幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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紫の彼岸は遅れて輝く

 

 願はくは 花の下にて 春死なむ 

 そのきさらぎの 望月の頃

 

 

 

 夢を見た。

 満開の花びらの中、静かに眠る夢を。

 何が悲しいのか分からない。だけど頬を伝う涙は延々と流れ続ける。

 

 

 現世(うつしよ)揺蕩(たゆた)う私は、微睡みに溺れるような酷く朧げな思考で考えた。

 

 この救いの在り方は決して正しいものじゃない。けれど正解なんてものは存在しない。

 

 悲しまない方法を誰か教えてくれるなら、この世はこんなにも残酷じゃなかったはず。もっと美しくて、輝いていた筈なのに。

 

 

 私は、また取り残されて……────

 

 

 

 *◇*

 

 

 今日もまた一段と寒い。

 もう一度言おう、めちゃんこ寒い。

 そんな当たり前なことを思いつつ、温かい湯気が立ち込めているお茶を煽る。

 どんよりと曇った空から雪がはらりはらりと降り始めた。……やっぱり今日も冬は続くのね。イヤになっちゃうわ。

 

 まあ、別に冬という季節が他の3つに比べて嫌いだというわけではない。

 冬にも冬なりの風情があるし、なにより冬のお風呂とお布団は最高よ。寒さもまた観点を変えれば辛いだけのものではないわ。

 橙は冬が大嫌いみたいだけど、冬にはそれ相応の楽しみ方があるというものだ。

 

 ただね、今回はダメだと思うのよ私。

 だって……今4月だから!4月って言ったら桜吹雪の舞う季節よ!? つまり春よ! 花見と称したどんちゃん騒ぎの宴会をしてる頃よ!

 いい加減寒い! 毎日雪を見てたら風情もクソもなくなったわ! しかもこの雪……なんか桜の花びらみたいな形をしてるし。

 

 こんなに冬が続けば気温はどんどん下がっていく。今私は下に4枚服を着てるけどそれでも寒い! 炬燵から出れない!

 

 十中八九、これは何者かの手によって起こされた異変だろう。ホント……ふざけんなって話だ。

 しかもそれに伴って、萃香が毎日のように家に押しかけてきて「宴会はまだかー!」なんて言って暴れまわるのよ! なんか異変を起こすとか言って脅されたこともあったし! このままじゃ二次被害が起こりかねないわ!

 オマケに何故か霊夢は全く動こうとしない。

 いくら急かしても「今は機じゃない」の一点張りで、布団に潜り込んでばかりいる。せっかく夏の頃の出来事を許してもらったばかりなのに……。

 

 現在は魔理沙にこの異変の原因究明、及び黒幕の調査を(ぼったくり価格で)依頼しているが、依然手がかりはなし。

 今日からは藍も調査に参加する予定だが、恐らく容易には判明しないだろう。このままじゃ春どころか一年通して冬が続くのかもしれないわ。

 

 流石にそれはマズイので実はレミリアにそれとなく相談しに行ったことがあるのよ。あいつ運命を見ることができるらしいからさ。まあ……なけなしの勇気を振り絞ったわけ。

 で、あいつからの返答は「貴女が望むようにやればいい」だった。これには流石の私もポカーンとするしかなかったわね。うん。

 

 まあ、私からできることなんて何もないし? 大人しく炬燵で丸くなって解決を待つしかないのよ。誠に不服だけどね!いやホント!

 というわけで、みんな大変だろうけど異変解決頑張ってね! ゆかりちゃんは炬燵で蜜柑でも食べながら待ってるから! 応援してるわよ!

 

 

 

 ────────────

 

 

 今日も今日とておかしな雪が降っている。あな懐かしきや春のあけぼの。

 だけど私には関係ない!そんな案件など微塵にも気にすることなくビバ徹夜中!

 やっぱりポケ◯ンというのはいいものだわ。赤と緑をやり込んだ私にはカントー地方に行けるというギミックの付いた金、銀は存分に楽しめた。

 唯一の不満は通信交換ができないことだけ……。周りにポケモンをやってる友達がいない私には辛かったわ。おかげでゴーストのままで殿堂入りしてしまった。ゲンガー好きだったのに。

 

 それにしても外の世界は凄いわー。もうすぐ携帯ゲーム機も本格的なカラーになろうとしてるし、技術というのはまさに日進月歩だ。

 それにこの前発売されてた『◯まごっち』っていうのも面白そうなのよねぇ。クリスマスあたりに橙やフランやこいしちゃんにでも買ってあげようかしら。

 

「ふあわぁぁ……」

 

 ちょっと夜更かしし過ぎたわね。一晩で攻略するにはカントー地方は広すぎた。

 外はそろそろあけぼのを迎えようとしている。だが私は寝るわ!

