ガンプライブ! ~School Gunpla Project~   作:Qooオレンジ

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皆様。本日もご覧いただきありがとうございます。

次回更新は月曜日の予定でございましたが、皆様からのご感想にお力をいただき予定前に更新することが出来ました。
決してスクフェスでUR花陽ちゃん(大正編)とUR凛ちゃん(アラビアンナイト編)が一度に出て、二人とも覚醒出来たテンションに任せて一気に書き上げたなんてことはありませんよ!

冗談はさておきまして、今回からのお話は第5話で全く出番のなかったにこちゃんが語り部の閑話になります。
時間軸としては第5話でμ'sが初めての公式戦に参加する直前のお話です。



それでは 閑話「マホウツカイハジメマシタ。 ~勇気の魔法~ ①」 はじまります。















閑話「マホウツカイハジメマシタ。 ~勇気の魔法~ ①」

『ごめんなさい矢澤さん…。矢澤さんを一人だけ残して辞めていく私達のことを、あなたは恨むんでしょうね…。でも…私達はもう無理よ…。どんなに頑張ってもあの“バケモノ”には勝てないわ…。だから………ごめんなさい…。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!」

 

脳裏に響いたいつか聞いた別れの言葉。

 

嫌な夢を見たわね……そう…私がひとりぼっちになったあの日の夢…。

 

そんな最悪の夢で起こされ、朝から最低の気分になってしまった私はふと横で寝息を立てている存在を思い出す。

 

大人ぶっている普段からは想像できないくらいにあどけない寝顔…。

 

ダイスキでダイキライな私の大切な人…。

 

鳴神 青空。

 

最年少でガンプラバトル世界大会を制し、欲にまみれた大人達の悪意によって深く傷付いた子。

 

いつの間にか隣に居るのが当たり前になっていた不思議な関係。

 

私とコイツの関係は恋人でも、親友でも、仲間でも、ましてや夫婦でもない。

 

とても不思議で、それでいて心地よい関係…。

 

「まったく…人が最悪な夢見てうなされてんのに、幸せそうな寝顔しちゃって……。」

 

いつもと変わらない、私だけが知っているそらの寝顔を見ていたら、嫌な気分はすっかりとどっかに行ってしまったわ…。

 

私はぼーっと、隣で幸せそうに眠っているそらの寝顔を見つめながら、あの日の事を…私がひとりぼっちになった日の事を思い返す。

 

2年前、私が音ノ木坂に入学した直後に参戦した前期ガンプライブ秋葉原地区予選。その第1回戦。

 

当時の私達音ノ木坂学院ガンプラバトル部の対戦相手はUTX高校ガンプラバトル部、チーム“A-RISE(アライズ)”。

 

相手はガンプライブの優勝常連校。万年1回戦負けのうちのチームじゃ、どうあがいても勝てないのは分かりきっていた…。

 

先輩達だって“あのA-RISEが相手じゃどうせ勝てない。勝てないならせめて派手に散ろう!”って言って笑っていたわ。

 

けど……派手に散るどころの話じゃなかった…。

 

大方の予想通り2連敗で迎えた第3戦。

 

選出されたバトル形式は10対10の全員参加のフルバトル。

 

そう…“10対10のフルバトル”のはずだった…。

 

でもA-RISEでまともに戦ったのはたったの1機だけ。

 

フリーダムガンダムの改造機を操る、当時まだ1年生だった綺羅 ツバサただ一人だけ…。

 

そのたった一人の、しかも1年生の新人スクールファイターに……先輩達は完膚なきまでに蹂躙された。

 

徹底的に。

 

試合時間はたったの5分…。

 

その5分ですらほとんどが接敵までの移動時間…。

 

接敵した瞬間に凄まじい勢いで暴れだした綺羅 ツバサの操るフリーダムの改造機は、瞬く間に先輩達のガンプラを撃墜してしまった。

 

その試合こそが“無敗の女王”綺羅 ツバサのデビュー戦。

 

ガンプライブ史上に残る鮮烈にして華麗な“無敗の女王”の神話の始まり。

 

以来、綺羅 ツバサは“無敗の女王”の異名が示す通り、公式戦では常勝無敗の負け知らず。

 

まぁその“無敗の女王”もこの前、うちのバカに野良バトルで遭遇して負けたらしいけど。

 

しかも素組のザクに。

 

