終末、カルデアの技術者達   作:うんでるすたんど

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AP回復までの待ち時間は空想に費やしている作者の送る群集劇。
思ったより良い文が出来たので掲載。
今回は主人公や英霊は出ません。



技術班、雑用係、23歳、女性。

ああ、嫌だ嫌だ、全くもって忙しい、機械的なのは大嫌いだと、私は言う。

此処はカルデア。

人類最後の砦にして、歴史の特異点。

此処にいる人間は残り約20人ばかり。

そして正しく人間だと言い切れるのはその半分だろうか?

そのカルデアにいる人間が今や地球の全人口とは、世も末だな。

なんて、私達技術班は笑いあう。

地球に暮らす私達人類の中で魔術を極めんとする者をサポートするしか能の無い私達が生き残った現在において、遺伝子的な人類の生存は詰みに入っている。

何故か?

それは三か月のことである。

事故というか事件と言うか…

所長の頼りにしていた幹部の一人が我々の技術の結晶を悪用して歴史を人類の滅亡へ改変したのだ。

その事故で技術班の三分の一と、英霊召喚の為に控えていたマスター候補者達の殆どが意識不明の重体になり、凍結。

カルデアを纏めていた所長は死亡。

幹部では唯一生き残ったDr.ロマ二を中心に、我々はその事件の解決に奔走する日々が続いている。

それにおいて、マシュという人造人間がレイシフトの起動誤差に巻き込まれてデミサーヴァントとなり、唯一生き残ったマスター候補者の少年が事件解決の為に奔走する正規マスターになった。

少年、通称ぐだ男くんは現在、歴史の特異点を破壊された結果による滅びという結果を覆す為に、元々カルデアが研究していた英霊、つまりサーヴァントの召喚を活用して戦うこととなり、彼もまた、今日も忙しく歴史改変、もとい人理修正に奔走している。

皆忙しい、私もそれと同じくらいに忙しい、忙しくないのはDr.ロマ二くらいのものである。

とにかく忙しくて仕方ないのだ。

Dr.ロマ二から休まないのか?と聞かれない日が無い程に。

しかし私は暇じゃない。

訂正しよう、私達は暇じゃない!

研究室に篭ってくれないロマ二博士の代理、もとい技術班の開発、製作、雑用の仕事に休みは無いのだ。

やけっぱちだが、世の憂いには焼け石に水をかけるというより、夏の日照りのアスファルトに霧吹きで水を撒いて回るような無力感に苛まれる。

いや、やるしかないのだろう。

しかし、世界を救うのは聞こえは良いかもしれないが、人類史と世界史とは別物なんじゃないかとも思う。

つまり、いい加減諦められないものか、と。

人類が滅んだ?外を見てみろ。

パソコン上の地球の都市データは焼け野原で滅亡へまっしぐら、カルデア周辺は美しい雪山に囲まれてて無人だからわからないかもしれないが、人が滅んだ後の街は既に緑が芽吹き、すっかり神代の植生が戻っているぞ?

まぁ、一部の都市はマジで灰燼に帰したようだけど、火が消えればそこも自然に帰るだろう。

それに、今なら誰でも容易く魔術が使える世界を作れる程の自然的な神秘が回復している。

こんな素晴らしい自体を歓迎しない魔術師が何処にいるんだか。

そう表立っては口には出来ない事を、研究員の一部は既に思ってしまっているのだ。

主に徹夜明けの追加業務を行う時なんて皆で自爆テロに走らんとばかりに…いや、いい。

私もその一人である。

そんな私がどの面さげて今を駆け抜ける努力の人に会えと言うのか。

過去の英雄と神話の具象達の苦労などに比べれば私達の苦労など耳糞のようなものである。

幼い頃に魔術の素養を見込まれてカルデアに在籍する魔術師の雑用をこなす部下となった私だが、素養は幼い頃にいた土地に属するものだったし、それからの扱いは庭の犬が羨ましくなるような雑なもの。

いつか田舎に帰りたいと願っていても既に村は都会に呑まれて神秘を失っていたし行き場が無かった。

そうして諦めの中で職務にあたるカルデアで、私の願いは叶った。

それだけでいいじゃないか。

自然の神秘が空気に満ちて、風が命を歌うのが聞こえる。

今やあの田舎の風景は此処にあるのだ。

死んだ所長には、すまなく思わないでもないが、それ以上に人類が滅んで故郷が戻った事が嬉しくて堪らない。

こんな馬鹿な部下をどうか天国で許して欲しい。

豊かな緑の深い草木が街を超えて砂漠を縮めてついに私の足元に帰ってきてくれたのだ。

こんな素晴らしい事はない。

だから、事件から数日も立たない内に、私は研究員としてカルデアに閉じ籠っているのが嫌になった。

というか飽きた。

たかだか20人程しかいない研究室。

毎度お馴染みの顔触れが暗い顔して互いを伺う日常。

単身で未知の情報だらけな外部の探索に出ることに怖気付く男共の中で、悠々と女だてらに未開拓地となった下界への探索に志願した事は私の人生で一番最高の選択だっただろう。

