ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第四十二話

ホームを出たカルナはダンジョンに向かった。ただし、ダンジョンには真っ直ぐに入らず、並ぶアイテムショップを確認しながら。

カルナは前回のダンジョン探索から帰ってきてアイズがまだアイテムの補充をしていないのを知っていたからだ。

 

「さて、何処にいるかな?」

 

簡単には見つからないだろうと、考えながらカルナはアイズを探した。

 

 

◆◆◆

 

 

「………」

「………」

 

結論から言えば簡単に見つかった。アイズはまだダンジョンに向かっている途中で、後姿からでも落ち込んでいるのがわかるほどトボトボと歩いていた。

 

 

「………」

「………」

 

だが、この二人。互いに言葉足らずなので、一言も会話がない。カルナは見つけたはいいがどう話しかけてやればいいかわからず、アイズはベルのことでずっと悩み非常に重苦しい雰囲気を作っていた。

 

「あ」

「貴女は昨日の……」

「………!」

 

そこに救いの女神ーーーもとい、救いの半妖精が手を差し伸べた。

 

 

◆◆◆

 

 

「………なるほど、ベルは厄介事に巻き込まれたか」

「はい。無礼を承知の上で申し上げます。ベル・クラネルを助けてあげてください」

 

昨日知り合ったハーフエルフーーーエイナ・チェールに出くわしたカルナ達は彼女からベルが厄介事に巻き込まれつつあると伝えられた。

昨日話した【ソーマ・ファミリア】。ベルはそこに所属するサポーターを雇っているらしいが、金銭の為に汚い事にも染めるような【ファミリア】の団員がいることが不安らしい。

まぁ、ベルの事情を弟想いのカルナは全て把握しており、その上でベルなら問題ないと判断して放置していた。

 

ーーーだが、ベルを心配してここまで頼まれたら断るわけにはいかないか。

 

「わかった。その頼み引き受けよう。アイズはどうする?」

「私も行く。……まだちゃんと謝っていないから」

「あの、ヴァレンシュタイン氏! ベル君は……ベル・クラネルは、貴方に助けてもらったことを本当に感謝していました!」

「………!」

「ふっ、良かったな。アイズ」

「………うん」

 

この時、落ち込んだ気持ちは吹き飛びアイズが微笑んだ。

 

「さて、アイズ。ちょっと急ぐが………ついてこれるか?」

 

カルナの問いにアイズは力強く頷き、

 

「ならーーー行くぞ!」

「ーーー!」

 

両者は強脚を解放し、同時にダンジョンへ向けて踏み出した。

 

 

◆◆◆

 

 

ベルを助ける為にカルナとアイズはダンジョンを疾走する。広大なダンジョンから人一人を探し出すのは至難だが、カルナは真っ直ぐ8階層まで駆け抜けた。

 

「どうして8階層?」

「前に会った時、到達階層が8階層だと言っていた。このペースで攻略していれば10階層まで行っているかもしれない」

「………この短期間で10階層?」

 

アイズが疑問に思うのも当然だ。アイズが一人で辿り着くまで半年以上かかった10階層にベルは一ヶ月未満で到着しているのだ。その異常な成長速度にアイズも気付いたのだろう。

もっとも、カルナは一ヶ月と経たずに10階層どころか『中層』に進出していたが。

二人は瞬く間に9階層を走破し、10階層に到達した。

ダンジョン10階層。

広大なルームが数多く存在し、9階層以上でいなかった大型モンスター『オーク』が出現するようになる。何より特徴的なのが『霧』。視界を妨げるベールは方向感覚や接近するモンスターの察知を鈍らせ、下級冒険者のダンジョン探索を困難にする。

 

「いたぞ。ついてこいアイズ」

 

しかし、カルナの超視力を用いればこのような霧、障害にもならない。遥か前方でモンスターに包囲されたベルを確実に捉えた。

 

「ーーー【ファイアボルト】‼︎」

 

霧の海を裂く、砲声と炎雷にアイズもベルの姿を捉えた。そして驚愕する。

10階層に到達しているのにも驚いたが、ベルはオークやインプに囲まれ苦戦しながらも、魔法とナイフを駆使して戦っいた。

時間さえ掛ければカルナやアイズの助けがなくても切り抜ける事は可能だろう。

ほんの二十日前まで新人冒険者だと思えない、ありえない成長ぶりだった。

 

「アイズ。驚くのは分かるが、助けるぞ」

「! ーーーうん」

 

カルナの言葉で我に帰ったアイズは頷き、ベルの元に向かった。

不意打ちしようとしたインプをアイズが斬り裂き、周囲から集まるオークをカルナが粉砕した。

第一級冒険者達の動きを捉えられず、モンスター達は何が起きたかも理解できずに屠られていく。

そしてLv.1のベルにも彼等を捉えることができず、誰かが助けてくれいるほとは分かるが、誰なのかが判断出来ないでいた。

まさかそれが自分の兄と憧憬の人だとは夢にも思わなかっただろう。

 

「すっ、すみません! 急いでるんです!」

 

だが、それ以上にベルには重要な事があった。消えたサポーターを追う為に彼は駆け出した。

 

「あ」

「仕方ない。残りを片付けるぞ」

 

ベルを追えないようにカルナとアイズは残ったモンスターを全滅させた。

 

「行ってしまったな。ベルは俺達が誰かわからなかったらしい」

「また、謝れなかった………」

「そう落ち込むな、アイズ。ベルを助けられた、今回はそれで納得しておけ。ーーーそれにアイズとベルの縁はまだ切れていないようだ」

 

カルナは草原に落ちていた防具を拾い上げた。落ちていたのはエメラルドに輝くプロテクター。先程、ベルがオークの一撃を防ぐ時に弾け飛んだのをカルナはしっかりと見ていた。

 

「これは、お前が直接手渡せ。そして気持ちをちゃんと伝えろ」

「うん」

 

アイズは渡されたプロテクターを大事そうに抱えた。しかし、感じた気配にすぐに顔を上げた。

 

「………?」

「………見られているな。いや、この気配は………」

 

同じく気配を感じたカルナもアイズと同じ方向を見る。だが、警戒はしなかったあの賢者はいつも唐突に現れる。

 

「もう見破られている。姿を現せ、フェルズ」

「………やはり、気づかれてしまうか。第一級冒険者は誰もが鋭すぎる」

 

黒ずくめのローブを纏った魔術師(メイガス)、フェルズが現れた。

 


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