幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで 作:とるびす
それはそうとみんな八雲紫に投票しようね
試される大地、幻想郷。
かの八雲紫が「此処に来れば今までとは違う自分に出会える」と、どこかの北の大地で聞いたような言葉を宣った通りの魔境である。
娯楽に飢えた幻想郷の住民達が毎日そこかしこで気ままに力を振るっており、弱者は日々淘汰されていく。変わらなければ生き残れないからだ。
これが今も昔も変わらない楽園の実態。
最近になって少しばかり秩序が生まれ始めたりもしているけれど、根本ではやはり暴力に長けた者が幅を利かせる恐ろしい場所が幻想郷なのだ。
但し、現時点でその正しい意味は少々鳴りを潜めている。
単純な話、畏れを抱く対象が大多数の妖怪から別のモノへと移り変わりつつあるから。
それは気候であり、自然であり、抗い様のない運命に対してとも言えるのかもしれない。
幻想郷は今、未曾有の酷寒に見舞われていた。
要するに寒過ぎて人間が妖怪に構っている場合ではなくなってしまったのだ。
*◆*
「本当にごめんねみすちー! もうすぐ店仕舞いなのに駆け込んじゃって」
「いいよいいよ。私も最近はやる事ないし」
「橙と違って暇なんだよね、私達」
凍える手を擦り合わせながら、橙は申し訳なさそうに頭を下げる。ミスティアと、お手伝いの響子に対してだった。
そろそろ空も白み出した夜明け時。妖怪相手に商売しているミスティアの屋台が閉まる時間だ。
「取り敢えず駆けつけ一杯、熱燗でも飲んだら? 身体が温まるよ」
「うーん……お酒飲みたいけど、酔っぱらうとさ、この後やらなきゃいけない仕事の仕上がりが悪くなっちゃうかもしれないから。ジュースでお願い」
「お堅いなぁ。今日も一日中幻想郷を飛び回って働いてたんでしょ? 息抜きの暇もないのはヤバいよ」
「うわー賢者の部下ってそんなに厳しいんだぁ。超絶ブラックじゃん。八雲こわー!」
「べ、別に私が好きでやってる事だからいいの!」
橙の超過密スケジュールにドン引きするミスティアと響子だったが、当の本人は困ったような苦笑いを浮かべてお通しに手を伸ばすだけだった。特に不満はないらしい。
数年前まではその辺の野良妖怪と同じく毎日楽しい事をして過ごしていた橙が、今では立派な幻想郷の歯車である。友達の急な出世と変貌に困惑したのも今は昔だ。
八雲紫が起こした異変の後、橙を取り巻く環境は内外共に激変してしまった。
「まあ確かに、普段から結界の整備やら治安維持やらで凄く忙しそうなのに、加えてこの異変だもん。更に忙しくもなるよね」
「うん。今は幻想郷に紫さまと藍さまが居ないから、私が頑張らなきゃ」
「手伝えないけど応援してるよ!」
「あははありがとう」
「嫌になったら寺に駆け込めばいいからね! 聖様なら悪いようにしないから!」
もう夏になろうかというこの時期に曇天の空からはらりはらりと舞い散る雪を、ミスティアと響子は忌々しげに睨み付ける。
寒さという点でもそうだし、余りの極寒にライブの開催が無期限延期になっているのが鬱憤の原因だ。ついでに常連の足も途絶えて久しい。リグルなど半年は姿すら見かけておらず、凍死してしまったのかもしれない。
人間の生活を脅かす異常気象は、人間にとってのみならず大多数の妖怪達にとっても邪魔なものになりつつあった。
博麗の巫女が異変と認定して既に久しい。
かつて幻想郷を震撼させた『春雪異変』と表向きは似ているものの、内情は大きく異なる。
