ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十ニ話

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎」

 

先に仕掛けたのはクー・フーリン。怪物に相応しい咆哮を上げ、いままで以上の猛攻を始めた。

 

「なるほど、俺を『脅威』と認めたか」

 

ただ防御すれば力尽くで粉砕してくる剛爪の乱舞。カルナは力で対抗せず、軌道を逸らすことで全ての攻撃を受け流していた。

カルナを包み光。【英雄宿命】のチャージを見て、クー・フーリンは本能的に危険だと判断したのだ。

あれが発動すれば自分が負ける。そう悟ったからこそ、彼は全力でカルナを潰しにかかっている。

 

「ならば根比べといこうか!」

 

カルナが発動まで耐えるか、クー・フーリンが発動前に潰すか。勝負はチャージ完了までの数十秒。僅か数十秒。されどカルナやクー・フーリンのような領域にいる者達には永遠に感じる刹那の攻防。

 

ーーー三十。

 

「オオオオオオッッ‼︎」

 

クー・フーリンの凶爪が地面を抉り、

 

「はあああああッッ‼︎」

 

カルナの大槍が木々を薙ぎ払う。

十秒にも満たない時間の中で、何百、何千もの技と駆け引きが繰り返され、地形を変える程の破壊が撒き散らされる。

 

ーーー二十。

 

「ふんッ!」

 

カルナの大槍が空を斬れば、暴風が巻き起こり、

 

「おらッ!」

 

クー・フーリンの凶爪が地を裂けば、地面が震撼する。

Lv.7。頂天に至った二者が争えばそれだけで天変地異と化す。常識を超えた規格外の戦い。

 

ーーー十。

 

「はぁッ!」

 

大鐘楼の音と共にカルナを包む光が強くなることにクー・フーリンは焦りを感じ、限界を超えた力で潰しに掛かる。その破壊力はクー・フーリンの肉体が自らの力に耐え切れずに崩壊を始めるほど絶大だ。

 

「ぐッーーーおおおおッ‼︎」

 

跳ね上がった『力』と『敏捷』の猛攻に対応しきれず、カルナの体が悲鳴を上げる。

体中を激痛が駆け巡るが、それでもカルナは凄まじい忍耐力で耐え、隙を見せない。

 

ーーー五。

 

「やぁッ!」

 

逃げ場のない爪撃の嵐。カルナは針に糸を通すような正確さで、爪撃を受け流し、生き延びるための血路を開く。あまつさえ炎の槍撃を何発もクー・フーリンに叩き込んだ。

 

「がッーーーああああッ‼︎」

 

体を刺され、炎に焼かれようとクー・フーリンは前進した。瀕死でも存命する生命力、そして自身に宿る破格の『魔石』より供給される莫大な魔力による自己治癒能力。

カルナに引けを取らない不死性を見せつけ、捨て身の特攻を仕掛ける。

 

ーーー零。

 

「溜まった!」

「ーーーッ⁉︎」

 

三十秒のチャージ。溜められた力が開放され、カルナのステイタスが跳ね上がった。

 

「はあああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッ‼︎」

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッ⁉︎」

 

【英雄宿命】でステイタスが上昇したカルナは限界を超えた。その出力は『力』でさえクー・フーリンの怪力を上回り、Lv.7の領域を飛び越えた神域に迫るほど。

階層主さえ一撃で屠る威力を秘めた超弩級神速連撃がクー・フーリンの全身に叩き込まれ、クー・フーリンは反撃どころか防御もできず、絶大な破壊力に体を削られていく。

 

「これで終わりだッ、クー・フーリン‼︎」

「カルナアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼︎」

 

渾身の一突き。【英雄宿命】で『魔力』も上昇したことでより強大化した焔を宿し。カルナの人生で間違いなく最高最強の一撃は、轟音と爆炎を起こしながらクー・フーリンに直撃。

クー・フーリンは一瞬も耐えられずに吹き飛び、遥か上空の水晶に激突。それだけでは衝撃を殺せず、階層の天井を突き破り、上の17階層に消えていった。

 

「………」

 

それを見届け、クー・フーリンの気配が消えたことを確認したカルナは勝利したことを察した。

魔法を解除し、燃え盛る炎が嘘のように消えると同時に、

 

「ーーーッ」

 

黄金の鎧が弾けるように消失し、倒れた。

 

「カルナ!」

「………平気だ、リヴェ。少し疲れただけだ」

「何が平気だ、馬鹿者! 【日輪具足(カヴァーチャ・グンダーラ)】を維持できないほど消耗しておいて!」

 

【日輪具足】は任意発動(アクティブトリガー)のスキル。魔法と違い維持するために消費する精神力(マインド)は僅かだが、それさえ維持できないほど気力、体力をごっそりと消耗していた。

【英雄宿命】。Lv.さえ飛び越える出力の代償は大きかった。たった三十秒のチャージでこの有り様。やはりこのスキルはここぞという時の切り札にしなければならない。

 

「まだまだ強くなる必要ができたな」

 

クー・フーリンはおそらく死んでいない。次に相見える時

に勝てる保証もない以上、強くならなければ。

 

「まったく……少しは自分を労われ」

 

リヴェリアは呆れながら、倒れたカルナの頭を持ち上げ、自分の膝に乗せた。俗に言う膝枕である。

 

「……………リヴェ、これは?」

「見ての通り、膝枕だ。硬い地面の上では痛いだろうという私の優しさだ。………それとも、嫌だったか?」

 

困惑するカルナを見て、リヴェリアが悪戯に成功したように微笑む。

 

「………いや、そんな事はない」

 

リヴェリアの優しさを受け入れ、カルナは体の力を抜く。普段なら安全階層といえど気を抜く事など絶対にしないカルナが、この時はリヴェリアに身を任せた。

 

「良い香りだ。それに心地いい」

「………大真面目にそういう事を言うな」

 

カルナの何の下心もない素直な感想にリヴェリアは赤くなった顔を逸らした。

この体勢は、アイズ達が帰ってくるまで続いた。




おまけ

「よう、手酷くやられたみたいだな。顔が腫れてるぜ」
「………お前こそ、無様な姿だな」
「ああ。体はボロボロ、魔石にもヒビを入れられた。お陰で完治には時間かかりそうだ」
「ふん、次は出れるのか?」
「そんくらいは問題ねぇ。ただ回復するために深層に食事に行ってくる。確か階層主(バロール)がそろそろ産まれるはずだ」
「行きたければ行け。だが、なるべく早く24階層に戻ってこい。戦力を遊ばせておく余裕はない」
「あぁ、必ず行くさ。24階層で待ってればまたあの野郎に会えそうな気がする。借りを返さねえとな」

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