だから、今日も私はロマ二博士に物資調達を申告し、カルデアを出て、自然を満喫するカモフラージュの為に無人の街を訪れるのだ。

ああ、心が軽くて飛べそう。

なんてね。

二十三も過ぎて何を言っているやら。

さて。

カルデアがある雪山の標高は魔術界で類を見ないインテリお断り思考の難関だ。何をしていても熱と体力を奪われる万年雪。

山の厳しさを術で誤魔化し、足元の地割れや雪の下の氷に気をつけながら礼装を付けたヤクー(高山地に住むヤギの事)の足を借りれば、二週間ほどで往復出来る場所にイデアルという村が見えてくる。

まぁ実は人類が滅んでいるから、元から田舎だったこの街にあった一番大きなスーパーはすっかり姿を失せているし、もはや村は村の形を残していないのだが、それを知るのはカルデアから出た事のある私くらいだ。

知らぬが仏という事で、精神安定を求める研究室のメンバーにはその事は伝えない事にしている

唯一の例外としてロマ二博士は知ってるけどな…。

あの人は図太いから大丈夫だろう。

というか、図太すぎるくらいだし。

なんで滅亡まっしぐらな世紀末でアイドルオタクに走れるんだろう。

カルデアの七不思議の一つである。

思考が空に逃げたので縄を用いて現実に引きずり戻す。

視界は崩れた街の家やヒビ割れた土の道を映す。

人類が滅ぶ歴史であるこの世界軸で、人がこの土地から絶えて何年経っているのかはわからない。

だが、山村に朽ちた木の小屋や、辛うじて苔に覆われても石垣とわかる囲いを見る限り、軽く10年は経過していてもおかしくない様に思える。

もはや金銭の価値など路傍の石と同じ世界に目を閉じ、清々しい空気を私は肺いっぱいに取り込んだ。

我が世の春を感じる。

自然、大自然。

私、死んだら燃やさずに土に埋めてもらうんだ。

素晴らしい現実逃避ともいう。

とまぁ、先の事を考えて悦に浸るわけだが、私がいるのは無人の村。当然そんな街で食料も何もあるわけがない。

カルデアにいる研究員達は知らないだろうなぁ。

あの人達が食べている食料が、まかさ私のこの周りにある木の実や根や動物から手作りした加工品だとか。

実は動植物にも変化があって、割と道な類似植物食べてるとか。

…いつか知らせた方がいいのだろうか?

そんな事を話し合う余裕も世界が落ち着けば生まれるのだろうか?

わからないな。

繊細な奴は発狂しかねないし、今は辞めておこうか。

ともかく今は食べて死ななきゃ何でもいいだろうし。

英霊の皆さんは現代の食べ物を食べたこと無いから気付かない、彼らを束ねるマスターくんは大抵の時間を過去で過ごしているから此方の食料を食べた事の方が少ない。

しかも、加工を魔術で念入りにしてしまえば、見た目は本当にただの加工食品で、袋やパッケージなんかは無いが元々異国の出身である人しか居ないカルデアに、この国の食料事情にも明るい人など…いなくもないが。

まぁ、つまり、バレない。

私にとっては実に都合がいい話である。

大好きな神秘溢れる山の散策を好きにしていいわけだから、やり甲斐が溢れて止まらない。

いえす!ふぃーるどわーく!

食料を探してヤクーと共に山を歩くのは良いぞ、とても良い。

清々しい日々の麗を感じる。

木の葉の陰に目を凝らし、草木を見分けて、時に鹿や兎の後を追う暮らしは最高に豊かである。

心が自然に満たされる。

もちろん狩りにしくじればひもじいし、自分が怪我する事もあるが、それはそれとして自然の教訓と割り切ってしまえば最後に死ぬのも悪くはない。

魔術で何とかなる事も多いから唯の一般人よりはリスクは低い。

前に一度、崖下で狼と遭遇してしまって、逃げも出来ずにギリギリの境を味わったのもまた、かつてとない体験だったわけだ。

うん。

流石にそんな目に遭えば探索などもう勘弁だと、流石に私も一度は思ったものの、どうも一定の時間を置いてしまうとカルデアから出たいという発作に襲われるんだよな。

また山に行きたい、野を駆けたい、川の清水が飲みたいと身体が疼いて仕方がなくなるのである。

つまりは、自然が私を呼んでいる。

ひゃっはー!

