幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:とるびす

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↑ここ重要
ゆかりんと愉快な仲間達が楽しくお話しするだけの回です


少女のお悩み交換会

 

「では本日の議題は以上、という事で自由解散です。どうぞお好きな時に退室してください」

「「「「異議なし」」」」

 

 筆頭賢者の華扇がいつもの決まり文句を言って、私達はこれまたいつも通りに同意する。もはや完全に固定されてしまった賢者会議の流れがこれですわ。

 私が筆頭賢者を降りてからというもの、滞りなく会議を進行できているようで何より。

 

 まあ今日は幾らか張り詰めていたけどね。

 特に今現在、幻想郷を騒がせている()()()()の扱いは中々に難しい問題だった。

 私はさっさと異変認定しちゃって霊夢に丸投げすればいいと思うんだけどね。やはり賢者が5人も居ればそれぞれ考えも違ってくるというものだ。

 

 この話はもういいや。さっきまで散々話したばかりだし、家に帰ってから整理して書類に纏めておけばオッケーですわ。藍への報告がてらね。

 あの子ったら、いま幻想郷に居ないから定期的な連絡が必要なのよ。別に遊びに出てる訳ではないので不満等は一切無いけど。むしろお疲れ様案件である。

 

 帰ったらまず一眠り。そして夜からの『プリズムリバー ウィズH』のライブに備えようとスキマを開いた、そんな矢先のことだった。

 

「ごめん紫。この後時間があるならちょっとお茶にでも付き合ってくれない?」

「あら貴女からのお誘いなんて珍しいわね。一体どういう風の吹き回しかしら」

「別に何か企んでる訳じゃないから安心してよ」

「安心できないんだってば」

 

 私を呼び止めたのはてゐだった。

 この兎が会議終了後に私へ絡んでくるなんて滅多に無い事だ。これだけで面倒事の臭いがプンプンするわね! 何か企んでいるに違いない。

 それに私からてゐへの信用は実務的なものを除いて皆無である。この兎に何度嵌められ、何度泣かされた事か……! あの無害を装った可愛らしい笑顔を見るだけで寒気が走るわ! 

 

 けど断っても後が怖いもんね。藍も居ない今、私に対抗する術はなく。

 

「それじゃあ適当に座っててよ。部下に粗茶を用意させるからさ」

「お邪魔しますわ」

 

 泣く泣くてゐの自室に連れ込まれる事になるのだった。言い忘れてたけど今回の賢者会議の会場は永遠亭だからそのまま徒歩で直行したわ。

 せめて橙だけでも連れてくれば良かった。

 

 てゐの部屋は想像よりも非常に簡素だった。最低限の家具と、様々な企画書が纏められた書類が本棚に犇めき合っている。

 てっきり札束とか、敵対者から剥ぎ取った皮がそこら中に落ちているようなマッドな部屋を予想していた。私を呼び込む為に片付けた可能性については考慮しない。

 

「そんなに人の部屋をキョロキョロ見ないでよ恥ずかしい。言っとくけど大したもんは置いてないよ? 部屋なんて応接以外じゃ滅多に使わないし」

「あらそうなの。確かに年がら年中竹林を彷徨いてるイメージはあるけど」

「アンタは私のことを何だと思ってるのさ」

 

 そりゃベテラン詐欺師よ。あと暴帝。

 私含めた賢者の皆様宛てに竹林の妖怪達からの涙ぐましい陳情書が沢山届いているのよねぇ。全部てゐに見つかって燃やされてるけども。

 

「それで実際のところどうなのさ」

「何がよ」

「最近はやけに大人しいけど、もう本当に幻想郷の転覆は考えてないの? 爪を研いで雌伏の時を過ごしている訳でもなく、マジで諦めたの?」

「何度も言っているでしょう。アレだけ無様な敗北を喫しては再起できないわ。まさかそんな事を聞くためだけに私を呼び出したなんて言わないでしょうね」

「いやいや本題のついでに聞いてみただけだよ。世間話みたいなもん。目的は別にあるから」

「……とにかく! 私にもう叛心は無いから」

「信頼を回復できるといいね」

 

 てゐはニッコリ笑顔でそう告げるのだった。

 

 このクソ兎からそんな事を言われるのは甚だ心外ですわ。

 そもそもてゐだって永琳を匿って幻想郷に叛逆したくせに、私をスケープゴートにしてちゃっかり秩序側に入り込んでるし! 納得がいかない! 

