どうせ誰もいなくなる   作:大神 龍

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三度目の正直ですよ。もうこれ以上は修正しないはずです。安心ですね(震え声
やっと初期と同じ1万文字に帰って来れた…


よし。とりあえず旅しよう。

 とりあえず、一週間近くは経っていた。

 見慣れない土地で一歩下がったところで冷静にしてたが、慣れてきて、改めてファンタジー世界に居るということを自覚してテンションがおかしくなってる。うん。自分で納得するくらいには。

 

 

 * * *

 

 

「クソ…クソ! クソ! クソ!!」

 

 俺は、ただひたすらに新たな剣を振るう。一切の遠慮も無く、罪悪感などあるわけも無く。

 襲い来る魔物を狩り、その血を浴び、汚れきろうとも、剣を振るう。

 

 もう汚れきってるんだ。どれだけ汚れようとも構わんさ。

 そう思いながら。

 

「お前らも…同じだ…あの腐った存在と…だから、一切合切吹き飛べや!!」

 

 全力の蹴り。

 魔物を吹き飛ばし、木に当たるとともにその魔物は動かなくなる。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…クソッタレ…」

 

 目に入らない様にだけ気を付けて血を払い、俺は剣を鞘に納める。変な所に当てて刃こぼれでも起こしたら目も当てられねぇ。

 俺は魔物に近づき、一応頭を踏みつぶしてから使えるであろう素材を回収する。

 

「チッ…そこまで良い素材じゃねぇな…売却額もそんなに多くねぇ…銅貨二、三枚って所か…いっそのこと街を破壊して金だけかっぱらってくか?」

 

 物騒? 何言ってんだ。自分を守れなかったら死ぬんだぜ?なら、周りなんか気にせずみんな殺し尽せば安全だ。一人は最も安全。俺の考えだがな。腐った奴らは違うんだろうが。

 あの駄王。舐め腐りやがって…次は殺す。

 

 俺はそう思い、自然な様子で剣を抜いて近くの草むらを斬りつける。

 

『ギャウッ!』

「チッ、残ってたのか。まぁいい。俺の金になれや」

 

 咄嗟に後ろに下がった狼型の魔物に一瞬で追いつき、頭を踏みつける。

 

「死ね」

 

 ドッ! と音を立てて首元に突き刺さる剣。

 あぁ、もう、この感触に違和感がなくなっちまったな。自然に出来る。人は斬ってないけどな。

 

「はぁ…次から次に…一斉に出て来いよ。まとめてなぎ倒してやっから…さ!」

 

 近くに落ちてた石を蹴り飛ばすと、草陰に隠れていたもう一体の狼型の頭にめり込み、魂を刈り取る。

 

「オラオラオラァ!! 皆殺しにしてやらぁ!!!」

 

 笑いながら、俺は剣を振るう。命を奪うのが楽しいかって? ちげぇよ。敵を殺すのが楽しいんだ。無意味に殺すのに楽しさはねぇ。悪を狩る。そこに意義はある。悪かどうかを決めるのは俺だがな。

 

 

 * * *

 

 

 あ~…なんだっけ。何を話すんだっけ。

 あぁ、そうだそうだ。あれだ。この世界の話だ。

 あの後にまたジジイに色々と聞いたからな。とりあえず、この大陸の話だ。

 

 まずは、聞いた限りで、この世界は二つの大きな大陸だ。

 一つは人間界。もう一つは魔界だ。

 王道極まりねぇな。なんで二つに分けたし。なんでケモ耳国がねぇんだ死ね。もう一回世界作り直せバカ。やり直しだやり直し。認めるか。

 

 まぁ、文句言ったところで変わりはしねぇんだが。けどまぁ、安心しろ。ケモ耳っ娘パラダイスは存在する。集落はあるっぽいし、そこに突撃すれば解決だ。楽園だ。

 ちなみに、ケモ耳パラダイスな集落以外にも、小さな村や集落はある。それなりに大きい町もあるから、行ってみたいとは思う。入れるかは分からんが。

 

 とりあえず話を戻すか。

 人間界と魔界は関連性が強いってのが俺が考えてる部分。ちなみに、気付いてそれを言ったら腐れ狂信者がやってきて魔女狩りだ。殺されるぞ。

 この二つは共に間近にあり、更に言えばともに半円型だ。広い面が互いに向かい合ってることから、明らかに一つの大陸だったろコレ。

 

 んで、だ。西側が人間界。東側が魔界だな。そして!! 北側に俺の懇願のケモ耳国が存在してるって事だ!!

