ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第三十四話

「アイズさんとリヴェリア様は大丈夫でしょうか?」

「レフィーヤに心配されるほどあの二人は弱くない」

「心配するくらいしてもじゃないですか!」

 

アイズ、リヴェリアと別れたカルナ達は地上に戻っていた。その間もレフィーヤやティオナは頻りにアイズ達のことを気にかけていた。

 

「リヴェリアが残ってるんだから万が一にも間違いは起こらないよ」

「………だといいがな」

 

レフィーヤ達を安心させるようとするフィンに、カルナが誰にも聞かれないように呟いた。

 

「カルナ、何か懸念があるのかい?」

 

だが、フィンは小さな呟きを聞き逃さなかったらしい。

 

「例の調教師(テイマー)は大量のモンスターを失ったし、君と戦った狂戦士は深手を負っている。現われることはないと思うけど」

「あの二人が現れないのは俺も同意見だ。だが、アイズは『冒険』に挑もうとしている。リヴェリアが居ても無事で済む保証にはならない」

「! まさかアイズは………」

「そうだ。階層主に挑む気だ、それも単独で」

 

察しの良いフィンは短い会話の中でアイズがしようとしていることを看破した。

 

「カルナ………それを分かっていて止めなかったのかい?」

「報せれば止めただろう?」

「当たり前さ。いくら何でも無謀過ぎる」

 

階層主はそれだけ規格外な存在だ。同じLv.だとしても冒険者と階層主では、階層主の【ステイタス】の方が圧倒的に高い。

ましてLv.6階層主とLv.5冒険者ではその差は隔絶している。本来なら勝負にもならず蹂躙されるだけだ。

 

 

「だからだ。いまのアイズは『強さ』に餓えている。今回止めたとしても、目の届かないところでより危険な事をやらかすかもしれない。なら、いま爆発させてやるべきーーーどうした?」

 

カルナが説明しているとフィンが笑い出した。

 

「ははは、いや、リヴェリアと同じ事を言うから、ついね。本当に君達はアイズを理解しているよ」

「称賛、と受けとっておこう」

 

冷やかされているように聞こえてがカルナは褒め言葉として受け取ることにした。

確かにカルナはアイズを気に掛けている。上手く言葉にはできないが、何処かベルのように放っておけないのだ。妹がいたらこんか感じなのかも知れない。

いま思えばロキのセクハラからアイズを庇ったのもそういう感情から来ていた気がする。

 

「でも、知っていてアイズの独断を許したのなら、リヴェリア以上の責任が君にはある。………さて、どう落とし前をつけて貰おうかな」

「………フィン、もしかしなくても怒っているか?」

「まさか、怒ってないよ。ただ、パーティーを預かる身として、団長として、一言相談して欲しかったかな?」

「………怒っているな」

 

フィンの目が笑っていない。

 

「心配無用だ。リヴェリアの責任も俺が取る」

「………君、言ってること理解している?」

「? 知っていて行かせたんだ。リヴェリアの責任は俺が背負うべきだろう」

「ああ、理解してないならいいよ」

 

リヴェリアが聞いたら真っ赤になるだろうな、とフィンが意味不明な事を呟いていた。

 

 

◆◆◆

 

 

戦利品の売却、証文の換金などの処理を終えたカルナ達はホーム『黄昏の館』に帰還し、そこで解散となった。

解散した直後、カルナは真っ直ぐに中央塔の最上階に向かった。

 

「ロキ、【ステイタス】の更新を頼む」

「おわっ、カルナ⁉︎ アホッ、うちが着替えてたらどう責任取るつもりや!」

「艶本を後ろに隠しながら言っても説得力がないぞ」

 

後、口元の涎を拭え。

 

「それより、更新を頼む」

「なんや、フィン達とダンジョンに行っとったらしいけと、そんな実りあったん?」

「それもあるがーーー残滓の【経験値】も更新してくれ」

 

カルナの言葉にロキの動きが止まる。

 

「………一体何があったん? カルナがアレを使おうとするなんて尋常やないで?」

「………強敵と戦った。またいずれ槍を交えることになるだろう。そのために強くならなければならない」

 

カルナは18階層で戦った敵の事を話した。

 

「俄かには信じられんな、カルナと互角なんてオッタルくらいしか居らんはず………」

「だが、事実だ。そのために【魂の残滓】の【経験値】が必要だ」

 

【経験値】は眷属から神々の手によって抽出され、【ステイタス】に反映される。【経験値】を蓄積できる器は一人につき一つ。しかし、カルナは自身の器を除いてもう一つ蓄積されている【経験値】がある。

これをカルナは【魂の残滓】と呼んでおり、【彼】がこの世に転生した肉体に初めから蓄積されていた【経験値】で、カルナはこれは【英霊カルナ】が蓄積した【経験値】だと予想している。

【英霊カルナ】の【経験値】なら、非常に上位の【経験値】であることは間違いなく、もしLv.1の時にこの【経験値】を抽出していたら、カルナは数段階の【ランクアップ】をしていたかも知れない。

だが、それではカルナの為に成らないというロキと、他の眷属達と同じ条件であるべきというカルナの意見が一致し、この【魂の残滓】は封印することなった。

それともう一つ理由がある。【魂の残滓】はその名の通り肉体に残された【経験値】だ。一度のみ使い切りの【経験値】。それはこの肉体に残った【英霊カルナ】の存在を消し去る気がしていたからだ。

それでもカルナは自身の意見を否定してでも、【英霊カルナ】の証を消すことになろうとも【魂の残滓】の使用を決断した。

 

「………わかった。【魂の残滓】も更新しよ」

「いいのか、ロキ」

「カルナが自分の意見を曲げてまで使うことを決めたってことは、それだけヤバいんやろ。なら、子供達を守るためにも使うべきや」

「………感謝する」

「構へん。うちにはこれくらいしか出来へんからな。ほら、そこに寝そべり」

 

ロキに言われるままカルナはベッドに横になる。

 

「ほな、まずはいつも通りの更新をするで〜」

 

 

 


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