ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第十一話

ギルドを出たカルナは北東のメインストリートを歩いていた。この場所は様々な道具や武器が作られる工業区。

カルナは遠征で酷使した愛槍を整備するために製作者の元に向かっていた。

しばらく歩くと巨大な工房に辿り着く。

建物から聞こえてくるのは金属の弾ける甲高い音や、ドワーフの下手くそな歌。いまも新しい武器が次々と作られているのだろう。

掃除もされていない煤だらけの工房を見渡したカルナは呟く。

 

「相変わらず汚いな」

「酷い言いようね」

 

独り言のつもりが返事が帰ってくる。視線を向ければそこには眼帯を付けた女神がいた。

 

「神ヘファイストス。お久しぶりです」

 

彼女は鍛治派閥【ヘファイストス・ファミリア】の主神ヘファイストスだ。

 

「ええ、久しぶり。それより汚い工房の所有者が目の前にいるけど、言い訳とかはないの?」

「神に嘘は付けない。なら、言い訳などは無意味だろう。先の言葉は紛れもなく俺の本心だ。だが、不快に思わせたなら謝罪しよう」

「素直ね。謝る必要はないわ、事実だもの。………それより貴方、Lv.7になったって本当?」

 

ヘファイストスが興味津々という風に問うてくる。大人びた感じでも未知に目を惹かれるのは他の神と同じらしい。

 

「よく知っている。先程ギルドに報告したばかりだというのに」

「神は娯楽に餓えてるのよ。面白いことは神速で広まるわよ」

「そういうものか。それより椿はいるか?」

「貴方の専属契約者ならいつも通りよ」

「いつも通り籠っているのか……」

 

短い言葉だけで彼女が工房で金属を鍛え続けていると理解する。それくらい分かる程度は彼女とカルナの付き合いは長い。

 

「入っても構わないか?」

「ええ。貴方が来たと知ったらあの子も喜ぶわ」

 

ヘファイストスに連れられ、カルナは工房に入った。

工房の中には金属をひたすら叩く後ろ姿。入ってきた二人の存在にも気付かず、真摯に鉄を鍛えていた。

 

「カルナ。悪いんだけどーーー」

「分かっている。椿の邪魔はしない」

 

元より彼女が武器を作っているとは完成するまで待つとカルナは決めていた。更に言えばあの状態の彼女は何を言っても聞こえないのだから。

しばらく待つと、彼女は一本の槍を完成させた。

 

「う〜む、イマイチだな。やはりこの程度の精製金属(インゴット)ではあやつに相応しい武器は無理か……」

 

納得いくものが出来なかったのか深いため息を吐いた。そこにヘファイストスが呼びかけた。

 

「椿」

「おお、主神様ではないか、何週間振りーーーと、カルナ、来ておったのだな!」

 

ヘファイストスに話していた褐色の女性がカルナに気付いた。

真っ赤な袴にさらしのみという露出度の非常に高い服装(服と呼べるかも疑問だが)にヘファイストスと同じ漆黒の眼帯をした女性は椿・コルブランド。

【ヘファイストス・ファミリア】団長にしてオラリオ最高の鍛治師である。

 

「先程からいた。相変わらず鍛治に集中すると周りが見えなくなるようだな」

「はははっ、作品に全霊を注いでいおるかな。待たせてしまったか?」

「そんな事はない。椿は真摯に打ち込む姿が一番輝いている。それは見ていて飽きるものではない」

「褒めても何も出んぞ。それより、工房にこもりっきりで人肌の温もりが恋しいのだ、抱きしめさせてくれ!」

「ああ、いいぞ」

 

両手を広げ近付いてくる椿をカルナは迷う事なく抱き寄せた。

 

「ーーっ、カ、カカ、カルナ⁉︎ 何をしておる!」

「? 何を言っている。椿が望んだことだろう」

「た、確かに手前が言ったことだが、あれは、その、手前が抱き締めたいという意味でーーー」

「人肌を感じたいならどちらが抱き付いても変わらないはずだが?」

抱き締めるどころか抱き締められ椿の顔が真っ赤になる。実はこのやりとり、冗談半分に抱き締めさせてくれと言った椿が頼み事を断らないカルナに逆に抱き締められて照れるというのが毎度のように行われている。

 

「嫌か? だったら離れるが」

「嫌ではない! ただ突然の事で驚いただけで……」

 

カルナに抱き締められたまま椿が呟く。その姿は普段の豪快な性格では考えられないほど可愛らしいものだった。

 

「ーーーコホンッ」

 