当然、黒幕であった西行寺幽々子が一番に疑われたのは言うまでもない。しかし、身の潔白は紫と霊夢によって既に証明された。原因は別にあるらしい。
「結局、この冬の原因はまだわからないの?」
「まだ解明半分ってところなんだよねぇ。『春雪異変』は幻想郷から春が失われた事による冬の延長だったんだけど、今回はその逆なの」
気怠げにジュース瓶を手元で弄びながら、橙は2人にも分かるように断片的な情報を伝える。
「今、幻想郷には冬が多過ぎる。だから夏でもこんなに寒いし雪が降る」
「へーそういう事。じゃあ黒幕も簡単に分かりそうなものだけど、そうもいかないんだ」
「そもそも冬が何処から幻想郷に流れ込んできているのかすら最近まで分からなかったんだよ。霊夢の勘も的外ればっかだったし。意外と頼りにならないよね、あの子も」
「……あんまり大きな声で言わないでねそれ。巫女に睨まれると商売できなくなっちゃう」
幻想郷広しといえど、霊夢の悪口を表立って言える者は少ない。実力や実績によるものが主だが、橙にしてみれば身内の愚痴をこぼしただけだ。そういう点ではまだまだ迂闊なところがあるのだろう。
「最近まで、ってことはもう原因は判明してるんだ。なのにまだ解決できてないの?」
「……その冬が流れ出してる場所が黄泉の国ってことが問題なんだよねぇ。あの世は恐ろしいほど広くて人が多いから、黒幕の尻尾がなかなか掴めない」
「へぇ黄泉の冷気ってやつだ」
「なーんだ、それっていつも人里で説教垂れ流してる閻魔の管轄って事じゃない。情けないね」
「紫さまもそうやって愚痴ってたよ」
人里にやって来る閻魔とは大体の場合、四季映姫・ヤマザナドゥを指す。
ミスティアと響子は彼女から説教を受ける常習犯であるため、ここぞとばかりに愚痴が飛び出す。橙も橙で主人が彼女を嫌っている事もあって何かと苦手だった。
なお四季映姫は閻魔といっても地獄全体を統治している訳ではないので、非難の先としては不適切。しかし一般の民草から見れば所詮その程度の認識である。不憫。
「まあそんな訳で藍さまと紫さまが直々調査に出るに至るって経緯よ」
「あーそれで橙に皺寄せが」
「霊夢も色々と忙しいだろうし、華扇様や隠岐奈様にお願いする訳にもいかないし。なら私が大結界の管理をやるしかないよ」
「凄いなぁ……もう幻想郷の重鎮じゃん。こりゃ橙が九尾のご主人様を差し置いて紫さんの腹心になる日も近いかもね!」
「次期賢者の橙にかんぱーい!」
「それは違うよね」
「「へ?」」
祝っただけなのに鋭い目で睨まれては困惑するしかない。
「紫さまの腹心は誰が何と言おうと藍さま。紫さまとラブラブでお似合いなのは藍さま。藍さまだけの紫さま。紫さまにとっての一番のパートナーは絶対に藍さまでなきゃいけないの。それ以外は絶対に認めない」
「そ、そうなの」
「なんかごめんね」
怖い者知らずで勇名を馳せる2人も思わずたじろいだ。今から殺し合いでも始めるのかと錯覚するほど"ガチ"な目だった。
今の橙にとって最も優先されるべきは『ゆからん』なのである。
藍の長年の苦悩と葛藤を間近で見てきた橙にとって、遂に訪れた主人達の急接近は祝福すべき事。まさに夢にまで見た進展なのだ。
普段は見惚れてしまいそうなほどクールで麗しい藍が年頃の娘のように主人へと甘える姿を不意に見てしまった時は凄まじい衝撃を受けたものだが、同時に応援してあげたいとも思った。なんならそんな藍の姿を困ったように、しかし愛おしく見つめる紫にも心打たれた。
大好きな紫さまと大好きな藍さまの組み合わせこそが、真の理想であり橙にとっての至福。
故にあの2人が結ばれるためならどんな手段をも用いる覚悟が橙にはあった。
