ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

49 / 61
第四十八話

ダンジョン24階層。

カルナ達は順調に階層を踏破し、24階層に到達した。しかし、此処からが問題だった。

 

「うげぇ………」

「ハハッ………モンスターがアリのようだ」

「24階層に着いたとたんにこれかよぉ………」

【ヘルメス・ファミリア】の面々が呻く。何しろ彼らの眼前には広い通路を埋め尽くすほどのモンスターの大群だ。

数え切れないモンスターの群れはただ行列を成しているだけでも背筋が寒くさせる。

 

「アスフィ、どうする?」

「どうせ駆除しなければいけません。ここで始末します」

 

アスフィの言葉に各員が武器を構え始めた。

 

「後衛は詠唱を開始。接敵する前に数をーーー」

「待って」

 

アイズが号令を出そうとしたアスフィを遮る。

 

「私に行かせて」

 

返事も待たずにアイズはモンスターの群れに飛び込んだ。

 

「お、おいっ⁉︎」

「ああ、大丈夫だ。行かせてやってくれ」

「わぁ、【剣姫】飛び出しちゃったね」

 

突出したアイズにアスフィ達が慌てるが、アイズと同じ第一級冒険者であるカルナと、能天気なアストルフォは落ち着いていた。

 

「カルナ、何故【剣姫】を一人で?」

「アイズは【ランクアップ】してからまともな戦闘をしていない。Lv.6になった自身の実力を把握しておきたいんだろう」

 

【ランクアップ】時に起こる【ステイタス】の大幅な強化はアビリティの熟練度の比ではない。

その為、激変した身体能力と感覚にズレが生じてしまう。遥か格下ならばその程度は問題ない。

しかし、同格の敵などと対峙した時は、その些細な感覚の誤差が命取りとなる。

 

「だから、このモンスターの大群は感覚のズレを修正するのに丁度いいとアイズは思ったようだ」

「でも、ヤバイって! いくら【剣姫】でもあの数は!」

「? ………ああ、ルルネ達は分かっていないのか」

「分かってないって! 何がだよ!」

「俺達、Lv.5以上の実力を。第一級冒険者と呼ばれる者ならばこの程度は乗り越えてみせる」

「だよね! ワクワクするな、彼女がどんな戦いを見せてくれるのか!」

 

カルナは大丈夫だと言い、アストルフォはその瞳を【剣姫】がどんな戦い振りをするのか期待を込めていた。

そしてアイズとモンスターの大群の戦闘が、否、一方的な蹂躙が始まった。

 

巨体に似合わない『敏捷』を誇る『バグベアー』が、鋭い剣角を持つ『ソード・スタッグ』が、中層でも特に大型な『バトルボア』が、天然武器を装備した『リザードマン』が、2Mを超えるゴブリンの上位種『ボブ・ゴブリン』が、アイズに殺到したモンスター達は瞬く間に切り刻まれて大量の屍と灰を積み上げていく。

『上級殺し(ハイ・キラービー)』の渾名を持つ巨大蜂『デッドリー・ホーネット』や弾丸による遠距離射撃をする『ガン・リベルラ』など地に足をつける者には厄介な飛行モンスターも空中から襲い掛かるが、アイズは壁を蹴り、宙を自在に舞って撃墜する。

正攻法では無理ならばと『ダーク・ファンガス』が同族のモンスターを巻き込むのも辞さず、猛毒をバラ撒くがーーー通用しない。G評価以上の『耐異常』を習得しているアイズは猛毒も無効にしてしまう。

結果、夥しい数のモンスター達はたった一人の少女に手も足も出ずに殲滅された。

 

「倒し切っちゃった………」

「うそでしょ………」

「これ言ったらおしまいかもしれないけどよぉ………」

 

『ーーー俺達いらなくね?』

 

モンスターを殲滅したアイズを信じられない目で見る【ヘルメス・ファミリア】の面々。対して、

 

「十分か………自身の能力を確かめながら戦っていたから時間が掛かったな」

「そうだね。あえて全部の攻撃を受けてから反撃なんて面倒な戦い方してたし、【剣姫】本来の戦い方が見たかったな〜」

 

カルナは結果を、アストルフォはアイズの戦い振りに不満を感じていた。

 

「あれで不満ってお前等どんだけだよ」

「………もう全部この三人でいいんじゃないですかね?」

「………帰っちゃう?」

「そういうわけにもいかないでしょう………」

 

アスフィも帰ろうと言いたかったが、何とか堪えた。

 

「………や、やっぱり第一級冒険者ってすごいなっ。あれだけの群れを一人で倒すなんて、他の冒険者達がビビるわけだよっ! あ、ポーションは要るか?」

「ううん、平気………ありがとう」

 

戦闘を終えたアイズにカルナ達は合流し、ルルネが話しかける。

アイズの圧倒的な実力に気後れしながらも、これ以上ない頼もしい味方にルルネ達は興奮した。

 

「で、モンスターは片付けてもらったけど………アスフィ、これからどうする?」

「魔石を放置しては碌なことになりません。各員周囲を警戒しながら魔石を回収!」

「いや、警戒は無用だ」

 

アスフィが周囲を警戒するように言うがカルナがそれは無駄だと否定する。

アスフィから何故と問い掛けるような視線を向けられ、カルナがモンスターが行進してきた北を指す。

 

「もう第二波が来た」

「………そのようですね」

 

カルナの言う通り、北からはまたモンスターの大群が迫ってきていた。

 

「!」

「待て、アイズ」

 

モンスターを確認したアイズが駆け出そうとするが、カルナが制した。

 

「身体能力の把握はできただろう。今度は俺が行こう。俺だけ楽をする訳にはいかない」

 

これまでの道中はアスフィ達に任せきりで、先程はアイズが戦った。ならばカルナ一人だけ戦わないのは不公平だ。

 

「【剣姫】に続いて【施しの英雄】の戦いも見れるんだ! 今度は期待していい?」

「アストルフォ。すまないが、その期待には応えられそうにない」

「え、どういう事?」

「簡単だ。見せるほど長引かない」

 

カルナは前に歩み出しながら、アストルフォの疑問に答えた。

 

「あ、【剣姫】より早く終わるってこと? 十分もかからないってことは五分? 一分? ーーーあっ、分かった! 三十秒でしょう!」

「残念ながら、全てハズレだ。答えはーーー」

 

カルナは《シャクティ・スピア》を両手で握り締め、横向きに限界まで振り被った。

 

「はああああぁぁっっ‼︎」

 

全力の横薙ぎ。Lv.7の『力』。それも【ランクアップ】時の初期化されたアビリティではなく、大幅に上昇した熟練度によって振るわれた《シャクティ・スピア》は、絶大な破壊力を生み出す。

音速さえ越えた横薙ぎは衝撃波を発生させ、前方のモンスターを地形もろとも全て薙ぎ払った。

無論、地形さえ変える威力に中層のモンスター達が耐えられるはずもなく、一匹残らず絶命した。

 

「一撃で十分だ」

『やり過ぎたっ‼︎』

「流石はLv.7! 次元が違うね!」

 

モンスターを全滅させ、平然と話すカルナに、アイズ以外がツッコミ、アストルフォに至っては感銘していた。

モンスターを倒したのに文句を散々言われたカルナは納得しかねながらも、再びモンスターが行進してきた北の食料庫(パントリー)を目指した。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。