二人だけの空気を遮ったのはヘファイストスの咳払い。自分達以外の神物がいることを思い出した椿が慌てカルナから離れる。若干、名残惜しいそうな顔をしながら。

 

「んん、仲がよろしいようだけど、カルナは椿に用があったんじゃないの? それとも逢い引きのために来たの?」

「違う、武器の整備のために来た。今回の『遠征』でかなり酷使せたからな」

 

ヘァイストスのからかいも意に介さずカルナはシャクティ・スピアを椿に渡す。

 

「くぅ、手前が作った槍だが、やはり重いな。よくこんな馬鹿げた武器を注文したものだ」

「面白そうだと嬉々として作製していたと記憶しているが?」

 

言葉とはウラハラにしっかりと握ったシャクティ・スピアを槍先から石突きにかけて観察し、裏返してみたり、状態を確かめる。

 

「随分と劣化しいるな。何をしたのだ?」

「何でも溶かす腐食液を出すモンスターと凄まじく硬質な鱗を持つドラゴンなどだな」

「あの魔法は使ったのか?」

「【ヴァサヴィ・シャクティ】は使ってない」

「だろうな。使っていればこの程度の摩耗では済むまい」

 

椿の言葉に同意するようにカルナは頷く。

【ヴァサヴィ・シャクティ】。

カルナの超越魔法(レア・マジック)。手に持つ人造兵装を神造兵装に昇華させることができる反則級の魔法。

カルナが持つ物なら子供の玩具だろうと木の枝だろうと神槍になる。

ただし、代償も多い。

発動するには黄金の鎧を解除しなければならない。絶対の守りを捨て最強の矛を得るのでは明らかに釣り合わない。

また、昇華させた武器は凄まじい負担が掛かるために使用後には壊れてしまう。

唯一耐えれるのはこのシャクティ・スピアのみである。

 

「直せるか?」

「無論だ。これを作ったのは手前だぞ。新品同様にしてやる」

「正確には俺と椿の二人でだ」

「細かぞ」

 

シャクティ・スピアは武器素材には超硬金属(アダマンタイト)と最硬金属(オリハルコン)の精製金属『神硬金属(ヒヒカネイロ)』を使用している。

だが、この神硬金属(ヒヒカネイロ)、強度が高過ぎて椿でさえ加工できず武器素材にするのを断念していた。

そこで使用したのがカルナの【アグニ】である。工房の炉では不可能な超火力を用いることで、椿は神硬金属(ヒヒカネイロ)を鍛えることに成功した。

因みにカルナが『鍛治』の発展アビリティを持っているのも作成中、ずっと工房に閉じ込められて手伝わされていたのが原因である。

 

「まぁ、カルナの助けがなければシャクティ・スピアが生まれなかったのは事実だ」

「俺と椿の合作。いわばこの槍は俺達の子供か?」

「なっ⁉︎」

 

カルナが思った事を口すると、椿がまた顔を赤くした。

 

「子供……カルナと手前の……だが、子作りにはあれをしなければ……」

「椿?」

「ひゃうんっ⁉︎」

 

ブツブツと独り言を始めた椿にカルナが声を掛けると奇声が上がった。

 

「どうした?」

「な、何でもない! はっ、主神様! これは違ーーーん、主神様は何処だ?」

「神ヘファイストスならとっくに出ていったぞ」

 

言い訳しようとした椿がヘファイストスがいないことに気付く。

シャクティ・スピアが二人の合作うんぬんの辺りから、うんざりしたような表情で出ていった。

まるで逢い引きの瞬間でも見せつけられたように。

 

「んん、ともかくこの槍は手前がキッチリ直してやる」

「済まないな、椿。代金は受け取るときで構わないか?」

「それで構わん」

「承知した。では後日に」

「……あ、カルナ」

「ん?」

「その………まだ人肌の温もりが恋しいのだ」

 

カルナは無言で椿を抱き締めた。

 

 

 




カルナ武器設定
【シャクティ・スピア】
・不壊属性(デュランダル)の大槍。
・【ヘファイストス・ファミリア】椿・コルブランドと【ロキ・ファミリア】カルナ・クラネルの合作。
・カルナ自身が発注した専用武装(オーダーメイド)。
・武器素材は超硬金属(アダマンタイト)と最硬金属(オリハルコン)の精製金属『神硬金属(ヒヒカネイロ)』。
・攻撃力が低い不壊属性(デュランダル)でありながら最上級(トップクラス)の威力、重量を持つ。
・300,000,000ヴァリス。

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