あの綺羅 ツバサに素組のザクで勝つなんて、うちのバカの方がよっぽど“バケモノ”よね。

 

話がそれたわね。

 

それでそんな当時1年生の新人ファイターだった綺羅 ツバサに蹂躙された先輩達は夢も希望も何もかもを失ってしまい、失意のうちにスクールファイターを辞めてしまった…。

 

ガンプラバトル部に残されたのは当時はまだ補欠であのバトルには出ていなかった新人スクールファイターが一人だけ。

 

そう。当時の私だけ。

 

「あれからもう2年か……。」

 

あの後は本当に色々あったわ。

 

一人きりで足掻き続けた1年生。

 

バカと出会って自分自身を対価に勝負を挑んだ2年生。

 

1年間挑み続けたけど、結局はこのバカには1度も勝てなかったわね。

 

「ほーんと、ムダに強いのよね、このバカは…。」

 

当然のように勝負に負けた私はこのバカに対価を支払った。

 

私自身の身体。

 

私の“ハジメテ”を。

 

確かに合意の上での行為だったけど、あの時は気分的にはレイプされているような気分だったわね。

 

コイツもあの頃は家族以外の人をまるでゴミクズを見るような目で見ていたわ。

 

私を初めて抱いたあの時だって、必死にハジメテの痛みを我慢していた私を見下ろして笑いやがったのよ?

 

その後は正直言って思い出しくもないわ…。

 

私が痛がる様をニヤニヤ笑いながら、わざと私がもっと痛がる様に乱暴に突きやがって…。

 

終わった後にこのバカが何て言ったと思う?

 

“なんだ、アンタ泣かないのか。つまんねぇな。”よ。

 

ホント、あの頃のコイツは腐ってたわね。

 

そんな腐っていたバカでもガンプラバトルの腕は同年代では比べ物にならないくらいに凄まじかった…。

 

綺羅 ツバサを、先輩達が“バケモノ”と言った“無敗の女王”をも凌駕するくらいに。

 

だからこそ、私はこのバカの圧倒的な力を欲した。

 

遠い昔にパパと約束した“夢”を叶える為に。

 

ガンプライブで優勝する為に。

 

このバカの力を手にする為に、私自信を対価に勝負を挑み続けて、負けては抱かれてを繰り返して…。

 

気が付けば、私はいつの間にかこのバカと勝負や対価を抜きにして、こうして一夜を供にするまでの仲になってた…。

 

人生ってわかんないモノよね。

 

かつての私はあれだけこのバカを嫌っていたのに、今の私は喜んで互いの肌を、唇を、そして想いを重ね合ってる…。

 

もう何度くらい、このバカとはヤったのかしら?

 

最近は…去年の夏以降はこのバカは他の女とはほとんど寝なくなったから、私とは多くても週に2・3回くらいよね?

 

うーん?100はいったのかしら?

 

ゴム使わなかったから確実に妊娠してる回数よね…。

 

妊娠したら…私のお腹にコイツの子供が出来たら……コイツはどうするんだろ…。

 

このバカはサポートAIの使用料やらなんやらでお金は腐るほどあるから、金銭的には問題ないはずよね。

 

降ろせって言うのかな…それとも喜んでくれるのかな…。

 

子供…か…。

 

子供が子供産んだって、産まれてくる赤ちゃんが不幸になるだけよね…。

 

やっぱり私にはまだ早いかな…。

 

早いけど……やっぱりいつかは欲しいかな…。

 

「……はぁ…シャワー浴びてこよ。」

 

色々と考えてたら、それこそ何だか色々とどうでもよくなって来たわ。

 

私はシャワーを浴びにバスルームへ向かうため、ベッドからソッと抜け出す。

 

未だに軽く寝息を立てて眠っているバカの額にかかった前髪をソッと払って、何となくその額に唇を軽く当てて口付けをしてあげる…。

 

「ほーんと、バカなんだから…。」

 

ホントにバカなのはコイツか私か…。

 

ま、結局はどっちもバカなんでしょうけどけね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ………。」

 

私はシャワーを浴びながら、またぼーっと、昔の事を思い出す。

 

思い出すのは記憶の引き出しの奥の奥の奥の奥にしまいこんでいたパパの記憶。

 

優しくて、カッコよくて、そしてだれよりも強かったパパ。

 

“矢澤 虎十朗”

 

