ハイスクールD×D ゴースト×デビルマン HAMELN大戦番外地   作:赤土

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今回の舞台は珠閒瑠市。
かなり昔の作品(と言ってもしばらく前にリメイクがPSPから発売されましたが)を取り扱っているので
人によっては今回かなり訳わからない事になっているかも。




Case2. 仁義なき共同戦線

珠閒瑠(すまる)市。

日本の某所にある政令指定都市。

ここには、他の町にはないある特色がある。それは――

 

噂が現実になる

 

鶏が先か、卵が先かと言った話だが荒唐無稽なものから質の悪いものまで

ありとあらゆる噂が伝搬し、さも真実であるかのように語られていることが

実は真実であった。こんなよくわからないような話だが

ここ珠閒瑠では噂はただの噂足りえないのだ。

 

曰く、ある学校の校章は魔よけの紋章である。

曰く、市内の航空博物館に展示されている飛行船は実際に空を飛ぶ。

 

曰く、自分の携帯に自分の携帯からかけることで任意の相手を殺せる(好きな願いが叶う)と。

 

とにかく、何が真実で何が虚偽であるのかなど、ここ珠閒瑠ではその境界が曖昧なのだ。

しかし、ある時を境にそうした事態は収束を迎える。

それからと言う物、珠閒瑠は何の変哲もないいち政令指定都市として

穏やかながらも発展を遂げていたのだ。

 

……それは、もう10年以上も前の話になる。

長野で謎の怪物による大量殺戮事件が起きた事と重なり、珠閒瑠の事件は

その特殊性から顧みられることなく風化していった……かに見えた。

 

しかし、事件の記憶は確かに存在していたのだ。

 

――――

 

――珠閒瑠市・港南区。

  港南警察署。

 

ここの資料室を訪ねているのはさる事情から駒王警察署から警視庁へ異動になった

テリー柳警視。禍の団や、悪魔・天使・堕天使と言った三大勢力による事件に対抗すべく

日本各地にある超常的な事件について調べて回っていたのだ。

 

「……長野の事件の影に隠れてしまっていたが

 この須藤竜也(すどうたつや)と言う連続殺人犯も相当な奴だったらしいな」

 

「ええ、当時その事件を担当していた人が全員異動になってしまったので

 今はこうしてここに資料としてしか残ってませんが……

 

 そう言えば、この資料には無い、あくまでも噂なんですけど

 須藤竜也は、悪魔を使役していたって言った当時の巡査部長がいたらしいんですよ。

 今にして思えば、その巡査は本当の事を言っていたのかもしれませんね。

 何せここは『噂が現実になる町』ですから」

 

資料課の職員の言葉に、柳が聞き返す。

ここに来る前に読んでいた資料に、珠閒瑠市は「噂が現実になる事件が起きていた」という

記述があったのだ。あまりにも荒唐無稽であるため、柳も話半分に聞いていたが

目の前の資料課の職員も同じことを言っている。

 

「この言葉自体が既に噂ですけどね。これじゃ鶏が先か卵が先か、ですけれど

 自分もその頃まだ学生だったもので……

 

 あ、でも学生で思い出しましたよ。さっき話した巡査部長の弟が、結構なワルでしてね。

 あちこちで怪しげな奴らと関わっているところを見たって噂があったんですよ

 ……ま、そんなワルもお兄さんと同じ警察の道に進んだみたいですけど。

 どこの管轄に行ったかまでは、さすがに知りませんけどね」

 

「噂ばかりだな」

 

「いやぁ、さっきも言った通り『噂が現実になる』って事件が起きて以来

 噂が真実か真実が噂になったのかわからないのでこういう言い方しかできないんですよ」

 

資料課の職員も困ったように零す。

まるで霧の中に隠されてしまった真実を追い求めるかのような話だ。

しかし、超常的な話と言うのであればこれ以上ない話である。

柳が担当している駒王町もまた、最近実しやかに噂されていることがある。

 

そのほとんどは三大勢力に関するものだが、曲津組(まがつぐみ)に関する噂もちらほらと聞こえていた。

ディオドラ・アスタロトと言う後ろ盾を失った曲津組は瓦解の一途を辿っていたが

残党が生き残り、復帰の機会を虎視眈々と伺っている、と。

 

「その『噂が現実になる』って現象は他の市町村でも確認されているのか?」

 

「そこは何とも、何分さっきもお話した通り鶏が先か卵が先かわかりませんので。

 ただ、誰が噂したかわかりませんが御影町(みかげちょう)の『セベク・スキャンダル』ってありましたよね?

