魔法少女リリカルなのは!? 「プロジェクト社畜計画」 作:ヘルカイザー
ではよろしくお願いします!
「ハンっ、なかなかやるじゃないかよ、先輩!! 」
「…………」
タカシは敵の攻撃時、自分の意思でそれを行った。ボトルのダイヤルを回し、蓋を、自らの意思で。つまり、感情こそ消えているものの、この戦いはタカシの意思。
「チッ! 噂に違わぬ力だ! だがな? 俺はお前とは最悪の相性だぜ? 」
男はタカシの荒れ狂った攻撃をかわし、余裕な表情でそう言うとベルトについている青いボタンに手をかける。
「コォォ」
「D/1! お前に名乗ろう、我が同士として! 俺の名は、D/4! 『対近接魔導師猟兵部隊……アンチ・プロミキシティーマグ・トルーパー』! 戦場では……『魂をもやし尽くされた魔導師』、そう呼ばれてる。俺の力、とくと味わえ……」
「……っ!? うがっ!? 」
タカシは何かにぶっ飛ばされ後ろに倒れる。さっきまでいたところに男の姿はない。タカシは周りを見渡すがそこに敵の姿はなかった。しかし突然背後からタカシを炎が焼く。抗うこともできず、ただただ炎がタカシの体を燃やし始めた。
「はっ、はっ、かはっ…………」
「ククク! どうだぁ? 効くだろう? 身体を燃やされるのは? D/1! いや……『カンパニースレイブ』と言ったほうがいいか? 」
「はっ、はっ……かっ、ぁ…………」
タカシの前に煙のように現れた男は普通ではなかった。その身体はつま先から髪の毛1本に至るまで変化し、まるで炎のように燃えている。
一方タカシは相手の状態よりも自分の状態の方が危ない事になっていた。タカシは体全体を炎で焼かれている。タカシは呼吸ができずにその場に崩れていた。
炎は命を燃やす神の道具…………
それは人に余る力…………
それ故に…………
脆弱な人間はそれに抗う術を持たない…………
「「タカシさん!? 」」
「おっと! 動くなよガキども! これは俺達の真剣勝負。邪魔立ては許さない」
「そんな……え…………」
キャロは何かに気づいた。タカシがゆっくりと立ち上がり、何かをしようと列車の隅にフラフラと動き出す。しかし次の瞬間、それを見ていた全ての者は息を呑む。
「なん……だとっ…………」
「ぐっ!? あがっ!?ぐががががががががぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 」
タカシは列車がカーブする瞬間、崖とは反対側の岩山と距離が接触する限界ギリギリで、そこに身体を擦り始めたのだ。
デッキブラシの重量を利用し、自身が衝撃で飛ばされぬよう列車にデッキブラシを喰いこませると。それをしっかりと握る。
そして…………
「D/1……アンチ・マグ……トルーパー……身体を燃やす炎を……皮膚ごと削り取りやがった…………」
タカシはカーブが終わると共にフラリと列車の真ん中へと戻る。その体は、上半身の服が弾け、絞り込まれている筋肉がズタズタの皮膚と共に露わになっていた。だがその場にいたキャロやエリオは思う。人ができる事を超えていると……痛み、恐怖。その2つを今の状況で何の躊躇もなくできる人間など存在しない。もしいるとすれば、それは狂った異常者か、あるいは…………。故にキャロ達は恐怖した。
目の前の化け物を…………
「がぁはぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……」
「ちっ! ……ハッ!? クソっ! 」
大きく息を取り込み、タカシはその力を取り戻す。その手に握られたデッキブラシは、無情に、何の思考もなく、何の躊躇いもなく、敵へと振り抜かれた。
「はは! フハハ! 無駄だ! 今の状態の俺はまさに炎そのもの! 俺の体に物理攻撃なんて効かねんだよ! 」
「フゥゥ……」
敵は今身体を炎に変質させている。つまり、その攻撃は男には当たらない。全て空を切り、無意味な攻撃となる。しかしタカシはそれが分かっていても再度男にデッキブラシを真横から振り抜いた。
「馬鹿か! 無駄だと何度言わせればっ!? がっ……あ……あ゛っ……な……に? 」
「コハァァァ……ぬぐっ、おがぁぁぁあああああああああああああああ!!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!! 」