最近、古明地さとりなどという地底の妖怪が紫へ積極的にアプローチを掛けているようだが、そんなものを断じて認める訳にはいかない。
ちなみに霊夢は紫の娘なのでノーカウント。
出来る女ミスティア・ローレライ。危険な雰囲気である事を察知し、またたび料理を出しつつ話題を無理やり修正する。
世渡り上手な女将さんである。
「と、取り敢えず異変解決の進展は紫さんの成果待ちって事ね! 我らが賢者様の帰還が待ち遠しいわ! ね、響子!」
「待ち遠しいわー!」
「我らが賢者様にかんぱーい!」
取り敢えず紫をヨイショすれば藍と橙の機嫌は著しく改善される。吸血鬼異変の時から徹底される野良妖怪の処世術であった。
実際、橙はしたり顔で満足げに頷いている。
「そういえば聞いてなかったんだけど、紫さんは何処へ調査に行ってるの?」
「ん、ヘカーティアって女神が治めてる海外の地獄」
「うわっ」
「アレかぁ……」
その名前を聞いてミスティアと響子は再度顔を顰めた。その反応たるや四季映姫以上。
何故なら現在の幻想郷において、ヘカーティアは最強最悪の破壊者として悪名を轟かせる邪神であるからだ。彼女にトラウマを抱えている妖怪も多い。
何せ、八雲紫が起こした先の異変における幻想郷への被害の殆どは、傀儡となったヘカーティアによって引き起こされている。
幻想郷上位層の化け物達が手を組んで何とか食い止めたが、それでも徐々に押されていた。
弱肉強食、強さこそ全てに優先される幻想郷においてヘカーティアとは正しく劇薬なのである。
「なるほど、それは紫さんが直接行かなきゃダメだよね。あの邪神とまともに戦り合えるのなんて紫さんくらいだろうし」
「うん! 紫さまは凄い方なんだよ」
「知ってる」
「きっと今頃藍さまも別の所で私の仕事なんかよりもっとキツくて難しい事を為されている筈だから甘えてる場合じゃないよねやっぱり」
「なるほどなぁ」
橙の仕事熱心な姿勢は主人の社畜根性に影響されているのかと納得したミスティアであった。声には出さない、怒られるから。
と、橙の耳が逆立つ。幻想郷全域に広げた感知網が面倒事の情報を運んできたのだ。
「あーあ、また大結界に異常が起きてるよ。最近多いんだよなぁ」
「それも異変の影響?」
「どうだろうね。まあどのみち私が管理を担当してる時にミスは許されないわ。自然的なものならバグが無くなるまで修正をするだけ。……万が一人為的なものなら元凶が分かり次第ぶち殺してやる」
「お、応援してまーす」
ただのバグである事を願うばかりだ。
「御馳走様でした! ありがとねみすちー!」
「あいあい。お仕事頑張ってねー」
「がんばれー!」
「がんばるぞー!」
2人のエールを背に受けながら屋台を後にする。殆ど休む暇もない激務。
しかし橙は今頃地獄の女神と熾烈な攻防を繰り広げているであろう主人を思えばどんな苦労だってへっちゃらである。むしろ苦労を重ねるほどに藍と紫に近付けているような気がして嬉しいのだ。
そんな八雲の式としての誇りと責務を胸に、再び幻想郷の維持作業へと身を投じるのであった。
*◆*
「ご機嫌麗しゅうございますヘカーティア閣下。まずはこれまでの数々の非礼をお詫びさせていただきたく存じますわ。本当にごめんなさい悪気はなかったんですあの時の私はマジでどうかしてました許して許して許して許して」
「いいね相変わらずの調子で。前のゆかりんのままで良かったわよん」
顔を合わせるなり即土下座。ヘカーティアに有無も言わせず謝罪の言葉を捲し立てた。初手でのプライド全投げは定石ですわ。
八雲の誇り? 何それ美味しいの?