 15年前後前に。その時と同じような現象が、この珠閒瑠市でも起きたんです。

 

 ……要は、外部と隔離されたことがあるんですよ、この町」

 

「なるほどな。それで珠閒瑠の情報については後手に回ってしまって

 長野の事件の陰に隠れてしまったような印象を受けてしまっているのか。

 『セベク・スキャンダル』は俺も詳しくは知らないが、あの規模となれば

 世論が黙っていないはずだからな。それなのに、珠閒瑠のその事件は全然触れられていない。

 事実は小説よりも奇なり……よく言ったものだな」

 

話しながら、資料を読み進める柳。

ふと、須藤竜也について気になる記述が目に飛び込んだ。

 

「この『JOKER呪い』ってのは一体なんだ?」

 

「ああ、ちょうどその事件が起きていた頃に流行った都市伝説ですよ。

 ただ、それには二つ展開がありましてね。

 自分の携帯から自分の携帯にかけると、ジョーカー様って言う怪人が出るらしいんです。

 

 ……そこからなんです。ある話だと『ジョーカー様は願いをかなえてくれる』らしいんですが

 またある話だと『ジョーカー様は気に入らない相手を殺してくれる』らしいんです。

 どっちにしても、物騒な話ですよ。ああ、前者は願いを言えないと詳しくは知りませんが

 死ぬより辛い目に遭うらしいですから。

 

 ……超特捜課(ちょうとくそうか)なんてのが発足したんで、民間企業にも協力いただいて

 慌てて集めた情報なんで、抜けとかあるかもしれませんが」

 

ここ港南警察署も、警視庁の超特捜課発足に当たりモデルケース候補に名前が挙がった所である。

しかし、その当時は既に一連の事件は沈静化していた事や

駒王町での損害があまりにも大きすぎる事から珠閒瑠市に超特捜課発足はならず

ただ過去の資料のサルベージが行われたにとどまっていたのだ。

 

しかし10年前後前である一連の事件のサルベージは時効になったものも含まれており

思うようにいかず、キスメット出版と言った民間の協力を得て

漸く形になった程度である。

 

「どうやら俺が思っていた以上に大量の資料が眠っているようだな……

 これはセージを連れてくればよかったかもしれん。

 『仮面党(かめんとう)』と『新世塾(しんせいじゅく)』の抗争は、まるで今の社会情勢を見ているみたいだな」

 

情報処理に定評のある神器(セイクリッド・ギア)記録再生大図鑑(ワイズマンペディア)を持つ

宮本成二を連れてこなかったことを後悔しながら柳は資料に目を通していた。

特に仮面党と新世塾の抗争は、現在の三大勢力対フューラー率いる禍の団(カオス・ブリゲート)英雄派の

抗争に連なるものがあると柳は見ていた。

 

仮面党。謎の怪人ジョーカー率いる組織で、ジョーカーに願いを叶えてもらった者は

入党させられると噂されている組織。しかし、先ほどの話が事実ならば

それを行ったのは一般人ばかり。悪魔が態々ジョーカー呪いをするとは思えない。

 

柳は一つの仮説を立てていた。ジョーカーとは、この珠閒瑠市に潜伏していた悪魔ないし

三大勢力のいずれかの勢力に属する者ではないのか、と。

願いを叶える代わりに自身の手駒とするやり口や、依頼一つで人を呆気なく殺す残虐性は

三大勢力のそれと似通っている。しかし、確たる証拠はない。仮説の域を出ないのだ。

 

「そう言えばこんな噂もありますよ。人を殺す方のジョーカーの正体は須藤竜也だって。

 それからその当時、これは本当にあった話なんですが

 ワンロン占いって占いがブームになったんですよ。

 ですがそこでテレビがえらい事を口走っちゃいましてね……」

 

「まだネットニュースも今ほど発達してない時代だからな。テレビで取沙汰されたとなると

 よほど大きな影響があっただろうな。で、何と言ってんだ?」

 

「『ジョーカーとはある一定の人物を指すものでは無い』って。

 そのせいで、ワンロン占いやジョーカーの正体に関しての資料は滅茶苦茶なんですよ。

 全く、ワンロン千鶴もとんだ置き土産を残してくれたもんですよ」

 

「ワンロン千鶴……資料で読んだな。本名石神千鶴(いしがみちづる)

 姫島や真羅をはじめとする五大宗家にも劣らぬ能力を誇ったが

 それが故に迫害を受けていたところ、当時の外務大臣須藤竜蔵(すどうたつぞう)に拾われ

 新世塾へと加入する……か。参ったな、やはりセージを連れてくるべきだった」

 

柳は愚痴をこぼしながらも資料を読み進めている。

全ては三大勢力や禍の団が起こす事件への対抗策を探るべく

各地の超常事件を当たるところから始めるという、凡そキャリアらしからぬ発想である。

それがテリー柳と言う警察官の人望にも繋がっているのだが。

 

「そう言えば警視。駒王町も大変なことになっているようですね」

 

「ああ、超特捜課が発足されただけはあるってところだな」

 

「もしまた噂が現実化する事態が起きていたら、とんでもない事になっていると思いますよ。

 何せ駒王町の騒動は全国ネットで発信されてますし

 仮面党や新世塾の暴れてた頃と違って今はネット全盛の時代ですからね……

 あっという間に全国区で噂なんて広がりますよ」

 

