あ~…かったるい。適当に馬車でも捕まえた方が良かったか…?
まぁ、んなこと考えた所で今更どうしようもない。それに、金も無いし。どこかにたどり着くまでの辛抱だ。
「……さっきから後ろをつけてるのは、魔物か…?」
ぼそりと呟く。
まぁ、あくまでも牽制みたいなものだ。本当に出て来られても困る。
案の定、誰も何も出て来なかった。
しかし、今日はどこで寝ようか。もちろん、目的なんか無い。とりあえず居心地が悪かったから出てきたようなものだ。
……洞窟とか無いかな…どうせ盗賊とかしか居ないと思うし、乗っとるか。
ん…? あれ? 俺の立場って、むしろ格好の的なんじゃねぇの?
「あ。囲まれた?」
あっさりと包囲された。そう思ったのは、目の前に頭の上がツルツルの大柄なおっさんが出てきたからだった。うん。やっぱり気配は読めてなかったらしい。さっきもそうだけど、読み違いが酷いな、
なんというか、全身から『盗賊です』感を放っているおっさんだった。左目アイパッチとか見にくそう。というか、戦闘では圧倒的ハンデだと思う。
というか、思ってすぐに囲まれるとか、運が無さすぎると思うんですがそれは
「おいガキ。金目の物を全部置いていけば生かして帰してやるぞ?」
「……帰るところがないんだけど?」
「は…? ………ハハハハハ! マジかよ! 帰るところがないとか、残念な奴だな! ククク…じゃあ、土に還してやるよ!」
「いや、残念なのはお前だろ」
事実を言ったらこんなに笑われるとは…単純に頭の中がお花畑だったらしい。というか、よくそれでここまで生き延びられるもんだよな~。
そう思っている間にも、残念野郎の右手に持つショートソードが迫る。
大振りな為、俺が見てきた中で一番隙が多い。そう考えると、あの駄王やさっきの二人もかなり強い方だと再認識する。まぁ、あれが通常とか、そんな事はないだろうな。と思っていたし。というか、さっきの英雄君(笑)の方が強いような気もする。
まぁ、片隅でそんな事を考えながら俺は左に軽く跳んで回避。着地と同時に左足を軸にして回し蹴りを放つ。
蹴りは腕に当たり、ほとんどダメージを与えられない。
直後襲い来る
反射的にその場を離れ、何かは地面にぶつかる。
「……あぁ、そういうことか」
何かが飛んできたのは左。居るのは魔法使いだと思う。
おそらく先程の何かは風魔法だ。だから見えない。
まぁ、風の流れがおかしいから完全に分からないと言うわけではないのだが、混戦状態だと厄介極まりない魔法である。
そういや、魔法の説明はしてねぇな。後ですることにしようか。
「ん~…これは魔法使いから消す方が良いかなぁ…」
地面に着地すると同時に、俺は魔法が飛んできた方向に走る。
やはり、そこには人がいて、一枚の紙を持っていた。
その紙に描かれているのは、円状の物。そう、魔方陣だ。
「『風よ。今ここに集いて、敵を撃て』!」
その陣が緑色に輝き、その輝きが弾けると同時に何かが飛び出す。
それは風魔法。おそらく、初級魔法の【風弾】だろう。威力は低いが、少し動きを止めるには十分だ。
まぁ、当たらなければ問題はない。
進む勢いを消すことなく、右斜め前に飛び込むことで【風弾】を回避。前転しながら体制を建て直し、後ろに回り込んで立ち上がりの勢いを利用しつつ逆袈裟を放つ。
「うぁっ!」
短い悲鳴を上げて崩れ落ちる魔法使い。
だが、俺は剣を止めることなく首に剣を降り下ろし確実に仕留める。
次に無視した男に走り寄り、相手が気付くと同時に剣を首に向かって突き出す。
「クッ!」
ミスった。寸前でかわされた。
そして、そのせいで俺は隙だらけになり、男に蹴り飛ばされて何歩か後ろに下がる。
「チッ。ソイルは死んだか」
「ハハ…あの魔法使いか? 雑魚だったな」
動揺は見えない。仲間が死んだってのにその態度を取るってことは、そんなに重要視はされていないようだ。というか、こういう奴は自分良ければ全て良しって感じだな…まぁ、俺がやり易くなったことに変わりはない。
「そうか…じゃあ、テメェら! さっさと身ぐるみ剥いで撤退するぞ!」