日本を代表するプロのガンプラファイターの一人だった私のパパ。

 

私のパパは6年前の世界大会で起こったそらの騒動でもたらされた、サポートAIシステムの使用とアセンブルシステムのステ振りで一変したガンプラバトルにいち早く順応して、翌年のガンプラバトル日本リーグのソロ部門を制した新世代を代表するガンプラファイターだった。

 

そう“だった”……。

 

5年前のあの日…虎太郎が産まれた少し後くらいにガンプラバトル日本リーグを勝ち抜いて世界大会への切符を手にしたパパは、世界の猛者と全てを賭けて競い合う前になんの前ぶれもなく、あっけなく死んじゃった。

 

原因はなんのことはない。よくあるありふれた、それこそ毎日どこかで起きているただの交通事故。

 

パパの乗ったバスは大型トラックに追突されて、他の大勢の人と一緒にパパも“ぐしゃ”ってなっちゃって死んじゃった。

 

事故を起こした大型トラックの運転手は真っ昼間からお酒を飲んでいたんですって。

 

嫌よね…飲酒運転って。

 

だから私はお酒は嫌い。大嫌い。

 

私は二十歳になってもお酒だけは絶対に飲まないし、妹達にも飲ませない。

 

そらは大人になったらお酒は飲むのかしら?

 

パパはよく飲んでいたっけ…。

 

そらが大人になってお酒飲むって言ったら…どうしようかしら…。

 

………また話がそれたわね。

 

今はパパの話だったわね。

 

連絡を受けて私はママに連れられて病院に急いだわ。

 

でも…病院に着いたときにはパパはとっくに死んじゃっていた。

 

後からテレビのニュースで知ったんだけど、パパは身体が“ぐしゃ”ってなってほぼ即死だったんですって。

 

そのニュースを見たときはパパが最後に苦しまないで良かったって思っちゃったわね。

 

当時の私はパパが死んじゃったのが信じられなくて、ママに内緒でこっそりと霊安室に忍び込んだの。

 

パパの死を自らの目で確認するために。

 

パパの死に顔をこの目で見るために。

 

こんな事を思うガキって気味悪いわよね?

 

でもきっとあの頃の私は正気じゃなかったんだと思う…。

 

パパの遺体を見ても涙が流れない程度には。

 

そうそう。病院の霊安室に安置されたパパの遺体は、“ぐしゃ”ってなっちゃった割には綺麗だった気がする。

 

そう思ったのはたぶん顔が綺麗に残っていたからね。

 

顔には傷ひとつなかったんだけど、顔から下はほとんど無かったわね。

 

一緒にガンプラを作って、うまく作れたら私を撫でてくれたあの大きな手も。

 

嬉しくて抱き付くと少しタバコの臭いがしたあの大きな身体も。

 

顔から下には私の知ってるパパの痕跡はナニも無かった。

 

だってなにもかも“ぐしゃ”って潰れちゃったんだもの。

 

仕方ないわよね。

 

そんな大好きだったパパと死ぬちょっと前に約束したのが“ガンプライブでの優勝”。

 

どんな経緯でパパとそんな約束したかはよく覚えてないんだけどね。

 

そんなパパとの約束はパパの死によって私の“夢”になり、そしていつしか“夢”は私を縛る“呪い”になった…。

 

「ねぇパパ…にこはパパとの約束…果たせるのかな…。」

 

約束を果たすどころか、今の私にはただ一人の仲間すら居ない。

 

スクールファイターとは名ばかりで公式戦にも参加したことがない。

 

私の側に居るのはトラウマを抱えて公式戦に出れなくなった最強のファイターだけ。

 

ソイツだって正式には私が部長を務める音ノ木坂学院ガンプラバトル部のメンバーじゃないし。

 

スクールファイターとしての私は結局は未だにひとりぼっち。

 

そらと戦い続けたこの1年で私自身のファイターとしての技量はムダに上がったって言うのにね。

 

ガンプラの作製技術だってA-RISEに負けないくらいには上達したと思う。

 

そんな私の集大成であるあのガンプラ“禍津(まがつ)ニコ”……正式名称は“ガンダムアストレイ・ダークフレーム禍津ニコ”。

 

“禍津ニコ”が完成した今の私なら、たぶん“無敗の女王”綺羅 ツバサにだって負けない。

 