 

 と、そんな世間話のような取り止めのない話をしていると、青髪の兎がお茶を持ってきてくれた。

 まあ私の姿を見た途端、お茶を私にぶっかけた挙句、変な悲鳴を上げながら逃げちゃったけど。

 叫びたいのはこっちよ! 

 

「部下の教育がなってないわよ」

「あの子は元玉兎の捕虜だからね。そりゃアンタが怖いだろ許してあげなよ」

「なおさら許せなくなったわ」

「まあまあ今から本題に入るから機嫌を損ねないで」

 

 思いっきり不機嫌ですよオーラを出しつつ先を促した。

 

「一つ紫に頼みがあってね。永琳の事なんだけど」

「断る」

「話だけでも聞いてよ」

「勘弁してちょうだい。あの化け物とはなるべく関わらないようにしてるんだから」

「化け物ってどの口で言ってんのさ」

 

 アレ以上の怪物は中々居ないと思うけど。

 とにかく永琳関係は断固NG! 

 

「紫が永琳に対して複雑な感情があるのは理解するけどね、ちょっとそうも言ってられないんだよ。下手したら暴走するかも」

「八意永琳が暴走って……そんなの大災害よ」

「だからその予防のために今回話を持ってきたんだ。強いて言えばこれは幻想郷の平穏を守るための私と紫の密約。賢者の盟約だ」

 

 そんな事を言われては私も腰を据えるしかない。賢者の盟約とはそれほどまでに重いのよ。多分。

 

「で、永琳討伐の話だったわね。それじゃあウチから霊夢と藍を派遣するわ。貴女からは純狐さんとウドンを出しなさい。あと幽々子とさとりとレミリアにも協力要請を──」

「そういう話じゃないって!」

「あらそうだったかしら?」

「単にここ最近の永琳が何か悩んでるから、それを聞き出してあわよくば解決してほしいってだけの話! 永琳って身内には何かと秘密にしたがるからさ、元怨敵のアンタになら話せる事があるかもしれない」

「悩み事如きで大袈裟な……。それに話せる事なんて、そんなものあるかしら?」

「月人の精神の異常性はよくご存知だろ。キレ散らかすと何しでかすか分からないよ。それにアイツらは敵対者の優位に立つと勝ち誇るように手の内を曝け出すからね。私にゃ何もかも到底理解不能だね」

「そう言われては返す言葉がないわね」

 

 心当たりがありすぎるわ! 

 第二次月面戦争で綿月依姫が終始頭に青筋を浮かべていた姿や、私を策に嵌めた綿月豊姫が延々とフェムトファイバーについて語っていたのを思い出す。

 確かに理解不能だわ。エイリアンとは分かり合えないのね……! 

 

 まあそんな奴のお悩み相談の相手を私にさせようって流れも相当だけど。

 

「正直断りたい気持ちでいっぱいですわ。私よりもはたてや阿求の方が適任ではなくて?」

「新天魔かぁ。アレはちと鈴仙に近い気がするし、流石に永琳の為人を知らないままじゃ難しいでしょ。あと月と妖怪の山は戦争したばかりだしねー。そして阿求は激務」

「華扇と隠岐奈は……まあ無いわね」

「うん。無い」

 

 てゐの目算では私以外の選択肢が無いのか。

 けどなぁ……流石に私1人で永琳を相手取るのはキツイわね。主に精神的な面で。

 でもどのみち一度永琳とは話し合っておかなきゃとは思っていた。永琳を排除する選択肢を除外した以上、受け入れ続ける為の準備は必要だ。

 

 ならば──一計を案じるとしましょうか。

 

「分かりました。その話引き受けましょう。その代わり、場のセッティングは私の指定通りにやってもらうわ。そして立ち会う人数と、その人選もね」

「えっ、サシで話すんじゃないの?」

「いえいえ。賢者たる者、常に二兎を追わなくては」

 

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 

「それではお集まりいただいた皆様、これより幻想郷意見交換会を開催いたしますわ」

 

 居住まいを正し、私以外の4人へと微笑み掛ける。全員の緊張を解きほぐすため……ではなく、私の顔が引き攣らないように意識するためね。

 司会進行役として不適切な事この上ないだろう。しかしこの場の全員、そんな余計な配慮など必要がないほど胆力と存在感に溢れている。

 

 私を起点に時計回りでメンバーを紹介いたしますわ! 