その言葉と共に、何人か出てくる。
ざっと数えて……全員で8人か。少ねぇな。まだ何人か隠れてると考えるのが妥当だな。
まぁ、戦って勝てるつもりなんか無いんだけど。
「かかれ!」
「「「おぉぉ!」」」
うるせぇ。というか、騒いでも大丈夫なくらいにここら辺に人間はいねぇのかよ。魔物もだけど。
とりあえず、いろんな方向から矢が飛んできたので、最初にいたリーダー格っぽい男の背後に隠れる。盾代として足を斬っておいた。
悲鳴を上げるけど、そんな事は知らん。盾としての役割さえ果たせば何の問題もないのさ。
男はしっかりと盾としての役割を果たしてくれた。針山状態だ。つか、恨みがあるんじゃないかってくらいに刺されていくんだけど。狙ってるんだけど。特に顔。いじめられてんじゃん。ざまぁ。
……人の事言えないんだけどな。止めろよ。俺がボコられてるみたいだろ。
まぁ、いつまでも不毛なことはしていられないというのには気付いたらしく、回りの奴等が剣を振るってくる。
「危ないっての」
完全に息絶えた気がするお頭(笑)を貫いて、彼等は俺を襲う。
もちろん俺はすぐさま逃げ出して回避。後方から飛んでくる矢に注意しながらも逃げる。
ちなみに、逃げる方向は進んでいた方向である。たぶん、そっちの方向に何かがあると思うというのと、戻ってジジイに迷惑をかけるのは問題だろう。という二つの理由だけだったりする。
最優先はジジイだけどな。俺史上最高に良い人間だよ。ジジイは。
まぁ、それは良い。置いておこう。
とにかく、今は逃げることに集中しなきゃいけな――――
「ッ!?」
走る激痛。頭部に走るそれは、俺の視界を歪ませるには十分な威力だった。
こん棒なんか持っていただろうか…だが、今の状況に置いて、それは果てしなくどうでも良いことなのだった。
俺の意識は暗転した。
* * *
ビシャッ! という音と共に何かがかかる。
冷たい。そう思う間もなく、俺は飛び起きる。
「あぁ、お頭。目を覚ましましたぜ」
「ご苦労」
はて。お頭…ということは、あの顔針山はただの雑魚だったってことなんだな。ちょっと上程度の存在ってことか。
ふむ。もしや、顔針山になった原因って、その程度の雑魚的存在な癖にデカい顔をして仲間に変な目で見られた結果? 一瞬でも自分を投影して損したわ。俺はデカい顔したこと無いし。というか、出来なかったし。
んで、満を持してのお頭。その容姿はどんなものか。
「小僧。ずいぶんと調子の乗ったことをしてくれたみたいだな?」
「………うわぁ」
モヒカンだった。ヤバかった。もう、吹き出すかと思った。
赤いモヒカンに厳つい顔。さっきの顔針山よりもがっしりとした身体。銅色の防具は、むしろその筋肉の方が防御力あるんじゃねぇの?というくらい惨めに見えた。
けれど、やはり、駄王やジジイよりも弱く見えるのはなぜだろうか。というか、あの二人が桁違いと言える気がする。いや、事実桁違いなのだろう。そもそもあの二人は一般の盗賊なんかと比べちゃいけない奴だ。ってか、ずっとあの二人と比べてんな。どんだけ印象に残ってるんだよ。
「……小僧。今貴様、失礼なことを考えなかったか?」
「は? いや、考えてないけど?」
「そうか…まぁ良い。俺の考えすぎだろう」
この世界の人間は読心術に長けているんだろうか。そうじゃないなら、もう呪いの域ではないだろうか。悟りかもしれないが。どの道不気味だ。
「それよりも小僧。ずいぶんと俺の部下を可愛がってくれたみたいじゃないか。ソイルとザッコを…特にザッコは顔を何本もの矢で突き刺しおって…中々残酷なことをするな」
回収してきたのか、魔法使いと顔針山の死体がお頭と呼ばれた男の足元にあった
……あの、それ、そいつの部下っぽいのが率先してやってたような…ほら、さっきそいつと一緒に見た男が泣き真似して笑ってんぞ。ニヤケ顔が見えるぞ。ニヤニヤしてんじゃねぇか。どんだけ人望無かったんだよ顔針山。あ、ザッコだったな。
ザッコ!? 名前がザッコとか、名は体を表すってか!? 爆笑だぞそれ! っていうか、よくそんな名前にしたな! 子供の頃にいじめられそう!
