ダンジョンに施しの英雄がいるのは間違ってるだろうか   作:ザイグ

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第六話

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ‼︎」

 

先程と同様にカルナとヴォルガング・クイーンか激しくぶつかり合う。

しかし、先程と違い今度はカルナの方が圧倒的に押していた。【アグニ】で強化されたシャクティ・スピアは、どれだけ攻撃しても無傷だった鱗を容易に貫き砕き、着実にダメージを与えていた。

 

『ーーーァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ‼︎』

 

ヴォルガング・クイーンも負けてはいない。無尽蔵のような『魔力』を燃焼させて損傷を瞬く間に自己修復し、捨て身の特攻を仕掛ける。

 

「予想以上にしぶといな」

 

捨て身の特攻さえカルナは捌き、カウンターを叩き込んでいる。

それでもヴォルガング・クイーンの耐久力は凄まじく、微塵も揺るがず攻撃を続ける。

一見すると戦況はカルナの方が優勢に見えるがそうではない。

短期戦ならカルナが優勢だが長期戦になればカルナが劣勢になる。

実はカルナの魔法【アグニ】は一つだけ欠点がある。【アグニ】はアイズの【エアリアル】に似た性質を持つが炎で攻撃力や速度を爆発的に上昇させるので【エアリアル】を上回る強化が可能だ。その反面、精神力(マインド)の燃費が悪く長期戦に不向きなのだ。

【アグニ】を使ってようやくダメージを与えれる現状、魔法を解除する訳にいなかい。

しかし、ヴォルガング・クイーンの魔力は底が見えず、自己修復が不可能になるほど削り切るより、カルナの魔力が尽きる方が速い。

また相性も悪い。【アグニ】は破壊力の高い炎属性だが、ヴォルガング・クイーンも炎属性。強大な炎の魔法を使用する為、非常に高い火耐性を備えているのだ。

それが炎で強化されたシャクティ・スピアの攻撃を軽減し、攻め切れない要因の一つとなっていた。

更に、

 

「また生まれたか。これ以上増えられると厄介だな」

 

敵はヴォルガング・クイーンだけでない。

また一体。壁面を破ってヴォルガング・ドラゴンが生まれた。戦闘中でも次々とヴォルガング・ドラゴンが生まれ、その数は戦闘前と変わらないほど増えていた。

更に上の縦穴からはイル・ワイヴァーンが、下の階層からはヴィルガが押し寄せてきていた。

時間を掛ければ掛けるほど敵は増え、カルナは消耗していく。

カルナが勝つには早期決着しかなかった。

 

「ーーーやるしかないか」

 

このままでは負ける。それを理解したカルナは賭けに出た。

より大量の精神力(マインド)を注ぎ込み、【アグニ】の火力を上げた。シャクティ・スピアに宿った炎がより苛烈になり、カルナの背から炎の翼が噴き出す。

それはある意味自殺行為だった。ただでさえ精神力(マインド)の消費が激しいのに更に精神力(マインド)を注ぎ込むなど。

だが、現状で戦っても磨り潰されるのは明らか。ならば限界を速めることになろうとも、いま以上の破壊力を持ってヴォルガング・クイーンを屠るしかない。

 

「いくぞっっ‼︎」

『ッッッ‼︎』

 

先程までが遊びだったかと思うほどの超弩級連撃。加えて神速の如く縦横無尽に飛翔することでヴォルガング・クイーンを撹乱し、全方位から攻め立てる。

この猛攻に女性型も戦慄する。自己修復が間に合わない損傷、目で追うこともできない速度。このままでは殺されると『彼女』も理解したのだ。

 

『【火ヨ、唸レーーー】』

 

死を感じたヴォルガング・クイーンの行動は速かった。巨大な翼で体を包み、太い豪腕で女性型を覆う全力防御態勢に入り、詠唱を始める。

 

『【来タレ来タレ来タレ紅蓮ノ炎ヨ業火ノ咆哮ヨ星ノ鉄槌ヨ開闢ノ契約ヲモッテ反転セヨ空ヲ焼ケ地ヲ砕ケ橋ヲ架ケ天地(ヒトツ)ト為レ降リソソグ天空ノ斧破壊ノ厄災ーーー】』

 

超長文詠唱より威力で劣る長文詠唱。しかし、その分発動は速い。

 

『【代行者ノ名ニオイテ命ジル与エラレシ我ガ名ハ火精霊(サラマンダー)炎ノ化身炎ノ女王(オウ)ーーー】』

 

選択した魔法は殲滅魔法。視認できない速度で移動するカルナには一方向への砲撃など無意味。ならばルーム全てを覆う逃げ場がない攻撃をすればいいとヴォルガング・クイーンは判断した。

 

「簡単に撃たせん‼︎」

『ッッッ⁉︎』

 

魔法を阻止せんとカルナの攻撃が激しさを増す。全身を凄まじい勢いで破壊される激痛に女性型の顔が歪む。

激痛に詠唱が止まる。しかし、カルナはヴォルガング・クイーンにのみ意識を向けすぎた。

 

「がぁっ⁉︎」

『!』

 

カルナの死角。破壊された眼球。未だに治りきっておらず見えない片側から大火球が直撃し、大爆発を起こした。

周囲を囲むヴォルガング・ドラゴンの砲撃。

狙ったものではなくヴォルガング・クイーン諸共、蒸発させんと何発も放たれていた一発が偶然当たった。

『日輪具足』で無傷で終わったものの、爆発に呑まれたことでできた隙は致命的だった。

女性型はその隙を見逃さず詠唱を終わらせる。

 

『【ファイヤースウォーム】』

 

階層天域に燃え盛る隕石群が姿を現した。

全てを破壊せんと燃え盛る隕石の雨が58階層に降りそそぐ。

単純な威力は【ファイヤーストーム】が上だが、質量がある【ファイヤースウォーム】の方がカルナにとっては危険だった。

実体のない炎や雷などは【日輪具足】は完全に防げるが物質はそうはいない。

あの大質量に押し潰されれば鎧は無事でもカルナ本人が耐えられない。

それほどの絶体絶命の状況で、

 

「ーーーそれを、待っていたっっ‼︎」

 

カルナは笑った。

瞬間、着弾した隕石の雨は大爆発を起こし、轟炎と爆風を撒き散らした。

ルーム内の全てを呑み込み、滅ぼされるモンスター達の断末魔が響く。

攻撃が終わると58階層は焦土と化し全ての生命が消えていた。

 

『コレデ、オシマイ』

 

その光景を見渡してヴォルガング・クイーンは満足そうに呟いた。

 

 


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