魔法少女リリカルなのは!? 「プロジェクト社畜計画」 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします。
気絶したタカシは管理局の医療部隊の元へ運ばれた。普通なら病院だが、タカシの場合、その場の人間に危害を加えた事もあって、そこへ運ばれたのだ。
「はやてちゃん、どうだった? あの人本当にタカシ……君なの? 」
「……調べて貰った結果、DNAは間違いなくタカシ君のもんや。それにあのペンダントまで持ってるって事は……間違いない」
「そっか……で、でもどうして私達に何も知らせてくれなかったのかな……生きてたなら。それに最初にタカシ君と会った時、タカシ君初対面って言ったんだよ? そんな……嘘ついてまで」
「そうやな……まぁ〜一番は本人に聞く事。今頃起きてフェイトちゃんと話して……え………」
「タカシ落ち着いて!? どうしたの!? タカシ!? 」
「タカシ……君? 」
はやてとなのははスタッフに調べて貰った結果を聞きにタカシのいる部屋を離れていた。だがそれを聞き戻った時、部屋を開けた瞬間の事だ。
フェイトの慌てた声が響き渡ったのだ。そしてその光景を見て2人は固まる。タカシはベットの上で取り乱しながらどこかに行こうとしていた。だからフェイトはそれを止めていたのだ。
「タカシ、まだじっとしてないとダメだよ!? 」
「離せ!? 仕事!? 仕事、仕事をやらなくちゃ! 早く、早く仕事を!? 」
「くっ、なんでこんな……」
「フェイトちゃんどうしたの!? 」
「あ、なのは! わかんないんだ。起きたら突然」
歪む3人の表情。3人はこれが自分達の知っているタカシであるとは到底思えないでいた。それは人が変わってるとかではない。根本的におかしい事だった。
しかしタカシの体を考えればそれは何もおかしな事ではない。何故ならタカシが気絶してから今日まで2日。その間、タカシは仕事をしていない。つまり、精神的に不安定になるには十分な原因があったと言える。
「取り敢えず麻酔で眠らせましたが……ハッキリ言って彼は異常です! バイタルや血圧、その他全てが異常な数値を示しています。普通なら考えられませんよ、これで生きてるなんて。それでは、何かあればまた」
結局の所、現状のタカシを落ち着かせるには麻酔の投与しかなく、フェイト達は仕方なしにスタッフを呼んだ。だがスタッフも困っていた。調べた数値が人の基準数値を軽くオーバーしているのだ。心拍は何故か500を超えて計測不能になり、脳波もメチャクチャ。さらに心電図に関しては反応が消失してしまっていた。
「フェイトちゃん……今何考えてるぅ? 私は……もっと調べる必要がある思うわ」
「……お義母さんに……聞いてくる」
「リンディさんに? 一体どうして」
「清掃部隊の管理はお義母さんの管轄。だからタカシのことを知らないはずがない」
フェイトは数日後、リンディに通信を通した。最初は笑顔で喋っていたリンディだったが、タカシの事をフェイトが出すと顔が引きつり、申し訳なさそうな顔を始める。リンディはもう言い逃れができなかった。
《そうよ。フェイトさんの言う清掃部隊の彼はタカシ君。貴方の……知ってるね》
「どうして黙ってたの? タカシが生きてる事」
《言えなかったの……言える……わけ……ないじゃない…………》
リンディはフェイトを見ながら涙を流した。娘の悲しむ現状を変えられない自分に情けなく。タカシを救えない自分に不甲斐なさを感じて。
これから語る事はフェイトには残酷な話だった。それを話すリンディも、心を傷める。
「何て……言ったの…………」
《タカシ君は……フェイトさん達の事を覚えていないわ。これから思い出す事も……もう絶対にない》
「どうして……何で? タカシ普通じゃないって医療部隊の人が言ってたんだ。生きてるのがおかしいって。それなのに……記憶もない? 何でなの!? タカシが何したの!? なのはを助けようとしただけでどうしてそんな!? タカシだって……痛い思いした筈なのにぃ…………」
フェイトはこれ以上自分の感情を殺す事は出来なかった。顔を伏せ、泣き始める。フェイトにとってはタカシは友達以上のに好きな人間。ましてや、フェイトはあの事件の前、タカシに想いを告げていた。後はタカシの返事だけ、その状態だったのだ。
しかしそんなフェイトの姿をを見て、リンディはこれ以上何も話せなかった。彼女が話したのはタカシが記憶をなくしている事だけ。詳しい事、重要な事は何1つ言っていない。だがそんな事は言えるわけがなかった。もし言ってしまえば、彼女にどんな傷を負わせる事になるのか、リンディは分かっているからだ。
《フェイトさん? タカシ君が起きたら、仕事をするのを止めちゃダメよ? 》