 

 まず我が大親友の西行寺幽々子。

 話し上手と言ったらやはり幽々子が一番に思い浮かんだわ。時折意味不明な事を言い出すけれど、そこは私がフォローすれば問題ない。

 あと彼女がいるだけで雰囲気が柔らかくなるのよね。万が一お通夜になってもこれで安心! これが大和撫子のお淑やかパゥワーですわ! なお実態については鑑みないものとする。

 

 次に私の友達かつママ友である八坂神奈子。

 何を隠そうこの意見交換会、実は神奈子が私へ希望したものだ。てゐから悩み相談についての一件を聞いた時、なら神奈子も巻き込んでこういう形でやればいいじゃんって思ったのよ。

 幻想郷に来てからというもの、すっかり全盛期の覇気が戻ったようで周りに負けず劣らずの圧を発している。私にはぶつけなくていいから……。

 

 その更に隣、この中で一番の新参である聖白蓮さん。

 彼女も神奈子同様、こういう機会を求めていたみたい。各勢力から色々な事を聞いて今後の活動に活かしたいんだって。そういうスタンスは私としてもウェルカムですわ。

 ただやはり私に対する心証はあまり良くないみたいで、前2人に比べてかなり堅い印象を受ける。理由は明白なので私は縮こまるしかない。

 

 そして最後にして私の隣に居る怨敵の八意永琳。

 やはり当然というべきか、最初は意見交換会への参加に難色を示していた。なので輝夜とてゐによる懸命な説得が行われたらしい。大変ね。

 何にせよ今回は永琳のストレス発散を兼ねた集会になっているので、是非とも悩みや今後の展望について語ってもらいたい。愚痴も聞く。殺害予告はやめて欲しい。

 

 以上、私を加えて5名による談話となる。

 永琳を除いて比較的温厚かつ社会的で落ち着いた雰囲気の人達を選抜した。俗に言う出来る大人のお姉さんってやつ? まあ見た目はみんな少女してて若々しいけども。

 実年齢? それ幻想郷で一々言う事かしら。

 

「ここに居る者は全員が比較的新参でありながら、幻想郷にて積極的な活動を推進している方々。似た境遇の方も居るでしょう。是非とも今回の交流を今後のより良い幻想郷ライフに活かしていただければ幸いでございます」

 

「まずは代表して、こうした機会を設けてくれたことに感謝する。贅沢を言うなら、もう少し人数がいてくれた方が面白かったけれどね」

「まあ賢者の集まりを除いて今回の勢力間を越えた親善交流は初の試みですので。ぶっちゃけて言うなら試金石ですわ。格式も糞もないから気軽に過ごして頂戴ね」

 

 軽いお茶会のようなものですわ。

 影の発起人である神奈子からすれば別勢力の人間が多いほど都合が良かったんでしょうね。実業家としての一面もある彼女は、幻想郷間のパワーバランスに敏感だ。

 

 いやね、実際のところ他にも候補はいたのだ。聖徳太子さんとかマミさんとか。

 だけどあまりに人数が増え過ぎると制御できなくなる恐れがあったので断念した。元から司会進行役とか苦手なのよー! でも藍が居ないから仕方ない。

 せめて阿求がフリーなら良かったんだけどねぇ。

 

「それでは何か、集った有識者に問いたい事があれば遠慮なく申されてください。勿論、日頃の些細な悩み等でも大歓迎ですわ」

「本当に気楽な内容ですね……」

「ふーん何でもいいんだ。なら私から〜」

 

 トップバッターは幽々子! こういうフットワークの軽さも見込んで彼女を招集したのだ。

 でも幽々子の悩みなんていまいち想像が付かないわね。果たして……。

 

