ハイスクールD×D ゴースト×デビルマン HAMELN大戦番外地   作:赤土

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アンケートご協力ありがとうございました。
この投稿をもって締め切らさせていただきます。


パンドラボックスの強大な力を手に入れた地球外生命体エボルトの野望を阻止すべく
仮面ライダービルドの桐生戦兎は3人の仲間と共にエボルトの下に向かおうとするが
その途中不思議な老人と出会って……

ちょっと待てよ、何でお前があらすじ紹介してんだよ!
つーか、あの爺さん達俺らの世界と全然関係ないし!

迷子だろ。本人もそう言ってたし、そもそも前にパラドって奴が……

俺だってそん時にスカイウォールの無い世界は見て来たから知ってるよ!
でも今回は……えーっと何だっけあの……最上魁星が作ったあの
エ……エ……エゾヒグマ!

エニグマだろ。確かにもう俺達の世界にエニグマは無いし
エグゼイドの世界にもエニグマも最上魁星もいない。
だから不思議なんだよなぁ、あの爺さん達がどうやってやって来たのか。
まぁでもあの爺さんから色々面白い話も聞けたし? てぇんさぁい物理学者の話を
1から10まで理解してくれる人は貴重だし?

それで長々と話してたのかよ。
つーか、エボルト倒しに行かなきゃいけないのにこんな所で呑気にあらすじ紹介してていいのかよ?
それにそもそも前回俺ら台詞すらない端役だったじゃねーか!

だってこの作品のクロス先に仮面ライダービルドは無いわけだし?
台詞無しは仕方ないじゃん。

どれどれ……? あ、本当だ。仮面ライダー枠はディケイドと鎧武しか書いてねぇな。
仮面ライダークローズとも書いてねぇとかマジありえねぇし!

Vシネマじゃ無いんだからビルドは兎も角クローズは無いでしょ。
それにこうやってこの作品のクロス先に記されていないビルドに出演してる
俺らがあらすじ紹介が出来るだけでも……
ってもうこんな時間かよ! 早くエボルト倒しに行かないと!

さっきからそう言ってるじゃねーか!
そもそも前回のあらすじどころか俺らの身の上話にもなってねぇし!

まぁそう言うメタな事は置いておいて、爺さん達の戻った世界でどうなるCase. 7!
あ、因みに俺達の活躍は仮面ライダービルドをよろしく!

自分だってメタ発言しただろうがよ……
つか、これマズくないか……?


Case7. 沢芽市の光と影

沢芽(ざわめ)市。

 

北欧神話の主神オーディンが従者のロスヴァイセを伴ってはるばるやって来た

日本に存在するいち企業城下町。

北欧からはるばるやって来たオーディンの目的は

沢芽市を代表する企業、ユグドラシル・コーポレーションの沢芽支社の見学である。

北欧神話の世界樹と同じ名を冠する企業に、オーディンが興味を示した事に加え

日本に存在すると言う「クロスゲート」の事を調べる腹積もりで沢芽市にやって来たのだ。

 

――最も、クロスゲートは沢芽市には存在しないため、そう言う意味では無駄足であったが。

 

そして現在は、長旅で疲れた心と体を癒すために沢芽市で知らない人はいないと言う

洋菓子店・シャルモンに来ていた……のだが。

 

「…………」

 

ショーケースのケーキを見て目を輝かせたロスヴァイセだったが

その下の値札を見て愕然とした。彼女の知るケーキの相場よりも

一回りから二回りほど高価なのであった。

上げて落とされる。そう言う表現が適切と言えるだろう。

 

このロスヴァイセと言う女性、倹約家でもあった。

そんな彼女ではあるが、同じ年代の女性と同様に色恋沙汰にも反応するし

仕事で成功を収めたいし、甘いものだって大好きだ。

だがそんな彼女にとって、シャルモンのスイーツはあまりにもハードルが高すぎた。

 

