ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第二十二話

『隠れ里』。安全階層と同じくモンスターが産まれないこの場所はダンジョンに無数に点在し、冒険者にも発見されていない未開拓領域。

冒険者にもモンスターにも敵として襲われる異端児(ゼノス)達は『隠れ里』に住み、同胞を探しながら生活していた。

 

「魔剣は全て損失。装備品も消耗して整備が必要だな」

「悪いな、カルっち。ポーション貰っただけじゃなく装備の手入れまで」

 

その『隠れ里』の一つ。鎚が置かれ、炉があり、まるで工房のような空間に異端児(ゼノス)達はいた。

 

「整備できるのが俺しかいない。お前達が不器用だから」

「不器用じゃねェ! 種族として苦手なんだ!」

「そういう事にしておこう」

 

リドの言い訳を適当に流し、カルナは装備の整備を続ける。

リド達はダンジョンで暮らすモンスター。そのため鍛治師に武器を作って貰うどころか地上に出ることさえできない。だから、彼等は冒険者が捨てた武器や死んだ冒険者の防具などを使用していた。

だが、それらはヒューマンなどが使う為に作られた物。大きさどころか姿形が全く違うモンスターには使い勝手が悪い武器、特に防具は合わない物が多い。

それでは苦労するだろうとカルナは異端児(ゼノス)用の専用武装(オーダーメイド)を作ったのだ。

ちなみにこの工房はカルナが機材などを少しづつ運び込みコツコツと完成させたものだ。

本来はリド達に鍛冶仕事を教え、自分達でも整備ができるようにと作った場所だがーーーー使用者がカルナ一人なのは察してほしい。

 

「装備類は問題ない。だが、魔剣は一から作らなければならないから当分は待ってくれ」

「ああ。それは大丈夫だ。流石に魔剣を使わなきゃいけないのは今回みたいな時だけだ」

「リド達の強さを考えればそうだな」

「そういうこと。だから、魔剣は遅くなってもいいぜ。そうだ、久しぶりに来たんだから宴でもしようぜ」

「30階層で暴れてすぐだというのに元気だな。残念だが整備を終えたから地上に戻ろうと思っている」

「えエッ、もっトゆっくりしていきましょウ!」

「そうです! いっぱいおもてなししますから!」

「カルナ、一緒ニ宴、スル!」

『キュー!』

 

カルナとリドの会話を遠巻きに見ていた異端児(ゼノス)ーーーセイレーン、ハーピィ、ラミアなどの見目麗しい女性型モンスター、あと可愛らしいアルミラージがカルナに群がった。

 

「ははは、相変わらずモテモテだな」

「羨ましいのか?」

「違ぇよ、馬鹿。で、何か急ぎか?」

「………実は仲間に声を掛けずにダンジョンに潜ってしまっているんだ」

 

フェルズからリド達が戦っいると聞いたカルナは一直線に30階層を目指した。よって【ロキ・ファミリア】の誰にもダンジョンに行く事を伝える暇がなかったのだ。

一言もなくダンジョンに潜るのはアイズがよくやるが、それでもだいたい日帰りなので心配されない。だが、無断でダンジョンに潜り帰ってこない者がいれば心配される。

 

 

ーーー何が言いたいかというとフィンとリヴェリアの長っっっっっっい説教が待っているのだ。

 

 

もはや手遅れかもしれないが早く帰ればまだ怒られないかもしれないのだ。希望的観測だが。

 

「あー、まあ、なんだ……悪かったな」

 

自分達を助ける為にそうなる思うとリドも気不味くなり、顔を顰めた。

 

「そんな顔をするな。俺が勝手な行動をして怒られる。自業自得だ。それより次は宴に参加するから、準備を頼む。俺も上物の酒を持ってくるから」

「おっ、なら神酒(ソーマ)っての飲んでみてぇ。凄い美味いんだろ?」

「……検討しよう」

 

それから、しばらく。カルナは異端児(ゼノス)達と話しながら装備品の整備を終わらせた。

「俺はそろそ帰らせてもらおう」

「おう、またな。と、その前に」

 

リドは手を差し出した。

 

「握手」

「それなりに名を馳せた身だが、毎回握手をねだるのはお前達くらいだ」

 

目の前に差し出された怪物の手にカルナは一切の躊躇いなく応じた。

 

「仕方ないさ。皆嬉しいんだ。オレっち達を怖がらずに触れ合ってくれるのが」

「一部の者達は握手どころか抱きついてくるがな」

 

まあ、抱きついてくるのが女性ばかりなので嬉しいと言えば嬉しいが。

リドと握手した後、何人もの異端児(ゼノス)達が握手をねだり、その全員に応じたカルナは『隠れ里』を後にした。

 

 

◆◆◆

 

 

ダンジョン18階層。天井を埋め尽くす水晶と、大自然に満たされた地下世界。モンスターが産まれない安全階層(セーフティポイント)は地上に舞い戻ったように穏やかな空間を作り出している。別名『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』である。

 

「今は……『夜』。いや、光量を考えれば深夜か」

 

天井の水晶を見上げながらカルナは呟く。18階層では水晶と時間の経過で光量が変化し、『朝』、『昼』、『夜』を作り上げる。そして今は光が乏しくなり『夜』を作っていた。

 

「いまから戻ればまだ……いや、地上に戻る頃に日付けは変わってるか」

 

どうせ怒られるなら、明日帰っても一緒と考え、『街』で一泊しようと階層の西部に向かった。

西部には地下には無いはずの建物の光ーーー街灯りが無数に煌めいていた。

『リヴィラの町』。上級冒険者達が経営する、ダンジョンの宿場街である。

だが、ここはダンジョン。何が起こるかわらかない場所だ。だから、冒険者達は危機を悟れば街を放棄し地上へ帰還する。そしてほとぼりが冷めるとこの階層に舞い戻り、街を作り直すのだ。

そんな意地汚い冒険者のしぶとさを象徴するこの街は『世界で最も美しいならず者達の街(ローグ・タウン)』と呼ぶ者もいる。

 

「さて、何処に泊まるか」

 

この街は物価が恐ろしく高い。ダンジョン内で補給もままならない冒険者の事情を見越した経営は、詐欺と喚きたくなるほどの値段で取り引きされる。一泊泊まるだけでもその宿代は法外だ。

最も『深層』の中でも更に深い階層を活動範囲にしているカルナの資金は莫大だ。それに本人に物欲が殆どないため、冒険関連でしか金を使うことがない。だから、『リヴィラの街』に泊まるのもあまり気にする理由はなかった。

 

「おい」

 

適当な宿に入ろうとしたカルナに声を掛ける者がいた。そちらを見ると薄汚れたフード付きのローブを被った人がいた。フードを目深に被っているので顔はよく見えないが、それでも整っていると分かる顔立ちをしている。ローブの下には何も着てないのか、艶かしい肢体の形が浮き彫りになっていた。

 

「お前、私を買わないか?」

 

一見、体を売る娼婦のようだが、その本質は獲物を狙う狩人であることカルナは悟った。

ーーーそりゃそうだ。ハシャーナ・ドルリアが回収するはずの『宝玉』を俺が持ってたら、俺に接触するか。

 

カルナは内心で頭を抱えた。顔も見えない彼女の正体を知っている。原作では『宝玉』を回収したハシャーナ・ドルリアを殺害し、アイズと互角以上に渡り合った存在。

 

「おい、聞いているのか!」

 

目の前の厄介事ーーーレヴィスが叫んだ。

 


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