「ちょっと前に私と阿求ちゃんで開いたチャンバラ大会があったでしょ? アレの事なんだけどね」

「『幻想郷弾幕コンテスト』か」

「私自身としては結構上手くいった大会だと思ってるのよ〜。凄く盛り上がったし、紫は褒めてくれたから。だけどブン屋からは酷評の嵐! まるで大失敗だったかのように印象操作されてるの。それが悔しくて」

「貴女、本気で言ってるの?」

 

 まるで度し難いとでも言いたげに眉を顰める永琳。神奈子と白蓮も程度は違えど同じような反応だった。私は勿論無反応に徹しているわ。

『幻想郷弾幕コンテスト 白玉杯』ね……。あれは嫌な事件でしたわね。私としてもなるべく記憶から抹消したい出来事ではある。

 ただ何故か幽々子にとっては大変良い思い出になったらしいのよね。

 

「良くも悪くも盛り上がりはあったと思うよ。ただ終盤の流れがちょっと……」

「選手の満足度も賛否両論あったみたいです。ウチからは星と水蜜が参加していたんですが、片方は絶賛していましたが、もう片方は酷評でしたから」

「大量の怪我人を診る羽目になったウチ(永遠亭)の事も覚えていてくれると嬉しいわね」

 

「まどろっこしいわねぇ。結局批判の大元の原因は何なのよ〜」

 

「「「アレ」」」

 

 3人から同時に力強く指差された。

 えへへ……面目ねぇ。立つ瀬がない私は逃げるように扇子で顔を隠すしかなかった。

 

 その件に関してはホント反省しているし、もう色んな所に謝ったからそろそろ許して欲しいですわ。

 ダメ? そう……。

 

「紫の件はいいの。アレは私がお願いした結果起きてしまった事だから」

「当人間で納得できているなら良いんですが……」

「大会の内容そのものではなく風聞を気にしているのなら働きかけるべきはマスコミだね。天狗に色々とくれてやればいい。それで首を縦に振るかは知らないけど」

「なるほどそういう視点かぁ。それじゃあ今度妖怪の山にお邪魔して『褒美に死をくれてやる』とでも伝えれば良さそうね〜」

 

「はい次。次いきましょう」

 

 話の流れが一気にキナ臭くなったので司会権限で無理やり進行したわ。これで山の平穏は守られた! 

 

 

 

「では私の番といかせてもらおうか」

「次は神奈子ね」

「単刀直入に言わせてもらうけど、いま守矢が欲しているのは失われない影響力だ。この群雄割拠する幻想郷で頭ひとつ抜けた立ち位置の確保を目指している」

 

 これは……随分と踏み込んだ話になったわね。

 実は幻想郷の各勢力って結構保守的で、現状維持を是とする所が多いのだ。今が楽しけりゃそれでいいものね。かく言う私もそっち寄りの妖怪なんだけど、中々世の中上手くいかないものですわ(諦め)

 守矢みたくガツガツ上を目指して行こうとする傾向は新しい風なのである。他は河童くらいかしら。

 

「その姿勢は常日頃の行動から強く感じますね。早苗さんもよく人里で精力的に活動されてますし。里の人達も殆どが好意的に見ていると思います」

「うちの娘は優秀だからねぇ。ただやはり、少々の物足りなさは感じてしまう。早苗の頑張りとは別に、このままでは上へ行けない、勝てないという焦りがね」

「比較対象が霊夢ですもの。仕方ないわ」

 

 早苗は私の可愛い弟子だからあんまりこういう事は言いたくないんだけど、幻想郷においては霊夢の影響力と知名度があまりにも強過ぎる。相手にならない。

 経済力で博麗神社を圧倒できても、人間達を心服たらしめる信仰は霊夢の物だ。

 しかも前の異変では本気の私を倒しちゃったんだからね。もはや絶対的な存在となってしまった。

 つまり私のせいですわねオホホ。

 

「そんな訳でこれから幻想郷で我ら守矢の力を高めるための方法を模索している。何か妙案はあるだろうか? というか提携してくれると嬉しい」

 

 後半のが本音ね。

 神奈子の方針なのかは分からないけど、守矢は他の勢力と組む事が多い。情勢複雑怪奇な幻想郷で生き抜くための一つの手段である。

 

 まあ私と守矢の繋がりは今更だ。あと白蓮率いる命蓮寺一派とも仲が良いんだっけ? 