本当ならもうちょっと時間を空けてから会いに行こうと思ってたのよ。ほとぼりが冷めた頃に謝れば簡単に許してくれるんじゃないかと。
だけど異変調査の為にどうしても地獄に入らざるを得ない状況になってしまい、このザマである。
付き添いで一緒に来てくれた療養休暇明けのオッキーナもこれには苦笑い。
謝罪一辺倒な私に代わり言葉を繋いでくれる。
「まあこの通り、我々としても貴女と事を構えるのは望むところではない。過去のアレコレは綺麗さっぱり水に流してくれると助かるのだが」
「謝罪だけで済ませようなんて随分と虫のいい話ね? こちとら一度殺されてるのよん? しかも奴隷のような扱いまで受けたし」
そう、それなのよ。
ぬえの力がヘカちゃんに上手いこと刺さってミラクルで倒せてしまったのもそうだし、その後のヘカちゃんの扱い自体も不味かった。
過去の私はもう後には退けなかったから、ヘカちゃんが支配から解かれた後を考える余裕なんてなかったのだ。このバカちん!
媚を売りまくれば許してくれませんかね? えへへ。
と、オッキーナは自ら持ち込んだ椅子に踏ん反り返った。当然、尊大な態度も崩さない。
「ふむ言葉を変えようか。私と紫はな、謝罪してやってるんだから大人しく受け入れろと言っているんだ。敗者に対する慈悲としては過剰だと思うが」
「あの、隠岐奈さん?」
「へぇ言うじゃない。この場で私がリベンジマッチを仕掛けても何も問題ないのかしらん?」
「滅相もございません貴女が最強ですわ」
すぐに喧嘩を売り始める悪癖は相変わらずだった。オッキーナシャラップ!
この2柱とは一時的にでも同化した時期があるから、何となく実力もどの程度のものか分かるつもりですわ。流石にヘカちゃんが有利だと思われる。
しかしオッキーナが最強の女神に肉薄する存在である事も事実で、そんな両者が殺し合いなんて始めた日には地獄もろとも私が吹き飛んでしまいますわ。
2柱とも私の友達ではあるんだけど、同時に世界最強の邪神達でもあるのだ。なんでそんな神様方と友達なんでしょうね? 世にも不思議な話である。
「まあ安心してよゆかりん。もう私と貴女達が戦う理由はないわ。ゆかりんが破滅の因果から逃れられたのは知っているし、別に恨んでもないもの」
「その言葉、信じても?」
「警戒し過ぎだってば! あの時の勝負だって私から吹っ掛けて返り討ちにあっただけ。こき使われたのも月諸共幻想郷を破壊しようとした迷惑料だと思えば我慢できる」
「物は言いようだな」
良い感じに纏まろうとしてたのに、またもやオッキーナの茶々が入る。この人に助っ人を頼むんじゃなかったわ。無理言ってでも藍に付いてきてもらえば良かった。
ゆかりん後悔!
「仮にお前が再度本気で幻想郷に攻め込んだとしても勝ち目はないぞ。少なくとも私と紫、そして博麗の巫女が居るうちはな。勝てない勝負をしない為に遠回しに理由をこじ付けているだけではないかね」
「ふぅん言ってくれるわ。まあ確かに、その3人がかりなら少し手こずるかもね」
「他にも紫の式や力狂いの鬼共、深謀遠慮に長けた怪物なんかもいるからな。正攻法では恐らく無理だろう。私はとっくに諦めた」
「此処よりよっぽど地獄をやってるわねぇ」
私を自然な流れで戦力に数えるのはやめていただきたいですわ。割とマジで。
しかしオッキーナ曰く「生涯不敗を誇る最強の神に泥を付けた事実は強力な逸話として残る。八雲紫はヘカーティアの弱点となったのだ」とのこと。
ヘカちゃん特効属性って事でしょ? 何も嬉しくないですわ。それに地力が低過ぎて何の役にも立たないと思うんですけどもそれは……。
ただオッキーナの幻想郷への信頼を確認できたのは思わぬ収穫だったわね。
「話を戻しますわ。もし先程の言葉の通り私達に対し含む物が無く、まだ友好的な関係が生きているのであれば、どうか協力して欲しいのです」
「大体の事情は把握しているわよん。要するに、コキュートスの冷気が顕界にまで流れ出ている原因を調べたいのよね?」
「その言い様だと、日本の地獄と同じことが起きているようだな」
ヘカちゃんは面倒臭げに、頬杖をつきながらあっけらかんと言い放つ。
