配下に“革製品”を依頼しようか、とも思ったのだが……最後の最後で妙な事になってな」

 

「デプレジオン様の与えた課題にギリギリの及第点で答えた…のでしたね。課題を受ける態度にやや難有り……と、感じましたが。まあ、彼自身が言う通り人間としては“それなり”と言うところでしょう。革製品の製造は職人達の間でも人気の業務故に牧場主としては些か残念ですが、ね」

 

だからソレが解らないんだってば。課題って何だよ。彼らの間では、俺がジルクニフの何かを試し、彼は見事それに合格したらしいのだが…さっぱり解らん。

 

「つまり、デミウルゴスから見ても、彼は皇帝の資格有り、と?」

 

「はい。あくまで“人間”の中に限った話ですが、特に不足は無いかと。“国王”や“王子”と一緒にするのは気の毒かと愚考致します。暫くは“王女”と同じ待遇で、宜しいのでは無いでしょうか?」

 

「そうか。ありがとう。ならば、そうするとしよう。いや、一人で決め兼ねていたところでな。お前の様な配下を持てて、私は幸せ者だ」

 

「幸せ者は私の方で御座いますよ。デプレジオン様の様な慈愛に溢れる主人を得、臣下としての冥利に尽きます」

 

「…何の話だ?」

 

「あぁ、私とした事が。大変、失礼致しました。無論、両方で御座います」

 

両方?何が?まーた始まったぞ……また身に覚えの無い事で、誉め殺しにされる。全然、嬉しく無い。むしろ胃が痛い。勘弁してくれよ。

 

「まず、此方の情報が外部に漏れていないかどうか…その可能性について念入りに調査を致しましたが…その形跡は全くありませんでした。恐らくは、限られた情報の中から可能性の一つとして導き出したのでしょう。皇帝が此方の存在を認識している訳では無さそうです」

 

ふーん。デミウルゴスが“念入り”に調査したと言うのなら、まず間違いないだろう。ん?って事は俺がうっかり口を滑らせていたって事か?……しかも、当の本人には、全くの自覚なし。これじゃあ、再発防止も出来やしない。

すまん、デミウルゴス。もし、此処の存在が露見した日には、かなりの迷惑を被ると思うが…許せよ。

 

「それと、確かに“帝国”を取り込むのは、“聖王国”の後と考えておりましたが…私の方はもう少し、時間が必要そうなのです。私の仕事が遅いのがいけないのですから、デプレジオン様が気に病む事は御座いません。ですが、そのお気遣いは大変嬉しく思います」

 

おお、何と言う事だ。今回は珍しく二つとも身に覚えがあった。だからと言って、全く気は晴れないが……あぁ、今日も胃が痛い。

 

「なるほど。何でもお見通しなのだな」

 

「何でも…では御座いませんよ。フフフ、ですが…僭越ながらこのデミウルゴス、デプレジオン様の御心の洞察には少々、自信が御座います」

 

そこまで言うなら、俺の心労も少しは察して貰いたいものだ。何をやっても意味深に捉えられて、プレッシャーを掛けられる。この閉塞感をな。

 

「ほう。それは頼もしいなデミウルゴス。今後も、何かあればお前を頼るとしよう」

 

「何と有難きお言葉。えぇ、私はその為にこそ存在するのだと、その様にご理解頂ければ幸いで御座います。それでですね…デプレジオン様。私からも少々、お伺いしたい事が御座いまして…」

 

「ん?お前の方から相談だなんて、珍しいじゃないか。一体、どうした?無論、力になるとも」

 

「はい。実際のところ…ナーベラルとは何処まで進展しているのです?」

 

………。コイツは…。一瞬でも心配した俺の気持ちを返せ。

 

「お前な…。やっぱり揶揄ってるだろ?」

 

「まさか。その様な事は御座いませんとも。決して。我が創造主“ウルベルト・アレイン・オードル様に誓って、嘘偽りは申しません」

 

「ふーん。誠実なアインズさんならともかく、その人の名に誓われてもなぁ」

 

デミウルゴス微笑みを絶やさずに、ニヤニヤしている。あれ?おかしいな。俺は“相変わらぬ”デミウルゴスに強烈な違和感を感じた。

 

「おや?怒らないのだな……私はお前の創造主を愚弄したのだぞ?」

 

「お戯れを。愚弄とは、言葉尻よりも、言の葉に籠められた意味に重きを置くものです。我が創造主を誉められこそすれ、侮蔑の意思など…デプレジオン様からは、全く感じられませんでした」

 

「意外と冷静なのだな。普段のお前たちの様子なら、問答無用で襲い掛かって来そうなものだが…まあ確かにあの人に対して、不快な感情があるかと問われれば…まるで無いな」

 

何度もMPKされたり、晒し常連だったり、肉修練にされたり、色々あったけど…決して嫌いでは無かった。

 

「左様で御座いますか。で、あればデプレジオン様が何者かに愚弄された際には、問答無用で襲い掛かると致しましょう」

 

「おいコラ。やめなさい。頼むから」

 

「フフ。冗談ですよ。我々だって時と場合は弁えております。どんなに腸が煮えくり返りそうな憤怒に駆られていようとも…主人がそれを望まないのであれば…配下たる我々の個人的な感情などは大した問題では御座いません。ご安心ください、デプレジオン様」

 

どうかな?統括殿なんか怪しいものだぞ。と言うか、実際に殺されかけて居るんですが…それは大丈夫なんですかね?