 

「八雲としては早苗の事もあるし守矢への支援はやぶさかではないんだけどね、流石にこれ以上表立った贔屓をすれば天狗から怒られちゃうわ。今は敵対してる訳でも無し」

「紫にこれ以上求めるつもりはないよ。むしろ伸び伸びやらせてもらって感謝してるくらいさ」

「勢力伸長の権利はどこにでもあると思うわ。一定のラインを越えないうちは私から言うことは何もありません。せいぜい周りと仲良くねってくらい」

 

 ちなみに一定のラインとは霊夢の堪忍袋って意味ね。

 

我々(命蓮寺)は早苗さんに恩があります。私にできる事であれば何でも申し付けてください」

「ありがたいが滅多な事は言わない方がいいよ」

「……貴女達の布教活動が実を結んでいるのなら、次は里の裏側に仕掛けるべきね。娘さんが暗闘に慣れていないなら、それこそ貴女が直々に乗り出せばいい」

永琳(アンタ)のところの兎と戦り合うのはちと時期尚早だろうね」

 

「影響力と知名度を稼ぎたいならやっぱり異変ね〜。何か面白い問題でも起こしたら?」

「アリかもしれん」

(賢者)の前で堂々と言わないでくださる?」

 

 舐められてますわッ! 

 

 AIBO経由で知り得た別世界線の幻想郷では、なんと守矢神社が異変の原因を間接的なものも含めて四つも作り出したらしい。

 そのため一時期は何か異変が起こる度に「また守矢か」と幻想郷の住民達を呆れさせていたとか。

 ちょっと想像がつかないわね。私の知るこの幻想郷ではそういう役回りは私とか隠岐奈とか正邪が担ってるから。あと邪仙。

 

 

 

「では時計回りという事で、次は私が」

「聖白蓮さんね。お願いします」

「まずは新参の身でありながらこのような場にお招きいただいたこと、深く感謝します」

 

 礼儀正しく一礼する白蓮。幻想郷の住民にあるまじき民度の高さですわ! 

 いいわね、新参って(温かい目)

 

「これは意見というより悩みなのですが、最近入信希望者が多すぎて困っているのです」

「良い事じゃないか」

「幻想郷に馴染めているようで羨ましいわ」

「我々にとって望ましくても、世に為す働きとして見ればあまりよろしい流れではないでしょう。救いを求める人達が多いという証左ですので」

 

 弱者にとっては生きるのも厳しい世界ですものね。気持ちはよく分かりますわ。少し前の私なら出家して尼僧になるルートを選んだかもしれない。

 うんうん、全部幻想郷の修羅共が悪いわ。

 

「絶望している人が多いのかしら〜?」

「いえ絶望とはまた違いまして、みな強くなる事を望んでいます。ただ仏の教えよりも筋肉を信じているというか、何と言いますか……」

「幻想郷の無垢な民草を誑かすのは程々にね」

「誑かしてません!」

 

 筋肉……筋肉は全てを解決する……! 

 強者の理想郷故に結論としては間違ってないと思う。ただ鍛錬くらいであの化け物共と張り合えるかと聞かれれば、私は答えを差し控えるしかないのだ。

 まあ実はね、私も命蓮寺は脱法筋トレジムなんじゃないかと疑ってた節はある。命蓮寺の教えは邪教の類いではないかと霊夢から相談されたし。

 

 と、沈黙を保っていた鉄仮面、永琳が口を開く。

 

「ならば大元の、武力で全てを解決しなければならないという風潮を改善すればいい。それこそ八雲紫の理念と一致する部分があるんじゃないかしら」

「紫さんの、ですか?」

「スペルカードルールはその為に存在するって聞いていたのだけれど。違うの?」

「合っていますわ」

 

 確かに永琳の言う事は正しい。私の当初の狙いはそれだった。

 ただ最近はちょっと諦めムードになってたの。

 結局施行されてからというもの、主な異変ではスペルカードルールは適用されていない。ていうか他ならぬ私がルールガン無視で無法ファイトを仕掛けちゃったから正当性が無くなっちゃったのだ。てへぺろ。

 バカ……ッ! 一年前くらいの私のバカ……ッ! 