「運悪く私がまだ完全復活してない時期に何者かが地獄に工作を行ったと見ているわ。苛立たしいことに現在進行形でしてやられている最中よん」
「……意外ですわね。貴女ほどの者が足取りを掴めていないとは」
「掴めない、というよりは掴むための行動が取れないと言った方が正しいわ」
「含みがあるな」
「単純な話よん。月の都での一件といい、幻想郷での戦闘といい、私は少々目立ち過ぎた。結果として地上の民の私に対する畏怖があまりにも大きくなり過ぎちゃったから自主謹慎してるの」
ヘカーティアは地獄の支配者であると同時に、ある意味で地獄そのものの概念を内包する存在。そんな彼女が人々の心に強く根付くという事は、即ち地獄が日常に大きく近付いてしまう事と同義だ。
確かに、それは生と死の境界を侵犯する恐れがある。
無茶苦茶な女神様だけど、一応秩序側だものね。
「という訳で私もまだ部下に調査させている段階よん。役に立たなくてゴメンネ」
「ふむ収穫無しか。有益な情報を期待していただけに残念だな紫」
「そういう事は一々言わなくていいの」
「あー有益かどうかは分からないけど、ちょっとしたヒントになりそうな気付きがあるわ」
少しだけ声のトーンが下がる。聞き漏らさないよう、耳に神経を集中させた。
「冷気はね、一度に全部持っていかれる訳じゃないの。極少量を確保して都度小分けに確保しているみたい。それこそ獄卒達に気付かれないほどの量」
「……?」
「つまり犯人は何度も地獄を出たり入ったりしているのよ。それこそ一日中かしらん?」
「そんなに活発的な動きがあるなら尻尾を掴めそうなものだけど……」
「その通り。でも分からないの。ならそれが逆にヒントになりそうじゃない?」
ヘカちゃんは勿体ぶるような態度でそう告げた後、悪戯っぽい笑みを浮かべるのだった。
その後は大きな波乱もなく調査を終えた私達は、ヘカちゃんに別れを告げ、スキマを経由しギリシャから幻想郷へと帰還した。
ひとまずオッキーナを八雲邸に招き入れ、調査の結論と今後の動きについて話し合うことにした。
オッキーナはお茶を啜り、そっぽを向きながら言う。
「あの女神、恐らく犯人の正体を知っているぞ」
「うん。私も若干そんな気がしてたわ」
「まったく、裏に余計な思惑を張り巡らせる神など碌なものではないな。もっと簡単明朗な姿を保ってこそ人に信心を向けられるというものだ」
「……」
「なんで私を見るんだ?」
だっておまいうなんだもん。
神奈子とかが言うならまだ分かるけど、貴女はないわー。怪しさの塊じゃないの。私みたく清廉潔白かつ誰からも疑われない生き様を心掛けるべきですわ。
さてさて、ヘカちゃんが犯人の正体を濁した事に深い意味はないと思う。ああいう類いの神様とは人に試練を与えるのが大好きな性分なのである。どうせ私達の足掻きを見物して楽しもうとしているのだろう。
あと、あれはヘカちゃんなりの幻想郷への仕返しなのかもしれないわね。
純狐さんとクラウンピースが幻想郷が楽し過ぎて地獄に帰って来ないって嘆いてたし。いつ引き取ってもらっても構わないのだけど。
「隠岐奈はヘカーティアと話して何か気になる事はあったかしら?」
「面妖な服を着ていたな。改めて正気を疑ったぞ」
「それ以外」
「ふぅむ。……ヘカーティアの最後の意味深な言葉だが、アレは恐らく私達2人に向けて言った事に意味があるのだろうな」
「???」
「紫よ。私が居ることで気が抜けてしまう気持ちは分かるが、自分でもしっかり考えねばならんぞ」
はい。オッキーナに考察諸々丸投げしてました。
「仮にお前がこの異変を完遂するべく八寒地獄から冷気を盗もうとするならば、四季映姫やヘカーティアの目を欺くためには何をする?」
「姿を表さず地獄と幻想郷をスキマで繋げて盗むわね。……でもそれじゃバレちゃいそうね。流石に地獄に異界の穴を開けたら誰かに気づかれるだろうし」
「その通り。同じ理由で私もその手段では無理だ。地獄の支配者達はそこまで甘くない」
オッキーナはそんな方法を取らなくても、前の異変でやったみたいに妖精の後戸を開放して幻想郷の四季を滅茶苦茶にできるでしょうに。……そういえばオッキーナが犯人の可能性もあるのか。
四季の境界を操作? そんなこと今の私には到底できないわ。