「どうしたんじゃロスヴァイセ。呆けた顔をしおって。中で食べるスペースもあるみたいじゃから

 ホテルで食わずともここで食べられるぞい。ほれ、何にするか決めんか」

 

「いや、いやいやいやいやオーディン様! ここのケーキ高いですって!」

 

「何かと思えばそんな事か。心配するでないわ、この位は経費で落ちるようにしておるわい。

 で、何が食べたいのじゃ?」

 

経費と言う単語を聞いた時、ロスヴァイセの目が一瞬泳いだがすぐに冷たい目に戻った。

倹約家である彼女は、経費でさえも――いや経費だからこそ倹約すべきと考えており

そう言う意味でシャルモンで食事をすることに二の足を踏んでいたのだ。

だが、その目はさっきからショーケースのケーキをちらちらと見ていた。

 

「そうですね、私はこのメロンの……って経費は余計にマズいですって!

 経費は元を質せば領地に住まう者の血税!それを贅のためだけに浪費するなど

 上に立つ者としてあってはならない事! 私、今回の件については……」

 

店先で口論を始めてしまったロスヴァイセとオーディンの前に、店の奥から

黒いターバンを頭に巻いた偉丈夫が姿を見せる。

……偉丈夫、ではあるのだがその顔にはメイクが施され、つけまつげも付けている事が

そのガタイ以上にある種のインパクトを与えていた。

 

Client(お客様)、申し訳ありませんが店内ではお静かにお願いできませんかしら?」

 

「おおっと、すまんのう。ほれロスヴァイセ、お主も謝らんか」

 

「す、すみません……」

 

男(?)に対し深々と頭を下げるオーディンとロスヴァイセ。

彼(?)こそこのシャルモンのパティシエであり店主の凰蓮(おうれん)・ピエール・アルフォンゾであった。

 

「ふむ。すまぬついでにこのメロンのケーキとガトーショコラ。

 それから飲み物としてぶどう酒と紅茶を頼む」

 

vieillard(お爺様)、お目が高いですわね。畏まりましたわ」

 

フランス語を交えながら流暢に接客をこなす凰蓮に、ロスヴァイセは舌を巻いていた。

その後結局オーディンが支払いを済ませ、店の奥の飲食スペースへと通される。

それから程なくしてケーキと飲み物が並び、二人は舌鼓を打っていた。

 

「こ、これは……何という美味! 有名になるのも頷けるわ!」

 

「確かに、これは極めた者の腕前じゃな」

 

「当然ですわ。あの価格もそれに似合った設定をしておりますの。

 ただのぼったくりで設定しているわけではありませんわ」

 

いつの間にかオーディン達のテーブルの隣に立っていた凰蓮が

シャルモンの価格の由来について話す。曰く――

 

「ワテクシはプロとしてパティシエの仕事に誇りを持っていますの。

 お菓子の値段はその誇りの表れ。私腹を肥やすためにやっているわけではありませんわ。

 お判りいただけたかしら、マドモワゼル・ヴァルキリー?」

 

「……す、すみませんでした……

 

 

 ……えっ? 今ヴァルキリーって……」

 

思わず平伏してしまうロスヴァイセ。彼(?)の腕前を体感した以上

返す言葉が出てこないのだった。ジャンルは違うが、ロスヴァイセも

仕事としてオーディンに仕えているし、そもそも彼女が籍を置くヴァルキリーとは

戦死した勇敢なる戦士の魂を導く者。そんな彼女が仕事の価値が分からないなんてことは

あり得ないしあってはならない事なのだ。

 

しかし、この凰蓮と言う男(?)。

一目でオーディンとロスヴァイセの正体を見抜いてしまっていたのだ。

 

「ワテクシを甘く見ないで貰いたいものですわ。先程そちらのvieillard(お爺様)