「こいつは昔から名前でバカにされて、ようやくここまで来たってのに…」
ブホァッ! ガチでいじめられてるし! 親がひでぇ! そんな親いるのかよ! 笑い死ぬわそんなの!
……俺の親も似たようなものか…すまんザッコ。同類だった。
「……まぁ、こいつの事なんかどうでも良いんだ」
男はそう言って、死体を蹴り飛ばす。
直後、何故かイラッときた。
「なぁ、小僧。俺の部下にならねぇか? お前くらいの実力なら、直ぐに良い地位にたどり着けるはずだぞ?」
勧誘。まぁ、そんな事だろうとは思った。というか、よくこんなガキを誘うつもりになったな。
だが、当然の如く、俺には入る理由が無い。そして、盗賊稼業に興味はない。
しかし、俺はあえてこう言う。
「手足拘束されて剣まで没収されてりゃ、何も出来るわけ無いだろ? それに、俺は『ステータス用紙』を持ってねぇ」
「ほぅ? なら、今ここで調べるとするか。おい、『ステータス用紙』を持ってこい!」
「オッス!」
後ろにいた部下が了承の言葉だけ言って、『ステータス用紙』と呼ばれた何かを取りに行く。
『ステータス用紙』。ゲーム等で出てくるようなアレだ。もちろん、様々なモノが表示されるし、それ自体が身分証明書となる。
職業等も出るらしいが、そこに表示されるのは適正職業であり、現在の職業とは無縁だったりするらしい。ジジイ。曖昧だぞ。
と、部下が戻ってきたらしい。俺の剣と例の『ステータス用紙』らしきものがあった。
折り紙くらいの大きさの白い紙。あらゆる魔法で傷一つ付かず、剣ですらも切り裂けないと言われる。
『ステータス用紙』は最初、何も表示しない。そして、表示させる方法は、させたい人物の血を一滴以上染み込ませること。
男はそのステータス用紙を受け取ると、小さなナイフを取り出して、俺の左腕を浅く切る。
「痛っ!」
痛みを感じないわけじゃない。普通に痛いものは痛い。ナイフで切られて痛くないとか言う奴は、痛覚が狂ってるんじゃねぇの?
とにかく、その傷口に『ステータス用紙』が当てられ、血が染み込んでいき、文字が浮き上がってくる。
「あ~…なんだこりゃ。壊れたのか?」
「……見せてくれよ」
「あぁ。まぁ、おかしいけどな」
男はそう言って、俺の足元にその用紙を投げる。
俺はそれを見て、首をかしげる事になった。
――――――――――――――――――――
朝霧 修也
職業:???
Lv:5
NEXT:3,692
HP:100/120
MP:10/10
STR:60
DEF:50
DEX:55
AGI:60
INT:70
MND:80
スキル:『―――』
――――――――――――――――――――
酷かった。というか、適正職業が勇者ですらなかった。というか、『???』ってなんだよ? もしかして職業適性無し? ニートなの? 泣くよ? 更にスキルに至っては何? 意味が分からないよ?