 

「幻想郷から大きな争いを無くす為にスペルカードルールを考案しました。しかし普及はまだまだ志半ば。スペルカードだけが独り歩きしている状況ですわね」

「……分かりました。それでは私も門徒の妖怪達にルールの徹底を周知しましょう。とても良い子達なのでキチンと守ってくれる筈ですよ」

「なんと、ありがとうございます」

「お礼を言いたいのはこちらの方ですよ。それと──私はどうやら紫さんについて誤解していたみたいです。直に話してみて漸く確信できました」

 

 柔らかな笑みを浮かべながら白蓮は言う。

 

「私が魔界に封じられる前からの弟子達は皆、紫さんを怖がっています。かく言う私も、ぬえの件や貴女がしてきた事を聞いて邪悪な妖怪だと決めつけていました。妖怪と共に在る事を決めた誓いにあるまじき偏見です」

「な、なるほど。ちなみにいつ頃の私の話かしら」

「平安ですね」

 

「あぁ平安の紫か……」

「平安の紫はヤバいわね〜」

「いつの時代もヤバいでしょ」

 

 もうボロクソである。

 

 平安、つまり全盛期の私がブイブイ言わせてた頃の話か。そりゃ警戒もされる筈ですわ! あの頃の私って滅茶苦茶おっかないものね。分かる分かる。

 殺した人間や妖怪は数知れず、アホみたいに時代を掻き乱しては消えていく毎日だった。

 うーんこれは邪悪な妖怪。

 

「しかし早苗さんから聞いた通り、少なくとも今の紫さんが弱き者を虐げるようには見えない。理念は我々と合致しているように思えます」

「それは心強い限り」

「正直なところ、私含め門徒達が八雲紫の恐怖を脱するにはまだまだ時間が必要かと。しかし協調の道は閉ざしてはならない。貴女の理想を叶える一助を我々で担えれば幸いです」

「……それでいいと思います。私を無理に好いてもらう必要はありません。貴女達の幸福の先に幻想郷があるならば、私はそれで十分です」

 

 これは思わぬ味方を得られたかもしれない。

 何せ噂を聞く限り聖白蓮とは人と妖怪の垣根なく救済を与えるまさに御仏のような者らしい。*1

 そう! 私にそっくり!!! 

 

 ほら幻想郷を作った最初の理由だって弱小妖怪救済の為ですし? 今の最終目標だって『みんな仲良し幻想郷』のままだもん。オッキーナやかつての八雲紫に誘導されていたのだとしても、私の心が命じた事なのだ。

 

 同族同士仲良くなれそうですわね。

 と思っていたのも束の間。

 

「それとは別に──早くぬえを返してくださいね?」

「か、可及的速やかに……」

「あの子の帰りを心待ちにしている子が沢山います」

「ええ」

「私もその1人です」

「はい」

 

 陰が掛かった菩薩の如き笑みに、私は壊れたロボットのように首を縦に振り続けるのだった。優しい人ほど怒らせるとヤバいの典型例ですわ。

 やっぱり私とは似てないかも。

 ちなみに私の心の中に居るぬえが若干怖がっているような気がした。多分気のせいじゃない。

 

 

 

「さてこれまでの順番に従うのであれば、次は貴女ですわね、八意永琳」

「……」

「何でもいいのよ? 些細な悩み事とか」

「……」

 

 遂に本命へと出番が回ってきた。

 てゐの言う事が本当であれば何か悩みがある筈である。まあ話半分にしか信じてないけど。

 それはそれとして彼女がどんな事を相談し始めるのか、非常に興味があるわ。いま思えば私って永琳のこと何も知らないのよね。

 

 既に相談を終えた3名も興味深げな様子で永琳を窺っている。「早よ言え」と無言で急かしているのかもしれない。

 しかし永琳は押し黙ったまま澄ました顔で虚空を見つめている。

 

「あの、何かありません?」

「……」

「別に無理して何か言わせなくてもいいんじゃない? 喋りたくなさそうだし」

「まあ強制はよくないからな」

 