では、本日も私はヤクーを連れて神秘の山の幸を求めるとしようか。

その前に狩りに必要でない荷物を置こうと、私は更に村の奥へと進む。

この街の周りは標高の高い為か、寒さに強く焚き火をするのにも重宝される白樺の林が点在している。

私はカルデアから降りて来た時はいつも、白樺の林に近い、村にある家々の中で一番その形と機能を残していた丸太組みのログハウスで火を焚いて夜を明かすのだが、やはりちゃんとした設備があるのと無いのとでは熟睡度や体力回復度が6割は違う。

この存在はかなり有り難い。

例え魔術礼装があっても、だ。

前回の最終日に今回の分の薪木は作ってあるから焚き火の心配はしなくてもいいが、うっかり切らすと大変な目に合うのだけは注意が必要だ。

ぶっちゃけ、寝たら死にかねない。

寒くて。

夜の内から朝まで不眠で魔術を使い暖を取る羽目になる。

次の日に知恵熱を出したくなければ、よしたほうがいい。

…。

それはともかく。

今は狩りだ。

個人で持って来た携帯食料も雪山登る為に残さないといけないからな。

今日の晩御飯だけで消えるような量を狩っていてはカルデアに資材を補充出来ないし、調達を理由に息抜きしに外に出たのがバレてしまう。

それはマズイと、私は早速脳内で狩りの予定を立てた。

毎度の事ながら時間に余裕は無い。

二匹のヤクーに繋いでいた荷雪車を外し、片方を小屋の中で休ませて荷物を見張らせ、もう片方を狩りの獲物を持ち帰る為の足として連れて行く事にする。

今日は、一番近くにある白樺の林で兎の巣でも捜そうか。

山間では日が暮れるのも早いし、というか既に昼だからな。

夜の冬山で狩りをする技量は、私には無い。

そうして山中へ分け入り、暫し散策。

兎の足跡を魔術で解析して、狩り尽くさない様に雄を二匹捕まえる。

その後の事だ。

今日一番の獲物は林の中から現れた。

相対するは、林の丘の下で此方を見上げる金に輝きを放つ雄鹿。

私が構えるのはぐだ男くんと英雄達の為に技術班が錬成した概念礼装の余り物として、最近よく廃棄される黒剣。

既に日は傾き、夕日の明が林の中を煌々と照らす中で、その雄鹿は未だ美しく、悠然と此方を見据えている。

試されている、私はそう感じた。

たかだか角のある程度の草食動物に負けてなるものか!

私はそう強く思った。

黄金の鹿を狩るのは初めてだったので、ヤクーには私が呼ぶまでその場で待機するように指示し、左に構えた黒剣を三本、鹿に投擲する。

着弾したのは一本、場所は背に近い右の腹、後ろ足に刃先を向けて深く食い込んだ。

本当は、獣を狩るなら首を落として倒すのが理想的で、腹を先に破くと肉の味が内蔵臭くなるらしいが、私にはそんな投擲精度も技術も無い。

当たれば良かろうなのだ!

しかし鹿もさるもの、捕まったら食われると分かっているのだろう、先ほどの悠然さとは打って変わり、腹を剣で破られながらも必死に林の奥へ逃げようと疾走していく。

だが遅い!

ヤクーを呼びながら私も鹿を追って木の間を抜ける。

相手は手負いだ、このまま力尽きるまで走らせて、倒れた所を狩ればいい。概念礼装だった黒剣には魔術でマーキングしてあるから見失う事もないだろう。

…いや。

そんな甘い事を言っていては日が暮れてしまうし、血の匂いをばら撒かれては狩場が荒れてしまう。

ならば、次の一手で無理やりにでも致死に達してもらうぞ、鹿!

外した黒剣を拾い直して、並走してくれるヤクーの背に跨った。

走る鹿はおよそ5メートル先。

私はヤクーの背で片膝立ちをして、馬上で弓を構えるが如く、全身の筋肉を引き絞り、投擲する。

風を切る音。

投げた二本の内、一本が鹿の首に割れ目を入れた。

じっとりと汗を掻いていた額をハンカチで拭い、最早血を流して死に向かうばかりの鹿を見ながら、山に感謝の祈りを捧げる。

今日は良い狩りが出来た。

帰り道、立派な金の鹿をヤクーの背に括り、私は捕まえた兎を背負い、道すがらには杉の葉を消臭剤変わりに摘み取って、沢で水を汲んで小屋への道を歩く。

ある黄昏の一日。

私は、今日も狩りをする。




天国の所長「世紀末満喫するなーー!!!」
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