私のガンプラ、“ガンダムアストレイ・ダークフレーム禍津ニコ”はゴールドフレーム天ミナをベースに改造した私の為の私だけのフルカスタム機。

 

全てを断ち切る“ツルギ”。

 

滅びの光を糧とする“カガミ”

 

私を護り、私の敵を滅ぼし、私の力となる“マガタマ”

 

禍津ニコの最大の特徴であるこの3つの装備は、そらの手を借りてもシステム周りの完成に半年も掛かったわ。

 

そう…この禍津ニコがあれば、私はガンプライブに出場さえ出来れば同年代のスクールファイター相手には絶対に負けない。

 

A-RISEだろうが何だろうが、私は絶対に負けない。

 

……あのバカの本来のガンプラ、“リヴァイブ”を使って本気を出したそらには流石に勝てないけどね。

 

アレは色々と別格だから。

 

素組の同機種対戦なら結構いい線まではいけるんだけどね。

 

「仲間……か…。もし…もしも…そらの仲間のあの子達がそらと一緒に仲間になってくれたら……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ご飯はこれでオッケーっと、次はお味噌汁ね。確か卵の期限がそろそろ危なかったわね…かきたま汁でいいかな?そらも好きだし。」

 

お米を研いで炊飯器にセットした私はお味噌汁をどうするか少しだけ考えて、卵の期限が危なかったことを思い出して朝のお味噌汁はかきたま汁にしようと思い付く。

 

かきたま汁…簡単だけど美味しいし、そらも好きなのよね。

 

そう言えば私があのバカに初めて作ってやったお味噌汁もこのかきたま汁だったわね。

 

あれっていつくらいの頃だったかしら?

 

そんなことを考えながら、私は朝ごはんの準備を進める。

 

仕上げの卵はいただきますの直前に入れたいから、まずはお味噌汁を作っちゃう。

 

今朝は二人分だから片手鍋でいいわね。

 

お鍋に水を入れてコンロに乗せて火を着ける。

 

お湯が沸くまでの間にお味噌とお出汁を用意して…。

 

お出汁…市販のお出汁の素でもいいわよね?

 

面倒だから市販のお出汁の素を使うわけじゃないのよ?

 

手を抜けるところで適度に手を抜く。

 

これが主婦の極意なんだから♪

 

そらは料理もムダに凝るから、市販の出汁とか使わないんでしょうけどね。

 

「おかずは…目玉焼きでいっか。かきたま汁に目玉焼きって卵づくしになっちゃうけど…卵、早く使いたいしね。」

 

おかずは目玉焼きに決めた。期限がヤバい卵なんて、こころ達に食べさせたくないしね。

 

え?そらならいいのかって?

 

いいのよ。ちゃんと火を通すし、期限がギリギリでもまだ一応は期限内だし、アイツはバカだし。

 

フライパンを取り出してコンロに置くと、ちょうどお鍋の水が沸騰して来たわ。

 

私は手早く沸騰したお鍋に顆粒のお出汁の素をを入れて、お玉でお味噌を入れて…おはしでぐるぐる…。

 

お味噌が溶けたら“ふえーるワカメくん”をパラパラって入れて…。

 

……お料理初心者の頃はこの“ふえーるワカメくん”を大量に入れてお味噌汁がワカメ地獄になったわよね…。

 

お味噌汁がお味噌の茶色じゃなくてワカメ色一色になって…悲惨だったわ…。

 

さて、今朝のお味は?

 

「……ま、こんなもんでしょ。後から卵入れたら多少は誤魔化せるし。」

 

私のお味噌汁…美味しいことは美味しいんだけど、毎回どう頑張ってもそらのお味噌汁を越えれないのよね…。

 

アイツ…私が目を離したスキにナニかヤバいモノ入れたりしていないわよね?

 

そんなことを考えながら、少しだけ油をひいたフライパンを熱して卵を落とす。

 

フライパンに卵を落とすと、ジューって音と共に目玉焼き特有の匂いが立ち上ってくる。

 

「そらは堅焼きで…私は半熟…っと♪」

 

私はそんなことを呟きながら、手早くそらと私の二人分の目玉焼きを仕上げてお皿に移す。

 

こころ達がいるときはフライパンで赤ウインナーを軽く焼いて目玉焼きに添えてあげるのよね。

 

あとはレタスをちぎってトマトを切って、簡単なサラダも付け合わせるんだけど、そらと私の二人だけならそこまでしなくてもいいわよね。

 

……ご飯とお味噌汁と目玉焼きだけじゃいくらなんでも寂しいかな?

