比企谷八幡に特殊な力があるのはやはり間違っている。~救いようのない哀れな理性の化物に幸せを~ 作:@まきにき
最初に書いておくのを忘れていたのでこれだけ。
「」は話している時の言葉で。
[]は比企谷が聞こえた相手の心の声です。
「あの...私と付き合ってください!」
なぜ俺が告白をされているのかというと少し前まで遡る。俺はいつも通り学校に登校してきて上履きに履き替えようと下駄箱を開けると1枚の手紙が入っていた。そう世に言うラブレターというやつだ。そこらの男子ならここで舞い上がって喜ぶところだろうが俺は違う。この告白は嘘だと決めつけていながらも指定した場所に向かってしまうのは心の底で期待してしまっているのかもしれない。
ただ、ラブレターの指定した場所が体育館裏なのは止めてもらいたい、リンチされるのかと思ってしまうので本気で止めてもらいたい。
それで今に至る。
見た目は大人しそうで、黒髪。毛先は良く手入れされており長髪だとだというのに全然毛先が傷んでいない。その黒髪を左右で分けて結んでツインテールにしている、なんとも可愛い女の子だった。だが俺はこの女の子のことは全くといっていいほど知らなかった。今まで高校に入って13回ほど告白(仮)をされたが流石に1度や2度見覚えがあった。でも今回の相手は名前はともかく見たことすらなかったのだ、いっその事コンタクトを外して心の声を聞いてやろうかとも思ったが無闇に傷つくのも嫌なので辞めておく。
女の子があまりに返答の遅い俺に痺れを切らしたのか恐る恐る顔をあげてくる。
「あ、ああ。悪い、その君は誰でしたっけ?」
もし、可能性の話だが会ったことがあったとしたら気まずくなるので忘れてたくらいですむように濁して聞くことにした。
「あ、そうですよね...すいません急に。私の名前は神埼彩月って言います。えと、今年総武高に入学して1年生です」
女の子は慌てて自己紹介をしだした。なんだろう...。うしろに友達がいて、この子に罰ゲームをさせてるのだとしたらリアクションがおかしすぎる。これじゃまるで本当に告白をしに来ているみたいじゃないか、てか入学したばかりって後輩って事だよな....それゃ知らないはずだ。
「あ、ああそうなんだ...。えとたぶん話すのは初めて...だよね?」
「は、はい!ずっと話してみたいと思ってたんです!」
えーなにこの子。というかどうしようこれ...本気ぽい。俺はこの時妹である小町に言われている事を思い出した。「もしお兄ちゃんに告白してきた人がいたらコンタクト外してね♪小町的にはコンタクトしてないお兄ちゃんを好きな人じゃないと許せないから♪あっ!今の小町的にポイント高い♪」
これは余談だが小町は唯一俺の右目の能力について知っている。何故バレたのかと言うとそれはまた別の機会で話すことにする。
「そ、それじゃあさ」
「は、はい!」
「俺、実は目にカラーコンタクトしてるんだ、これ外して目を見てから決めてくれる?」
「え?そうなんですか!?・・・分かりました!ドンとこいです!」
あーほんとにドンとくるからね?俺はあんまり分からないけど妹から目が腐ってるとか言われるほどだからね?
・・・さてと。
俺は意を決してカラーコンタクトを両方外す、そして聞いた...いや聞こえてきた。
[嘘....まるで別人じゃない。嫌、こんなの...嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌]
嫌までは許容出来るがこれは無理だ、まじで死にたくなる。てかほんとに殺されそうというかこの子は、あれだ俗にいう危ない子だ。
[で、でも...目さえ潰せばカッコいいんだし...]