 しかし、そこに行く以前に、凶悪な敵が固まってっからたぶん勝てねぇ。なら、しっかりと力をつけて行くしかねぇ。だから俺は今ここで魔物狩りをしてるってわけだ。

 南は南で面白い所なんだが、今はケモ耳パラダイスが先決だ。

 ちなみに、南には人魚らしい。海産物が名物で、人生で一度は食べてみたい料理の一つがあるらしい。気になるが、我慢だ。どうせ何時か行くのだ。急ぐ必要はない。

 この世界にはステータスとか便利なモノはあるらしいが、それを確認する手段が全くない為、明確に分かるわけではないのだが、魔物を倒す度に強くなっていく感覚はあるから問題ない。成長はしているのだ。

 あの駄王から逃げた日の午後の連戦の時も、その感覚があったし、むしろそのおかげでめちゃくちゃ強くなったし。

 

「で、値段は?」

「銅板三枚」

「マジか。んだよ…もう少しないのか?」

「ないな。もっと欲しいならそれだけの魔物を狩って来いっての」

 

 あぁ、スマン。話の途中で変なのが入ったな。

 え? 今のは何かって?

 単純明快。素材売却だ。

 あの後、本当に鑑定とかして、値段も出した。マジで何者だよ。と、何度目か分からない疑問を心の中で呟き、その後も鑑定してもらうことにした。もちろん、金ももらってるけどな。

 

「なんでだよ。ここらではそれなりだろうが」

「ここ最近お前が狩りまくるからそろそろ需要がねぇんだよ。それに、向こうもこれを大量にもらっても困るだけだろうが」

「あるだろうが。アクセサリーとかよぉ」

「んなもんが売れるかってんだ」

「やってから言えよこのジジイ」

「黙れガキが」

「あんだとこの野郎」

「文句あんのか? あぁ?」

 

 この野郎…絶対売れるっての。ブレスレットとかにすれば需要あるっつの。

 っつか、このジジイも、最初に会った時よりも言葉にトゲが出てきたな…ザクザク刺されるんだが…まぁ、俺も同じことしてるから人の事言えねぇか。

 

「そんなに言うなら自分で作って売れや」

「あぁ分かったよケチジジイ。残金すくねぇけど自費でやってやらぁ」

「売れたら買い取ってやるよ」

「俺のところの売値より高く買い取れよこの野郎!!」

 

 ぜってぇ後悔させてやる。あのジジイ。泣いて謝るがいい。

 とりあえずは紐を手に入れる所からだ。

 

「……そういや、向こうに洞窟があるっつってたな」

 

 さっさと支度していこうか。金は重要。世の中金だ。

 

 

 * * *

 

 

「アッハハハハハハハハ!! 皆殺しだぜぇ!!!」

 

 飛んでくる蝙蝠型の魔物。

 剣を振るい、蹴り飛ばし、掴んで投げ、殴り飛ばす。

 群れで来るんだ。連鎖的に狩れる。恰好の的だ。

 

「オラオラオラオラオラオラァ!!!」

 

 周囲の蝙蝠がいなくなるまで攻撃を続け、気付くと死体の山に埋もれていた。

 ちなみに、今俺がいるのは、ジジイの家の近くにある森を少し進んだところにある洞窟だ。何故か松明が置いてあるが、たぶんジジイがやったんだろうな。と思いつつ、遠慮なく進んでいく。教えてくれたのはジジイだし、探索し終わってても納得だけどな。

 

「っとと…想像以上にいたな…まぁまぁって所か。銀貨二枚くらいは行くんじゃね?」

 

 さっさと素材回収。魔物の名前? 覚えるだけ無駄じゃね? どうせ、ここら辺の奴らはもうそんなに強くないし、対処法を考える必要も無いからな。それに、分かればそれでいい。

 っと…なんだアレ。いや、ある意味目的の魔物なんだけどよ…蜘蛛でけぇ…あんな怪物が出す糸なんて使えんのか?

