それは破壊神や界王神、ひいては全王がエミューゼに不干渉を貫いている理由にも関係しています。
閑話で書いていますが型月脳な方ならもしかしたら予想できるかも
地球という辺境の惑星に辿りついて間もなく出会った老人は、エミューゼにとって都合の良い老人であった。
なんと得体も知れない自分とカカロットの面倒を見てくれるというのだ。
一見、儚げな少女にしか見えないエミューゼと赤子のカカロット。
人里離れた場所にたった2人でひっそりと過ごしている事を訝しみ、そしてそれ以上に心配になったのであろう、なんとも人の良い老人である。
エミューゼは心の底からその老人に感謝した。
“なんと気立ての良い老人なのでしょう。正体のわからぬ私達を迎え入れてくれるなど……それに…”
それゆえに、彼女はその老人ーーー孫悟飯を生かしておくつもりはなかった。
正確に言えば。
エミューゼは、カカロットに孫悟飯を始末させるつもりであった。
“ちょうど良い戦闘力です…カカロットが闘いを知るいい材料になるでしょう”
この惑星の生命体はあまりにも脆弱すぎる。雑魚ばかりで、カカロットの“教育”にはまるで役に立たないと悩んでいた矢先の出会いであった。
地球という辺境の星にあってなお、この孫悟飯という老人はそれなりの戦闘力を有していたのである。
下級サイヤ人の子供にとって、これほどちょうど良い相手がいるとは、なんと都合の良いことなのか。
何かしらの武術を修めている事も、エミューゼは評価していた。
戦闘力の低いカカロットが戦う術を身につけるのにちょうど良い。
何よりーーーこの人の良い老人を殺させることによって、カカロットは非情さを身につける事ができる。
加えて、頭を強打して以来様子のおかしいカカロットの世話も楽ではなかったため、エミューゼは素直な喜びのもと、老人の世話になる事にした。
しかし。
それは誤算であった。
エミューゼは1つ、致命的なミスを犯してしまった。
「じっちゃん、おかわり!」
「悟空、おやめなさい。はしたない」
「なんだよ、かあちゃん…かあちゃんだってそれ5杯目じゃねぇか…オラだってまだ食べたりねぇぞ」
「食べ方が汚いと言っているのです。食器を使いなさいと何度言えばわかるのですか。言葉遣いも直しなさいとーーー」
「まぁまぁ、悟空も育ち盛りなんじゃし、多目に見てじゃな」
「お爺様は悟空を甘やかしすぎなのです! ほら、悟空、口元を拭きますから大人しくなさい」
御覧の有様である。
エミューゼの誤算とは早い話。
胃袋を掴まれた。この一言に集約される。
孫悟飯老人の作る手料理は非情に美味であった。
山で採れたばかりの新鮮な肉と野菜、果物。
それらを巧みに調理する孫悟飯老人を、目を輝かせて見守るエミューゼの姿がそこにあった。
永い時を生きるエミューゼであったが、食事事情に関しては哀しみを背負うような生き方をしてきたこともあり、すっかり孫悟飯老人の手料理に魅了されていた。
何度も計画を実行しようとするも、手料理が惜しくてつい先延ばしにしてしまう。
いつの間にか、そんな生活に慣れきってしまっていた。
“この生活も悪くはありませんが……このままではいけませんねーーーいえ”
カカロットもすっかり老人に懐いてしまっている。
もう、カカロットにこの老人を殺すことなど到底できないだろう。
それはサイヤ人として致命的だ、敵を殺せない戦士など、欠陥品以外の何物でもない。
エミューゼはもう、自らの手で老人を始末しようと考えた。
幸い、カカロットは老人に武術の手ほどきをある程度受けている。
老人を消してしまっても、カカロットは自らの力で成長を遂げるだけの地力はある筈だ。
カカロットが非情さを身に付ける事ができないのは残念で仕方ないが、このままカカロットに甘さが染み付いてしまうよりはよほど良い。
しかし。
エミューゼは悩んだ。
“いえ……これで良いのかも知れません”
ふと、悟空が老人にじゃれついて幸せそうに笑う姿が脳裏をよぎる。
“もう、サイヤ人の……いえ、私の時代は、終わった…そういうことなのでしょう”
もう既にこの身は死したも同然ーーーカカロット…いや、孫悟空の成長を見守りながら余生を過ごすのも悪くない。
そう1人物思いに耽ったその日の出来事であった。
それは満月の夜。
一匹の獣が唸りを上げ、老人が死んだ。
思考に没入していたエミューゼが気づいた時には、孫悟飯は既に息絶えていた。
大猿となったカカロットが、彼を殺してしまったのだ。