俺は嫌な予感がし額から汗が伝い落ちる。俺は見るよりも先に行動していた。ただしゃがんだだけだが、相手がなにもしてこなければ今すぐ帰って悶えたい所だが俺の目を見て先程まで茫然と立っていた女の子はいつの間にか右手をチョキの形にして俺の目が先程まであった位置につき出されていた。俺はコンタクトを付けるのも忘れて一目散に教室に向かうのだった。
キーンコーンカーンコーン。
授業開始の合図の鐘が鳴り響き日直が挨拶をする。「起立!」そのあとが中々聞こえてこない。何故だあとは礼と言って授業が始まるだけではないか。そんなことを考えていると俺の目の前に誰かがいるような気配がした。そして俺の頭にいきなり痛みが襲う、俺はその痛みで机から顔をあげて...そう机から顔を、今気づいた、後輩から謎の告白(目を潰されそうになった)から逃げ出してコンタクトを落とした事に気づき周りを極力見ないように顔を机に伏せていたらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「比企谷ー私の授業で寝るとはいい度胸だな?」
俺はなるべく平塚先生を見ないように横目で顔をあげる。...平塚先生の脅迫じみた言葉に自然と体が震えるが体制はそのままで何とか口を開く。
「こ、これには深い事情がありまして...」
「ほう?どんな事情だ、言ってみろ?」
目で見た人の心が聞こえてしまうので目を伏せてるんです...なんて言えるはずがない。
「・・・ぐ、具合が悪いです」
誰でも1度は使ったことがあるだろう。教師に言って一番効くのはこの言葉だ。教師というのは職業柄生徒に何かあった場合一番最初に責任を取られるのはその時の担当の教師だ。だから具合が悪いと言えば何とかなるのが世の常だ。
「ほう。問題ない、すぐに顔をこちらに向けて教科書を開け」
この人ほんとに教師か?と疑念しか浮かんでこないが今更感が否めないので諦めて顔を向けることにする。
「ひ、比企谷...本当に具合が悪かったんだな。すまない保健室に行って休むか?」
納得がいかない。俺の目を見て判断しやがったこいつ、しかも心で思ってることも一緒ってことが尚更納得出来ない...。てかあなたは俺の目にカラーコンタクトしてるの知ってましたよね?だが今は堪えて保健室に行くことにした。
保健室に入ると保健の先生に「何故こんな目になるまで我慢してたの!?早く病院に行ってみてもらうわよ!」とか言われたときは突っ込む気も失せて保健室のベッドの上で眠ることにした。
キーンコーンカーンコーン。
俺はチャイムの音で目を覚ました。近くにある時計を見ると丁度4時限目が終わりお昼になった時間だった。少しお腹が空いたなと思いつつもここで保健室を出てしまえば午後は授業に出なければいけなくなると思い鳴り止まないお腹を押さえながら布団を深く被って無理矢理眠ろうとする。だがお腹が空いているときは人は寝付くことが難しいようで虚しい腹の虫だけが静かな保健室で俺の耳に響いていた。
これからどうしようかと考えていると保健室に誰か入ってきた。
「失礼しまーす」
「失礼します」
二人の女の子の声だった。俺はこの声の人物を知っていた。
俺のベッドの周りにある、カーテンが少しだけ開かれて由比ヶ浜が覗いていた。
「あ!ヒッキー、やっはろ~」
「お、おう、由比ヶ浜どうしたんだ?」
俺はこの時忘れていた。コンタクトをつけていないことを。気付いた時には既に由比ヶ浜の声は聞こえたあとだった。
[ヒッキー、思ったより元気そうで良かった。これなら午後の授業には出られるかな?部活は出てくれるのかな?でも体調悪いなら部活はやめた方がいいのかな...]
由比ヶ浜の心の声は俺の体のことを心配してくれていた、とても嬉しかったが同時に何か言われるのではないかと少しでも思っていた自分に自己嫌悪を抱いていた。
「あら、思った以上に良さそうね。サボり谷君」
「何その変な名前は誰だよ。というか雪ノ下もきてくれたのか?」
「私は由比ヶ浜さんにお願いされたからきただけよ」
「そうですか」
[この状態なら心配はいらなさそうだけれど、今日は部活を休みにした方が良さそうね]
雪ノ下は言っていることはいつもと同じく皮肉だが、心の中では由比ヶ浜と同じく俺のことを心配してくれていたことが嬉しくて自然と口が緩む。
「何を笑っているのかしら?気持ち悪いわよ?」
「ヒッキー...その笑い方は流石にキモいよ?」
こいつらは少しオブラートに包むってことを覚えた方がいいと思う。
ぐー。
俺の忘れかけていた腹の虫が二人の心の声を聞いて安心したせいか再び鳴り出した。それもいままで溜めていたせいか、かなり大きな音で鳴り出した。俺はこの場で布団に潜り込み悶えたかったがそんなことも出来ずに二人から視線を逸らす。
「クス。やっぱりヒッキーお腹すいてたんだね、はい!ヒッキー」
「・・・ん?」
俺は恥ずかしくなって逸らした目線を由比ヶ浜に戻すとお弁当を手渡された。
「え、ええと...これは?」
「由比ヶ浜さんが、あなたがお腹すいてると思うからって聞かなくて仕方ないから持ってきたのよ」
[言ってくれれば私も何か用意したのだけれど....]
