どうせ誰もいなくなる   作:大神 龍

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プロローグ的なモノを挿入。次の話も少し改変されているので、見てくださるとうれしいです。


クソみたいな地獄からクソみたいな楽園へ

 痛い。痛い痛い。とても痛い。

 不安。不安不安。とても不安。

 何も見えず、何も聞こえず、何も言えず。何もない。

 涙が出る。赤い涙が。目から、腕から、足から、首から。

 痛い痛い痛い痛い。全部が全部、嫌になる。

 苦しい。悲しい。寂しい。痛い。何もかも、辛い。

 

 皆はまるでそれが当然のように言うけれど、皆はそれを言ってる人の心をどれだけ理解してるのか。

 「お前より苦しんでるやつはいる」なんて、ふざけてる。

 下にいるからなんなんだ。俺より下がいるから、だから俺が苦しいのは、悲しいのは、寂しいのは、当然だっていうんだろうか。

 逃げてるだけなんて、言われる前に知っている。自分で分かる。

 なんで逃げちゃいけないんだ。逃げて何が悪いのか。

 訳が分からない。社会でやっていけない。それがなんだというのか。

 

 生きてる理由が分からない。

 皆が皆俺を嫌うのに、なんで生きなきゃいけないのか。

 死ねたらどれだけ楽だろうか。でも、自分で死ぬ勇気なんかない。

 「だったら頑張れよ」なんて、みんな簡単に言うけれど、頑張れないからこうなった。

 「努力してないだろ」とか言うけれど、どこから努力なんだろうか。

 結果が出なければ努力と呼ばないなら、俺は一生努力なんてできない。

 

 何もかもが嫌になる。

 真っ暗な世界。灰色にすらなれない。

 ぼんやりとした輪郭だけあって、もう、何も見えない。

 目に見える暴力よりも、言葉の暴力が痛い。

 言葉の暴力が痛くて、どうしようもないくらいに痛いのに、誰も助けてくれはしない。助けなんて、呼べるわけもない。

 「どうして言ってくれなかったの?」なんて、聞いてくれるつもりなんてないくせに。

 「なんで死んじゃうんだよ」とか、興味すら持ってなかったのに、死んだ後にそんなことを言うんだ。全部終わった後で、美辞麗句を並べて心配していたように言葉を紡いで。どうせ皆、死んでもすぐに忘れるでしょう?

 バカばっかり。そういうと、お前はどうなんだって言ってくる。自分も馬鹿だと思ってるから、馬鹿ばっかり、なんでしょう?

 

 泣きたくなって、どうしようもなくなっても、相談なんてできやしない。

 どうせ皆、そんなことを言ったら笑うんだ。弱虫って。泣き虫って。

 心が冷え切って、寒くて凍えそうでも、温めてくれる人はいない。

 皆でいるよりも一人でいる方が楽しい。

 皆でいる方が、逆に孤独に感じる。人はたくさんいるのに。

 無性に悲しくなる。でも、支えてくれる人はいない。

 

 人が笑うと自分が笑われているように見える。

 皆が敵に見える。

 気軽に殺される。言葉で、あっさりと。

 言葉の力を知らない。冗談の様に、挨拶の様に死ねという。それが本当に人を殺すだなんて想像しないで。

 人は人を馬鹿にしている。いつもの様に、さりげなく、簡単に、人を殺す。それがたとえ、自分であっても。

 殺して殺して殺して。そして、肉体まで死んだら、初めて楽になれるのかもしれない。

 肉体が死んで初めて、皆が存在を認めてくれる。いつもいつも、道端の石ころほどにも気にしていなかったくせに、さもいつも気にかけていたように振る舞い、さもいつも話していたかのように振る舞って、そうやって自分をよく見せようとする。くだらない。

 

 だから俺は、人間が嫌いなんだ。何もかも、見えなくする人間が。聞こえなくする人間が。

 

 

 * * *

 

 

 鞄を持って、外に出る。

 言葉は無い。兄貴がいない時点で俺は虫ほどにも相手にされない。

 挨拶をする必要もないだろう。返事なんて返って来ないのだから。

 

