ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第五十八話

 

 

「ここまで来たか」

 

先程、レヴィス達と会話していた白骨の兜を被った男がアスフィ達を見ながら呟く。

 

「何よ、一人も殺せてないじゃかい。貴方達の花モンスターも大したことないのね」

 

隣にいた少女が侵入者全員が無事なのを確認して呆れた声を出した。

 

「それは貴様のトカゲ共にも言えることだ。あれだけの数を投入しておきながら情けない」

「あら、言ってくれるわね。でも、いいのよ。イル・ワイヴィーン程度ならいくらでも代わりがいるもの。ーーーそれにあいつ等を始末するなら、この子がいれば十分よ」

 

少女がコツンと地面を叩く。すると地面が振動した。地中にいる何かが応えるように。

 

「そうか。だが、他の奴らにも働いて貰わなければ困るぞ。我々に役立たずは必要ない」

「わかってるわよ」

 

少女は振り返り、控えていた白尽くめの者達を見る。

 

「さぁ、貴方達の悲願を邪魔する者達が来たわ。願いを叶えたいなら、戦いなさい。その命を捨てでも侵入者に死を与えなさい!」

「「「死を! 死を! 死を!」」」

 

少女の死ねという命令にもローブの集団は応じた。彼等も理解していた。自分達は捨て駒に過ぎないと。想いを利用されているだけだと。

だが、それでも叶えたい願いがある。再び会いたい人がいる。だから、彼等は死を恐れない。

 

「殺せぇ‼︎」

 

少女の号令に死をも恐れぬ信徒達はアスフィ達に襲いかかった。

 

 

◆◆◆

 

 

「おい、なんかあいつ等やる気満々だぞ!」

 

殺意を溢れさせる敵にルルネが叫んだ。

 

「応戦します。こちらとしても彼等がここで何をしているのか、聞き出さなくてはいけませんから………ね」

 

アスフィが周囲を見渡す。ヴィオラスが収容された大型の檻がいくつも置かれ、肉壁からはヴィオラスが産まれ落ちていた。

敵が何をしようとしているかはわからない。だが、ロクでもないことなのは確かだ。それを問いたださなければならない。

 

「前衛は食人花を警戒しながら前進。距離をつめた後は中衛の後に下がりなさい。

中衛は接敵後、前に出て交戦。可能であれば敵一人を捕縛しなさい。

後衛は合図するまで魔法・魔剣は禁止。回復薬の準備を」

「あの、私達は何をすれば?」

「【ロキ・ファミリア】と【白巫女】には捕縛した敵を尋問している間、敵を近づけないようにしていただきたい」

「はっ、別に全員潰しちまっても構わないんだろ?」

「それはお任せします。ではーーーかかりなさい‼︎」

 

アスフィの号令に【ヘルメス・ファミリア】が動き、ローブの集団と開戦した。

 

戦況はアスフィ達に優勢。ローブの集団は数こそアスフィ達の倍以上いるが、アスフィ達は互いを助け合う連携と敵を上回る【ステイタス】で圧倒した。

前衛のファルガーやエリリーが盾で降り注ぐ矢、突き立てられる剣や槍を防いでる間に、中衛のセイン、キークス、タバサが前衛を飛び越え、数人の敵を上空から撃破。その内の一人を捕縛した。

 

「さて、お前等、どこの【ファミリア】だ?」

「………ッ!」

 

ローブの人物を取り押さえたセインが問いかけるが口を閉ざす。わかってたことだが喋る気はないらしい。

 

「ま、黙っていても無駄なんだけどな。ルルネ、『開錠薬(ステイタス・シーフ)』を」

「おっ、なかなかゲスいね。このエルフ!」

 

『開錠薬』は普段は隠蔽されている背中に刻まれた神の恩恵を暴き、所属派閥とその者の真名を知ることができるアイテムだ。

ちなみに非合法のアイテムで一般的には使用が禁止されている代物だが、それを彼らが持っているのは推して測るべきだろう。

 

「さーて………お前等がどこの【ファミリア】か、その体に聞かせてもらおうか」

「神よ、盟約に沿って、捧げます………」

 

だが、ローブの人物は所属がバレそうになっている状況で悟ったように呟いた。

そして手を動かし、懐に手を入れた。すると彼の上半身に巻き付けられた真っ赤な紅玉があらわになった。

 

「………‼︎ ルルネ、離れろ‼︎」

 

その紅玉の正体を看破したセインがルルネを突き飛ばした。同時にローブの人物は発火装置の紐を勢いよく引いた。

 

「この命、イリスのもとにぃーーーーーー‼︎」

 

瞬間、男の体は爆砕した。

『火炎石』。深層域に棲息するモンスター『フレイムロック』から入手できる強い発火生と爆発性を持つ『ドロップアイテム』。

 

「じ、自爆した⁉︎ ーーーセイン! おい、返事しろ、セイン!」

 

突き飛ばされ爆発範囲から逃れたルルネが、巻き込まれたセインの名を叫ぶ。

爆炎で背中の皮膚を焼くことで【ステイタス】を見れなくなった。彼は情報漏洩を阻止する為に自爆したのだ。

 

「ーーー愚かなこの身に祝福をぉ‼︎」

 

そして別のローブの者も特攻を仕掛けた。戦闘不能になった者から敵を道連れにしようと自爆を決行していく。

 

彼らは死兵だ。使命のために死をも覚悟した一団。己の命さえ爆弾に変えて襲いかかる異常の集団は恐怖を捨て凶行に及ぶ。

 

「咎を許したまえ、ソフィア!」

「レイナ、どうかこの清算をもってーーー‼︎」

「嗚呼、ユリウス‼︎」

 

想い人に命を捧げるように彼らは次々と自爆を行う。

 

「こいつら、正気じゃない‼︎」

「バカか、てめぇ等‼︎」

 

その凶行に【ヘルメス・ファミリア】は動揺を隠せない。敵の行動は完全に彼らの理解を超えていた。

 

「ボサッとしてんじゃねぇッ‼︎」

 

動揺で誰もが動きを鈍らせる中、ベートが吠えた。このまま混乱しては被害が拡大する。

第一級冒険者としての矜持。そしてカルナに任されたという意識が彼を誰よりも早く行動に移させた。

ゆえに彼に躊躇いはなかった。【ロキ・ファミリア】随一の俊足を遺憾なく発揮し、ローブの者達に接近。

 

「がぁっ⁉︎」

「ぐぅっ‼︎」

「げぇっ⁉︎」

 

大半がLv.1、上級冒険者もLv.2程度の敵はベートの速さを認識することはできず、首を蹴り砕かれた。

自爆するには発火装置を作動させるだけでいい。言い換えれば発火装置を作動させなければ自爆できない。

そのため、ベートは躊躇いなく敵を殺した。仲間から犠牲者を出さないために。

 

「ガルあああああああああああああああッ!」

 

ベートは突き進む。目指すは敵の首魁と思える白装束の男と黒装束の女がいる丘を目指して。

 

 


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