 

 俺が目を向けているのは洞窟の奥。蝙蝠をなぎ倒しながらたぶん前に進んでいたんだろう。そのせいでなんか広い所が見えて、且つそこに大きな蜘蛛型の魔物がいた。

 本当にどう見てもただデカいだけの怪物。

 

「ハハハ…いいねぇ…いい感じの化け物だ。ワクワクしてきた」

 

 飛び出す俺。蜘蛛野郎は俺に気づいたが、その時にはすでに俺は上空。

 天井を蹴って勢いよく落ちるとともに、後ろの大きい部分を剣で貫き、地面に縫い付けようとする。が、

 

「っつぁ!!」

 

 ガンッ! と音を立てて弾かれる剣。

 俺は驚くとともににやりと笑う。

 

「想定外。かてぇなこいつ」

 

 蜘蛛の上を転がって蜘蛛の背後に回ると、再び剣を握って、下に潜り込む。

 蜘蛛が反応するより早く蜘蛛の頭胸部と腹部の隙間に突き刺す。

 すんなりと入る刃。しかし、刺さると同時に左から一本の足が襲い掛かってくる。

 

「チッ!」

 

 咄嗟に後ろに下がり俺が足を躱すと、蜘蛛は跳躍して俺から一気に距離をとる。

 

「んのやろう…ぶっ殺す」

 

 前方に走り出す。

 蜘蛛は糸を吐いてくるが、俺は右に避けて回避。続く第二射も左に避けて躱し、落ちていた石ころを拾う。

 第三射目の蜘蛛の糸を右へ避けると同時に投げつける石ころ。

 当然、蜘蛛はそれを足で弾く。まぁ、避ける可能性もあるから当然じゃあないって言われたら何も言えんが。

 まぁ、それだけの時間があれば十分って事だ。

 

 蜘蛛が足をどかした時にはすでに目前。拾っておいた二個の石ころを八つある赤い目の端の二つに打ち込み、怯んだ隙に下に潜り込み、突き刺さっている剣を掴むと、隙間に沿うように移動する。

 真横まで来たら雲の上に飛び乗り、剣を抜いて、目の一つに強引に突き立てる。

 鈍い感触と共に突き刺さる剣。そのまま剣を捻ると、蜘蛛は痙攣し、数秒で沈む。

 

「ケッ…手こずらせやがって…つか、俺はなんでここに来たんだったか…あぁ、糸だったな」

 

 危ない危ない。危うくさっきの蝙蝠どもの素材とこの蜘蛛の素材を回収して帰るところだったわ。

 糸は…巣に行った方が良いのが手に入るかね。

 とりあえず、さっさとやろうか。

 

 

 * * *

 

 

 なんで俺は糸なんて採りに行ったのか…よくよく考えたらネロウルフの尻尾の毛を使えばいいんじゃねぇか…一本一本長いし、結べば紐になる上に糸よりも頑丈…しかも蜘蛛の糸は想像以上に太くて使えない。完全に無意味じゃねぇか。

 

「なぁ、どう思うよジジイ」

「それを言いに来ただけかよ帰れガキ」

「んだよ…帰る場所はここしかねぇっての。とにかく、なんか洞窟にいたデケェ蜘蛛を狩って来たんだっての。さっさと金渡せや」

「わぁってるっつの。……本当にあの蜘蛛を狩って来たのかよ」

 

 おぉ、ジジイめ、蜘蛛の素材見た瞬間に目が点になりやがった。

 さてはこいつ、信じてなかったな?

 

「んで、いくらだよ」

「……銀貨一枚って所かねぇ」

「へぇ。案外行くなぁ」

「品質が良けりゃあもう少し足すが、それくらいが妥当だな。文句言うなら他の所に持って行けや」

「ハッ、俺が今安心して物を売れるのがテメェだけだってわかってて聞くたぁ、意地の悪い事で。あぁ、それと、さっきの狼と、蜘蛛のついでに狩ってきた蝙蝠の素材も頼む」

「あいよ」

 