 朝から憂鬱だ。別に、今日は特別何かがあるわけでもない。むしろ、何もないから憂鬱なんだ。

 修学旅行ならなおのこと憂鬱になるが、テストの日は天国の様だ。その後が地獄だが。

 暴力、暴言、陰口、カツアゲ、落書き、物隠し、罠。他にも色々と嫌がらせをされる。なんで学校に行かなきゃならんのか…思いつつも、俺はそこに向かっちまう。もう、安心できるところなんかどこにもないから、なら、少しは知識をつけられる学校に行くのが一番ってのが行く理由かもしれねぇ。図書館も安全じゃねぇしな。

 殴られたり蹴られたり暴言言われたり陰口叩かれたり物を盗まれたり罠を仕掛けられたりするだけだ。それにさえ耐えれは問題ないんだ。そう、問題ないんだ…

 

 思ってる間に学校だ。

 門を通るのが憂鬱。イジメ行為を先生たちは見て見ぬふりをするし、相手にしてくれない。

 通学路で誰かに会いたくないから、俺は早い時間に出て、すぐに教室に向かう。そうすれば、誰かが来るまでの時間は安全だ。誰にも邪魔されず、安心できる。

 だから、その前に誰かがいると、俺はその瞬間から終わりなわけだ。

 

「……誰も、いないか…」

 

 二階にある俺の教室には、今日もなんとか人はいなかった。

 窓側の一番端にある俺の席へ向かうと、大量の落書きがされていた。

 まぁ、いつもの事だ。気にすることでもない。

 悪戯されない様に、体操着や上履き、教科書ノートは、全部家から毎回持ってきているため、帰った後に何かされるのは机と椅子だけだ。

 さすがに壊されたりはしないが、隠されたり落書きくらいはされる。なんとか朝のうちに見つけ出すけどな。

 今日は落書きだけ。なら、放置しておいても問題は無い。

 バカや阿保や死ねや消えろとか、そんな内容だ。何年も見てればさすがに慣れる。達観してるのかもしれねぇけどな。とにかく、大きなダメージは無いわけだ。

 そんなことを考えて、俺は椅子に座った後、鞄を足に挟んでうつ伏せになって寝る事にした。

 

 

 * * *

 

 

 周りがうるさい。

 どうせ、あいつらが騒いでるんだろう。あのクズどもが。

 俺に何かしたのだろうか…また背中に紙でも貼られたのか…足に感覚はまだあるから、鞄が取られてないのは分かった。

 じゃあ、なんだろうか。そう思った瞬間、頭に痛みが走る。

 

「ぐぅっ!」

 

 硬い、何かが当たった。

 衝撃に範囲が広かったことから、大きい事は分かる。

 跳ね返る様に物体は無くなったため、おそらく大きさ的にバスケットボールだろうか。

 バスケ部の奴から借りたのか…それを俺の頭にぶつけたわけだ。

 正直、野球ボールとかじゃなくてよかった。あれはさすがに無理だ。痛すぎる。

 ここで起き上がると、あのバカども三人のへらへら笑ってる顔を見る事になる。なら、俺が出来る抵抗はうつ伏せでい続ける事だろう。

 

「おいノロマ! さっさと起きろよ!!」

「バスケットボール当てられても起きねぇとか、キモッ! どんだけぐっすりなんだよ!」

「ちぇ~。なんで寝てんだし。グズのくせに」

 

 ガンガン蹴られる机と椅子。俺の足も蹴られてる。

 やめろよ。制服が汚れるだろ。親に言われんだよ。兄貴の品が下がるってよ…兄貴が馬鹿にされるってよ…そのせいで俺は兄貴の見えない所で殴られたり蹴られたりしてんだぞ…お前がそんなだから兄貴の成績が落ちるって。知った事か。

 そんな気持ちも知らねぇで、勝手に言いたい放題しやがって…正直寝る時間すらねぇんだよ。寝させろよ…テメェらに構ってる時間なんざねぇっつの…俺を寝かせてくれ…

 

 まぁ、そんな願いが聞き届けられるなら、俺は今こんなことになってないだろうよ。

 こういう時は伏せてやり過ごす。それでも無理な時は無理だけどな。

 

「おら、起きろよぉ!!」

 

 髪を引っ張られる。強引に顔を上げさせられた。

 痛くて涙が出そうになる。思わず目を開けると、見たくも無いクズの顔。にやにやと笑って、俺の顔を覗き込む。

 