 幽々子の言う通りではある。ただ同時に彼女の言葉からは辛辣さも感じた。

 幽々子って結構人に対する好き嫌いがハッキリしてるから分かりやすいのよね。

 そういえば2人は永夜異変では殺し合った仲だった。私はその時死んでたからどんな様子だったのかは不明だけども。妖夢曰く初めて見るくらいガチギレしてたらしい。

 

 ふぅ……所詮は怨敵止まりって事かしらね。

 あそこまで凄絶に殺し合っておいて和やかに会話というのも難しいだろう。私──もとい八雲紫とは遥か太古から因縁があったみたいだし。

 私は殺意を持たれていた事については、今はあんまり気にしてないけどね。命を狙われても当然だったと思う。まあ永琳がそんな事を気にするはずもないか。

 

「話を振って悪かったわね。では──」

 

「八雲紫」

 

 幽々子にでも繋ぎを頼もうとした、その時だった。突然永琳が口を開き、私と身体が向き合うよう姿勢をずらす。

 ここで私は思わず悲鳴を上げそうになった。何故なら永琳から放たれる圧が恐ろしいまでに膨れ上がり、私へと向けられていたのだから。

 普段からそこまで開かれていなかった相貌が更に鋭さを増したような気がする。

 

 永夜異変の再来というワードが頭を過ぎった。

 表面上はにこやかに対応しつつ、いつでも奥の手を発動できるよう備える。

 

「な、なにかしら……?」

 

「今まで悪かったわ、ごめんなさい」

 

 何が??? 

 謎の謝罪と共に頭を下げられた。あまりの急展開にその場の全員が硬直していた。

 

「面を上げてちょうだい。えっと、それは何に対しての謝罪なのかしら?」

「これまでの全て。私や月の者達が貴女に与えたあらゆる苦痛に対して詫びさせてもらいたい」

「なるほど意図はわかりました。ちょっと突然で吃驚してしまいましたわ」

「……」

 

 だって突拍子もなく謝ってくるんだもん。誰だって驚く。私だって驚く。

 まさかあの永琳に頭を下げられるとは夢にも思わなかったわ。上手く関係を構築できたのだとしても、長い時間をかけて過去の因縁を有耶無耶に持っていくしかないと思っていた。

 しかし永琳は妥協しなかった。

 ちゃんとケジメを付けるつもりだったのか。

 

 という事は交換会が始まってからずっと無愛想に見えてたのは、彼女なりに思い詰めてたって事なのかしらね。最大限の好意的な解釈ですわ。

 

「私は的外れな理論を振り翳し貴女に死すら霞むような苦痛を与えたのみならず、貴女の家族や友人まで害した。手段を選ばずに貴女の全てを奪い抹消しようとしていた」

「そうでしたわね」

「にも関わらず貴女は輝夜や優曇華達に一切手を出さず、幻想郷へ受け入れてくれた。ならば、相応の態度を示さなければならないでしょう」

「ま、まあお気になさらず……というのもおかしな話だけど。貴女のしたかった事には一定の理解を示す事ができる。私だって大切な者のため貴女達を自身のエゴに巻き込みました。互いに大事にならなかったのなら、それを以って不問といたしましょう」

 

 まあ永夜異変の後の措置が寛大だったのは、ぶっちゃけると永琳からの報復が怖かったからなのよね。あの時に永琳と戦えそうな子なんて賢者一派を除くと霊夢と幽香くらいだったもん。

 それに永琳だって不死で殺す事ができないから監視に留めてただけだし。殺せるなら流石に殺してたかもしれないわ。なのであんまり大きな声で非難できないのだ。

 

「八雲紫。貴女に対する仕打ちの償いには到底ならないと思うけど……私なりに貴女達と同様に幻想郷のために力を尽くすつもりよ」

「既に尽くされていると思いますよ。永遠亭のお薬といえば万病に効く特効薬として里の人々から親しまれていますから。ね、紫さん」

「そうね。売人の兎はともかく、人間の信頼を薬の性能で勝ち取ったのは間違いないでしょう」

 

 この場に居る者の中で私と幽々子を除いた全員が、人里からのウケが良いらしい。

 確かに彼女達が布教活動やら慈善活動で名声を得ているのは分かるんだけど、何故私は警戒されっぱなしなんでしょうね? 賢者ですわよ? 

 幽々子はまあ残当。

 

 まあ何はともあれ、これで永琳とは和解できたという事で良さそうね! 

