ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか 作:ザイグ
「…………」
組み伏せたままカルナが見下ろし、
「………」
押し倒されたまたレヴィスが見上げる。
名前を聞き出してしばらく。二人はこの体勢のまま、視線を絡めていた。
一見、恋人が見つめ合っているように見えるがそんなはずもない。
カルナは簡単には口を割らないレヴィスからどうやって情報を聞き出すか、レヴィスはどうやってこの状況から脱しカルナを殺すか、互いにどのように相手を攻略するか思考し、些細な動作も見逃すまいと観察しているのだ。
「ふっ、このままではお互いに拉致があかないか………」
カルナはレヴィスの腕から手を離し、立ち上がった。
「どういうつもりだ?」
レヴィスが訝しみながら問う。圧倒的に有利な状況だったにも関わらず、それを捨てる理解がレヴィスには分からなかった。
「あのままではどちらの目的も達成できない。ならば仕切り直すしかない」
あのままではレヴィスが口を割るずカルナは情報を得られない。レヴィスも拘束された状態ではカルナを殺す事ができず、宝玉を手に入れない。
だから、カルナは有利な状況を捨て、負けを認めるしかない公平な勝負をすることにしたのだ。
カッコいい事を言ってるが、フィンのように良い策が浮かばず、脳筋思考で解決しようとしているだけだ。
「不意打ち、騙し討ち、そんな事をして勝ってもお互いに納得しないだろう。だから、戦おう。公平な実力勝負でな」
「…………いいだろう。宝玉(たね)を手に入れる前だろうと後だろうと貴様を殺すのに変わりはない」
レヴィスもカルナの提案に乗った。どのみち姿を見られたからにはカルナを殺さなければならない。それが騙し討ちか戦って殺すかの違いだけだ。
「そうか。なら、始めよう。その前にーーー」
カルナは部屋の隅にレヴィスが置いていた袋を掴み、投げ渡した。
「ーーー服を着ろ」
流石のカルナも裸の女と戦うのは躊躇われた。
◆◆◆
「服などあってもなくても変わらない」
「そういう訳にはいかない」
文句を言いながらもレヴィスは渋々服を着ている。
「モンスターが衣服を着ないように戦う相手が裸だろうと俺は気にせんが……他人の目があるんだ」
これから戦闘になれば間違いなく騒動になり、人が集まってくる。
そこで彼等が目にするのは戦うカルナと裸の女。野次馬には滑稽に見えるだろう。そして此処で見た光景を野次馬は地上に伝え、新聞などに乗るだろう。見出しは、
『施しの英雄! 謎の全裸女と街中で激闘⁉︎ 原因は痴情のもつれか‼︎』
と言ったところか?
「………嫌過ぎる」
「何がだ?」
「気にするな、服を着てくれ」
最悪な未来予想に項垂れるカルナ。気になったレヴィスが服を着るのを中断して問う。
…………レヴィスの説得にも苦労した。
レヴィスは羞恥心がないのか、他人の目に無頓着なのか、裸のままで戦おうとした。
敵を前に服を着るのは隙だらけだから着ようとしないのは理解できるが、俺は服を着るのくらい待つ。
「服を着ろ」
「何故だ」
「常識だ」
「必要ない」
「着なければならない」
「このままでも戦える」
「頼むから着てくれ」
「面倒だ」
「着ろ」
「いらん」
「何故、そこまで頑ななんだ⁉︎」
と長い長い問答の末、ようやく着せる事ができたのだ。………正直、戦う前から疲れた。
「終わったぞ。これで文句ないな?」
声に反応してそちらを見ればレヴィスが服を着終わっていた。
その姿にカルナは安堵する。レヴィスは艶めかしい美女だ。その裸体ともなれば目のやり場に困る。最もいまの格好も体のラインがハッキリと分かり、かなり露出した服装なので目のやり場には困るが。
こんなくだらない事考えてどうすると、カルナは思考を切り替えた。
「さて、今度こそ始めよう」
カルナはスキルを発動させ、黄金の鎧を纏う。
「初めからそのつもりだ」
レヴィスも拳を握り締めた。
戦闘準備を整えたカルナとレヴィスーーー次の瞬間、一斉に動いた。
直後、轟音。洞窟の天井が粉砕された。
「ぐッッ!」
初撃を決めたのはカルナ。両者とも並の冒険者なら粉々になる剛腕を相手に叩き込もうと繰り出し、腕の長さで勝るカルナがレヴィスを上空へ打ち上げた。
打ち上げられたレヴィスは天井を突き破り、街中に落下する。それをカルナは追撃した。
「調子に乗るなッ!」
レヴィスは瞬時に体勢を直し、剛腕の連撃で迎え撃つ。しかし、
「当たらないな」
カルナは連撃を見切り、レヴィスの懐に入り込んだ。そして腹部に蹴りを叩き込む。
「ーーーッ⁉︎」
腹部を強打されたレヴィスは吹き飛び、建物の一つに激突。建物を崩壊させた。
「パワーもスピードもあるが、俺には届かない」
「よく喋る奴だ!」
「え……きゃああぁぁッ⁉︎」
レヴィスは近くにいたエルフの少女をカルナ目掛けて投げ付けた。
「人は投げるものではない」
「黙れッ‼︎」
エルフの少女に衝撃が伝わらないように抱き止め、追撃してきたレヴィスの攻撃を片腕で捌く。
エルフの少女を抱き抱えていることで片腕を封じられ、攻撃が当たらないように庇いながらもレヴィスの猛攻はカルナに当たらない。
「………此処では巻き添えが出るな、移動するか。すまなかったお嬢さん」
「あ、はい!」
カルナはエルフの少女を下ろし、レヴィスを被害が出ない場所に誘導しがなら移動を開始した。
エルフの少女が顔を赤くしていたのには気付かずに。