「おい、こいつ起きてるぜ!」

「マジかよ! 狸寝入りしてたのかよ!」

「これは罰が必要だな。俺達が呼んでるのに起きなかったんだ。そうだろ?」

「「賛成!」」

「だよなぁ! さぁ~て、何しようか」

 

 全く、理不尽だ。勝手に騒いで、勝手に起こして、勝手に罰だと騒ぐ。

 しかも、無駄に力も強いし頭も回るから、逆らえやしねぇ。おかげで周りに居る奴らは怯え切ってるから助けも呼ばれない。見て見ぬふり。自分が標的になったら困るしな。俺がいる限り標的にならないし、賢明な判断だろうよ。死ねばいいのに。

 まぁ、先生共も聞かないだろうし、助けを呼んだって意味無いか。

 

「そうだ! 筆箱貸してくれよ! 今日忘れちまってさぁ!」

「えぇ!? 忘れてたのかよ! なら、貸してもらわないとなぁ?」

「おらおら、さっさと筆箱寄越せよ!」

 

 引っ張られる鞄。逆らえるわけもないので、諦めて自分から筆箱を取り出すことにする。

 

「へへ。ありがとよ! 放課後まで借りるからな!」

 

 三人は笑いながら席へと戻って行った。

 いつもと同じ光景。今日は筆箱だったから、マシな方だ。いや、それで無くなったら困るから、あんまり変わらねぇか。筆箱が被害にあうか、服が被害にあうかの違いだな。

 そろそろ、授業が始まる。

 俺はそれに気づいた後、授業の準備を始めた。

 筆箱…?どうでもいいよ。大したものなんて入ってないし。筆記用具は服の中に隠さないと奪われるだろ?

 

 

 * * *

 

 

「おいテメェ! なんで筆箱の中身がこんなにないんだよ!!」

 

 出た。また理不尽な怒りだ。

 そもそも、先週も破壊されてんだ。あの親に頼めるわけねぇし、一応なぜか貰えている小遣いを持って文房具の補充に行こうとした時に金を奪ってったのはそっちだろうが。補充できるわけがねぇ。

 というか、俺の筆箱の中身は元からほとんどないんだよ。渡されもしないし、金もお前らがむしり取っていくし…

 まぁ、こいつらからしたらそんなこと関係ないんだろうけどな。

 

「うっわぁ…ホントだ。中身ほとんどないじゃん」

「こいつ、こんなもの渡すとか何考えてんだっての」

「チッ。使えねー。これもう返すわ。いらね」

 

 筆箱のふたを開けたまま、俺に投げつけてくる。

 ここで避けると更に鬱陶しくなるから、俺はそれをあえて受ける。

 バシッ!と音が響く。俺の顔に筆箱が当たった音。布製ではあるが、中身は少量でも一応入っているので、痛い事には痛いのだ。

 というか、正直、よくそんな言葉が簡単に出てくるもんだ。何考えてるのか全く分からねぇ。俺はお前らの下僕じゃねぇっての…何様のつもりだよ。

 三人は言いたい放題、やりたい放題やって帰っていく。

 ………帰りたい。部屋に引きこもっていたい。誰にも会わず、暗い部屋で無意味に寝転がっていたい。

 

 まぁ、許されるわけがない。とりあえず、次の授業だ。

 

 

 * * *

 

 

 ん……もう四時限まで終わったのか…

 時間が経つのは早いな…むしろ、休み時間の方が遅く感じる…昼休みとか。

 

「おいノロマ。何やってんだ?」

「ちょっとこっち来いよ」

「さっさと立てよ」

 

 …こいつら、今度は何を考えてるんだろうか。

 まぁ…昼飯は食べ終わったし、行けるかどうかとしては問題は無いんだが、確実に嫌な予感しかしないわけで。

 つまり、全力で行きたくない。

 

「おいおい…早くしろって言ってるだ…ろ!」

 

 ガンッ!と蹴り上げられる椅子。それに続くように後ろから蹴りが二発、同時に入る。

 

「うぐっ!」

「ハハハッ! 早く立たないからそういう事になるんだよ!」

「すぐに動けば蹴らなかったのにね!」

「人の話を聞かないから」

 