 『オーディン様』と呼ぶのが聞こえましたわ。聞き間違いでなければその名は北欧神話の主神。

 ワテクシ、これでもフランスに長いことおりましたのでそっちの方面にも明るいんですの。

 そして最近世間を騒がせている神や悪魔が実在するものであると言うフューラー演説。

 それらを組み合わせれば、そちらのvieillard(お爺様)が本物のオーディンだとしても

 何らおかしな事はありませんわ。となれば、貴女はさしずめマドモワゼル・ヴァルキリー。

 と言うのが、ワテクシの見立てですわ。違っていたらごめんなさいね?」

 

「ほっほっほ! 見事な推測だと感心するがどこもおかしくはないのう!

 いかにも。わしがオーディン、そしてこやつはわしのお供のロスヴァイセじゃ。

 ああ、ここには本当にただ単にケーキを食べに来ただけじゃ。

 まぁ、わしはケーキよりぶどう酒派じゃがの」

 

凰蓮の指摘にも動じるどころか笑い飛ばし、あっさりと素性を明かすオーディン。

お忍びでやってきたわけだが、バレたらバレたで仕方がないとも思っていたのだ。

その辺りは危機感が薄いとも取れるが、逆を言えば対処ができる自信の表れともいえる。

 

「ワテクシとこのシャルモンはルールさえ守っていただければ

 それが人ならざる者お客様でも歓迎いたしますわ。

 

 ……ですが、これだけは覚えておいてくださいまし。

 強い力を持つ者が下々の世界に何食わぬ顔で闊歩すると言う事は

 下々に不要な不安を与えることになりますわ。

 あなた方が北欧神話の主神と言う事は、Client(お客様)の個人情報保護の観点からも

 ワテクシの胸の中に秘めておきますわ。この沢芽は比較的平和ですけど

 他所ではフューラー演説のせいで、特にあなた方のような存在に

 過敏になっている節が見受けられますもの」

 

「だ、そうですよオーディン様。するなとは言いませんが、フィールドワークも

 節度を守ってください。ロキ様も恐らくはそうお考えです」

 

凰蓮の指摘と、ロスヴァイセの小言に思わず委縮してしまうオーディン。

こうして見ると、本当にただのフィールドワークの大好きな老人にしか見えない。

当然、その真なる力を揮えば沢芽市をあっという間に風化させることもできるのだろう。

そうなる理由が全くないだけで。

 

「けれど、オーディン様と言えば戦の神。ワテクシ、フランスでは外人特殊部隊におりましたの。

 その時にご加護があったのかもしれませんわね。あ、それと今日のケーキ代は別ですけれど」

 

「わかっておるわい。それにしても面白い経歴の持ち主じゃのう。

 今はパティシエを営んでおり、その昔はフランスで従軍とは……

 もしや、パティシエ修行のための国籍獲得の手段として従軍したのかの?」

 

オーディンの質問に対し、凰蓮はOui(そうよ)と首肯する。

凰蓮が従軍していた頃はフューラー演説など無かったので

仮にオーディンが視察していたとしてもただの変な爺さん止まりであっただろうが。

 

こうして凰蓮との歓談も交えながら

ケーキ(オーディンはぶどう酒の方がメインのようであったが)を平らげ

凰蓮の観察眼とパティシエとしての腕前に感嘆しつつ、オーディンとロスヴァイセは

シャルモンを後にするのだった。

 

――――

 

ホテルを出たのが遅かったためか、シャルモンを出た時には既に日が傾いてしまっていた。

ホテルへと戻ろうとするオーディンとロスヴァイセであったが

ホテルへと向かう途中の広場には、シャルモンに来る前には無かった人だかりが見えた。

 

足を止めて様子を見るオーディンに、ロスヴァイセは手元の資料を眺めながら

この人だかりの原因が「ビートライダーズ」なるダンス集団にある事を確認する。

 