「この異変、まず疑われるべきは西行寺幽々子。その次に私達2人だ。前科持ちと一緒にされるのは気に食わんがワープ能力を持つ者の宿命だからな。仕方ない」
「貴女も前科持ちじゃない」
「だが先に述べた通り我々では可能であっても犯行が露見してしまう。私達だから手順に問題があることに簡単に気付ける。その視点が鍵になる」
私の指摘を無視してドヤ顔をかましてくれた。
そういえば四季映姫の野郎も異変が始まってすぐ私を詰問しに来てたっけ。名誉毀損で訴えてやろうかしら。でも裁判長が被告じゃ勝負にならないわちくしょう。
「いいか紫。断定できるものではないが、この異変の実行犯は表面上私達と似ているようで、なおかつ私達とは原理の全く異なる能力を持っている可能性がある。ヘカーティアのヒントを馬鹿正直に受け止めるのならな」
「表面上は似ていても実態は違う……つまり、ポル○レフ理論というやつですわね」
「本当にあの漫画が好きだなお前は」
オッキーナに呆れられた。だって適切な例えが思い付かなかったんだもん!
要するに「あ、ありのまま今起こった事を話すぜ! (中略)催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」の通り、一つの要素だけを抜き出して能力を断定しないよう気を付けようって事ね。
それこそ元ネタが如く時間停止を使えば地獄から冷気を盗むことなんて楽勝だろうし。という事は十六夜咲夜が犯人? 容疑者がまた1人増えたわ。
「とにかく、表立っての犯人探しはお前に任せる。私と違って幻想郷の面々に顔が利くし各々の内面についても詳しかろう」
「仕方がないわね、分かったわ。隠岐奈はこれからどうするの?」
「取り敢えず怪しい奴を片っ端から後戸に招き入れて、尋問の後叩きのめす」
賢者の姿か? これが……。
まあオッキーナは昔から武闘派だったし今更か。私は穏健派として地道にやっていきましょう。
ふっ、久々に名探偵活躍の時が来たみたいね!
名探偵ゆかりんの復活に張り切っている私を他所に、オッキーナは気怠げな様子で深い溜息を吐いた。クッソ面倒臭いんでしょうね。
「まったく、こんな時に奴さえ居れば冷気を消滅させる事も叶うのだろうが……奴を殺したのは早計だったかもな。今になって利用価値が生まれてくるとは」
「奴って?」
「──レティ・ホワイトロックよ。寒冷そのものの概念を司る奴ならば、この程度の異変の鎮圧など造作も無かろう。……いや、寧ろアレは助長する側の存在だったか?」
ああ、あの雪女さんか。
私はレティと直接話したことはないし吸血鬼異変の時に一度顔を合わせただけだったけど、どうも伝え聞く限りでは相当ヤバい妖怪だったらしいわね。
あと何というか、あの妖怪の目が怖かったのよ。だからなるべく近付かないようにしてた。心が彼女そのものを恐れていたのだ。
私自身の心か、それともこいしちゃんやぬえ……更には蓮メリ、誰の影響かは分からないけど。
まあそんな彼女も幻想郷同時多発異変の時にオッキーナに敗れて消滅したと聞いている。
生きていたなら黒幕候補としてマークしていただろうが、いま思いを馳せても仕方のない話ですわ。
「貴女の能力で殺されてしまったのでは復活もあり得ないでしょう。あの風見幽香やチルノだってそうだったのよ?」
「まあそうだなぁ。私の能力で概念から再び妖怪を生み出したとしても同じ存在がそのまま発生する訳ではない。どうにもならんな」
不変の象徴である妖精すら完全消滅に追い込む事ができるのがオッキーナの能力。上手く駆使すれば、もしかするとかつての私をも殺し切れる可能性があったかもしれないわね。
しかし再生の方には応用が難しいらしい。覆水盆に返らずね。
だが数瞬後、オッキーナは眉を顰めた。
「まさかな……」
「はえ?」
「いや、怪しい奴の候補が浮かんだ。早速拉致ってくるとしよう。それではな紫」
「言い方」
去り際の注意も彼女には届いていないのだろう。嘆かわしいことですわ。
取り敢えず拉致の片棒を担いだとの誤解を受けないようにオッキーナとの接触はなるべく減らして無関係を装っておきましょう。単純に不名誉。
私は何も知らない。あの人が勝手にやっただけ。
これでよし!