エミューゼは酷く狼狽した。
同時に、“やはりか”と思った。
あぁ、やはり悟空は。
カカロットはサイヤ人なのだ。
どうしようもなく、カカロットもまた、サイヤ人であったのだ。
サイヤ人としての運命が。宿命が。
きっとカカロットを逃しはしないのだろう。
エミューゼは決心した。
カカロットには立派なサイヤ人になってもらわなければならない。
これから待ち受けるであろう、数奇なる闘いの運命に打ち勝てるようにならなければならない。
老人がもう帰らぬ人となった事を察したのであろう、一晩中泣き喚き、今もなお啜り泣くカカロットに告げる。
「泣くのはおよしなさい、悟空ーーーいえ、カカロット」
「…かあちゃん? オラ、孫悟空だぞ……カカロットってなんだ……?」
「カカロット……あなたもそろそろ独り立ちしても良い頃です。どのみち何時までもお爺様に頼りきりになるつもりはありませんでしたからね」
「か、かあちゃん、何言ってんだ……かあちゃんまで、どっかいっちまうんか…? そんなのやだぞ、オラ、一人ぼっちは嫌だ、行かないでくれよ、かあちゃん……!」
悟空の縋るような声に、エミューゼの思考は真っ白になった。
餓鬼が、仮にもサイヤ人ならば甘ったれるんじゃあないーーーとは思わなかった。
それどころか、今すぐ力強く抱きしめてやりたい衝動に駆られるのを必死で堪えなければならなかった。
下級戦士の子で戦闘力も低いか弱い存在なのだ。
やはりこの子には……まだ、早過ぎるのではないかーーーッ
いや、ダメだ。
カカロットはサイヤ人。サイヤ人ならばサイヤ人に相応しい生き方、宿命がある。
遅かれ早かれ、カカロットはきっとその身を闘いに投じる時がきっと来る……!
エミューゼは自らの目的では無く、純粋にカカロットの将来を案じている自分に気付き、内心で大きく動揺した。
エミューゼは地球での暮らしによる自身の心境の変化に戸惑いながらも、真っ直ぐに悟空の眼を見据える。
「よく聞きなさい、悟空ーーーカカロット」
ーーーーーー
この時のことを、悟空は印象深く覚えている。
鋭利で冷たい…それでいてどこか優しく温もりのある視線。
それは雪の降る寒い日だった。
泣くことしかできない自分の代わりに、母が黙々と立ててくれた“じっちゃん”の墓の前で、母は自分に告げた。
子供だった自分に、難しいことはわからなかった。
戦闘民族だとか、サイヤ人だとかカカロットだとか。
当時の自分にはわからないことばかりであった。
しかし、母が真剣に自分の事を案じていること、そして母の表情が苦悩に満ちていることはわかった。
「明日から1年間。1年間のみです。一切の情を捨て、貴方に生きる術、戦いの術……サイヤ人の生き方をその身に叩き込み、刻み込みます。死ぬ気で覚えなさい」
できますね? と問いかけるような。
自分を見つめる強い視線に掻き立てられるように涙を拭う。
言いようのない哀しみや恐怖……そしてそれらを押し返すような、強い感情のうねりが、悟空を掻き立てた。
今にして思えば、サイヤ人としての本能が刺激されたのかもしれない。
何を言えば良いのかわからない。
何かを言わなければならない気がしてならないのに、その言葉が見つからない。
そんな自分が少し嫌になりながらも、ただエミューゼから目をそらすことは決してしなかった。
そんな悟空を見て、エミューゼはふと表情を緩める。
思わず。といった様子で、彼女は柔和に微笑んだ。
「とはいえ……今日は一緒に寝ましょうか」
この日が、母と共に寝た最後の日となる。
強い感情のうねりは嘘のように消え去り、代わりに必死に堪えていたものが溢れ出し、再び涙となった。
「よしよし……こんな、感じでよいのでしょうか…」
戸惑いながらも、嗚咽を堪えることのできない悟空を全身を使って抱擁し、背中を摩る。
悟空はひたすら母の温もりに浸った。
明日からは、もうこの温もりは感じられないのだろう。訳もなく、本能がそう告げている。
明日になれば、母は決して自分に対して情を表にださないだろう。
母のいう一年が過ぎれば、母は自分のもとを去ってしまうのだろう。
そう考えてしまうと、もう堪えることはできなかった。
幼い悟空では、溢れ出す感情を制御出来なかった。
悟空はその日一晩中、エミューゼから離れることはなかった。
悟飯老人の運命は変わらず…です。彼はエミューゼに得体の知れないものを感じていましたが、それでも迎え入れています。
他のDB二次作品にイラストがあって羨ましくて仕方ない我が輩です。