 

「実はですね、私は少々、心配なのですよ」

 

「心配だと?一体何に対してだ?」

 

「我ながら…心配性だとは思っているのですが。あぁ、デプレジオン様とナーベラルの間には、一体どの様な御子がお産まれになるのでしょうか?」

 

「は?御子だと?………。いやいやいや、ちょっと待て。待て待て、お前は一体何を言って…私はナーベラルに対してその様な……その様な事は想像も出来ぬわッ」

 

「何故です?お二人は愛し合っているのですから、その愛がやがて結晶となるのは自明の理であると、私は思うのですが」

 

「まだ、愛し合ってはいないさ。残念ながらな」

 

「デプレジオン様はナーベラルを愛して下さっているのでしょう?そうであるならば、ナーベラルだって貴方様をお慕いしておりますよ。まぁ、何分…生真面目と申しますか……不器用とも言える素直な子ですから…その辺りはデプレジオン様も察してあげて下さい。ですが、ナーベラルは待っております。デプレジオン様から夜伽の命が下る日を。間違い御座いません」

 

時々、思う事がある。コイツの頭は一体どうなってるのか?…と。先ず、常人には理解出来ぬ事は間違いない。色々な意味で。

 

「あのな……。私のナーベラルに対する感情はもっとこう、ピュアで、トゥルーな感じなのだよ。上手くは表現出来ないがな」

 

「成る程。『プラトニックラヴ』と言う事で御座いますね」

 

ラブでは無く、わざわざラヴと発音する辺りにそこはかとない悪意を感じる。もしかしなくても、バカにされてないか?これ。

 

「左様で御座いますか。ならば、ナザリックが少々荒れる事に…なるやも知れませんね」

 

「え、なんだって?」

 

「つまり、デプレジオン様の御子を授かるチャンスは誰にでもある。と、言う事になります。今まではナーベラルに遠慮していた者たちが、どう動くのか…私にも見当が付きません」

 

「……随分と楽しそうだな、デミウルゴス。たが、そんなチャンスなど無い。それに私を慕う者など本当に存在するのか?アインズさんじゃああるまいし。言っておくが、敬愛と純愛は別物だぞ?私は、責任感や義務感で関係を迫られるのは御免だな」

 

「無論、責任感や義務感では無く、純然たる愛情で御座いますよ、デプレジオン様。貴方様はもう少し、御自身に向けられた好意に対して甘えても良いのでは?…と、私は思います。それに、無碍にされれば…それこそ可哀想では無いですか。私にとっては妹みたいな者ですから-」

 

「待てお前。そのままうっかり口を滑らせるつもりだろう?私は決して、その先は聞かぬからな」

 

告げられた名が、万が一にも毎日顔を合わす相手だったら…明日から、気マズイ事請け合いである。絶対に聞きたくない。

 

「……バレましたか。流石はデプレジオン様です。私の浅知恵など、全てお見通しなのですね」

 

「お前な…そんな事をするなら、私にだって考えがあるからな」

 

「それは一体、どの様な?」

 

「お前がそんな悪辣を企てるなら、私はアルベドに面と向かって愛の告白をしてやる」

 

「そ、それだけはお止め下さい。取り返しの付かない事になってしまいます。何卒、ご慈悲を」

 

「酷い言われ様だな。一応、お前の上役では無いのか?守護者統括殿は…まあ、安心しなさい。ほんの軽い冗談だ」

 

それを実行した場合に、一番被害を受けるのは俺自身だからな。もはや、自殺と同義である。

 

「ふぅ。肝が冷えましたよ。デプレジオン様はお人が悪い」

 

「最上位悪魔に言われとう無いわ。…まあ、お前の気持ちは分かった。今度、デートでも誘ってみるさ。それで、喜んでくれるかは知らぬがな」

 

デートってどうやって誘うのん?今度、how-to本でも図書館に借りに行くか……

 

「一体、“どなた”を誘われるのでしょう?」

 

「……。お前は本当に悪い子だな。誰に似たのやら」

 

 

 

それから俺は、他愛の無い世間話を交わし“悪魔の巣窟”を後にした。

最近、色々頑張って尽くしてくれるお礼を兼ねて、何かプレゼントでも持って帰るか…そんな事を考えながら。

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