 本題がまだだけど。

 

「ところでてゐの奴から聞いたのだけど、貴女何か悩みがあったんじゃなくて?」

「悩み? てゐがそんな事を……」

「あら月人にも悩む事なんてあるのねぇ。いつ見ても真顔だから知らなかったわ〜」

「私の悩み……」

 

 幽々子のナチュラル畜生発言は置いといて、難しい顔をしたまま黙り込んでしまった永琳を一同見守る。完璧超人の悩み事とはこれ如何に? 

 すると、若干目を伏せたまま永琳がぽつりぽつりと語り出した。

 

「優曇華──弟子からいつも怖がられてるみたいで……どんどんあの子との間に溝が出来ている気がするの。それがちょっと悲しいわね」

 

 どんな高度で科学的な悩みが来るのかと思えばこれである。てゐの野郎め……。

 まあウドンが永琳を怖がる気持ちは分かるけどね。だって普通に怖いもん。

 

「天照大神を天岩戸から引き摺り出す案を献策し、高天原の建設指揮を執った者とは思えないほど俗っぽいな。良い意味で意外だ」

「お気持ちは分かります! 私も弟子達から妙に避けられてる気がして不安で不安で……!」

「そういう時はとことん構ってあげればいいのよ。自然と懐いてくれるわよ〜」

「妖夢は極端に素直な子だからあんまり具体例にはならないかもね」

 

 うおっ、女子会の波動がワッと押し寄せてきた! 

 自勢力の身の振り方とかを真剣に話し合うよりも、やれ弟子が娘がと喋っている方が和気藹々とするのは当然といえば当然か。

 

 もっとも、私も藍と橙についての相談や愚痴を言いたい気分ではあるんだけどね。

 藍はもう説明不要だと思うけど、最近橙にまで違和感を抱いてしまうようになったの。私と藍の仲を凄く取り持ってくれるんだけど、時折目が怖くなるのよ。

 気のせいでも一応ね。

 

 さてさて、弟子や娘との溝の埋め方についてですけども、私は成功体験がある側の妖怪。その方法を本邦初公開で伝授いたしますわ! 

 咳払いしながら周囲を見渡す。

 

「自分よりも年下の部下との接し方に難儀するのは当たり前。価値観、立場、況してや嗜んだ文化も全く違うのですから当然ですわ。故に言葉や態度だけでは限界がある」

「となると……?」

「口がダメなら拳がございます。一度拳でど突きあえば分かり合える事もあると思うわ。私と霊夢がそうだったように!」

「……なるほど」

「素晴らしい金言です。参考にさせてもらいます」

 

 目から鱗が落ちるとはこの事か。まさに天啓を得たりと永琳と白蓮は頷くのであった。

 2人とも理性的なトップではあるけれど、同時に肉体派なところもあるようですしピッタリですわ。

 

 その後も和やかな雰囲気で意見交換は続き、私達は無事相互の理解を深める事に成功したのだった。

 

 

 

 余談だけど後日、ウドンから私宛てに手紙(クレーム)が来ていたらしく、てゐから渡された。

 当然、私は笑顔でそれを焼き捨てるのであった。賢者に余計な仕事は不要ですわ。

*1
小傘談





ゆかりん「私はもしかしたら聖白蓮だったのかもしれないわね……」
ぬえ「ほざけ」

という訳で俗に言う五大老なるメンバーでのお話でした。ただ幻マジ内での描写通り、メンバーはみんなあくまでお姉様気質な少女です。
ちなみに実年齢は永琳(ジュラ紀)>神奈子(神代)>白蓮(平安中期)>幽々子(平安後期)>ゆかりん(800年前)です。
つまりゆかりんが一番の小娘。肉体年齢?そんなの知ったこっちゃないですわ!

お気付きかもしれませんが、今回の話はゆか永琳の和解を目論んだてゐと輝夜の策謀です。

そして実は永琳の事をあんまり許してない幽々子様。ゆかりん殺されてガチギレしてたからね、仕方ないね。




幻マジ本編から地続きの番外編はEx、救済要素皆無な蓮メリ時空幻想郷編はPhとして分けようと思います。Phの開始時期は未定です。
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