ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第四十話

「ーーーカルナ、これだけは正直に答え。どこでそれを知ったんや?」

 

アイズの秘密を語ったカルナにロキは普段では考えられないほど鋭い目付き、そして虚偽を一切許さない重圧を込めた声で問いかけた。

 

「そう怖い顔をするな、ロキ。黙秘するつもりも、詐言するつもりもない。ーーー俺が迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)を愛読しているのは知っているな?」

 

それはいま関係あることかと思いながら、全員が頷いた。カルナが時折、読書しているのは【ロキ・ファミリア】の者なら誰でも知っていることだ。

 

「そして俺が持っている迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)は大神が書いた原本だ」

「っ、ゼウスが書いた本! 現存しとったんか⁉︎」

「ああ。その本の中にアルバートの子供、アイズの事が書かれてた」

 

これは事実であって事実ではない。原本にはアルバートに子供がいたと書かれているが、それがアイズとは一言も書かれていない。だが、生前の記憶で知っているなど言える訳もなく、言葉の解釈を利用して勘違いするような物言いをカルナはワザとしたのだ。

 

「これが俺がアイズの出生を知る理由だ。納得したか?」

「ようわかった。それなら納得できる。皆もそれでええな?」

「うん。まさか、迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)にそんな事が書かれてたなんて………盲点だったよ」

「確かに、これは思わぬところで儂等以外にアイズの出生に勘付いている者がいても不思議でない」

「もとより人一人の存在を抹消するなど不可能な話だ。生まれた時点で誰かと繋がりができる。それを消す事はできず、その者が生きた証は必ず残ってしまうものだ」

「ああ。だが、カルナ。知っていたなら、早くに打ち明けてくれてもよかったのではないか?」

 

黙っていたことを咎めるようにリヴェリアが問う。それにカルナは肩を竦めた。

 

「聞かれなかったから話さなかっただけだ。それにフィン達が秘密にしている事を俺が言いふらしていい道理も、アイズが知られたくない事情を語る資格も俺にはない」

「ンー、そうやって自分の中に秘めるのはカルナの良いところであり、悪いところだね」

「洞察力が良過ぎる故にあらゆる事を知ってしまう。そして本人は黙して語らない。困ったものじゃ」

「全くだ。いつもいつも、一人で抱え込んで。私がどれだけ心配していると思っている」

「………何故、駄目出しをされているんだ?」

「これはカルナが悪いから、諦めぇ」

 

正直に話したのにこの扱いは酷くないか、とカルナは思ったが、ロキに否定された。

 

「もう一つ、気にかかることがある」

 

カルナの言葉に納得した後、不意にフィンが口を開いた。

 

「調教師(テイマー)の女は、僕達のことを知らないようだった」

「自惚れか?」

「うん、カルナはちょっと黙ってようか」

「………冗談だ。俺やフィン、都市に名を轟かす第一級冒険者の情報を奴等は持っていなかったと言いたいんだな?」

「あー、そういうことか。うちの【ファミリア】の名前は大勢に知られとる、それこそ山や海を越えて、世界中のもんにもな。フィン達だったらなおさらや」

 

『世界の中心』とも謳われるオラリオの情報は注目の的だ。そんなオラリオが誇る最強戦力のLv.6の名声はとどまることを知らない。特にカルナは最近【ランクアップ】したとはいえ、最高位のLv.7。最も有名な人物と言ってよい存在を知らないなど、世間に関心がない、では片付けられない。

 

「大量のモンスターを手懐け、一般的な知識には疎い……まるで」

「まるで、なんだ?」

「………いや、何でもない。忘れてくれ」

 

リヴェリアに促されるが、フィンは絵空事にすぎないと自らの考えを切り捨てた。

だが、カルナは真実を知るゆえにフィンが言いたいことがわかった。

 

ーーーまるで、地底に住み着いた人ならざるモノのようだ。

 

とフィンは言いたかったのだろう。

 

「フィン」

「何だい? カルナ」

「その予想………完璧ではないが正しいぞ」

「ーーーッ」

 

フィンはカルナの言葉に目を見開く。フィンはレヴィス達を特殊なモンスターと予想していた。だが、実際には人と

怪物の異種混成(ハイブリッド)。モンスターでも人でもない化物だ。だから、フィンの予想は完璧とは言えなかった。

 

「………」

 

フィンはあえて何も聞かなかった。カルナが自分より正確に敵の正体を見抜いていると悟りながらも、カルナが答えないということはまだ知らせない方が良い何かがあるのだろうとフィンは考えたから。

実際は、原作知識で怪人(クリーチャー)を知ってるとは言えず、どう説明したらいいか分からないというどうでもいい理由だ。むしろ正直に言っても頭のおかしい奴と思われるだけだ。

 

「じゃあ、宝玉がアイズに反応した事については?」

「それについては知らない。魔力に反応した、というよりアイズの風に呼応したように見えたな」

 

実際にカルナは、宝玉が『穢れた精霊』に関わるという事は知っているが、その『穢れた精霊』がアイズーーー厳密に言えばアイズの母である『アリア』とどういう関係があるのか、原作でも明かされていなかった。

 

「………アイズ本人からも、話を聞いておいた方が良さそうだね」

 

フィンへ執務机の引き出しから、ハンドベルを取り出した。

ハンドベルを軽く鳴らすと、すぐに激しい駆け足の音が近付き、扉が勢いよく開かれた。

 

「ーーーお呼びですか、団長⁉︎」

「凄いな、五秒とかからなかったぞ」

 

フィンに呼んでもらえて顔を輝かせたティオネが現れた。

 

「アイズを探してきてくれないか。レフィーヤ達の手も借りて、ここへ連れてきてほしい」

「お任せ下さい‼︎」

 

 

嬉しそうな表紙をし、入ってきた時と同じように勢いよくティオネは消えた。

 

「………彼女に押し付け………贈られたんだ」

「………便利………じゃの」

「………まぁ、愛されてるということだ。喜んだらどうだ?」

「カルナ、喜ぶには彼女の愛は重過ぎる」

 

フィンの返答に納得したのか、カルナは口を閉ざした。鳴らせばどこからでもアマゾネスが駆け付けてくる呼び鈴。ティオネのフィンへの愛が分かる品である。

 

「んー、じゃあアイズが来るまで暇やし、今度の『遠征』についてでも話しとくか」

 

次回の『遠征』。未到達領域開拓まで既に二週間を切っている。

準備がどれだけ進んでいるかの打ち合わせはしなければと全員が考えていたので、ロキの提案に反対する者はいなかった。

 


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