「その自分は違うですよ、アピール要らないから....ぷっ」
雪ノ下のあまりに思っていることと言っていることに違いがありすぎて思わず吹き出して笑ってしまう。
「その反応は少し気に入らないのだけれど...」
「そんなことより、この弁当大丈夫か?由比ヶ浜が作ったんだろ?」
「な!だ、大丈夫だし!」
[あたしが作ろうとしたけど失敗しちゃって結局ママに作ってもらったやつだしね...]
「そうか。なら安心だな」
「え?」
「あ、いや何でもない」
やばい。心の声に反応しちまった...。
[今ヒッキー、私が思っていたことに反応したような...気のせいだよね?]
「それより、比企谷君?今日は奉仕部休みにしようと思うのだけれどどうかしら?」
「いいのか俺なんかのために」
「別にあなたのためじゃないわ」
[部活がないって言わないと、無理にでも来そうだものね]
ほんと、思っていることと言ってることが全くといっていいほど噛み合ってないな...。でも普通隠す方逆なんだけどな。
「それじゃあ、ヒッキーお大事にね!」
「比企谷君、それじゃあ」
由比ヶ浜と雪ノ下が保健室から立ち去ったあと俺は由比ヶ浜からもらったお弁当を食べ始めた。量はそんなに入っていないが栄養バランスがとても良く1つ1つのオカズが冷凍食品ではなくしっかりと作られており、由比ヶ浜のお母さんの料理の腕の高さを堪能しつつ、それを遺伝出来なかった。由比ヶ浜に静かに合掌したあと俺はもう一度布団に潜り込み眠るのだった。
翌日。
俺は、新しく購入したカラーコンタクトを付けて授業を乗りきり、放課後になったので奉仕部に向かった。
「あら。こんにちは、もう体調はいいのかしら?」
奉仕部に入ると雪ノ下は既に来ており、それなりに心配してくれていたのだろう。俺の体調を聞いてくる。
「ああ。お陰様でな」
「私は特に何もしていないのだけれど」
確かにそうだった。でも元々体調が悪かった訳でもないので上手い言い訳も出てこないので俺は後ろから椅子を1つ持ってきて座る。
ガラッと勢い良く奉仕部の扉が開いて由比ヶ浜が入ってきた。
「やっはろー♪ヒッキー、ゆきのん!」
「こんにちは、由比ヶ浜さん」
「ああ」
「あれ?なんか二人ともテンション低くない?」
「いや、いつもこんな感じだろ?元々俺は話すのが好きじゃないんだよ」
「私もあまり好きではないわね」
「ええーそんなぁー!せっかく3人いるんだしなんかしようよ!」
由比ヶ浜がいつも通り騒がしくしているとコンコン....と奉仕部の扉を叩く音がした。
「失礼しま~す♪あっ!見つけました!」
「あれ?いろはちゃん?」
「あー!結衣先輩~♪」
「やっはろー、どうしたの?」
「実は~」
なんだろうものすごく嫌な予感がしたので自然と右目のコンタクトを外していた。
「そこに座っている先輩に用があって来ました~♪」
[新しいオモチャ発見♪]
俺は嫌な予感しかしないと思い溜め息を吐いてコンタクトを右目に戻すのだった。
いろはす登場しました。何故来たのかは次回に回すことにしました。