まぁ、やっぱり俺はゴミなんだな。というのは確認出来た。見たくない、認めたくない事実だが。
で、盗賊共は爆笑している。面白かったらしい。
しかし、お頭は俺とステータス用紙を見比べ、一言。
「見込み違いか? ザッコとソイルが殺されたのは偶然か…おい。こいつをその使えねぇ剣と一緒に穴に放り込んでおけ」
「は?」
呆然とした。しかし、現実は覆らない。
男の部下は一瞬固まったが、直ぐに建て直し、大きく返事をして俺の襟首を持って引きずっていく。
『ステータス用紙』は縄と身体の間に挟まれた。
あの野郎、速攻で見捨てやがった!? 理解出来ねぇ。なんでそういう結論になるんだよ!?
「その用紙はもう使えねぇからな。一緒に捨てておけ」
「なっ! なんでだ!? 何もしてねぇだろうが!!」
だが、答える声はない。お頭はもう興味を失ったのか、また椅子に座ってこちらを向くことはなかった。
振り向くと、それなりにデカい穴が迫っていた。
「バカ! 落ちたら死ぬだろ!? なんでいきなりこんなことしやがる!!」
やはり、答える声はなく、俺はそのまま穴へと落とされた。
離れていく光から、何かが更に投げられる。おそらく剣だろう。
嫌な浮遊感と落下による風を感じながら、俺は意識を落とした。
* * *
ピチョン。ピチョン。と、水に何かが当たったような音がする。
下半身の冷たさに目を覚ますと、どうやらここはそれなりに大きい水溜まりらしかった。
「ぐぅっ…あの野郎…簡単に捨てやがった…また要らない奴判定かよ」
しかし、こうもあっさり捨てられると、怒りが一周してどうでも良くなる。
それよりも、周囲を確認する方が先決だ。
「……敵影はなし。一応今のところは安全か」
周囲を見回し、何もいないことを確認。しかし、未だに縄が外れていないことにも気付いた。
幸い、剣は近くに転がっており、俺がその剣のそばまで這っていき、鞘から抜いて気合いで縄を切る。
「ハァ…めっちゃこえぇ。自分を切るかと思ったわ」
最良の結果になったのが助かった。最悪、自分を切って、縄を全く切れない可能性もあった。賭けに出て良かったかもしれない。
縄はこのまま持っていくことにする。どこかで使えるだろう。
ここは地下空間のようだった。
それなりに広い場所で、出口は見当たらない。代わりに、穴があった。
天井には無数の黄色く光る鉱石があった。
水は飲めるようだが、飲むと胃と傷口がジリジリと痛む。
傷口を見ると、塞がっていっているようだった。というより、塞がった。あっという間に消え去り、分からなくなる。
「……回復薬か?」
呟いて、再認識する。
回復薬。ポーションみたいなものらしい。こんなところにあるのか。と驚きながら、天然物だったのか。とも驚く。
よく調合などをしているのを見るが、この世界では天然物らしい。珍しいな。と思いつつ、完全に回復するまで飲んでおく。味は甘いので、飲んでいて苦ではない。
出来れば容器を手に入れたいところだが、生憎作る道具がない。持ち運びができると楽なのだが。
なぜ胃が痛くなったのかまでは分からないが。
とにかく、一度出口を探す必要があった。
穴の中に降りるのが一番だろうか。とも考えたが、最悪ここに戻れなくなり、更に深いところに潜るというのは、現実的にヤバイ気がした。
なので、まずは壁を触り、スイッチみたいなものがないだろうか。と探す。
だが、当然のようにそんなものはなく、やはり穴から降りる以外に無さそうだった。
降りる前に、ジジイから学んだ物を実行してみる。
作業をしている間に魔法と魔法適性に関して話そう。
魔法は、魔方陣と呪文と魔力から構成される。
