ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第四十三話

「カルナ、知り合い?」

 

目の前の怪し過ぎる人物と親しげに話すカルナにアイズが問う。

 

「ああ………以前、『宝玉』の回収を頼んできた依頼主(クライアント)だ」

 

カルナの言葉にアイズははっとする。あの18階層での戦い。正体不明の強敵達が狙っていた『宝玉』。それの回収をカルナに依頼した人物が目の前にいた。

 

「フェルズ、また依頼か? わざわざアイズがいる時でなく俺一人の時に接触すればいいだろう」

 

異端児(ゼノス)との関係を考えればフェルズとカルナが繋がっていることは知られないべきではない。それどころかフェルズの存在自体を隠しておくべきだった。それが理解できないほどフェルズは愚かではない。一体何故?

 

「カルナ・クラネル………そしてアイズ・ヴァレンシュタイン………今回は君達二人に冒険者依頼(クエスト)を託しに来た」

「………24階層にある『宝玉』の回収か? あれなら俺一人で十分だと思うが?」

 

24階層でモンスターの大量発生が起こっているのはカルナも知っている。それが30階層と同様の食料庫(パントリー)を封鎖されたモンスターの大移動であることもカルナは察していた。

だから、またフェルズが接触してくるだろうと判断し待っていたのだが、まさかアイズも巻き込もうとするとは思わなかった。

 

「………18階層の戦闘を拝見させて貰った。もしあの男が出てきたとしてーーー本当に一人で足りると言えるのか?」

「………」

「沈黙は肯定と取る。だからこそ【剣姫】の力も借りたいのだ。30階層では同志達にも大きな被害が出た。これ以上彼等に頼るわけにはいかない」

 

フェルズの言っている事が正しいだけにカルナは何も言い返せなかった。

24階層のモンスターなど何百、何千いようが蹴散らせる。闇派閥(イヴィルス)やレヴィスが相手でもどうにかできる自信がある。だが、クー・フーリンだけは別だ。あの男が出てきただけで形勢は一気に逆転する。カルナといえどクー・フーリンと他の敵全てと戦うのは不可能だ。

 

「………アイズ、お前はどうする?」

 

否定する言葉が見つからないカルナは、アイズの意思に委ねる事にした。確かにカルナ一人では戦力不足なのは事実だが、戦うかどうかはアイズ自身が決めることだ。もっとも、

 

「私も行く。カルナと一緒に戦う」

「………そういうと思っていた」

「恩に着る」

 

アイズが、いや【ロキ・ファミリア】に仲間一人を戦わせるような者は薄情者は一人もいない。

 

「できれば今すぐにでも向かってほしい。いいだろうか?」

「あの、伝言をしてもらってもいいですか? 私の【ファミリア】に………」

「ん? ああ………なるほど。わかった、それくらいは頼まれよう」

 

アイズは仲間に心配をかけたくないと思い、その気持ちを察したフェルズは承諾した。

アイズは携帯用羽根ペンーーー少量の血をインク代わりにできる中々高価な魔道具(マジックアイテム)ーーーで羊皮紙にロキ宛ての手紙を書いた。

 

………『心配しないでください』って、天然なアイズがこんなこと書いても余計、心配しないか?

 

横から手紙を見たカルナはそんな感想を抱いた。

 

「アイズ、俺も一筆書こう」

 

このままではロキも心配するため、安心させるためにカルナは『俺も一緒だから安心しろ』と書いた。

これが逆効果になり、手紙を読んだロキが、

 

「天然二人で安心できるか! 余計に心配するわ、おバカども‼︎」

 

と叫ぶ事になるのをカルナは知る事はない。

 

「まず、『リヴィラの街』に寄ってくれ。『協力者』が既にいる」

「わかりました」

「承知した」

 

話を終えたフェルズは霧の中へ消え、カルナとアイズは『協力者』と合流するために18階層に向かった。

 

 

◆◆◆

 

 

10階層を出発したカルナ達は瞬く間に18階層に到達し、『リヴィラの街』にあるフェルズに行くように言われた酒場に目指していた。

 

「………ああ、ここだ。記憶違いではなかったな」

「こんな所に、酒場があったんだ………カルナ、よく知ってたね」

 