さてと、オッキーナも行ったことだし、これで心置きなく家事ができるわ。調査は後からでいいや。
藍も橙も忙しくて中々帰って来れないからね。2人に比べて時間にまだ余裕のある私がやらなきゃ。ちなみに居候の天子さんも今は異変調査に出掛けてもらっているわ。
幻想郷に充満している冷気が地獄の物である事は分かった。ただその経路と下手人の正体が不明であるのが、現在の状況。
下手人については私とオッキーナで調べているところ。ならば経路はというと、これまた沢山の人数が調査に動いている。
地獄を日帰りで霊夢。畜生界を土地勘があるらしい藍。修羅道を血の気の多い妖夢。餓鬼道を何故か本人の申し出により幽々子。天界を我らが天子さんって感じでね。あと旧地獄は当然さとりに調査を依頼している。
まさか六道をコンプする事になるとは。
確かに地獄への細工となれば地獄と隣接する場所に協力者や犯行の痕跡が残っていても不思議ではないが、流石に広過ぎるのが厄介だ。
ちなみに地獄と隣接していない天界は調査の必要性が低いんだけど、実は天子さんの里帰りを兼ねている。理由を付けて
藍が清々しく送り出してたわ。仲悪すぎ。
まあそんなこんなで孤独なゆかりんである。最近はルーミアも来なくなったしね。
過去の蟠りなんて気にせず飯でも食いに来いって言ったのに、らしくもない。あの妖怪に限って遠慮しているという訳ではないと思うわ。何処かで大量の人肉でも手に入れたのかしら?
変に突っ込むと恐ろしい話が出てくるかもしれないので触れないでおきましょうね。
取り敢えず夜に帰ってくる霊夢の晩御飯を作って、掃除と洗濯が終わったら紅魔館にでも行きましょうか。
第一容疑者は鬼畜メイドこと十六夜咲夜ですわ!
名探偵の血が疼く!
Q.八雲紫は一緒に過ごすなら誰を選ぶ?
霊夢「は?そんなの誰でもいいわ」
幽々子「うーん霊夢じゃなあい?」
さとり「わたし」
藍「わた……幽々子様かなぁ」
橙「藍さま(真顔)」
A.ゆかりん「…………………………………橙」
凄く懐いてくれるし、気を使わなくていいし、難しい言い回しをせずありのままを伝えてくれるし、とんでもなく優しいし、仕事の手を抜かないしっかり者だし、可愛いし。
幻マジ真のヒロインは橙なんですよね。なお橙本人は嬉しいながらも複雑な模様。
ちなみに後日談になって藍と橙の趣味嗜好に若干の歪みが生じたのは、最終決戦時にゆかりんを中継してEX勢+八雲家全員が繋がっていたからです。つまり全部ゆかりんのせい。汚染されている……!
また前々回の強さランキング(曖昧)で見事一位に輝いていたヘカ様ですが、ゆかりん、隠岐奈、永琳、藍、霊夢のうち3人同時相手となると結構苦戦するかもしれません。
ゆかりん?ゆかりんはそこら辺うろちょろしてるだけでかなり邪魔なので……。
よって幻想郷に仕掛けるのは難しい。それを見越して強気なオッキーナでした。
次回、幻マジ真の主役が現れる……?
完結後も感想評価お待ちしておりますゲヘヘ