どんな魔法でも、魔方陣と呪文と魔力があればなんとかなる。ここで適性が関係してくるのだが、まずは適性無しの場合で。
まず、適性がないなら魔方陣と呪文の量が増える。魔方陣は大きく、呪文は長くなっていくのだ。魔力消費量も変わってくるが、書物に記されているのは適性無しがほとんどだったりする。むしろ適性ありも状態で記されているのは稀だろう。
俺の場合は初級魔法でも呪文は5節、半径1メートルの魔方陣を必要とする。適性ありだと、呪文は1節、半径10センチでも可能だったりするので、理不尽だ。
ちなみに、魔方陣と呪文無しで魔法が放てるのは、現在は魔物以外は居ないとされている。事実は知らん。
まぁ、つまり、だ。魔法はさっき上げた三つがあれば可能。使いたい魔法に関する適性があれば楽になる、という感じだ。
ちなみに、魔法難易度の段階は、初級、中級、上級、最上級だ。最上級は一人で使える魔法じゃないと、よく言われる。事実、そこまで魔力が持たなかったり、詠唱に時間がかかりすぎたりするために、不可能レベルだ。上級魔法を単体で撃てたら大物扱いされるというのが通常である。
「っと、このくらいか」
地面に魔方陣を書き終わり、今度は魔方陣に触れ、こう、なんか、よく分からないものを流し込むようなイメージをしながら言葉を紡ぐ。
「『夜を 照らす 光よ 今ここに 灯れ』【灯火】」
ぽわり。と、柔らかい火が生まれる。
普通の火とは違い、これは魔力で保っているので、燃やすものがなくても問題はない。代わりに一定時間で確実に消えるので、その度に呪文を唱えなければならないのが問題点だ。
まぁ、この火で物を燃やせば、その火は物理的な火になるので、魔法が解けても燃え続けるが。
初めて使ったわけではないが、即興でここまで出来れば上出来じゃないだろうか。
そう言えば、魔法属性の話もしていないか。
一応、大まかに分けて『火』『風』『土』『水』『雷』『光』『闇』の7種だ。
適性は0~7個で、全属性適性を持っていると英雄扱いだ。それほどまでに珍しい上に、戦力的にも最高レベルになること間違い無しだからな。
それと、『光』と『闇』の二属性は少し特殊で、その二つだけは大雑把な分類なのだ。共に総称ということで、細かな分類の方が喜ばれる傾向にある。総称の方で適正があった場合は、器用貧乏になるからだ。
さて、服も乾いたし、体も温まった。
んじゃ、探索してみるか。
* * *
近場のそれなりに頑丈そうな岩に縄を括り付け、俺は穴に入っていく。
【灯火】は地面に描いた魔方陣で構築しているので、持ち歩けないのが難点だ。紙とかなら持ち歩けるが、残念ながら持っていないので、諦めるしかない。それと、鉱石の光もここまでは届かないようだった。
暗闇に目が慣れてきたので、軽く見回す。
通路になっているようで、生き物の気配はなかった。ここには誰も近づかないようだ。
なんで近付かないのかは分からないが、探索が楽になるのは確かだった。
俺はその道を歩いていき、すぐに光を見つけた。
ここまでの距離はほとんど無い。後ろを向けば降りてきた穴とロープが見えるほどだ。
俺は光の差し込む隙間から外を見る。
離れたところに灰色の毛に、尻尾が三本ある狐がいた。目は紅く、強いと瞬時に理解させられた。
その狐から更に少し離れたところに、真っ黒でやはり紅い目をしているウサギがいた。
あ、狐がウサギを見つけた。んで、様子を見つつ飛びかかった。
これはウサギが死んだな。俺は少し距離を空け――――
ドパンッ!! と空気が破裂するような音と共に狐の頭が弾け飛ぶ。
「………はぁ?」
比喩ではなく、文字通り弾け飛んだ。原型なんて残っていない。というか、消し飛んでいた。