アイズが感心するようにカルナが知っていた、目的の酒場『黄金の穴蔵亭』は街から離れ、狭い袋小路に隠れるように構えられた店だった。『リヴィラの街』を長年利用していたアイズさえ知らなかったほどだ。

 

「まぁ、こういう所を知っていれば色々と便利でな」

 

人通りのないこのような場所は『開錠薬(ステイタス・シーフ)』などの非合法のアイテムの取引や闇派閥(イヴィルス)などの表だって活動できない者達の密会によく使われる。カルナもそういう裏の住人達から表に出てこない情報を入手するため、こういう場所は利用していた。

 

「とりあえず中に入ろう」

「うん」

 

カルナ達は『黄金の穴蔵亭』に入店した。店内の客は存外に多く、カードゲームをする者、詩を歌う者、話し合う者などでカウンター席以外は全て埋まっていた。

 

「………変だな、普段はこんなに混んでは………ああ、そういうことか………」

 

隠れ家のようなこの店が客で溢れかえるなどありえない。だが、カルナの本質を見抜くスキル『貧者見識』は彼らが同じ【ファミリア】であることを看破した。そして『協力者』が誰であるかも悟った。

 

「アイズ、指定された席で『合言葉』を言ってくれ。俺は知り合いがいるから声をかけてくる」

 

カルナはアイズの返事を待たずに離れ、テーブル席の一つに向かった。

 

「よし、フルハウス! これでボクの勝ちだ!」

「残念。俺はストレートフラッシュ」

「えええっ、そんなー⁉︎」

「何よ、またキークスの勝ち?」

「ははは、今日の俺はついてるぜ!」

「あんた、ここで運を使い果たして死ぬんじゃない?」

「怖ぇこと言うな⁉︎」

「うう〜、ボクの魔石が〜」

 

カードゲームをしているテーブルは賑やかだ。この位置からでは分からないが、性別が判断し辛い中性的な声をした小柄な子が大負けして落ち込んでいるようだ。人の隙間から見えるピンク髪が元気を無くし、萎れたようになっていた。

冒険者とは思えないほど派手に着飾っているのが気になったが、カルナは目的の人物への挨拶を優先した。

 

「久しぶりだな、アスフィ」

「ええ、お久しぶりです。こんな所で会うとは思いませんでしたよ、カルナ」

 

カルナが話しかけた眼鏡をかけた美女は来ることがわかっていたのか突然話しかけられても驚くことなく返答した。

彼女は【ヘルメス・ファミリア】団長、アスフィ・アル・アンドロメダ。オラリオに五人といない『神秘』保有者で、【万能者(ペルセウス)】の二つ名を持つ、稀代の魔道具作製者(アイテムメイカー)である。

カルナとアスフィ、というより【ヘルメス・ファミリア】の交友はカルナがオラリオに来たばかりの頃に遡る。

何故かと言うとカルナはベルに手紙や仕送りをしたかったが、祖父が正体を隠そうとしていたのを知っていたので迂闊に送ることができなかった。

そこで祖父と関わりがあり、尚且つ秘密裏に接触できる神物としてヘルメスに白羽の矢が立ったのだ。

幸いヘルメスは祖父の使い走りで、よく都市外に旅に出るので郵便を頼むのは簡単だった。

ヘルメスと頻繁に交流すれば必然とヘルメスに振り回されるアスフィと話す機会ーーーほぼアスフィのヘルメスに対する愚痴ーーーも多くなったという訳だ。そのため、彼女とはそれなりに親しい。

 

「それでどうしたんです? 申し訳ないんですが、これから冒険者依頼(クエスト)があるので手短に」

「ああ、大したことではない。これから一緒に冒険する仲間に挨拶しようと思っただけだ」

「! ………それは、どういう意味ですか?」

 

カルナは答える代わりにある方向を指差した。そこでは、

 

「『ジャガ丸くん抹茶クリーム味』」

 

アイズが『合言葉』を伝えた瞬間、隣の椅子に座っていた犬人(シアンスロープ)の少女が盛大に引っくり返っていた。

 

「………あ、あんたが、援軍?」

 

アスフィと同じ【ヘルメス・ファミリア】所属のルルネ・ルーイが放心しながらアイズに問う。

 

「ーーーという訳だ。俺とアイズが援軍だ。よろしく頼む、【ヘルメス・ファミリア】」

 


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