ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五十一話

 

「フィンが蒔いた希望の種は順調に芽吹いているようだ」

 

小人族(パルゥム)は衰退しつつある種族だ。かつて小人族(パルゥム)は『フィアナ』と呼ばれる架空の女神を深く信仰していた。彼女は元を辿れば『古代』にまで遡るとある騎士団が擬神化した存在で、小人族(パルゥム)の心の拠り所だった。ゆえに本物の神々が降臨した時、影も形もなく、心の拠り所を失った小人族(パルゥム)は加速度的に落ちぶれてしまった。

だから、フィンは名声を欲した。一族の再興の為、世界中で生きる小人族(パルゥム)の希望となるために。

その成果は報われようとしている。小人族(パルゥム)だからと諦めていたポックが、死地に飛び込み、自身を追い詰め、強くなろうとしているのだから。

 

「ふん、あんた等の団長の思惑なんか関係ないね。オレはただ勝手に英雄になったアイツを見返したいだけだ」

「はっ、口だけなら誰でも言えるぜ。できなきゃ、ただの妄言だ」

「ベートの言う通りではあるな。それはーーー」

 

カルナが前方の肉壁を見ると、

 

「リウォ・フレア‼︎」

 

メリルが放った大火球が肉壁に着弾。轟音と共に肉壁は焼け落ち、風穴を開けた。

 

「ーーーこれから向かう場所で見せて貰えばいい」

 

風穴の先。待ち受けるは怪物、怪人、闇派閥。生半可な覚悟と実力では生き残れない地獄だ。

 

「行きます。全員陣形を崩さないように」

 

アスフィに先導され、団員達が大穴に入っていく。

 

「………この先に奴もいるだろうな」

 

最後尾を歩くカルナは18階層で戦った強敵を思い出しながら呟いた。

 

 

◆◆◆

 

 

「壁が………」

 

内部へ侵入した後、焼け落ちた肉壁が盛り上がり、修復された。まるで侵入者を逃さないというように。

 

「脱出できなくなったわけではありません。帰路の際は、また風穴を開ければいいだけのことです」

 

閉じ込められたことに士気が下がる団員達はアスフィの呼び掛けで平静を取り戻し、進み始めた。

 

「なぁ、怖い想像してもいいか? カルナがさっき言ってたんだけどさ、このぶよぶよした気持ち悪い壁はモンスターらしいんだぁ………てことは私達、化物の胃袋の中をすすんでるんだよな?」

「おいっ!」

「止めて下さい‼︎」

「シャレにならないなぁ」

「騒がない!」

 

ルルネの恐ろしい独り言に団員達が非難轟々の嵐を起こし、喧し過ぎてアスフィに怒られた。

 

「胃袋という表現は間違っていないな。此処が敵のテリトリーなのだから。ただ本当の胃袋のように胃液で溶かされる心配はないから安心しろ。元凶を取り除けばこの肉壁も消える」

「カルナ、この先にある元凶って何ですか?」

「ああ、レフィーヤ達には説明してなかったな。この先の食料庫にいるのはレフィーヤ達も戦ったことがあるヴィオラスの上位種だ。そいつが食料庫(パントリー)の養分を吸ってダンジョンを変質させている」

「つまり、そのモンスターを倒せば全部解決ってことだろ? 分かりやすくていいぜ」

「そう単純に行くものか。やはり狼人(ウェアウルフ)は頭が軽いな」

「あぁ?」

「なんだ?」

「ベートさん、フィルヴィスさん! 喧嘩しないで下さい!」

 

険悪になる二人にレフィーヤが慌てて止めに入ってた。

カルナ達は【ヘルメス・ファミリア】にも負けないほど賑やかに通路を進んでいたが、すぐに足を止めることになった。

 

「分かれ道………」

「地図にはない道………」

「ということはもう既存の地図は役に立ちそうもありませんね」

 

正面、左右、情報にも存在する四つの道は地図には載っていなかった。

迷宮壁も貫通しているのか通路は複雑に枝分かれしていおり、本来の迷宮とは全くの別物と化していた。

 