頭が消えたせいで狐の首からは血が吹き出し、周囲を紅く染めていった。
ウサギはその死体のすぐそばまで歩いていき、少し死体を観察した後、食べ始める。
ウサギって、肉、食うんだな。
ぼんやりとそんなことを考えて現実逃避を図ったが、すぐに現実に意識を引き戻し、脱出する術を探す。
ここにいると殺される。ならば、外を目指す他無い。
だが、現実は非情だ。
外に出られる場所を見つけ、周囲に敵がいないことを確認して飛び出した。
ほぼ黒に近い紫色の壁に、あの空間と同じ光る鉱石があった。それで周囲が確認できるが、警戒してもしたり無いくらいの重圧が漂っていた。
「ハァ…ハァ…ックソ、どこにいけば良いんだよ…」
目的地不明。その上、自分を簡単に殺せるような化け物が普通に歩いている。そんな状況、絶望としか言えない。
内心で悪態を吐くが、現実が変わるわけでもない。俺は震えそうになってる足を無理矢理立たせ、歩き出す。
「ハハ…ヤベ」
数歩で、見つけた。見つけてしまった。
化け物ウサギだった。
持っている剣はおおよそ役に立たないだろう。
どうにかして逃げねぇと死ぬ。
俺はすぐさま反転し――――
咄嗟にしゃがむ。
頭の上を通り抜ける突風。
原因はわかりきっていた。
「クソがッ!」
二本足で直立する黒ウサギ。その異常発達している足から放たれるのは、人知を越えた、俺を一撃で蹴り殺せる凶悪な一撃だ。肉が弾け飛ぶような重撃を受け止められるわけがなかった。
よって、ここは逃げる一択だ。
しかし、逃げる場所はウサギの後ろしかない。つまりは、あのクソウサギの後ろに回らなければいけないということだ。
無理ゲー? 無謀? やったろうじゃねぇの。
小石を拾う隙すらない。だからといって剣は投げられない。ならばフェイントか。うまくかかるか?
だが、考えを実行するよりも早く、奴が動いた。
「ッ!!」
行われたのは突撃。文字通り、正面から突撃してきた。
咄嗟に左に避ける。
ドッ!! と音を立て、吹き飛ぶ。
地面に当たるよりも早く壁にぶつかる。右腕の感覚がない。いや、違う。痛い。痛い、痛い痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃぃぃぁぁああああああああああ!!!
「ッ――――――――――――!!!!」
声にすらならなかった。
掠れたような音が、漏れるように聞こえるだけだ。
右腕は折れてはいけない方向に折れ曲がっていた。ぐちゃぐちゃに折れていた。
気分が一気に悪くなる。吐き気が込み上げる。視界が歪む。恐怖で全身が固まる。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。殺される殺される殺される殺される殺される。
頭の中が真っ白になり――――
ウサギがゆっくりと近付いてくるのが見えた。
その表情は笑って見えた。
遊ばれていると、直感的に理解した。
嘲笑われていると気付いた。
ナニカガキレタオトガシタ。
「ガッアァァ!!」
吐き気を気合いで捩じ伏せる。恐怖を無理矢理食い破る。視界の歪みを振りほどく。痛みは理性で押し込める。
立ち向かわない。逃げるだけ。全力を持って、犠牲を最小限に、被害を最低限に、命を消さずに逃げられる方法を模索し――――ウサギが恐怖しているということに気付く。
咄嗟に右に飛んだ。今度は避けられた。飛んだのは紅い雷だった。
それでウサギは絶命する。俺はそれを軽々こなした怪物を見る。
碧い狼。鮮やかなその毛並みの上を流れる紅い雷は、あの強力なウサギを瞬殺する威力を持っている。