 銀貨一枚。結構な額…ってほどでもない。ここ最近の俺の一日の稼ぎ以下だしな。だが、一個でそれだけの価値があるってのはレアもの。良い感じだ。

 そういや、この世界の通貨を言ってなかったな。鑑定が終わるまでは暇だし、教えてやるよ。

 

 銅貨、銅板、銀貨、銀板、金貨、金板、金の延べ棒、白金貨。計八種類だな。

 一つ上の価値に上がるためには、10枚。銅貨の価値はおおよそ百円だな。そう考えると、白金貨が遠い存在に感じるだろ?事実、遠いし。

 ちなみに、銅貨一枚で安いパンくらいなら買えるぜ。銀貨で安い宿に泊まれるしな。正直銀貨が手に入れば一日は生き残れるから、それ以上の金額は考えなくても良いしな。まぁ、金貨があればこの生活を一か月くらいは続けられるはずだ。そんくらいかな。

 

「あ~…面倒だから銀貨二枚でいいか?」

「それは増やしてんのか? 減らしてんのか?」

「増やしてんだよ。文句あるか?」

「文句なんかあるかよ。ってか、良いのか? んなことして」

「誰かが見てるわけじゃあるめぇし、問題ねぇな。そもそもここに来る人なんざ、お前が知ってるように滅多にいねぇし」

「そりゃそうだ! 俺みたいな人間が安心していられるしな!」

「全くだ。そう思ってんならさっさと出て行け」

「はいはい。んじゃ、いつか会おうや。クソジジイ」

「……ケッ。もう来るんじゃねぇよ。クソガキ」

 

 ハハハ。今の沈黙は気付かれたかね。まぁいいや。どの道、俺はここから立ち去るし、隠す気もなかったしな。

 世話になった。あばよ、クソジジイ。

 

 

 * * *

 

 

「あぁ? んだよ、テメェら」

 

 ジジイの家から出て来てまだ30分くらいだぞ。早すぎんだろこの野郎。

 まぁ、出てきたのは弱そうな冒険者三人だ。正面に二人、森の中からこっちを狙ってんのが一人って感じだな。

 俺を狙いたいなら、獣の如く隠れろよ。風上に隠れるなんざ初心者丸出しだろうが。

 …とは言っても、俺の気配察知の精度は低いからな…一人いるのは確実だが、本当に一人かは知らん。

 

「貴様、指名手配されてる人間だな! 俺たちがここで倒す!」

「これ以上、犠牲者は出させないぞ!!」

 

 おぉ、これはこれは。俺を殺しに来た『英雄』様らしい。

 指名手配されてんのに名前が無いってのは、俺が誰にも名乗ってないからだろうな。ジジイも俺の名前は知らん。つか、ジジイの名前も知らねぇや。

 まぁ、今後俺が名前を名乗る時が来るかどうか、怪しいもんだけどな。

 

「ハハハ。そうかよぉ。じゃあ、殺してみろよ『英雄』様よぉ」

「クッ…やぁぁぁ!!」

 

 突撃してきたのは、正面に立った二人のうち、俺から見て右側にいた爽やか青年。ちなみに、もう一人の方は2mくらいある大男だ。どう考えても盾役はそっちだろうに。アタッカーが出しゃばって死んだら世話無いだろうが。

 

「おいおいおい。そんな頭に血が上ってる状態で倒せるのかぁ?」

「うるさい! 指名手配されている奴が説教をするな!」

 

 説教と分かってるなら直せよ。こいつ阿保だろ…仲間が可哀想。まぁ、俺に剣を振るった時点で敵と見なして容赦なく殺すけど。

 

 振り下ろされた剣を受け流し、青年の足を払って転ばせ、素早く青年の腕を浅く切る。

 ん~…腱を斬るつもりだったけど、そこまで技術ないし、またいつか試そう。

 続く大男。身長ほどもある大剣を振るうとか、大物だわ。

 まぁ、当然のようにそれを右にステップすることで躱し、大男に迫ると、その両足を斬る。

 

「おいおい…連携ズタズタだねぇ。魔法使いさんとか、ヒーラーさんとか出てきた方が良いんじゃねぇの? 全滅しちゃうよ~?」

「何を…言ってるんだ…!!」

「あれあれ~? じゃあ、向こうの木の裏に隠れてタイミングをうかがってるのは通りすがりさんかぁ…じゃあ仕方ない。君たちが死んでもどうしようもないね。自然の摂理さ」

「そんなことには…ならない!」

 