「ごふっ!? ば、馬鹿な!? ぐっ、ぐがぁぁぁああああああああ!? 」
タカシが振り抜いたデッキブラシは男の脇腹にめり込むと、敵の纏っていた炎を全て消し去り、男の身体を元に戻した。さらにはそのまま敵を巻き込むようにデッキブラシを回転させ、敵をぶっ飛ばす。
「ぐあっ!? ……何故だ……俺には触れない筈なのに……ごほっ!? ごほっ!? ……あ? っ!? これは……ま、まさか……」
倒れている男の手に、冷たい液体が流れ込んできた。その正体はタカシの黒い洗剤。それはいつの間にか、列車の屋根をほぼ全て侵蝕していた。
「こ、こんな事ってあるかよ……反則だぜチクショ……マズイ、一旦退いて……な、なんの冗談だ!? 魔法が……使えない……だと」
デッキブラシを引きずりながら敵の元へ歩くタカシ。敵はこの場から逃げようとする。しかしそれは到底不可能な事。何故なら敵の、男の目の前にいるのは人ではない。怪物だからだ。
怪物を前に抗う事など許されない………
追い詰めたと思っているそれは単なる思い込みに過ぎず…………
大人しくしていた怪物の闘争本能を刺激しただけ…………
故に……1度呼び起こしてしまった怪物は敵を倒すまで眠らない…………
彼が怪物であるが故に…………
「よ、よせ……やめろぉぉぉおおおおおおおお!? 」
「…………」
「タカシさんダメです!? これ以上は! 」
「やめてくださいタカシさん! ……タカシさん? 僕の事分かりますよね? エリオです! だから敵じゃ……」
タカシが男にトドメをさそうとした時、キャロがタカシの腰にしがみつき、エリオがタカシの前に両手を広げて立ち塞がった。2人は明らかにやり過ぎてるタカシを止めようと動いた。だがそれは無駄なことだった。
例えどんな壁がタカシの前を邪魔立てしようとも、それを止める事は出来ない。ましてや、1度攻撃を仕掛けた相手に対しては。
「タカシさんやめて!? エリオ君逃げて!! 」
「タカシさん……どうして」
「チッ! 邪魔だクソガキ! 」
後ろで黙って見ていた男はエリオを横に押し出し、タカシの敵意を自分に戻す。敵である筈の男が一番理解しているのだ。今のタカシの状態がどんなものであるかを。
「キャっ!? つっ……タカシさん!? 」
「クソッタレが! これでもっ、がっ!? 」
「かはぁぁぁ」
タカシはキャロを無理解き、男へデッキブラシを振る。男が悪あがきをしようと急いで作り上げた巨大な炎の球はそのデッキブラシにより腕ごと砕かれた。男の腕は折れ、炎の球は列車の遥か前へと飛んでいく。しかしそれが不味かった。
炎の球が直撃したのは岩山。それにより、前方の線路を瓦礫が完全に塞いでしまったのだ。これでは列車は脱線。下手をすれば、フォワード陣営は全滅である。
「うぐっ……クソ、ヘタうっちまった。あ? お、おい……待て!? 何をする気だお前!? 」
「タカシさん!? 」
「待ってくださいタカシさんどこへ……え……嘘…………」
瓦礫が列車進路を塞いだと見るや、タカシは列車の最前列へと走り出した。さらにはデッキブラシで足元の黒い洗剤を列車の屋根から下へこぼし、レールへと染み込ませる。
「コォォォハァァァァ……」
一方、はやてはロングアーチと共に今の状況を見ていた。タカシが乱入し、現在に至るまでの全てを。だがタカシが乱入してから誰1人として言葉を発していなかった。その戦闘に魅せられるように。
「れ、列車のスピードが速過ぎて止まりません!? このままでは列車が脱線します!? 」
「ダメや……間に合わへん……え? タカシ君? な、何を……っ!? 」
「なっ!? 」
「えっ!? 」
この状況、誰もが間に合わないと思う中。タカシは列車の最前列へ向かっていた。途中のティアナやスバル達を通り過ぎ、とうとう最前列へ。
すると、タカシはデッキブラシを振り上げながら列車の前へダイブ。その鋼鉄の相棒を列車の顔面へ叩き込んだ。
「何の……冗談や…………」
「れ、列車が押し戻され、停止……ぜ、全員無事です! 」
ロングアーチ、シャーリーの言葉に歓喜が溢れるところだが、この場は沈黙が続く。常識を外れたメチャクチャな行動と力。タカシはデッキブラシ叩きつけただけで列車を止めた。だがこれには理由がある。タカシは列車の最前列へ行く前、列車のレールと車輪に黒い洗剤を流し染み込ませていた。