 ……結局、連れて行かれるらしい。立ち上がらなければいいのかもしれないが、そんなことすれば鞄が狙われて親からまた何か言われる。その方が面倒なので、渋々向かう。結局連れて行かれるんだ。被害は少ない方が良い。

 

 連れて来られたのは体育館。

 ……最悪だ。他クラス他学年のいじめっ子一同のたまり場になり果てちまってる体育館。そこに連れて行かれるという事は、フルボッコタイムなわけだ。死んじまえ、こんな学校。

 

「んじゃ、一名様ごあんなーい」

 

 にやにやしてそういういじめっ子代表。…そういや、こいつ、名前なんだっけ…

 まぁ、この後は蹴ったり殴られたり…いつも通りボコボコにされたよ。

 なんでここまでボコボコにされているにも関わらず先生は気付かないのか…二年以上経っても理解に苦しむ。

 昼休みも後半に入り、

 

「ハァ…飽きた。んじゃ、適当な所で解散しとけよ~。俺はもう戻るわ」

「じゃあなノロマども!」

「ぼろ雑巾みたいにボロボロになれよなぁ!!」

 

 ……あいつらがいなくなっても、俺の地獄は終わらない。

 

 

 * * *

 

 

 ようやく下校。さすがのあいつらも、放課後は別の遊びをしたいようで、そそくさと帰っていく。だから、帰宅するまでの時間は安全なんだ。あいつらからのいじめは、な。

 

「おいドカス。何ちんたらしてんだよ。さっさとこれを持てよ」

 

 別クラスの奴だ。昼休みに俺を袋叩きにしていたうちの一人でもある。今回の席替えであいつらとは別のクラスになり、俺をいじめられないことに不満のご様子で、毎度毎度、鞄を俺に持たせて帰るわけだ。

 暇な奴、そう思いながら、殴られるのは嫌なので、諦めて持つ。

 こいつの鞄を持っているときは、こいつ自身が鞄を汚すのをひどく嫌うため、俺を襲うやつを殴る。それでもたまに俺に攻撃が入るが、まぁ、マシな方なわけだ。

 というか、そこまで嫌なら自分で持てよ。とか思わなくもない。汚れやすい俺に持たせるとか、馬鹿だろ。

 そう思っても、口には出さない。殴られたくないし。まぁ、こいつの鞄はアホみたいに重いから納得なんだけども。確かにこれは自分でも持って歩きたくない。

 荷物運びはなんだかんだで一番楽な訳で。まぁ、こいつの持ち物に限って、だけども。

 他の奴らは俺を転ばそうとするからな…大怪我の元だ。何度か階段から落ちたし、もういつ死んでもおかしくないだろうが。

 俺が死んだ場合はどうするつもりだったんだろうか。ちょっと見て見たいような気がしなくもないが、絶対苦しんで死ぬからやめておこう。死ぬならアッサリが良い。

 

「んじゃ、また明日もやってくれよ」

 

 そいつは俺から鞄を奪うように取り、帰っていく。

 もう着いてたんだな…俺も随分呆けているようだ。

 俺も、家に帰ろう。帰れば少しは楽になる。また部屋にこもって小説を読もう。小説を読んでる時が一番楽しい。気持ちだけ、向こう側に行ける。楽しく、愉快な、異世界に。

 

 だから、帰る時は、少しだけ歩く速さが、速くなるんだ。

 

 

 * * *

 

 

「…………え?」

 

 呆けた声。それは紛れもなく、俺の声。

 家に帰り、自室に戻った時、愕然とした。

 

「嘘…だろ…?」

 

 鞄を、気付かずに取り落とすほどの衝撃。

 無いのだ。アレが。

 俺の、コツコツと溜めていた、小説が。

 

「なんで…無いんだよ……」

 

 理由なんて、とうの昔に分かってる。あいつらが、あのクソ親共が、兄貴の教材とかのために『要らないもの』を売り払ったんだろうさ。だが、それでも言わずにはいられない。

 目頭が熱くなる。透明な滴が、流れ落ちる。

 口の中がしょっぱい。視界が歪む。

 

「ふざ…けんなよ…」

 

 力が無いから、怒りは積もる。

 力が無いから、苦しみは晴れない。

 そして、何より、力が無いから――――

 