 

そう思い直して私は他に何かないか冷蔵庫をのぞいて見る。

 

「うーん…あとはお漬物かな?たくあんの残りでいいや。あ、きんぴらごぼうも残ってる。これも出しちゃえ。」

 

たくあんを小皿に、きんぴらごぼうを小鉢にそれぞれ盛り付けてっと♪

 

朝はこんなモノでいいでしょ。

 

欲しいなら特別に味付けのりも付けてあげるわ。

 

あ、お味噌汁に入れるネギ切るの忘れてた…。

 

……忘れたままにしとこっと♪

 

よっし♪お寝坊さんな愛しいバカを起こしに行きますか♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そら!起きなさい!朝ごはん出来てるわよ!ほら!そら!」

 

そらを起こしに来た私は、私の部屋のベッドで未だに寝息を立てていたそらの肩を揺らして起こそうとするんだけど……

 

「んー……にこちゃん……」

 

寝ぼけたバカに捕まってベッドに引き摺り込まれちゃった。

 

「きゃ!ちょっ!こら!そら!寝ぼけんな!バカ!起きろ!」

 

「…やだ…にこちゃん……あったかい……んー…いーにおい……」

 

はぁ…あったかいじゃないわよ…。

 

どうにかして抜け出そうとしてみるけど、ちょっと無理っぽいかも。

 

そらが私を抱きしめて離してくれないから…。

 

「私は抱き枕じゃないわよ…まったく…。」

 

そんなことを言ってるけど、きっと今の私の表情(かお)はスゴく嬉しそうなんでしょうね…。

 

「ホント…甘えん坊さんなんだから…。」

 

私は目を細めて、私の胸元に顔を埋めるとても愛しいタカラモノを見つめ、そっと、そらの背中に手を回して優しく抱き締め返してあげる。

 

寝ぼけたそらが甘えたがる理由。

 

哀しくて寂しい理由…。

 

私はその理由を知っている。

 

簡単な話だ。

 

そらは母親のぬくもりが恋しいんだ。

 

これだけ聞けばただのマザコン野郎なんだけど、そらの場合はちょっと事情が違ってくる。

 

そらは小さい頃に親に……母親に捨てられた。

 

雪の降る夜に、文字通り段ボールに入れられて犬や猫を捨てるように捨てられたらしい。

 

1番母親に甘えたい年頃に。

 

1番親の愛が必要な年頃に。

 

そらは捨てられた…。

 

本人に聞けば絶対に否定するけど、心の奥底ではそらは今でも自分を捨てた母親を求めている。

 

いつか迎えに来てくれるって思ってるのかもしれない。

 

そらは母親のぬくもりを求め、そして飢えている。

 

こんな貧相な身体の私なんかに母性を求める程に。

 

だからなんだと思う。寝ぼけた時にそらが無意識に私に甘えてくるのは。

 

まぁ甘えてくるのは誰でもってわけじゃないんでしょうけど。

 

少なくても、そらは私に甘えてくる。

 

寝ぼけた時限定で。

 

それはきっとそらが私に心を開いてくれているから。

 

私はそのことが嬉しくて嬉しくて堪らない…。

 

「もう…ちょっとだけだからね?いい子ね…そら…。」

 

ダイスキよ…私の…私だけの…愛しいアナタ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

「はい。お粗末様でした。」

 

「にこちゃん…今朝の朝飯…かきたま好きだしうまかったかけどさ、おもいっきり手抜いたっしょ?味噌汁にネギ入ってねぇーし。それに卵…確か期限がギリギリのヤツじゃなかったっけ?」

 

「うっさい!美味しかったんなら別にいいでしょ!ネギくらい見逃しなさいよね!卵だって期限がヤバいのをこころ達に食べさせて、もしもお腹が痛くなったらどうすんのよ!病院連れて行くのだってママは簡単にお仕事休むわけにはいかないから、私が学校休んで連れて行かなきゃダメなのよ!あの子達のためなら学校休むくらいは平気だけど!病院代だってタダじゃないんだからね!アンタだって私が学校休んだら寂しいでしょうが!そんなこと言うんなら明日の朝は梅干しとご飯だけにするわよ!しかもご飯は冷凍のヤツ!」

 