 横なぎに振るわれる剣。咄嗟に下がって躱すと、直後に背後から殺気を感じ、無意識に右側に跳ぶと、大剣が振り下ろされる。

 

「おうおう。意外だ。その怪我でも動けるのか」

「へへ…これくらいじゃ、俺らは止まらないぜ…!」

「ほぅほぅ。じゃあ、それなりにやる気出してもいいのか。んじゃ、死ねや」

 

 突撃する俺。素早く身をかがめ、右から来る火球を躱す。

 完全に俺の行動を読んでる様な正確な頭部を狙った一撃。でもよ、殺気は見え見えだぜ? 魔法使いちゃん。

 まぁ、驚いてる男二人は、かがんだ時に拾った二つの石を一つずつ顔面に叩き付け、怯ませる。

 後は素早く大男の腕を斬り、痛みによって大剣から手を離した瞬間に、青年の足を斬る。

 もちろん、これで死ぬわけがない。ただ、出血多量で殺せはする。つまり、ヒーラーを釣るには一番な訳だ。

 

「オラオラァ! さっさと回復してもらわねぇと死ぬぜぇ!?」

「う…うわああぁぁぁぁぁ!」

 

 剣を大きく振りかぶって俺を斬ろうとする青年。

 あ~…なんかもう、メンドクセェ。殺そう。魔法使いくらい、追って殺せるし。炙り出して殺す必要はねぇわ。

 ため息を吐き、青年の剣を受け流して、そのまま返す刀で首を落とす。

 

「ったくよぉ…そもそも俺を狙わなきゃあ長生きできただろうに。つまんねぇやつ」

 

 死体を軽く蹴った後、振り返って大男に一撃食らわす。

 しかし、

 

「お?」

 

 剣は大男の腕に当たり、止まる。

 力の入れ加減を間違えたらしい。威力不足だな。完全に油断した。まだまだ戦闘は慣れねぇな。

 ま、練習台になってくれや。

 

「御愁傷様。こんなバカについていかなきゃ生き残れただろうに」

「今更逃がす気はないのだろう…!?」

「ハハハ、ご名答。んじゃ死んでくれ」

 

 剣を引き抜き、今度は全力で振るう。

 大男の首が飛び、鮮血が舞う。

 剣を振って血を払い、鞘に戻す。

 

「さてと、魔法使いちゃんを殺しに行くかね。悪いが、楽しくやらせてもらうかね…ハハハ」

 

 いつの間にか増えてる二つの気配を追って、俺は走る。

 

 

 * * *

 

 

 私は逃げていた。あの化け物から。

 私達のパーティーは、それなりに強かったっていう自覚はある。

 リーダーであるアレスの暴走さえ無ければ良かったんだけど。

 まぁ、その暴走も、副リーダーのガルマがカバーしていたから、あまり問題はなかった。

 だけど、今回の相手だけは違った。

 盗賊なんて比にもならない。そもそも、アレスの一撃が簡単に受け流された時点で逃げるべきだった。

 勝てるわけがないのだ。最速の攻撃が出来るアレスの攻撃が流され、ガルマの大剣もかわされた。しかも反撃まで食らってたし。

 ヒーラーであるリムルはその時点で怯えちゃったし、私も頬がひきつった。

 ガルマが二度目の攻撃を仕掛けると同時に、待機させておいた【ファイアボール】を放ったが、あっさりとかわされた。

 この時点で、私ははっきりと確信した。

 勝てない。逃げるしかない。

 二人を見捨てるのが一番だと、私の中の私が囁いた。だから、リムルを連れて逃げ出したのだ。

 正直、あの二人を見捨てるのは心苦しかったが、生き残るためにはこれしかなかったのだ。村までたどり着けさえすれば、生き残れるはずだ。だから私は全力で走り――――

 

 

 

 

 

 

「やぁ。さっきの火球はまぁまぁだったよ。もうちょっと殺気を消すべきだったね」

 

 

 その言葉に、私は心臓を捕まれたと錯覚した。

 

 

