ハイスクールD×D ゴースト×デビルマン HAMELN大戦番外地 作:赤土
冥界・アグレアス。
その起源は原初の魔王にまで遡る、空中浮遊都市。
そこに設けられたありふれた酒場に、そのような酒場に入り浸るには
些か服装が小綺麗すぎる男がグラスを傾けていた。
「おや……こういう形でお会いするとは、奇遇ですね。
私も今回ここで行われる大規模なレーティングゲームの大会の来賓として招かれたのですが
どうやら少し早く来すぎてしまったようです」
男は先客であったようだ。着席し、自分の分の飲み物を注文しながら
同業者、あるいは同様の役職についていると思しき男の話に耳を傾ける。
「……ここでお会いしたのも何かの縁ですし、ちょっとした蘊蓄を語らせてください。
暇つぶし程度には、なると思いますよ」
グラスの中身の影響か、饒舌になった男は蘊蓄と称し
この冥界で古くからおこなわれている転移技術について語り始めた。
「転移技術。悪魔の用いるそれは、魔法陣を中心とし魔力を媒体に
任意の場所へと一瞬にして移動できる、運輸や交通などにおいては
画期的ともいえる技術と言えます。
この技術を初めて確立させたのは、魔王ベルゼブブであるとも言われていますね。
……ああ勿論、アジュカではありません。原初のベルゼブブですよ」
原初のベルゼブブ。現在ベルゼブブと言う「職」についているアジュカと異なり
生まれながらにしてベルゼブブであった者。
その彼が、現代までも通じる悪魔の転移技術を確立させたというのだ。
「確かに、現行の魔王も技術面に関してはベルゼブブが一手に担っていますが
その昔は明確な役割分担などは無かったそうですよ。
にもかかわらず、転移技術についてはベルゼブブが第一人者となりました。
……次は、その『理由』についてお話いたしましょう」
グラスをあおりながら、男は小休止を挟みつつ話を続ける。
その間に注文した飲み物が来たため、男と同様にグラスを傾けつつ
男の蘊蓄に耳を貸すこととなった。
「襲名しただけのアジュカは全く違いますが、元来ベルゼブブとは『蠅の王』という異名の通り
蠅の意匠を象った、或いは蠅そのもののような姿であったと言えるでしょう。
原初のベルゼブブともなれば、その性質はデーモン族に極めて近いでしょうから
それこそ、蠅そのものな姿形であったも考えられますね。
……ですが。いくら蠅が腐敗物の消化分解に適した能力を持っているとは言っても
他の悪魔に対し優位に立てるほど強力な生物かと言えば、難しいところでしょう。
実際、蠅の食物連鎖上の立ち位置など下から数えた方が早いですからね」
蠅と言う生物のヒエラルキーからは想像もつかない、ベルゼブブの「蠅の王」と言う異名。
蠅と言う存在のまま、魔王と言う強大な存在になれたということなのか、それとも。
その答えともいえるかもしれないある「説」が、男から語られることとなった。
「ここでベルゼブブが確立した転移魔法の技術について振り返ってみましょう。
確かに彼は、魔力を用いた空間転移を可能としましたが、そこに至るまでには
様々な試行錯誤が当然のように行われておりました。
その試行錯誤を自らの身を以て行ったそうなので、その辺は好感が持てますが……
まあ、今はそこは関係ないので省きましょう」
原初のベルゼブブが行っていたという空間転移技術のための実験。
魔力を媒体とするそれは、着々と改善されていき
ようやくそのお披露目が行われることとなった。
闘争を主軸に据えた文化体系を持つデーモン族においても
空間転移と言う技術は、魅力的なものであった。
それが故に、ベルゼブブの技術公開には人だかりができていたのだ。
多くの観客が見守る中、ベルゼブブは魔力による空間転移を敢行、成功させる。
この成功を受け、悪魔の間での魔法陣を用いた技術の進歩は劇的に早まることとなった。
これは、今のベルゼブブ――アジュカ・ベルゼブブの立ち位置にも通ずるものがあると言えよう。
「……ええ。勿論、これでこの話は終わりではないですよ。
ここで終わっては、ただの魔王の功績のプロモーションに過ぎませんものね。
ここからですよ。何故ベルゼブブが『蠅の王』などと呼ばれるようになったのか、は――」
ベルゼブブによる技術公開からしばらく後。