「げっ!おかずは無しかよ!しかも冷凍のご飯って!せめてレンジでチンした冷凍のご飯じゃなくて炊きたてが喰いたい!」

 

「おかず!あるでしょ!梅干し!冷凍のご飯だってそろそろ消費しちゃいたいのよ!レンジでチンすれば炊きたてと対して変わらないでしょ!」

 

「変わるだろ!違うだろ!艶が!味が!食感が!まぁ冷凍のご飯はまだ譲る!けど育ち盛りが朝から梅干しだけで足りるかよ!肉を出せ!肉を!」

 

「朝から肉なんて重いもん喰えるか!」

 

「喰えるだろ!肉!」

 

「それはアンタだけよ!バカ!まったく……コーヒーは?飲むの?」

 

「おうよ。頼む。」

 

「毎回聞くけどアンタのとこと違って、うちのコーヒーはインスタントだけどいい?」

 

「俺はにこちゃんが淹れてくれたコーヒーが好きなんだよ。インスタントたろーがなんだろーが、にこちゃんが淹れてくれるコーヒーならなんでもイイよ。」

 

………バカ。

 

私が淹れたインスタントのコーヒーなんかより、自分で豆から挽いてちゃんと淹れたコーヒーの方が美味しいのに…。

 

そらの淹れてくれるコーヒーは、ブラックが苦手な私だってお砂糖もミルクも入れないでも不思議と平気に飲めちゃう。

 

コーヒーをあまり飲まない私にはうまく表現できないけど、私程度が淹れるインスタントのコーヒーとは雲泥の差だ。

 

そらの淹れたコーヒーを飲んだら、私のインスタントコーヒーなんてはっきり言って泥水みたいなもんよ。

 

ホント、このバカは何をやらさてもそつなくこなしちゃって…。

 

お料理もそうだし全体的にムダに廃スペックなんだから…。

 

それでも…コイツは“私が淹れたコーヒーが好き”っていつも言ってくれる。

 

あの特売で買ってきた安くて薄い、私の淹れた泥水みたいなコーヒーを好きだって言ってくれる。

 

私はいつも、そらのその一言が嬉しくてたまらない。

 

………私の淹れたコーヒーが好きって言ってくれるのが嬉しいなんて、そら本人には絶対に言わないけどね。

 

だってそうでしょ?

 

そんなこと言うの、恥ずかしいじゃない。

 

「フン!で?今朝はブラック?マシマシ?どっちにすんの?」

 

私はコーヒーを淹れるためにヤカンにお水を入れて火にかける。

 

ガスコンロにちゃんと火が灯ったことを確認すると、次に棚から例の特売で買ってきた安くて薄いインスタントコーヒーの瓶を取り出して、お湯が沸く前に予めそらのマグカップにスプーンでコーヒーの粉を適量より少しだけ多く入れておく。

 

そんな作業をしながら、私はテーブルにおぎょうぎ悪く肘をついて頬杖をついているそらに、ブラックにするのかお砂糖とミルクを普段よりも多目に入れる“マシマシ”にするのかを聞く。

 

まぁ一応は聞いてみたけど、そらの答えは決まってるのよね。

 

“マシマシのマシマシ”

 

なんでしょ?

 

「ん。マシマシのマシマシで。」

 

ほらね?

 

「……マシマシのマシマシって、あんなクソ甘いの朝からよく飲むわね…。」

 

「いーんだよ。朝は脳に糖分が足りてねぇーから。それに俺はにこちゃんの淹れてくれるマシマシのマシマシなコーヒーが好きなんだから。なんならマシマシのマシマシのマシマシでもイイぞ。」

 

「そこまでいくとお砂糖が溶けないわよ…。もう…あんまり甘いのばっかり飲んで虫歯になっても知らないからね。」

 

「外じゃブラックしか飲んでねーから大丈夫だろ?歯みがきも毎日ちゃんとしてるし。」

 

マシマシのマシマシ。

 

普段はコーヒーはブラックしか飲まないコイツが、私のうちに泊まりに来た朝だけ飲む、お砂糖とミルクをたっぷり入れたとにかくあまーいコーヒー…。

 

カフェラテとか甘めのコーヒーをぶっちぎりで通り越して、もうほとんどお子様用のコーヒー牛乳みたいになっちゃってる、とにかく甘くて歯が溶けそうになるヤツ。

 