「また………奪われた………!」

 

 我慢の限界だった。散々な目にあって、磨り減らされた心は、亀裂が入った。

 死のう。そう、簡単に、単純に、逃げることを選択した。

 誰にも見つからない所で、ひっそりと、死のう。そう考えて、俺は家から、世界から逃げ出した。

 

 しかし、そこで、一番の想定外にぶつかる。

 

「ぁ……?」

 

 玄関を出ると同時に足元に突如生まれる奇怪な紋様。見る人が見れば、こういうのだろう。

 

 魔方陣。

 

 淡く光るそれは、しかし、すぐに俺ごと消滅した。

 

 こうして、俺は誰にも知られることなく、気づかれることなく、ただ、この世界から逃げ出した。否、消された。

 

 

 * * *

 

 

 目を開けると、正面には無数の人。前面に立つほとんどがフード付きのローブを着て顔を隠しているため、どんな顔をしているのか分からない。

 後ろの方に立つのは、甲冑に身を包んだ人間。まるで、騎士のようだった。

 明らかに現代では見ることの無い装備だと、気付く。そして、その気付きは連鎖して、一つの言葉にたどり着く。

 

『異世界転移』

 

 状況は明らかにそれだ。魔方陣を見たと同時にこの光景が流れ込んできた。つまりは、こういうことなのだ。俺は、召喚魔法によって召喚された。

 何よりもその証拠に、地面には魔方陣。安堵するような、喜ぶような表情をしている甲冑を着た人々。ローブを着ている奴らも、表情こそ見えないが同じ気持ちなのだろう。

 

 そこまで理解すると同時に、人の群れが左右に分かれる。

 その分かれた人々の中心にいるのは、キラキラと輝く金髪が目立つ、頭に王冠を乗せた男。

 その体は服越しでも分かるくらいにがっしりとしていて、まるで、巨大な壁のようにも感じられる。

 顔を見るに、三十代後半。だが、威厳は十分。覇気も力強い。この人は強いと、無意識に実感させられるほどに。

 そんな男が、俺に向かってこう言った。

 

「よくぞ参られた。貴殿は勇者として召喚させていただいた」

 

 やはり、勇者。正義を振るって、魔王を倒せとでも、そう言いたいんだろう。

 しかし、俺は勇者なんていうのは向いていない。それ以前に――――

 

「勇者として、貴殿には魔王を倒してきてもらいたい、ここから東へまっすぐ行った、魔王城に、魔王はいる。よろしく頼むぞ」

 

 俺は、こいつが嫌いだ。

 こいつは、あいつらと同じ臭いがする。俺を見下している、あいつらと同じような臭いが。

 

「それで…そのために俺に何をくれるんだ?」

「これを使ってもらおう。持ってこい」

 

 後ろの男に命令する王。そして、その男が持ってきたものを見て、俺は硬直する。

 

「…………そうか。テメェらは…俺に死ねって言うんだな?」

 

 俺が見ても分かるほど、安物の剣。後ろの甲冑の男たちの持っている剣より脆そうだった。そんなものを渡して、魔王を倒して来いと、そう言っているのか。

 袋も渡され、その中には数枚の銅貨と、銅板が入っていた。その二つには模様が描かれているため、金銭なのだろうと理解できる。

 だが、こいつらの雰囲気からして、端金(はしたがね)なのだろう、というのは想像できた。

 

「価値の分からないのをいいことに、謀ってるんだろう? 勇者は全員何も考えずにただ魔王を倒してくれるとでも思ってんのか…!? あいにく、俺は違う。散々嵌められ続けたからな。その程度で流されるほど、甘くはねぇぞ」

 

 俺の言葉を聞くと、王はにやりと笑う。

 雰囲気ががらりと変わった。いや、これがこいつ本来の雰囲気なのかもしれない。周囲を威圧する、まさに王と言える存在感。先程よりも何倍も強力な力を感じた。

 

「そうか…それは残念だ。それで? 貴様はどうするというのだ」

 

 しかし、俺はその威圧に屈する事は無い。その程度で挫けるほど、俺はもう脆くない。

 流れるように袋を奪い、ポケットに入れながら剣を持ち、鞘から引き抜いて王を狙う。

 幸い、王の所までの間に人はいない。だからこそ、全力で剣を振るい――――

 