ベルゼブブは、頻りに体の異変を訴えるようになった。
悪魔である以上、魔力によって体の変調は抑止することはできる。
入浴の習慣が無かった昔の貴族が、その体臭を香料などを用いて強引に消したように。
しかし、ベルゼブブの訴える体の異変は、その魔力で抑止できる範囲を超えていたのだ。
それこそ、生まれつきその体質であったかのように。
八方手を尽くすも、ベルゼブブの身体の異変は止まることが無く、ついにはその姿は――
――等身大の蠅を思わせる姿へと、変質してしまっていたのだ。
「ベルゼブブによる技術公開。この時行われた空間転移は、彼自らがその身を賭して行ったそうです。
これを適当な悪魔にやらせれば、或いは結果が変わったかもしれませんがね」
男の話は、なおも続く。
ベルゼブブの身体に起きた異変を受け、ただちに調査が行われた。
しかし、結論から言えば技術は凍結されず、危険性を帯びたまま行使されることとなったのだ。
では何故、ベルゼブブの身体に異変が起きたのか。
それは、彼が空間転移を試みたその瞬間の出来事であった。
偶然、魔法陣の上に飛んできた一匹の冥界蠅が、ベルゼブブの転移に巻き込まれてしまったのだ。
その影響で、ベルゼブブの肉体と冥界蠅の因子が混ざり合ってしまい
ベルゼブブの肉体は蠅そのものと言っても差し支えないものへと変異してしまったのだ。
生物と言う無機物とは比べ物にならない情報量を有する物体を転移させる。
それは上級悪魔の膨大な魔力を以てしても難しいものであったのだ。
転移の際に、悪魔の因子と蠅の因子が混ざり合ってしまった。
しかし、身体に異変を訴えながらも人格そのものはベルゼブブのまま変わらず
結果として、ベルゼブブは「蠅の王」としてその力を示すこととなった。
空間転移の技術については、その後も研究と改変が重ねられ
現在使われている魔法陣による転移へと繋がっていくこととなったのだ。
「……とまあ、今悪魔が当たり前のように使っている魔法陣転移と
それを確立させた原初のベルゼブブについてのお話でした。
ご清聴、ありがとうございます」
いつの間にか空になったグラスを下げてもらいながら、男は会計のために席を立とうとする。
それを呼び止める声。今の話は、本当なのか――と。
「さあ。確証を持たない、酒の席での与太話ですよ。即席のでっち上げとも言いますがね。
そもそもベルゼブブだって、生まれながらに蠅の姿であったとも言えますし。
転移で虫が紛れ込んで、その遺伝子情報が混ざるなんて一昔前のSFホラー映画ですよ。
いくら昔の悪魔でも、そこまでお粗末な技術は使わないでしょう」
あっさりと否定され、種明かしまでされてしまう始末。
酔っ払いの戯言に付き合わされた。それが今回の出来事の一部始終であろう。
それ以上でも、それ以下でもない。
カウンターにグラスがもう1個増えるのは、このすぐ後の事であった。
(……確かにベルゼブブの件は酒の席の即席の与太話ですが……
ことクロスゲートに関しては、そうとも言い切れないものがありますね。
昔の悪魔の転移技術など比べ物にならない程高性能であるにもかかわらず
その危険性は、ともすればそれよりも危険であるかもしれない。
……さっきは冗談で言いましたが、クロスゲートによる転移は、もしかすると……)
即席の嘘八百(なお日付)
他愛もないネタバラシしますと語り手は薮田先生。
聞き手は名も無き来賓客。来賓なのでそれなりの地位はある感じ。
実は今回「も」本編と時間軸はリンクしています。
少しばかり、未来のお話ではありますが。
>ベルゼブブ
彼に限らずなんですが、蠅だの飛蝗だの虫がとんでもない悪魔になるって
海の向こうじゃよくあるお話。日本じゃ実感わきにくいですけどね。
とは言えゴキブリみたいな悪魔も日本原産でいる以上、人の事は言えますまい。
蠅になる件は往年のSFホラー映画から。
ドラクエ4コマでもネタにされた、アレ。
結果として、襲名しただけで全然蠅っぽくないアジュカに
技術屋として原初のベルゼブブとの接点が生まれましたが
まあ、それは拙作設定ってことで一つ。
>転移
今回は元ネタ通り蠅でネタにされましたが
最後に触れている通り、悪霊で似たようなことをやっている奴がほら、そこに……