「ルルネ、地図を作りなさい。ここまでの分も含め前進しながら作れますね?」

「了解。問題ないよ」

 

アスフィの指示にルルネは羊皮紙と羽根ペンを取り出し、最初から曲がった回数や道の長さを数えていたように地図作成をはじめた。

 

「すごい、ね………地図を、作れるんだ」

「んー、そうか? 【剣姫】に褒められるなんて光栄だけど………私は一応、シーフだからな」

「いや、見事なものだ。マッピングは誰にでも出来ることではないし、今時の冒険者は大半がその方法も知識も知らない希少な技能だ」

 

現在の冒険者は過去の先人達が『古代』から命懸けで開拓してきた地図情報を頼りに探索をしている。マッピングしなくても探索をできるようになった冒険者達は必然的にマッピング方法を知らなくなってしまった。

 

「ん………? でも、どうして方角がわかるの? ダンジョンって方位磁石が使えないはずじゃ………」

「こいつの特技なんだよ。人間コンパス、どんな場所でも方角げわかっちまうのさ」

 

アイズの疑問にルルネではなく、近くにいたキークスが答える。

 

「ホレ」

 

そしてルルネを回転させた。目が回りそうな高速回転。通常なら方向感覚など狂うはずだが、

 

「北! 南! 東!」

 

止まった瞬間、ルルネは北を指差し、別の方角も正しく言い当てた。

 

「おぉ〜!」

 

これにはアイズも感銘の声を出す。しかし、

 

「お前達。凄いのは認めるが、ふざけているとーーー」

「遊ばない」

「「痛っ!」」

「ーーーアスフィに怒れる………遅かったな」

 

ふざけ過ぎてアスフィに拳骨を食らっていた。

 

「ルルネ、その特技は誰でも覚えられるか?」

「え? そりゃできるよ。移動しながらいつも北の方角を意識して頭の中で地図を描いていくんだ。そうすりゃ、曇り空の海原か、目隠しして運ばれたりしない限り迷うこともない。訓練次第で誰にでもできるって」

「オレはできない」

「私も無理でしたね」

「いつものダンジョンなら何の意味もない技能だけどな」

「私はよくヘルメス様の付き添いで都市外の怪しい遺跡とか潜ったりするんだよ!」

 

ルルネの言葉をアスフィ達が否定した。

 

「だが、試す価値はあるな。ルルネ、もし良ければマッピングの方法を教えてくれないか?」

「いいけど………自分でいうのも何だけどカルナには必要ないんじゃ?」

 

ルルネの言う通り、カルナは生粋の冒険者だ。ルルネのように都市外の遺跡に行くわけでもないのだから、膨大な地図情報が蓄積されたダンジョンでは意味がない。

 

「そんなことはない。むしろ、俺達【ロキ・ファミリア】にこそ必要な技能だ」

 

【ロキ・ファミリア】は現在オラリオに存在する【ファミリア】の中で最高到達階層を誇る。双璧を成す【フレイヤ・ファミリア】は未到達階層攻略にはあまり力を入れていないので、未だ到達階層の最高記録(レコード)を誇る【ゼウス・ファミリア】を超え、人類が到達していない未開拓階層に一番近いのは【ロキ・ファミリア】になるだろう。

その時、未開拓領域のマッピングは今後の探索の為にも必須の技能だ。

 

「だから、教えてくれ。早速だが地図を描くときはどう描いていく? やはり特別な描き方があるのか?」

「そういう理由なら構わないけど………ちょっ、近い近い! 顔が近過ぎるよカルナ⁉︎」

「すまない。地図にばかり気を取られていた」

 

ルルネの手元にある描きかけの地図を見ようとしたカルナは、ルルネと頬が触れそうなほど至近距離にいた。

 

「………何でしょう、この気持ちは。面白くありませんね」

 

カルナとルルネが至近距離にいるのを見たアスフィは何故か胸の奥がモヤモヤしていた。


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