 キィンッ!!と音を立てて防がれる。

 

 王自身が持っていた剣で、防がれる。

 しかし、俺はその剣に気づいていなかった。完全に隠されていたとしか言いようがない。どこにあったのかすら俺には分からなかった。突然現れたようなものだ。

 

「フンッ。異世界の奴らは、皆軟弱だな。弱い、弱すぎる」

「ハッ! 言ってくれるじゃねぇか。そりゃそうだろうよ。戦いなんざ、経験しねぇからよ。今のだって気付いてんだろ? 適当に振るっただけだって」

「全くだ。そんな腰も入っていない剣で私に一太刀浴びせられるとでも思っているのか?」

「出来るなんて思ってるわけねぇだろ? だが、周囲はどうだろうなぁ?」

 

 ざわめく周囲のローブや騎士達。俺はすぐに王と距離を取り、近くの窓に向かって走ると、窓を蹴破り、外に飛び出す。

 運良く下には誰もおらず、且つ、何もなく、ただの芝生だけだった。着地と同時に足がしびれる。おそらく、これでも身体能力は強化されているのだろう。俺は大したダメージも無く、その場から走り去る。

 

 

 * * *

 

 

 城壁を抜け、城下町を走り抜けて、俺は無意識に東を目指す。

 帰るつもりなんて全くないが、俺はただ逃げる。何かを目指しているわけじゃない。生き残るために俺は逃げるんだ。あの城から、あの王から。

 

「ハァ…ハァ…もう少し…!」

 

 城下町への入口であろう門から飛び出し、俺はその先に広がる草原に向けて走る。

 町に入ろうと並んでいた人々の隣を走り抜け、ただただひたすら、前へ前へと走り続ける。

 

 結局、どこに行っても、俺は逃げ続けるだけらしい。走って、走って、ただひたすらに逃げ続け、それでどこにたどり着くのやら…

 それなら、向こうにいても同じじゃねぇか。この世界に呼ばれた理由を考えて見ろよ。

 この世界に呼ばれたのは勇者として。都合のいい駒として呼ばれただけさ。

 それはアイツらの理由だろ? お前は、自分自身のために、この世界に来るのを望んでただろう?

 ……この世界に、俺の望んだものがあるって…?

 さぁな。でも、賭けてみても、いいんじゃないのか?

 

 誰に言うでもない、俺と俺の会話。

 どうせ誰も気にしない話。俺が望んだものなんて、そこらへんに転がってる様な、そんな、誰も気に留めないような世界。主人公の座なんかよりも、王の座なんかよりも、ただ、俺は平和に暮らしてみたい。そんなちっぽけな望み。

 だけど、俺にはもう、それは届かない。その資格は、もう俺には無い。

 だから俺は、理不尽を俺に叩き付けた世界を、理不尽に俺を殺したあいつらを、一片の容赦なく、全てをまとめて、殺し尽す。

 目には目を、歯には歯を、理不尽には理不尽を。俺を殺した世界に、俺を殺した奴らに復讐するために。

 

 時間はゆっくりと過ぎていく。

 日は昇り、落ちていく。そして、俺は見る事になった。

 

「ハハハ…クソが…俺を殺しに来てんのかよ…」

 

 黒い、狼。光る双眸は、俺を獲物と、そう断言している。

 だが、俺はもう、受け続けるだけの俺じゃない。

 鞘か抜き放つ脆い剣。朱く輝く日を受けて、鉄の剣はキラリと輝く。

 

「来いよ…全員まとめて、食い散らかしてやる」

 

 俺の表情は、笑っていた。獰猛に、凶悪に、邪悪に、ただ、生きるためだけに、俺はそうやって、生まれて初めて、本心から笑った。

 

 

 * * *

 

 

「フゥゥ……フゥゥ……」

 

 荒い息。全身に浅い傷を大量に付け、鉄の剣は折れた。

 周囲には狼共の死体。その全てが絶命している。

 何匹かには逃げられた。というより、逃げてくれた。

 すでに周囲は真っ暗だが、月明かりによって、何とか周囲が見えている。

 

「ゲホッ……ガハッ、ゲホッゲホッ……ハァ…ハァ…クソッたれ…」

 