「……思ったより格差の激しい都市ですね。

 手元の資料によりますと彼らはビートライダーズ。

 ドロップアウトした若者を中心に構成されたダンスグループで

 言うなればカラーギャングの大人しい版みたいなものだそうですよ。

 やっている事もカラーギャングの縄張り争いとほぼ同じ。

 まぁ、ダンスと言う芸術で競っている分暴力に訴えがちな

 カラーギャングよりはよほど平和的でしょうけど」

 

「カラーギャングのう……してロスヴァイセよ。

 そのカラーギャングは、妖怪や幽霊でもなれるものなのかのう?」

 

オーディンの発言に、ロスヴァイセは首を傾げる。

言われてみれば、観客もどことなくオカルトに造詣の深そうな人物ばかりだ。

しかもさっきから流れている音楽は、幽霊が発するものに波長が近い。

 

人混みをかき分けてオーディンとロスヴァイセがステージを眺めていると

そこには人間に擬態したであろう――出来はお粗末だが――若者らと

幽霊の4人の少女が何やら争っているようにも見えた。

 

「はっ! 余所者にくれてやるほどこの沢芽の土地は安くねぇんだよ!

 俺達を『チーム魍魎』と知って挑んでくるのかよ!」

 

「うっさいわね! あたしらは泣く子も笑ったり余計に泣いたりする虹川楽団(にじかわがくだん)――

 そうね、ここの流儀で言うなれば『チームプリズムリバー』よ!」

 

微妙にしまらない赤い服の幽霊の少女――莉々(りり)の啖呵に

チーム魍魎と呼ばれた妖怪達はゲラゲラと笑い出す。

オーディンとロスヴァイセは与り知らぬことだが

彼女らは駒王の方面ではそれなりに名が知れている。

 

しかし、悲しいかなここは沢芽市。彼女達にとってはアウェーもいい所なのだ。

だが、彼女達が対峙しているチーム魍魎もまた、ビートライダーズホットラインでは

ランキング最下位――上位ランキングだが――の名声を欲しいままにしているのだ。

 

「チーム魍魎。さっきホテルで聞いたビートライダーズホットラインと言うネットラジオでは

 ダンスチームとしてはランキング最下位の常連じゃな。片方の子らは……見たことがないのう。

 どうやら、彼奴等が言うように新参者らしいの。知らんから何とも言えんがの」

 

オーディンとロスヴァイセは、駒王町には赴いたことが無い。

その為、駒王町を根城にしていた彼女ら虹川姉妹の名前を知らなかったのだ。

尤も、彼女らがバンド活動を始めたのはここ数か月の事であり

沢芽市にやって来たのもつい最近なので

オーディンやチーム魍魎の言う「新参者かつ余所者」と言う評価は全く間違っていない。

 

険悪な雰囲気でこそあるものの、そこで繰り広げられるのは

ダンスパフォーマンスにバンドの演奏。

誰がどう見ても、平和そのものであるし観客もそれを見越して盛り上がっているように見える。

 

チーム魍魎はランキング最下位とは思えないほどの動きのキレを魅せ

チームプリズムリバーは駒王でも培った演奏技術を以て対抗する。

この二組が組めば、中々いいチームになるのではないか。オーディンは呑気にそう考えていた。

 

因みに全くの余談であるが、チームプリズムリバーがランキングに名を連ねていないのは

まだ名前も売れていない新参者であることに加え、彼女らが幽霊であることに起因する。

何せ、霊感のある者か霊魂による存在でもない限り視認できないのだ。

偶々、今日ここにいるのはオカルトマニアをこじらせたような観客であったり

神やその従者であるため、虹川姉妹の姿も問題なく視認されているのだが。

 