コイツは外では大人ぶってブラックしか飲まないのに、今朝みたいに私と二人きりの朝は私の淹れたインスタントコーヒーにお砂糖とミルクたっぷりのこのマシマシのマシマシなコーヒーをニコニコとホントに美味しそうに飲む。

 

ヤカンのお湯が沸くと、私はそらのマグカップにお湯を注ぐ。

 

そのあとはこれでもかってくらいにドバドバとお砂糖とミルクを入れて…。

 

にこちゃん特性のスペシャルブレンド“マシマシのマシマシ”の完成よ♪

 

「はい。マシマシのマシマシ。熱いからちゃんと“ふーふー”して、気を付けて飲みなさいよ。」

 

「“ふーふー”してって、ちびどもじゃねぇーんだから大丈夫だって。そう言えば…ちびどもは確か昨日から月イチのお泊まり会だっけか?二泊三日?」

 

「そ、今回はママが一緒に行ってくれたわ。“アンタは婿どのと子作りに励みなさい!”だって。」

 

「あー、確かに励んだな…子作り…。もっとも、ゴム使ってたからデキはしねぇーんだけどな。」

 

去年のクリスマスに1回だけ、これからのお互いの色々なモノを賭けてナマでヤっただけで、基本的に私達がヤるときはゴムをちゃんと使って避妊している。

 

ゴムが無いときはヤらない。

 

それが私とそらの暗黙のルールになってる。

 

「ゴムもそろそろ仕入れねぇーとな。これだけ毎回使ってっとゴム代もバカになんねぇーよな。こんなときはサポートAIのマージンに感謝だな。」

 

「実際、アンタが普通の高校生だったら、毎回こんなにヤってたらゴム代だけで小遣いカツカツになってたんでしょうね。」

 

「だな。0.01㎜の極薄って高いんだよなー。」

 

「だったら厚手の安いの使えば?いつもの極薄より枚数も多いし。厚い分、破れないから確実に避妊できるわよ?」

 

「冗談!あんな厚いゴムなんか使ったらイケねぇだろ!今の極薄ゴムだってイヤなんだからな!」

 

「………なら……ナマでヤって子供作る?」

 

「うっ……。」

 

“うっ…”って、その反応はちょっと傷付くわね…。

 

そんなに私と子供作るのがイヤなのかしら…。

 

とか一瞬思うけど、コイツのことだから、どうせ“俺なんかが子供作ったって不幸にしちまうだけだ”とか思ってるんでしょうね。

 

「イヤでしょ?なら我慢しなさい。ね?いい子だから…。」

 

「……(イヤじゃねぇーよ…でも……俺なんかが子供作ったって…。)…おうよ。」

 

「それよりも、そろそろ時間でしょ?準備はできてんの?ガンプラは?今日は“リヴァイブ”じゃなくてtypeR…高機動型ザクⅡを使うんでしょ?未調整でも“リヴァイブ”の方が性能はいいんだから、あっち使えばいいんじゃないの?」

 

“リヴァイブ”…そらの本来のガンプラ。

 

私の禍津ニコよりもさらに高い性能を持っているそらの愛機。

 

最近はまったく使っていなかったから、調整が万全じゃないらしいけど、それでも間に合わせで作った高機動型ザクⅡなんかよりも強いはずよ。

 

「そりゃ未調整でも“リヴァイブ”の方が性能はイイけどさ、未調整の機体で万が一ナニか起こったらイヤだし。だから今回は間に合わせの機体でも完全に調整が終わってるtypeRで出るんだよ。」

 

まぁ確かに未調整のガンプラを使って“限界突破(リミット・バースト)”なんて使ったら、下手したら振り回されて“ドカン”なんてこともあり得るわね…。

 

「へぇ…案外ちゃんと考えてるんだ…。まぁ今日の公式戦はミッションバトルで内容は要塞攻略戦なんだから、アンタならいつもの素組のF2ザクでも余裕でしょうけどね。」

 

「さぁ?例の女…A-RISEの綺羅 ツバサだっけか?あの女やそれこそにこちゃんみたいなガチのファイターが乱入してくっかもしんないぞ?」

 

A-RISEの綺羅 ツバサ…ね。

 

そらの中では“無敗の女王”サマと私はファイターとしては同列なのね。

 

1度はあの女王サマと本気でバトルしてみたいわね。

 