「え? 」
《それでこう言ってあげなさい。こうして休むのが貴方の仕事だった。そう言ってあげなさい。そうすれば落ち着く筈だから》
「それはどういう事……」
《タカシ君にはあの時の後遺症があるの。タカシ君は睡眠時間以外仕事をしていないと、フェイトさんが見たような状態になるのよ》
聞かされた事を信じられないと感じながらも昨日の事を見れば、嘘でないとわかるフェイト。
「わかった。それでタカシの事なんだけど」
「任せるわ。フェイトさん達に預けるのが一番いいと思うから。はやてさんには私から連絡しておく。後……タカシ君にもね」
こうしてタカシは、はやてが立ち上げた新部隊、機動六課に専属の清掃チームとして配属される事になった。だがこれは、タカシが己の運命に、その宿命に気づくプロローグとなる。
それはタカシが配属になり、しばらくたった日の事。
「タカシ君〜! 」
「ん? ああ、なのは隊長。どうしました? 」
「ううん。用はないんだけど、たまたま見つけたから。やっぱり……覚えてないよね」
「何の事ですか? 」
「あはは、何でもない。それじゃ〜お仕事頑張ってね。あ! 2人の時は……敬語……やめてほしいな」
「はい? 」
かつての友はタカシの……フェイトが知り得る全ての事を聞かされた。ほとんどの者は信じられずにこうして確認を入れてはそう受け入れる。タカシの中にもう自分達はいない。自分達の中に昔のタカシはいても、今のタカシはいない。
「大丈夫……大丈夫だよ……悲しくなんかない。だってタカシ君生きてたんだよ? それだけで嬉しいよ……嬉しい……筈なのにぃ…………」
なのははタカシと別れてから曲がり角で1人悲しみを堪える。涙を我慢する。昔はダメでも今がある。これから作ればいい。そうなのはは前向きに考えた。
悲しい事に、何も知らない彼女達は事件の怪我によるショックで記憶を失ったと思ってるようだが、それは大きな間違いだ。
「これから……これから作ればいいよ。タカシ君とフェイトちゃんとみんなで……だから大丈夫! 」
知らないが故に人は希望を探す。それが最善だと信じて。仮にそれが間違いだとしても。己の心を保つには無意識にそれが一番だと信じてしまう。これはなのはに限った事ではない。フェイトにしてもはやてにしても、誰にでも言える事だ。
しかし、知らないが故に人は希望を探す……だがそれは同時に知らないが故に人は絶望し、心を闇に染めるとも言えるのだ。
彼女達の進む道に希望なんて物は存在しない…………
彼の進む未来に最善の答えなどない…………
あるのは…………
血と死臭のする戦場…………
「なんだ? もしかして俺のヘリ掃除してくれんのか? マジか! 1人じゃ大変でよぉ、頼むわ! 」
「はい、お任せください! 」
タカシは六課を歩き回り、汚れている場所を徹底的に掃除していた。そこで整備をしているヘリを見つけた。そこにはヘリのパイロット、ヴァイス陸曹もいる。彼は軽い掃除だけやっている最中で、そこで見かねたタカシが手伝うと言い出したのだが、これが悲劇を……タカシの運命をさらに過酷な物へと変質させる。
これが本来、出会う事がなかった筈の人間と出会うきっかけを与えてしまう事になった。
「緊急アラート!? チッ! おいっ、このヘリを出す! 掃除はここまでだ、早くおり……ろ? 何してんだ? 」
「すいません……僕のデッキブラシが絡まっちゃって………」
「はぁ……もういい、そのままでいいから早くおりろ」
偶然、それは偶然だった。タカシのデッキブラシが荷物を押さえるための押さえ網に引っかかり、外れなくなってしまったのだ。最初は深い事を考えなかったヴァイスだが、なのはやフォワード陣営が乗り込み、出発する準備ができた時だった。ヘリ全く浮上しないのだ。
「なんだこりゃ!? 上がんねーぞ!? ん? なんだ、どうしたんだ! 危ないから早く離れろ! 」
ヴァイスが困っているとタカシが操縦席の真横でヴァイスに手を振る。そして自分を入れろと言い出し、このままでは出発できない事もあって、取り敢えずタカシを乗せた。すると、タカシは自分のデッキブラシをつかみ、少し持ち上げ始める。
「いいですよ! もう上がると思います」
「はぁ! そんなんで上がるわけ……上がった…………」
ヘリが上がらなかった原因は簡単だ。それは重量オーバー。タカシのデッキブラシは重量が軽く1tを超える。一旦上がって仕舞えばなんとかなるんだろうが、それまでが難しい。だからそんな状態でヘリが上がる筈もない。
「し、仕方ねー! このまま出る! いいな掃除屋! 」
「あ……でも仕事……」
「タカシ君そのままヘリの掃除してて、それがタカシ君の仕事だよ」
「え? あ、はい! 」