同様に、チーム魍魎も最下位常連であるのは

彼らの活動時間が夕方以降になっている事に起因している。

昼間に注目を集めることは妖怪である彼らには難しいし

夜に活動しても、夜はビートライダーズの本領発揮とばかりに

他の強豪チームが本気を出したパフォーマンスを繰り広げているのだ。

言うなれば、慣らし運転をしているところにフルスロットルの車に競争を挑まれた様なものだ。

そう。チーム魍魎のエンジンが温まってきたころは既に日付変更するかしないかの時間帯。

そうなれば、観客は帰ってしまっているのだ。

そうした境遇の悪さに起因しているためか、名前こそ売れてはいるが

それが評価とは直結していない何とも言えない事態になってしまっていた。

 

「そうでなくったってなぁ! 駒王なんぞからやって来た連中に好き勝手させるかよ!」

 

「ああ、俺達を属国どころか植民地みたいにしか考えてない

 悪魔の息のかかった地域の奴らになんか負けられねぇからな!」

 

突如放たれるチーム魍魎の駒王町へのヘイト。実際には駒王町を管理していた悪魔は

既にその職務を追われてしまい、今は混沌としているが悪魔一強の地域ではなくなっている。

だがそれでも、彼らには駒王町=悪魔の根城、と言う認識が強かったようだ。

 

これには実際駒王にいた虹川姉妹も目を丸くする。

彼女らもバンドを始めたきっかけこそ悪魔との契約だが

その悪魔は悪魔の駒による転生――実際は事故なのだが――で悪魔になった事を是とせず

結果として駒王町の元管理悪魔に牙を剥き、その辺りを有耶無耶にしてしまっているのだ。

バンド活動自体は虹川姉妹のやりたかったことではあるのだが

もうそこには悪魔の思惑は一切絡んでいない。

運営もその悪魔がさる事情から積極的に関われなくなっており

現在は有志の幽霊たちが彼女らの裏方サポートを行っている形だ。

 

「……私達、確かに駒王から来たけどもう悪魔は無関係……」

 

「名実ともに純正幽霊楽団よ!

 ……まぁ彼も幽霊みたいなもんだったけど、幽霊辞めちゃったしね」

 

「ダンスは兎も角、音楽なら負けないわよ!」

 

チーム魍魎の悪魔へのやっかみなどどこ吹く風とばかりに虹川姉妹は演奏を続けている。

しかし、彼女達はこのビートライダーズによる抗争について、大きな思い違いをしていた。

 

一つ。彼女達はこれをただの路上パフォーマンスの延長線上であると思っていた事。

実際そうなのだが、その根幹はやはりダンスパフォーマンスである。

ところが、虹川楽団にはボーカルはいてもダンサーがいない。

ボーカルである四女の(れい)がぎこちないながらも兼任していたり

他の楽器メンバーが幽霊楽団の特性であるエア楽器によるパフォーマンスを駆使して

何とかそれっぽく見せている形だ。

勿論、その動きたるやダンスの特訓を一応欠かさず続けていたチーム魍魎には今一歩、及ばない。

 

そして、もう一つが――

 

「おい、向こうの盛り上がり半端ないぜ!?」

 

「くそっ、こっちは真夜中じゃないと本領発揮出来ねぇからな……

 だったら仕方ねぇ、シドさんに貰った『アレ』、試してみるか!」

 

チーム魍魎のメンバーの一人が、ヒマワリの種を模した南京錠のようなものを懐から取り出す。

そして、ロックがされているそれを解錠すると、ファスナー状の裂け目が空間に出現。

中から、小さなドラゴンアップルの害虫――インベスが現れたのだ。

この光景には観客も、虹川姉妹も、そしてロスヴァイセも驚きを隠せなかった。

 

「オーディン様! あれは以前オリュンポスと交流した際に情報を得た

 ドラゴンアップルの害虫……確かインベスと言われていたはずですが……

 まさか、あれを使役する手段が確立されているのでしょうか!?」

 

「ふむ。ロスヴァイセ、一応いつでもアレを始末できるようにしておけ。

 こんなところでドラゴンアップルの生育などされてはかなわんからの」

 

