ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第二十五話

戦闘を続けながら移動したカルナとレヴィスは街外れの崖まで来ていた。

途中、十を超える建物を破壊し、ボールズの罵声が聞こえたりもしたが、その辺はよくある事なので気にしないでおこう。

言っておくが壊したのはレヴィスでカルナは一つも壊してない。むしろ、怪我人が出ないように配慮した。

 

「此処なら気兼ねなく戦える」

 

周囲を気にしなくて良くなったカルナは攻勢に出た。

 

「はッ!」

 

予測不能のカラリパヤットによる攻撃。反応さえできない数十の打撃がレヴィスの無防備な体に叩き込まれる。

 

「がっ、ぐっ、舐めるな!」

 

対してレヴィスはLv.7の『力』で強打されながらも前進した。ティオナやティオネ、第一級冒険者の殴打さえ効かないヴィオラスを貫通した拳にレヴィスは耐えていた。冒険者では鍛えても獲得できない怪物の強靱性(タフネス)。人とモンスターの異種混成(ハイブリッド)ーーー怪人(クリーチャー)だからこそ可能な捨て身の戦法である。

 

「なるほど、冒険者を相手にするのとは勝手が違う」

 

レヴィスが尋常ならざる『力』で繰り出す拳砲を容易く躱し、カルナは一旦距離を取る。

戦況は圧倒的にカルナに傾いている。

僅かな攻防だが無数の攻撃を受けたレヴィスはダメージが蓄積し、動きが徐々にだが鈍くなっている。

対してカルナは無傷。未だに一撃も攻撃を受けず、万全の状態である。

元々、両者には隔絶した差があった。モンスターの力とLv.6相当のステイタスを持つレヴィスは確かに強い。【ロキ・ファミリア】でも勝てるのはLv.6であるフィン、ガレス、リヴェリアの三人だけだろう。

だが、カルナはLv.6を上回るLv.7。加えて戦闘技術、防御力などは他の追従を許さない。

純粋なステイタスでも、技術面でもカルナはレヴィスを凌駕していた。

 

「ーーーひとつ聞くぞ」

「?」

 

唐突にレヴィスが口を開く。

 

「お前、何故武器を置いてきた?」

 

戦闘開始直後からレヴィスが抱いていた疑問。カルナが所持ていた大槍、それをカルナは宿屋に置いてきている。レヴィスを吹き飛ばした直後、追撃を掛ける前に大槍を手にするくらいこの男にはタイムロスにもならないはずだ。それなのに何故、カルナはシャクティ・スピアを手に取らなかったのか?

 

「ああ、言ったはずだ。公平な実力勝負をしようと。レヴィスが素手で戦っているのに俺だけ武器を持つのは公平ではない。だから、武具など無粋と思っただけだ」

 

何のことはない。カルナは自身の発言を忠実に守っているだけだ。彼はどんな時でも約束を守っていた。だが、レヴィスはそれを受け入れられなかった。

 

「ーーーふざけるなッ‼︎」

 

カルナはただ自分に正直なだけだ。しかし、彼女には命懸けの勝負をしている自分を侮っているように聞こえた。

烈火の如く、闘志を燃やし、レヴィスは地面に片手を突き刺した。

そして勢いよく手を引き抜くと、手には紅の長剣が握られていた。

 

「ああ、天然武器(ネイチャーウェポン)か。しまったな、ならば俺も愛槍を持ってくるんだった」

 

天然武器(ネイチャーウェポン)。ダンジョンがモンスターに供給する武器。『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』と呼ばれる岩や木をモンスターが手にすることで剣、斧、棍棒、果ては盾までなり、装備できる。

レヴィスもモンスターの力を持つ怪人(クリーチャー)。ならば『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』を利用できるのは当たり前だ。

 

「ずたずたに斬り裂かれて、己の判断を後悔しろ!」

 

レヴィスは超高速で間合いを詰め、カルナに斬りかかる。並の冒険者なら一撃で絶命する斬撃を、

 

「いや、後悔する気はない」

「ーーーッ」

 

片腕で弾いた。カルナの鎧は絶対防御。いかなる剛腕で振り下ろされた斬撃だろうと傷付くことはない。

 

「ふッッ!」

「がッーー⁉︎」

 

長剣を弾かれ、腕が真上に上がり、まるで万歳しているような格好になった無防備な胴体に拳がめり込む。

レヴィスは耐えきれずに宙を舞い、地面に激突した。だが、すぐに立ち上がり臨戦体勢に戻る。

 

「……ごふっ」

 

しかし、内蔵を痛めたのか口から血を吹き出し、膝をついた。

剣を杖代わりにしながら、何とか体を支えている状態でもその瞳は戦意に燃え、カルナを睨みつける。

 

「………まだ屈する気はないか」

「当たり前だ!」

「弱っている者を嬲る趣味はないが………」

 

カルナは膝をつくレヴィスに歩み寄る。そして目の前に立ち、レヴィスを見下ろした。

 

「もう一度言おう。勝敗は決したと見えるがまだ続けるか?」

「ーーーッッ‼︎」

 

返答はなかった。その代りのようにレヴィスは痛む体に鞭を打ち、勢いよく立ち上がった。

 

「ーーー死ねェッ‼︎」

 

地面がめり込むほどの踏み込みと、剛腕による超速の袈裟斬り。第一級冒険者でさえ防御もろとも吹き飛ばし、行動不能にする渾身の一撃をレヴィスは繰り出した。

 

「はぁッッ‼︎」

 

カルナも雄叫びを上げ、全力の拳撃で迎え撃った。

瞬間。轟音が爆発した。

 

「ーーーーッッ⁉︎」

「くっーーー!」

 

吹き飛んだのは両者。紅の長剣は拳との激突で砕け、衝撃が両者を貫き、後方へ体を持っていかれた。

しかし、カルナは空中で体勢を整え難なく着地したのに対してレヴィスは受け身も取れず、背中から地面にぶつかり、そのまま後方へ体を引きずりながらようやく停止した。

 

「俺の勝ちだ」

「くっ……!」

 

倒れたレヴィスの目の前に来たカルナは宣言する。レヴィスは凄まじい眼光で睨むが、立ち上がることはできなかった。

 

「この状況でも諦めない意志は認めるが、その体ではーーー」

 

言葉が途切れ、カルナは勢いよく振り向いた。背後から凄まじい速度で接近する存在に気付いたからだ。しかし、遅過ぎた。

振り向いた直後、

 

 

 

ーーーーカルナの片腕が突き千切られた。

 

 

 

「なっーーー⁉︎」

 

カルナは驚愕した。

長距離を一瞬で詰める『敏捷』、Lv.7の『耐久』を容易に突破する『力』、鎧の隙間を正確に貫く『技術』、それらの条件に耐える性能を持つ『武器』、これら全てがあってこそ可能となる超絶の刺突。

だが、カルナが驚愕したのは超絶の刺突ではない。彼が驚愕したのは朱槍を構える人物を視界に入れたからだ。

 

「馬鹿な、お前はーーー」

「ーーー消えろ」

 

朱槍が振り下ろされ、カルナに叩きつけられる。その凄まじい衝撃にカルナを巻き込みながら、崖の一部が轟音と共に崩壊した。

 


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