なのははフェイトに言われていた通りタカシにフォローを入れる。タカシはそれを聞くと案の定納得し、ヘリの掃除を始めた。だが他に乗っているフォロー達はそれを不思議そうに眺めており、Bランク試験の時にタカシと色々あったスバルやティアナ達からは少し怯えられていた。
「あのー! 」
「ん? 何? え〜と……キャロ……ちゃんで良かったのかな? 」
「あ、はい! タカシさん……そこもう綺麗じゃないですか? これ以上掃除する必要なんて」
「あるよ! 」
タカシは即答した。そこはもうすでに綺麗……それは素人の視野だ。何故ならタカシから見ればここはまだ汚い、埃はないがシミや余計な手垢などが付いている。ここまで取る事がプロであり、タカシの仕事、清掃部隊の責務だ。
だがそこまで求める人間など仕事を頼む部隊にはいないは確かである。
「それじゃ〜行ってくるから。タカシ君もお掃除頑張ってね」
なのはは敵の余計な戦力を削ぎ落とすために先に外へ降下する。その後から目標の列車にフォロー達が続々と降下していった。残るはパイロットのヴァイスと掃除をしているタカシ君のみ。しかしここでタカシの様子が一変する。
「それじゃー安全な所まで下がるぞ? 」
「ちょっと……待ってください」
「あ? どうしたんだよ」
「こ、この……感じ……なんだろう。胸の辺りがなんか……熱い。それに誰か……あそこにいる。誰が? 誰があそこにいるの? 」
「何言ってんださっきから、もう行く……お、おいっ!? 」
「すいません……僕も降ります。呼んでいる。僕の事を…………」
「掃除屋!? おい!? ……なんてこった…………」
タカシはヴァイスの制止を振り切り、自分のデッキブラシを引っかかってる編みごと引きちぎると、ヘリから飛び降りた。
一方、その様子を見ていたはやては開いた口をふさぐ事ができなかった。
「何して……るんや………… 」
「三等陸士、列車に飛び乗り……っ!? 」
魔法、バリアジャケット、デバイス。その全てをタカシは保有していない。にも関わらず、タカシが列車に着地したのにも驚いた司令室のはやてやロングアーチの面々だが、それ以上に……驚く事があった。
それはフォワード、それもライトニングの戦闘している場所でそれは起きていた。
そこにはまだ小さいがライトニング部隊のエリオとキャロがいる。しかしいるのは彼らだけではない。
「エリオ君気をつけて!? 」
「ふん、ガキが!! 」
「うぐっ!? がぁぁああああああああ!? 」
「エリオ君!? 」
2人は協力して三型を破壊した。キャロの竜召喚、エリオの強烈なキャロとの一撃。だがその直後、列車の中から1人の男が屋根を突き破って現れる。赤髪で少し髪の乱れたヤンキーのような男は、確実にキャロ達に敵意を示し、攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ガキじゃ張り合いねーよ」
「く、くそ……」
「エリオ君」
倒れたエリオの元へ来たキャロだが男はそこへ、無情にも手から出現させた赤い炎の玉をキャロ達へ放つ。その大きさはとても少し動いて躱せる大きさではない。2人は諦め、目を閉じた。
「呆気ねーな? ……なっ!? 」
その火の玉はキャロ達に当たる手前で弾けてなくなった。タカシがデッキブラシで弾き飛ばしたのである。
「お前……何者だ……っ!? そのボトル……D/1AMT…………」
「君は……っ!? そのベルト……D/4……え? 」
タカシのボトルに刻まれたD/1、さらに敵のベルトに埋め込まれたタカシと同じ虹色の宝石。さらにはそこに刻まれたD/4という英数字。
2人は顔を見合わせて構える。警戒し、互いに敵だと判断した。
「ククク……嬉しいぜ? まさか『先輩』に会えるなんてな? 噂はかねがね聞いてるよ。もっとも噂の中でしか知らないけどな? まさか実在していたとは驚きだ! 『俺達』だけかと思ってたからよ。それじゃ〜まぁ〜先輩の実力、見せて貰おうじゃねーか!!! 」
「っ!? うぐっ!? 」
男がそう叫んだ瞬間、タカシの足元が赤く弾けた。
これは都市伝説として生まれた怪物の始まり。誰を憎み、誰を敵とするのか。本当の意味での敵は誰なのか、それを考え始めるきっかけ。
彼は憎しみを持てない………
しかし彼は敵を殺す…………
それが彼の仕事であるが故に…………
それが彼の持つ力の意味であるが故に…………
動き出した歯車はまた噛み合う。
「な、何っ!? 」
「クハァァ……」
渇いた食欲を満たそうとするように、飢えた怪物は息を吐く…………
ギリギリと列車の屋根をブラシが引きずり音を立て…………
奴は……黒いヌルヌルと共にやってくる…………
次回もよろしくお願いします。