ロキはインベスをヘルヘイム――ニブルヘイムに連なる要素があると見ていたが

オーディンはまだそこまで踏み込んではいなかった。

しかしそれでも、彼らが野放しにされていい存在ではない事は理解していた。

故に、ロスヴァイセに万が一に備えいつでも戦闘行為が出来るように命じる。

 

一方、取り乱しているのは虹川姉妹だ。

何せ、駒王を出てからとんと見なかった害をなす怪物が、突然目の前に現れたのだから。

 

「ちょっ、ちょっとなんでアイツがここに出てくるのよ!?」

 

「姉さん、莉々、お客さんの誘導をお願い! あれは幽霊の私らは兎も角

 観客のみんなを巻き込んだら大変なことになる!

 玲は下がってて! こいつの足止めは私がやるから!」

 

「……わかったわ。みなさん! あの怪物は毒を持っていて危険です!

 誘導しますから、私達についてきてください!」

 

気分を落ち着かせる音を奏でる長女の瑠奈(るな)と、音のチューニングを得意とする三女の莉々。

毒を持つと言う怪物の出現に困惑する観客らの精神面を顧みて、彼女らが率先して観客の避難を試みる。

この手際の良さは、以前に激戦区でライブを行ったことがある事に起因しているのだろう。

これには、思わずオーディンも感心する。

 

(ほう。さっきのシャルモンと言い、沢芽には骨のある者が多くいるようじゃのう。

 これでこそ、わしが赴いた甲斐があると言うものじゃ)

 

その一方で、面白くないのはチーム魍魎だ。

突然やって来た新参者が注目を集め、自分達が切り札を切ったら突然観客の避難誘導をされたのだ。

元々血気にはやるきらいのあった彼らだけに、この行いは虹川姉妹に対するヘイトを大きく高めたのだ。

そうなれば、やる事は一つ。

 

「散々俺らのシマ引っ掻き回しておいて、挙句の果てに客逃がすとか何考えてやがるんだ!

 もう我慢ならねぇ! おい、やっちまえ!」

 

インベスに芽留に対し攻撃を仕掛けるよう命令するチーム魍魎の妖怪の一人。

芽留もそんな状況にもかかわらずハイテンションで余裕ぶっているが

実際のところ彼女らのマネージャーでもあった宮本成二が対処していた異形の怪物との戦いなど

したことが無い。と言うか、いくら幽霊と言うオカルトじみた存在でも荒事とは縁遠い。

 

しかし彼女の幽霊と言う特性上、インベスの物理攻撃は芽留の身体をすり抜ける。

そうなれば、インベスの毒――ドラゴンアップルの寄生――に対して

芽留は絶対的なアドバンテージがある。

だが、芽留はインベスに攻撃する手段がない。まさか、トランペットをぶつけるわけにもいかない。

エア演奏ではあるが、楽器自体は本物なのだ。粗末に扱うわけにはいかない。

 

(躁状態にしちゃったら、被害が大きくなっちゃうもんね……

 あーもう! こんな時にセージがいてくれたらいいのに!)

 

心の中で悪態をつきながら、かつチーム魍魎やインベスを挑発しながら

観客の避難のための時間稼ぎを率先して行っている芽留。

マネージャーであり、彼女らにバンド活動を行う切っ掛けを与えた宮本成二。

彼をここに呼び出せば、インベスなど瞬く間に対処できることだろう。

 

だが、それは出来ない。

何故なら、虹川姉妹とセージは確かに悪魔の契約を交わしていた。

その際の連絡用の魔法陣は、セージが当初(事故とは言え)眷属となっていた

リアス・グレモリーをはじめとするグレモリー家のもの。

今のセージは、グレモリーとは何の関係もない。

セージがグレモリーの支配から脱したと同時に、虹川姉妹の持つ魔法陣の羊皮紙は

うんともすんとも言わなくなったのだ。アモンの魔法陣、それもアーキタイプがあれば

話は変わってくるのだろうが、そんなものを彼女らが持っているはずがないし

強引にグレモリーの魔法陣を使えば、誰が飛んでくるか予想もつかない。

一応、ライブの観客としてギャスパー以外は一度だけ顔を見たことがあるのだが

沢芽と言う管轄外の地域で活動することに肯定的では無いだろう。

 