 咳をする度に全身に走る痛み。消耗しきっている現状では、その痛みだけで意識が飛びそうになる。

 だが、それを気合だけで抑え込み、ゆっくりと、歩いていく。

 自分が歩いてきた方向は憶えている。だから、その逆に、ただひたすらに進む。

 ゆっくりと、ゆっくりと。全身の痛みに堪え、歩いていく。

 イジメられていた時ですら、ここまでの痛みを背負った事は無い。この痛みに比べれば、あいつらの攻撃なんか、子供の遊びだ。いや、事実、遊びなのかもしれないが。

 夜空に輝く月は、まるで俺を笑っているように、見えてしまった。

 痛みがひどすぎて、思わず頬が引きつる。いや、笑みがこぼれる。笑うしかないほどの痛みだ。

 

「ハハハ…ケフッ…ハハハハハ…良いね…弱肉強食…しっかりと実感できる…! アハハハハハハハハ!!! ゴフゥァッ!!」

 

 あ、ダメだ。致命的な何かがやられた。前方が一気に赤く染まる。傷口が思いっきり開いたのかもしれない。ダメだこれ。動けね。死にそ。

 それが、俺の最後の記憶だった。

 

 

 * * *

 

 

「………………」

 

 今、俺の前には変なもんが転がってる。

 ネロウルフ共の死体と、そこから少し離れた所に男の死体。

 見慣れねぇ服を着ているってのはさておき、持ってる鉄の剣が折れてるってこたぁ、戦って死んだのか?

 だが、ソレにしては妙だ。傷が浅い。全体的に。まるで、力尽きたって感じだ。いや、こりゃ、力尽きたんだな。ったく、自分の実力も考えないで連戦たぁバカの極みだな。

 というか、この量を殺したら、ここらへんにはしばらくネロウルフは現れなさそうだな。こりゃ、安心して道を通れそうだ。

 

「グッ……うぅ…」

 

 …こいつ、生きてやがるのか。案外しぶとい奴だ。運の良い。

 こいつは命知らずなのか、逃げられなかったのか…だがまぁ、助けず見捨てるのは、俺のプライドに反するな。このまま帰ったら火事場泥棒となんも変わりねぇしな。

 仕方ない。ここで会ったのもなんかの縁だ。とりあえず、こいつらの素材をはぎ取っても生きてたら連れ帰ってやろうか。

 傷薬なんてあったかねぇ…まぁ、ねぇなら買うか。この素材さえありゃあ何とかなるだろうし、買取料とでもさせてもらうかな。

 さて…かなりの素材の数だ。これだけあれば、薬位買えるだろう。包帯はあるし、むしろ余るくらいか。

 はぁ…すごい奴だ。この数を一人で倒したってんなら、相当な強さを持ってるって感じだな。

 よし。素材集めも終わった。治療も出来る。じゃ、帰るか。

 ったく、老体に負荷かけるなよ、少年。

 

「よい……しょっと」

 

 あぁ、重い。そりゃ、これだけの事が出来るんだ。重いのは普通か。

 とりあえず、こいつのおかげでネロウルフ共は出ないだろうし、安心して通れる。ゆっくりでも大丈夫だな。幸い、時間もそんなにかからんしな。

 

 

 ゆっくりと、男を背負った人物が歩き出す。男によって安全が保たれた道を。月光に照らされながら歩いて行った。




え~…コホン。
はじめましての方は初めまして。またお前か。という方はまたよろしくお願いします。
どうも、大神 龍です。

今回の作品は、単純にノリと勢いと悪意に満ち満ちた子供っぽい話です。
主人公はジジイの言う通りガキですし、行動もガキです。作者もガキです。ご了承ください。

この作品は、完全に完成させてから小説家になろうに投稿する予定でしたが、こちらの方がアドバイスをくださる方が多いので、完成するまでこちらに投稿して、修正しながら書き切った後になろうで一挙公開する予定です。
まぁ、我慢できる性格じゃないので、おそらくどこかで出してしまうんでしょうが。堪えるつもりでは…いますよ?

なので、今回のこの作品は、感想、批評、アドバイスなどをくださるととてもありがたいです。
よろしくお願いいたします。次回も精一杯書かせていただきます<(_ _)>
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