「公式戦に乱入って…無いわね。アンタとアイリならマザーシステム相手にハッキングできるんでしょうけど…。」

 

「俺だってマザーシステム相手にハッキングなんてしたくねぇーよ。アイリなら“クソハバアに引導を渡してやります。”とか言って、喜んでマザーシステムに喧嘩売るんだろーけどさ、たかが乱入程度でマザーシステムに喧嘩売るにはリスクがデカ過ぎるんだよ。」

 

「わかんないわよ?狂ったヤツならリスクもメリットも度外視でハッキングしてくるかもしれないわよ?」

 

「止めてくれよ…変なフラグ立ったらどーすんだよ…。」

 

「そんなフラグ立ったって、アンタなら簡単にへし折れるでしょ!ほら!グダグダ言ってないで支度しなさい!」

 

「はいはい…。」

 

「“はい”は1回!いい加減に直しなさい!このバカ!」

 

「へーい。」

 

それにしてもこの時のフラグがまさかホントに現実になるなんて思わなかったわ…。

 

あの女とそらとの初めての邂逅…。

 

私の声を、私の真似をしてそらのココロを壊そうとしたなんて最悪よ。

 

帰ってきたそらはへこんでいたわね。

 

“にこちゃんにまで見棄てられたのかと思った…”って。

 

バカね…私がアンタを見棄てるわけないじゃないの。

 

でも…この時にはもう、あの女は、そう…世界を滅ぼす悪意は静かに動き出していたのよね…。

 

そして、悪意に抗う女神達と女神の守護者も…。

 

絶望と孤独の果てからやってきた悲しい哀しい来訪者も…。

 

全てはもう、動き出していたのよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハンカチ持った?ポケットティッシュは?」

 

「どっちも持った。」

 

「お財布は?スマホは?」

 

「問題ねぇーよ。」

 

「スマホの充電は大丈夫なの?」

 

「ほぼ満タン。念のためモバイルバッテリーも持った。」

 

「充電ケーブルは?」

 

「大丈夫だって。ったく…にこちゃん心配し過ぎっしょ?」

 

「ナニよ!私が心配しちゃダメなの!」

 

「……ダメじゃねぇーよ。」

 

「ならおとなしく心配されなさい!」

 

「うん……ありがと…にこちゃん…。」

 

「素直でよろしい!で?肝心のガンプラは?GPベースは?ちゃんと持ったの?公式戦に出場すんのにガンプラとGPベース忘れたなんて最悪よ?」

 

「どっちも大丈夫。」

 

「そ。ならいいわ。」

 

「…………」

 

「…………やっぱり…行きたくない?」

 

「……行きたくない……」

 

そらにとっては6年ぶりの公式戦…。

 

6年前にあれだけ酷い目にあったのに、トラウマで今にも吐きたいはずなのに、それでもまた公式戦に出ようと思っただけでも私はアンタを褒めてあげたいわ…。

 

「けど……行くよ…。」

 

「そ…。なら…“いってらしゃい”!」

 

「おうよ。“いってきます”、にこちゃん。」

 

「私も後から応援に行ってやるから、気合い入れなさいね!せっかく見に行ってあげるんだから、私に不様なバトル見せんじゃないわよ!」

 

「ぜ、ぜんしょします…。」

 

さて、と。

 

バカは行ったわね。

 

私もお皿洗って、お洗濯して、お掃除して。

 

夜ごはん…どうしようかな?

 

頑張って戦ってくるバカのために、少し奮発してやろうかしら?

 

とりあえずはお肉ね♪お肉♪

 

今夜は特別に牛肉よ♪ステーキよ♪

 

………国産は高いからアメリカ産かオーストリア産だけどね!

 

期限間近の半額シール付きとかタイムサービスで安くなってるのがあればいいな♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




皆様。本日もご覧いただきましてありがとうございました。

本来はこの閑話は1回で終わる予定だったのですが、書いてるうちにどんどん長くなってしまい、最終的には全5回の予定になってしまいました。

今回のお話で語られていたソラとにこちゃんの出逢いについては、後程また別の閑話にてご紹介していきたいと思います。

次回更新はチェックが間に合えば月曜日のお昼頃を予定しております。
よろしければ是非ご覧下さい。

それでは改めまして、本日もご覧いただきまして、本当にありがとうございました。
皆様のご意見、ご感想もお待ちしております。
どうかお気軽にお声掛け下さい。
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