ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第二十七話

「カルナ……その腕はどうした?」

 

リヴェリアも、後から入ってきたアイズ達も呆然とした。当然だ。【ロキ・ファミリア】の中で最強を誇るカルナが片腕を失っていたのだ。

 

「………油断してはいなかった。だが、見事に腕を持っていかれた。完敗だよ」

「誰かと戦ったのかい? 君を相手にそんな事ができるのはオッタルくらいだと思うけど」

「いや、オッタルじゃねえよ。戦ってたのは女だ」

 

フィンの問いに追い付いたボールスが答えた。

 

「女の人⁉︎」

「赤髪のいい女だったぜ。見た事もない奴だったが」

 

ティオナが驚愕し、ボールスはレヴィスの容姿を思い出したのか、嫌らしい笑みを浮かべる。

 

「でも、なんでその人と戦う事に?」

「それなら、こいつ等の方が詳しいぜ」

 

ボールスがベッドに腰掛けるカルナと隅の方で頭を抱える宿の主人、ヴィリーを指す。

 

「ヴィリー、元気を出せ」

「てめえが言うな、馬鹿野郎! 人の宿に大穴開けやがって!」

「だから言ったろ。『迷惑料』だと」

「意味が思っ切り違うんだよ⁉︎」

「あー、カルナとヴィリー君。二人だけで会話せずに僕達にも説明してくれないかい?」

 

罵声するヴィリーと適当に流すカルナにフィンが口を挟む。

 

「そうだな。この馬鹿がやった事は同じ【ファミリア】の奴に落とし前を付けて貰おうか」

「あれだけ払ってまだ欲するか。強欲だな」

「てめえは黙ってろ! ーーー昨日の夜にカルナと赤髪の女が来てよ。宿を貸し切らせてくれって頼まれたんだ」

「たった二人なのに、客室を全て貸し切り。なんでだい………と問うまでもないね、カルナ」

「カルナ、またか………!」

「ああ、ドアもない宿だ。喚けば洞窟中に聞こえるし、覗くのも簡単だ。だから、貸し切った」

 

カルナの返答を聞かずともフィンは言わんとすることを察し、リヴェリアは先程まで心配で潤んでいた瞳を憤怒で釣り上げた。

 

「レフィーヤ?」

「ななななな、何でもありません‼︎」

 

レフィーヤも悟ったのか顔を真っ赤に染め、全く理解していないアイズが名前を呼ばれて狼狽えた。

 

「レフィーヤ。何故、赤くなる? 全種族が何千年も繰り返してきた男女の営み。これが無ければ人類は存続しない。恥ずかしがるーーー」

「恥じろ、大馬鹿者‼︎」

「カルナは黙っててください‼︎ このスケベ‼︎」

「………承知した」

 

リヴェリアとレフィーヤに面と向かって罵声されたカルナは落ち込んだ。

 

「なるほど、カルナは娼婦を買ったと?」

「ああ。声を掛けられて断る理由もなかった」

「応える必要もないはずだが?」

「………そうだな、リヴェ」

「はいはい。カルナへのお仕置きは後にしてくれ、リヴェリア。で、カルナ。その娼婦と戦う事になった理由は?」

「……………………………………………………痴情のもつれだ」

「うん。僕は神じゃないけどいまのは嘘だってわかるよ」

「あたしも嘘って分かる」

「嘘よね」

「嘘です」

「嘘だな」

「………嘘」

 

全員に駄目出しを食らった。

 

「カルナ。君の洞察力を持ってして相手の力量を測り損ねるなんてありえない。ーーーその女性が娼婦じゃなく命を狙う者と気づいて、話に乗ったんだね」

 

それは問い掛けでなく確認だった。フィンは既に自分の推測が正しいと確信していた。

 

「相変わらず全てを見透かしているな、フィン」

「見透かしてないよ、年の功ってやつさ」

「降参だ、確かに彼女が俺の命を狙って接触してきたのを分かっていた」

「狙われた理由は………そのポーチの中身かな?」

「…………勘、か?」

「そう、僕の勘だ。でも、間違ってるとは思わない」

「神懸かった勘だ。そうだ、冒険者依頼を受けてある物を入手した。彼女はそれを取り返しに来たんだ」

「まーたカルナの悪い癖だ。厄介事の冒険者依頼って分かってて受けたんでしょう?」

 

ティオナが呆れたように言う。冒険者依頼は基本的にギルドを通して発注する。冒険者に直接、発注することもできるが、その場合は報酬が安い、不良品を掴まされると、騙される事があるので信頼できるギルドを介して依頼を出すのだ。

カルナは頼み事を断らない為、冒険者依頼を直接受けることが多々ある。しかも、騙そうとしているのが分かっていながら、そういう人もいると納得して依頼を受けのだから、手に負えない。

ちなみに邪な気持ちで依頼した悪党は、全てを見抜いていながら冒険者依頼を達成し、文句の一つも言わない献身さに罪悪感から二度とそんな事をしなくなるらしい。

 

「確かに厄介事とは理解していたが、交流のある者達が命懸けで戦っていたから、断る選択肢はない」

「んー、それだけの代物か。因みに何を入手したか見せてもらうことは? 僕等も手助けできるかもしれないよ」

 

フィンの言葉にカルナは首を振った。

 

「すまないが、依頼人(クライアント)に関わることで答えることも見せることもできない」

「だろうね。カルナはその辺りは頑なだ」

「ちょっとカルナ。団長が折角、力を貸してくれるって言ってるのよ」

「私達とて戦力にはなるはすだ」

「すまない、ティオネ、リヴェリア。個人的に受けた冒険者依頼だ。フィン達に迷惑をかけるのこそ筋違いだろう」

「えー、私達、そんな事気にしないよ」

「そうです。そんな大怪我負ってるじゃないですか!」

「…………ああ、そういえば片腕が無かった」

「忘れてたんですか⁉︎」

「誰か、ポーションをくれないか。いま手持ちがないんだ」

「……はい、ハイ・ポーション」

「ありがとう、アイズ」

 

カルナはアイズからポーションを受け取り、一気に飲み干した。そして無くなった腕に意識を集中させた。

 

「ーーーふんっ!」

 

カルナが意識を集中させ、力んだ瞬間。

 

 

ーーー腕が完全に修復された。それも数秒もかからない短時間で。

 

 

「助かった。『不死』のアビリティだけでは手足などの修復が遅くてな」

「ポーション飲んで腕が生える時点でおかしいわよ」

 

カルナのアビリティ『不死』は生命活動に関わる重要器官、『心臓』などは瞬時に再生するが、それ以外の『眼球』や『手足』などの重傷であるが死に繋がらない怪我は優先順位が低いのか修復が遅い。

そこでポーションを使い、ポーションの回復力と『不死』の再生力の相乗効果を起こすことで、再生速度を爆発的に高めたのだ。

 

「それじゃ、敵の情報だけでもくれないかい? カルナの腕を奪うような女性を知っておきたい」

「いや、違う」

「? 何がだい」

「俺の腕を奪ったのは彼女じゃない。敵はもう一人いる」

 


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