 木の上から軽々と降りてくる男。アレスとそんなに歳は離れていないように見える。

 黒髪黒目の、少し細いくらいの見慣れない格好をした少年。

 だが、彼こそ、アレスとガルマを殺した人間だ。

 ヘラヘラと笑ってこそいるが、その顔の裏で一体どんな非道なことを考えているか分かったものではない。

 彼は勇者として異世界から召喚されたにも関わらず、国王様に攻撃を仕掛けたのだ。まともな思考をもっているならするはずがない。だからこそ、彼が一体何を考えているのか、検討もつかないのだ。

 

「さてと。お嬢さん方?何時まで逃げ続けるつもりかな?」

「ヒィッ……!!」

「リムルには…手を出させないわ」

「おーおー。厚い友情かな? いいねいいね。正直、俺としてはその友情を仇で返されるってシナリオが一番だと思うのよね~。どう思う? 英雄ちゃん」

「ふざけたことを言わないで!!」

 

 私たちを『英雄』と言って嘲笑うこの男に意気がってみてはいるものの、正直打開策なんか無い。魔法を撃てるような距離じゃないし、力で敵うわけもない。なら――――どうするか。

 

「ふざけてないんだけどねぇ~。まぁ、そこのヒーラーちゃんを逃がすためってんなら納得だわな。この距離だと、魔法なんか撃てねぇだろ?」

「ッ!」

 

 見透かされてる。というか、ソレがわかっているのにも関わらず、なんでこいつが攻撃してこないのか分からない。

 遊ばれているのか、それとも何かを聞き出したいのか。

 

「そう思うなら、早く攻撃すれば良いじゃない」

「ん~…まぁ、そうなんだけどさぁ…一応、自分の立ち位置くらい知っておきたいじゃん? 現状、俺の賞金、いくらよ」

 

 後者だったが、この男は、何を言っているんだろうか…? 自分にかかってる賞金を気にするなんて、理由が分からない。けれど、下手に逆らうと不味い気がする…どのみち殺されるのかもしれないから、一応聞くだけ聞いておこう。

 

「そんなこと教えて、私に何の得があるのよ」

「ん~…そうだなぁ…後ろのヒーラーちゃんは逃がしてあげよう。正直、俺としては逃がしたくないけどね。王国軍呼ばれても困るし」

「信じられるだけの保証がないわ」

「ん~…保証ねぇ…じゃあ、その子がいなくなるまでここで待ってようか。あぁ、君も待つんだよ? 魔法使いちゃん」

 

 待つ。この男はそう言った。なら、リムルには逃げてもらおう。全滅したら、彼の情報を渡すことはできない。殺される危険があっても、伝えないといけない。だから、リムルには逃げきってもらうしかない。

 

「……リムル。行って」

「で、でも……!」

「いいから早く!!」

「ッ…! ……ごめんなさい!」

 

 走っていくリムル。その姿は、すぐに森の中へと消えていった。

 

「はぁ…まぁ、懸命な判断だよ。ったく…それが出来るなら最初からやってほしいっての。突っかかってくるなよ…」

「アレスがあんたを見た瞬間に飛び出していったのよ…後退できるわけ無いじゃない…私だって、こんなところで死にたくないわよ」

「ハハハ。残念。ここで死ぬしかないんだよ。俺に突っ掛かってきたそのアレスってのを恨みな」

「ひどいやつ。見逃してくれてもいいじゃない」

「そりゃ無理な相談だ。俺は俺のために殺す。何もかも、一切合切な。人間なんか、良い奴がいるなんてのは幻想だ。俺はひたすらに裏切られたからな…皆殺しさ。………あぁ、いや、皆殺しじゃないか。ジジイは流石に殺せねぇわ」

 

 最後の方は聞こえなかったが、一つだけ確かに分かったことはあった。

 

「……身勝手な復讐に私達は巻き込まれたのね。バカみたい」

「笑いたきゃ笑え。俺は行動を変える気は無いし、お前を見逃す気もねぇよ。さて、さっさと話してもらおうかね」

 

 やばい…ついにこの時間が来た。

 ここで話せば、私は死ぬ。話さなければリムルも死ぬ。どうやってこの場を切り抜けるか…

 