そんな芽留の動きにしびれを切らしたチーム魍魎のメンバーは

インベスの召喚に使った錠前をさらに出してきた。

しかも今度はヒマワリの種ではなく、マツボックリの絵が描かれている。

 

「ただ召喚するだけじゃだめだ! こいつを奴に食わせてみようぜ!」

 

「シドさんがそうやってるのを見たことがある! 俺達だって!」

 

チーム魍魎の妖怪の一人がインベスの顔にある口(?)らしき部分めがけて錠前を投げつける。

それに気づいたインベスが、突如として背中の甲殻を開き

牙の並んだ大きな口を開いて投げ寄越された錠前を飲み込む。

その悍ましさに、芽留はもとより静観していたロスヴァイセも息を呑む。

オーディンもまた、現物を目の当たりにしたことで感嘆の声を上げていた。

 

だが、驚くのはそればかりでは無かった。芽留が視認できていなかったのか

さっきまでがむしゃらに攻撃していたインベスが

まるで芽留を狙うかのように攻撃してきたこと。

そしてさらに『インベスの爪が芽留の肌を掠めた』と言う衝撃の事実が発覚した。

 

(痛っ!? 幽霊の私を捉えたって言うの!? ちょっ、ちょっと洒落にならないわよこれ!

 しかも私に効果があるかどうかわからないけど、こいつらかなり強力な毒持ちじゃない!

 こ、これちょっと本格的にマズいかも!)

 

ふむ、と一人納得したように頷き一部始終を見ていたオーディンが、ようやく重い腰を上げる。

とは言っても、自分は動かずにロスヴァイセに始末を任せるようだが。

 

「ロスヴァイセよ。そろそろいいじゃろ。霊魂にも干渉するようになるといささかの。

 それと、あの少女は一応エイルに診てもらえ。

 あのインベスの毒、霊魂にも作用するようなら危険じゃ。エイルへの連絡はわしがやっておく」

 

「畏まりました。では……はっ!!」

 

ロスヴァイセが右手をかざすと、何も無い場所に炎が走る。

彼女が得意とする精霊魔法の一種で、炎の精霊の力を行使した魔法である。

インベスは植物を媒介とする生物。ならば炎に弱いとロスヴァイセは睨んだのだ。

その目論み通り、インベスはあっという間に焼き払われてしまった。

 

「た、助かった……ありがとお姉さん! 私ら一応アレがヤバい生き物だって知ってるけど……」

 

「私もそう言う生き物がいるってのは話程度には。さて、そうなると……」

 

芽留から礼を言われ、振り向いたロスヴァイセの冷たい視線の先にはチーム魍魎がいた。

頼みの綱のインベスは焼き払われ、さっきまでの虚勢は見る影もなく狼狽している。

 

「これはあなた方の問題でしょうけど、周囲に被害が出るような状況は看過できないので

 手を打たせていただきました。まだお続けになるようでしたら、それ相応の対応を取りますが」

 

「な、何なんだよ! 俺達は駒王で幅を利かせている悪魔が気に入らねぇし

 京都の大将は事もあろうに悪魔と、三大勢力とつるもうとしてやがる!

 だから俺達は逃げるように駒王を飛び出して、そんな中沢芽にやって来たんだ!