資料課の職員が懸念する通り、ネット全盛のこのご時世において噂は現実化の如何を問わず

強力な武器となるのだ。荒唐無稽なものでさえもある一定の信憑性を得さえしてしまえば

瞬く間に広まってしまう。最悪、信憑性なんてものが無くても広まる。

広まれば最後、沈静化するまでどれほどの時間がかかるか未知数だ。

 

そして、その後も柳は資料室に籠る形になりひたすら資料を読み漁っていたのだった。

 

――――

 

――港南区・廃工場。

 

ここは10年前から廃工場として存在している場所だが

再開発の目処が立たずに放置されており問題視されている場所だ。

そして、それを物語るかのようにここには暴力団が何かの取引をしているだの

台湾マフィアの生き残りが潜伏しているだのそう言った「噂」が飛び交っていた。

 

そして、その噂を裏付けるかのようにここにはかつて台湾でその名を轟かせた

天道連(ティエンタオレン)と言うマフィアと、駒王町から逃げおおせて来た曲津組がここで談合をしていたのだ。

 

「……メリットが無い。その話、乗れないね」

 

「俺達もタダで付き合ってくれって言ってるわけじゃない。

 お前の兄……云豹の遺志を継いで天道連を再興させるためには実績が必要だろ。

 その為にも俺達で悪魔をぶっ潰して新しい秩序を立てるんだよ」

 

「その悪魔の手借りてたの、どこの誰? 確かに私、兄さんの仇討ちたい。

 けれどもう竜蔵も死んだ。私達とお前達、無関係にも程があるね」

 

曲津組の幹部らしき男が、天道連のリーダー格のような男と話をしている。

曲津組は天道連と手を組もうとしているようだが、天道連は首を縦に振らないようだ。

 

「台湾でも三大勢力の悪事は轟いているんだろ? なら……」

 

「それは中国の話だよ。関係ないね。けれど曹操の名を穢した不届きものなら

 日本に逃げ込んだって話を聞いたよ。関聖帝君が大層怒ってるそうだよ。

 手を組むんなら、関聖帝君に交渉することを勧めるよ」

 

「俺達みたいな奴に関羽が力を貸すわけがないだろう。

 ん、悪いがちょっと待て。

 

 ……ああ、俺だ。なに? そうか、そいつは吉報だ……ああ、今すぐに伝える」

 

話の最中、沢芽(ざわめ)市へと向かった曲津組組員からの連絡が入る。

話の内容からそれは彼らにとって吉報であった。

彼らにとっては、ではあるが。

 

「……何と言ったね? あなたの仲間」

 

「お前達が要求していたアーマードライダーシステム、入手の目処が立ったぞ。

 お前も目の付け所が違うな」

 

吉報の内容。それは沢芽市、ユグドラシル・コーポレーションで運用されている

アーマードライダー黒影が曲津組の手に渡ったことを示していた。

そして、それは量産に成功しており遠からず天道連も

アーマードライダーシステムを使うであろう事を意味する事でもあった。

 

「日本のモノづくり優秀だって言うよ。けれど注意した方がいいね。

 そのシステム、竜蔵の組織と同じ匂いがするよ。

 もしかすると、悪魔の手が加えられているかもしれないね」

 

「だが使う事に変わりは無いんだろう?」

 

「これがあれば天道連再興も成せる筈ね。私、昔竜蔵に人質にされて悔しい思いしたよ。

 そのお陰で兄さんは殺され、天道連も散り散りね。

 だから、私の手で天道連をもう一度興す。これ、兄さんへの手向けね」

 

「……じゃ、交渉は成立だな。今日から俺達は同士だ」

 

朽ち果てようとしている廃工場の中で、日本の暴力団と台湾のマフィアが手を組んだのだった……




ペルソナ2自体が言っちゃなんですが(少なくともハイスクールD×Dと比べると)
古い作品ですのでこの辺の時代背景のすり合わせはかなり面倒だったりします。
自分でやった事だけど。

一応(西暦的に)後の時代であるペルソナ3でも
それとなくその後が取り上げられていたりしますけれど……
因みに(当時の)巡査部長とその弟はあの兄弟です、はい。

>須藤竜也
「ペルソナ2」を代表する(?)電波さん。
妄想癖と幻聴で放火や殺人をやったリアルの意味でやべーやつ。
拙作リゼヴィムのキャラ造詣はこの人がモデルになってます。

>須藤竜蔵
電波さんこと須藤竜也の父親。
電波で放火魔な息子を精神病院に押し込んで事件をもみ消そうとした
あくどい政治家。拙作では上記の息子共々故人ですので
「ああ、そう言うあくどい奴がいたのか」程度で。

>天道連
「罰」に出てくる台湾マフィア。読みはティエン・タオ・レン。
天道総司も天道寛も関係ありません。
拙作のリーダー格の男はかつてのボス云豹の弟と言う設定。
云豹の弟は上述の竜蔵に捕まっていたらしいのですが
生死不明のままフェードアウトした(wiki情報)ので今回ボスに抜擢。

>港南区廃工場
「罪」では色々お世話になる場所。あれからさらに10年以上経過しているのに
取り壊されていない辺り当時の珠閒瑠市の混乱っぷりが現れています。

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