「あぁ、ちなみに、逃げようとしてるみたいだけど、この距離ならすぐに追いつくし、君くらいの防御力なら一撃だ。さっさと話した方が楽だぞ」

「すぐ殺すって意味でしょうが…私はまだ死にたくないのよ」

「じゃあさっきのヒーラーさんを追って殺すか。君は運が良ければ生き残れるようにしておいてあげるけど、どうする?」

「クッ…!!」

 

 私が生きるか、リムルが生きるか。二つに一つ…というわけだ。しかも、私はどうあがいても生存率は低いらしい。

 

「別に、私は自己犠牲が強いわけじゃないし、むしろまだまだ生きたいし、けど、リムルを殺してまでは生きたくないし…どうすれば良いと思う?」

「んなもん知らねぇよ。って、言って強引に情報を聞き出して殺すのが悪役の王道だろうが、単純に飽きた。もう逃げてもいいから情報寄越せ。くれないんなら殺す。さっさとしろ」

「うぇ!? 良いの!?」

「うるせぇ。正直ここで時間取られてる場合じゃねぇんだよ」

 

 一気に高圧的になってイライラしている感じが強く出てる。殺意全開、といった感じだ。

 いや、何かを警戒しているような…そんな感じがする。でも、何に?

 

「答えられるのか、答えられないのか、さっさと教えろ」

「わ、分かった!」

 

 逃げ場はない。従うしかない。それに、言ったところで私には何の問題もない事柄だ。これ以上不利になることなんか思い付かないし。

 

「俺の首に掛かってる賞金だぞ? 良いな?」

「えぇ…憶えてる。金貨5枚よ」

「へぇ…案外かかってるのな。つか、王様殴ろうとしてそれなのか…まぁ、それで十分か。どの道冒険者ギルドも使えんし、町には入れない。良い感じにムリゲー構築してってんなぁ…ハハハ。いいねぇ…じゃ、またいつか会うかもしれんな。じゃあな」

 

 そういうと、男はさっさと行ってしまう。本当に、時間を取られている場合じゃなかったのか、すごい勢いだった。

 何だったんだろうか…そう思いつつ、私はその場に座り込んでしまった。腰が抜けた、というのだろう。たぶん。

 

「あ~…かっこいい事言ったけど…また生き残っちゃったなぁ…リムルになんて言われるか、分かったもんじゃないわ。アレスとガルマも死んじゃったし…どうするのよ、コレ。また、一からスタートじゃない…馬鹿…」

 

 そんな文句を言いつつ、助かったことに喜びを覚えている自分が何となく許せなかった。

 

 

 * * *

 

 

「はぁ…結局、面倒くさがりというか、チキンというか。まぁ、人殺しは勢いそのままやらねぇと萎えるな。っと。とりあえず、さっさと行くか。金はいくらか手に入れたが、顔を隠す手段はねぇからな…少なくとも、顔を隠すまではどうしようもないか…ジジイの所で買えばよかったな」

 

 今更、思ったところでどうしようもない。ジジイに迷惑はかけられねぇ。めちゃくちゃ助けてもらってるからな。

 いやぁ…しかし、初めて人を殺したが、テンションが上がって仕方ねぇ。まぁ、空元気かもしれんが。感覚は無いから、問題は無いだろうが。けど、次は連戦じゃなきゃダメだ。時間が経つと殺す気が失せる。そしたら性能がた落ちだからな…まぁ、まだ人の心が残ってるってことで安心しても良いのかもしれないが。

 だが、今回はそのせいで始末し損ねたし、テンションも下がっちまうくらい冷静になるしで完全に裏目だ。直さねぇといけねぇな…いや、でも、人道を外れたらタダの外道…クズの仲間入りか。ちゃんと殺す殺さないの判定は付けなきゃいけねぇか。

 とにかく、俺は逃げるかね。え? 何から逃げるのかって……王国騎士だよ。あんの駄王。ついに動いたよ。もうお前が一人で倒せよ魔王。

 とにかく、やっと気楽に動けるようになったからな。俺は気ままに、世界を回る。何もかも、楽しんで。

 んあ? どこ行くか? 気の向くままに、何となくに決まってんだろ?




感想、批評、アドバイスなどをくださるととてもありがたいです。
次回も頑張らせていただきます。
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