 それなのに、こっちでもこんな目に遭うんじゃやってられないぜ!」

 

逆切れを始めるチーム魍魎の妖怪の一人。それを聞いたロスヴァイセはため息をつき

冷たい目線を変えることなくさらに言い放つ。

 

「だったらやる事が違うでしょう。

 ダンスパフォーマンスで馴染もうとしていた姿は感心しました。

 ですが、インベスを用いて手荒な真似をするのはあなた方の言う悪魔と同じですよ。

 力で言う事を聞かせようとする者は、より大きな力にねじ伏せられる。

 力を行使したいのなら、その責任を常に抱える事です」

 

「そうそう。私はあんたたちのダンスパフォーマンス、これでも買ってるんだよ?

 だってうちらダンサーいないしさ。そこで相談なんだけど、うちらと組まない?

 あ、インベスは無しね。そういうの方向性とは違うから……うっ!」

 

さっきまでの事が嘘のようにあっけらかんとチーム魍魎をスカウトする芽留。

実際、ダンサーとしての腕はチーム魍魎に軍配が上がる。

そこを音楽の虹川姉妹が補う形で一つのユニットとして纏めようと、芽留はそう考えていた。

 

ところが、話し終えた途端に芽留の可愛らしい顔が苦痛に歪む。

インベスの爪が掠めた場所から、芽が生えてきたのだ。

 

「これは……オーディン様! 事態は一刻を争います!

 やはり、インベスの毒は相手が幽霊であろうとも感染するみたいです!」

 

「むう……これはエイルをこっちに呼んだ方が良さそうじゃな。

 ひとまず、この子をホテルまで運ぶぞい。ロスヴァイセ、頼めるな?」

 

力強く頷き、ロスヴァイセは芽留を抱え上げる。

毒が魂に作用しているためか、芽留の身体はいつもに増して薄くなっている。

避難誘導を終えた瑠奈と莉々。そして安全のために後ろに下がっていた玲が心配そうに見守る中

一同はオーディンの宿泊先のホテルへと向かうのだった。




ビルドネタを引っ張ったりしましたが、舞台は鎧武(沢芽市)です。
そして思ったより話が進んでない……ダラダラしてますね。すみません。

>シャルモン
あれだけの腕なら高くても文句言えないよね。
ケチのロスヴァイセをどうやって高級スイーツ店で食事させようか悩んだ結果がこれ。
ある意味凄い原作乖離。

>チーム魍魎
鎧武原作にも名前だけ登場したホットライン上位ランキング最下位常連。
拙作では実は妖怪のチームで、それゆえに活動時間帯的な意味で
評価が正しくされず、再開に甘んじていると言う設定に。
今回はダンスはいいんだけどやってる事がある意味原作のカラーギャングと同様に……
何気に、妖怪勢力の首脳陣は現時点では悪魔との同調体制には前向きだったり。
でもそれは、神仏同盟との間に軋轢を生みかねないわけで……

>虹川姉妹
プリズムリバーって言っちゃったよ……なセージのコミュ対象キャラ。
彼女らも何気に被災した駒王でライブしたり
コカビエルの脅威が迫ってる中で演奏したり
自分達が実際に戦うわけではないけれど非常事態には慣れている感じで。
弾幕ごっこ? あれはごっこであってガチバトルじゃないですしおすし。

>インベス
今回、霊魂(魂)だけの存在にも毒が有効なことが発覚。
ロックシードらしきアイテムでパワーアップしたが故の影響ですが
初級インベスでこれなんですから……
因みに、投げ寄越されたロックシードもマツボックリ(Cクラス)なので
進化はしていませんがパワーアップはしました。そんな感じで。

>ロックシード
チーム魍魎の手にもわたっていると言う事は既にある程度
量産体制が整っていると言うわけで。
前作「同級生のゴースト」3章でフリードが、最終章でレイナーレが
それぞれ召喚したインベスはその先行量産型のロックシードによるものでした。

>エイル
HSDD原作にはいませんが。北欧神話原典に名を連ねるヴァルキリーの一人。
彼女も医学に明るい存在です。悪魔の駒摘出手術(前作5章とか参照)の技術は
恐らく北欧では彼女に伝えられることになるでしょう。

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