その瞳は例に漏れず紅色で、開かれた口から見える牙は、美しいほどに真っ白だった。
やはり、笑っていた。
だが、こいつは俺を見ていない。
今しがた狩り取ったウサギのもとまで余裕の表情というか、態度を取りながら歩いていき、バリボリと食べ始める。
俺は瞬時に逃げ出した。
だが、想定外の事が起こった。
先程までウサギを食べていた狼が隣に居るのだ。
唖然。しかし、止まることなく走り――――
右腕を食い千切られる。
激痛。しかし、悲鳴をあげる暇も、もがく暇もない。今はただ、立ち止まることもせず逃げるしかなかった。
幸い、怪物は興味を失ったのか、追いかけてくることはなかった。
いや、俺の右腕を食べているのだろう。バリッボリッといった咀嚼音が聞こえてくる。
俺は無我夢中で、出た場所から入り、あの空間まで戻った。
――――俺の右腕を食い千切った時の怪物は、嗤っていたような気がした。
* * *
水溜まりに首を突っ込んで回復薬を飲み続けながら、再生しない右腕を抑えつつ俺は思い続ける。
なんでだ…なんで、なんでなんでなんでなんでなんで…なんで俺がこんな目に遭ってるんだ…
俺が何をしたんだ…何をしたからこうなったんだ…なんでなんで…
俺はなにもしてない俺は何も悪くない俺は巻き込まれただけ俺は逃げ出しただけ逃げ出したから? なんでそれだけでこんな目に遭わなくちゃいけないんだ盗賊が原因だろう盗賊が襲ってこなければ良かったんだ盗賊さえいなければアイツ等が俺を落とさなければ何の問題もなかったんだこんな目に俺が遭うことが間違ってるアイツ等がこうなれば良かったんだ俺をいじめたアイツ等がこうなれば何の問題もなかったんだそれで俺は平和に暮らせたんだ皆皆ここに来て死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い死ねば良い―――――
――――いや、そんな事はどうでも良い。恨むよりも考えろ。妬むよりも考えろ。まずは生き残れ。アイツ等に復讐するのは二の次だ。何が足りなかった? 情報だ。手段だ。武器だ武装だ知恵だ知力だ罠だ意思だ殺意だ滅意だ想いだ力だ。
足りないなら作るしかない。造るしかない。創るしかない。
思い描け、牙を剥け、力を求め抗え。
俺は何が出来る? 可能なことは何だ? 俺を狙う奴に振るえる刃を思い浮かべろ。不可能は否定しろ。無茶は気合いで押し通せ。絶望も怒りも恨みも後回しだ。可能性は全て考えろ。無理は消す。奴等を滅ぼせ喰らえ斬れ千切れ焼け。まずは力だ。奴らに勝る力をつけなきゃいけない。そのために俺はどうすれば良い? 何をすれば奴等を超える事が出来る? 考えろ考えろ考えろ――――
その時、左腕に激痛が走った。
「ガッ……………ァァァァァァアアアアアアアアアア!!!!!!!!?!?」
痛い。右腕が食われたほどとは言わないが、近いくらいの痛みを感じる。
だが、左手を抑えるはずの右手はもう存在しない。
痛みに苦しみながら、多少の望みを持って水溜まりの水を飲む。
効果は無い。痛みは引かない。
もがき、苦しみ、悲鳴にならない声を上げながら俺は地面を転げまわる。
痛みに耐えるように左手で近くの意思を掴み、握りしめる。
耐えるしかない苦しみが俺を襲う。
悲鳴を上げ続け、痛みに耐え、なぜこうなったのかをでっち上げ――――
痛みが消える。
「ハァ…ハァ…ハァ…ックソ…一体俺はどれだけ苦しめばいいんだよ…」
悪態を吐きながら、俺は痛みを訴えた左腕を見て、
「……なんだよ、コレ」
俺は唖然とした表情でそう呟いた。
朝霧 修也。名前初登場ですね。そして、彼が見たものは――――
感想、批評、アドバイスなどをくださるととてもありがたいです。