よって、マグマの熱に耐える黒い洗剤は列車を潤滑油のように、その摩擦をなくし、タカシが列車の顔面を殴る事によって列車を滑らせたのだ。
しかし到底そんな事を他の仲間が理解できるはずもない。タカシの力を知っている物はこの場にはいないのだから。
「ハッ!? タカシ君? タカシ君はどないした!? シャーリー! 」
「え? あ、はい!? 待ってください。えっと……えっと……あ! 大丈夫です、フェイト隊長が救援に! 」
「はぁ……心臓に悪いんよ、もう…………」
列車を叩いた衝撃で投げ飛ばされたタカシは崖から転落。その存在を誰も認識していなかった。ただどこへ行ったのか、探しているだけ。
そして仕事を終えたタカシはボトルの蓋を閉める。
「はぁぁ……疲れ……た」
「タカシ!!! 」
「うっ!? ……え? ああ〜フェイト隊長。お疲れ様です」
「どうしてぇ……どうしてこんな無茶したの!! タカシこんな怪我して! 」
「……さぁ〜でも、仕事だから……しょうがないよ」
フェイトは落下するタカシをキャッチし、何とか落下を防いだ。
だがフェイトの問いにタカシは一つしか答える術を持たない。
タカシの仕事とは全てwage slaveが判断する事だ。例え内容がどんなものであろうとも、タカシがその意思に反する事は許されない。何故ならタカシにとって、それは無意識下で認識されている。本人は絶対に気づかない。
それが、自分の意思であると疑わぬまま。全てwage slaveの強制力によって働かされている。仕事はやらなければならない。仕事は楽しく、趣味や遊びに劣らない至高の娯楽。だから眠るまで働かされる。楽しい……そう信じて疑わない。
「違う! タカシの仕事は清掃でしょう! 戦う事じゃない!! 」
「ん? 敵を掃除するのも僕の仕事だよ? その為なら殺しても構わない。だって仕事だから」
「何を……言ってるの? そんなの、そんなのタカシじゃない! ねぇ、どうしたの? どうしちゃったのタカシ! 」
まるで無邪気な子供のように、タカシは相手を仕事の為に殺そうとする事をなんとも思っていない。これには流石のフェイトもタカシではない誰かを見ているような気分になった。
本来タカシは争い事を好まない。ましてや、敵に対してすら情けをかけ、必要がないなら話し合いで解決するような人間だ。
だが今のタカシは違う。仕事として、相手を敵として認識した瞬間、それは絶対遵守の仕事となる。
遂行するまで決して終わらない。相手が行動を停止するまで、はたまた死ぬまで、タカシはその仕事をやめる事はない。タカシの中で『大切な物が消えていっている』のであればなおさら。
「フェイトちゃ〜ん! 」
「あ、なのは! 」
「タカシ君無事? 」
「うん、酷い怪我だけど多分」
知らない情報は牙を剥く。リンディが打ち明けられなかったが故に。それは牙となって彼女達を傷つけ始める。
既に動き出した歯車は止まらない。全てが噛み合い、大きな歯車を回すその時まで、その牙は彼女達を傷つけ続ける。
どうしようもなく、抗いようもなく。ただただ、大事な物が壊れて行くのを見ているだけ。
「タカシ君痛くない? 大丈夫? 」
「…………」
「タカシ君? どうかした? 私の顔に何かついてるのかな? 」
「えっと……貴方は誰ですか? 」
「え…………あは……はは。ははは、い、いやだなぁ〜タカシ君。そういう冗談私……好きじゃ……ない…………」
なのははタカシの顔から嘘や冗談ではないと感じ取った。勿論近くにいるフェイトも。
望んだ未来など来ない。積み上げた物は儚く。簡単に消え去る。それが彼女達の選択した運命。
タカシの止まった時間を動かしたが必然。当然の如く起こるその絶望。
今一度、彼女達は考える事になる。
自分達がしようとしている事は、正解かも不正解かもわからない果てない無限の問い。
その先に幸せな未来など決してない。
「タカシさん! 」
「タカシさん、大丈夫なんですか? 」
「ああ、キャロちゃんとエリオ君。僕は大丈夫。このくらい慣れっこだから」
なんでもない会話。ただ、なのはは思う。心を痛め、答えを求める。他にない。どうしようもない虚無感感じながら。
「どうして……私だけ…………」
次回もよろしくお願いします!