 生活習慣がぐちゃぐちゃな気がするけど、まあいいわよね? 私は典型的な夜型の妖怪なのよ! それに異変で幻想郷が膠着中である現在はなにもすることがなくて、ホント暇で暇で参っちゃうわ。

 例の連中どもも寒い中ではあんまり騒ぎたくないみたいだし、嬉しい悲鳴だ。

 

 さてと、それじゃ布団を敷きましょうかね。

 うんしょ、うんしょ……

 

 

「紫様、ただいま戻りました……って、なにをやってるんですか!?」

 

 藍が寝室に入ってくるなり叫んだ。これはいつものお説教パターンかしら。

 

「ああ、今から寝ようと思って……」

「またご自分で動かれたのですか!毎度言ってますが、紫様は怠けてください! 我々の仕事がないではございませんか!」

 

 いや、そう言われてもねぇ……。

 だって格上に自分の身の回りのことをやらせるってどうにも落ち着かないのよ。幻想郷のこともほとんど藍に丸投げ状態なのに、家事まで任してちゃ良心の呵責以前の問題だ。

 

「もう敷き終わっちゃったし別にいいのよ。それに藍にはいっぱい頑張ってもらってるんだから、このくらいはやらせてちょうだい?」

「ゆ、紫様……! そんなことを言われては、私は……私はぁ……!」

 

 藍は顔を俯かせると肩を震わせ始めた。

 ちょ、ちょっと待って。なんで泣くの!?

 だって藍が一生懸命働いてる間、◯ケモンしてたのよ私!? なんで布団を敷いただけでこんな……えぇ……。

 

 

 

 取り敢えず藍を宥め、彼女が用意してくれた朝食を摂る為に居間へと向かう。就寝はご飯を食べた後にしましょう。うん。

 いつも通りのメニューではあるが、やっぱり美味しい藍の手料理を口に運んでゆく。

 だけど先ほどのこともあってどうにも落ち着かないわ。……あ、味噌汁美味しい。

 

「では紫様、そろそろ昨日の調査結果を報告しようと思うのですが、その……」

「ズズズ……どうしたの?」

 

 若干の違和感を感じた私は味噌汁を飲みつつ藍に問いかけた。

 藍の表情に僅かな迷いが見える……ような気がする。あくまで私の視点だから実際はどうか分からないけどね。

 藍は少し考え、一息つくとゆっくり話し始めた。

 

「どうやら幻想郷で春を集めている者がいるようです。その用途、及び目的は不明ですがこの異変に一枚噛んでいるものと思われます」

「ふーん……春をねぇ」

 

 適当に相槌をうったけどまるで意味が分からない。

 春ってそんな物理的に回収できるものだったっけ?まずそもそもだけど、春っていうのは四季における一つの区分であって、明確に存在しているものじゃない。

 全くもってリアクションに困る報告だわ。

 取り敢えず適当に返答しておきましょうか。不快に思われない無難な程度に。

 

「それで、その”春”を集めている連中に目星はついているんでしょう? 貴方のことだから個人の特定まで終わってると思うけど」

「それは……勿論なのですが……」

 

 生粋の仕事人である藍のことだ、すでにその段階まで調査を完了させていることには薄々と感づいていたわ。信頼と安心の実績ね。

 なんだかんだで私が藍に絶対の信頼を置いているのはそういうところからなのよ。だからこそ変に彼女の前でボロを見せるわけにはいかないのだ。

 

 で、肝心のその人物なんだけども、なかなか藍が切り出してくれない。

 うーん……よっぽど私には教えたくない人物なのか、それとも口に出すのも恐ろしい人物なのか。……なんか怖くなってきた。

 どうせ私に名前を教えてもどうにかなるわけじゃないし、言いたくないなら別にいいよ的なことを藍に言おうとしたのだが、それよりも少し早く彼女が口を開いた。

 

「……その、魔理沙との情報を照らし合わせた結果、春を集めているのが……妖夢みたいなのです。私もすぐに汎用式で監視してみましたが情報に偽りはなく……確かに妖夢が不穏な行動を」

「へぇ、妖夢が?」

 

 妖夢は幽々子の忠実な部下だ。わざわざ冥界の外までやってきて独断行動に走るのはまずありえない。つまり幽々子の差し金ってわけね。

 あのド天然腹黒幽霊のやることを真剣に考えてはこっちの負け、ぶっちゃけ徒労に終わるのが目に見えてるわ。

 まあ、ハチャメチャ具合で言ったらレミリアとかさとりとか幽香に比べればあの子は多少なりマシなんだけどね。あくまでマシってレベルだけど。

 

 

 あれ、春を集める?

 無くなっちゃった春を一箇所に……?

 

 ……あっ、ちょっと待って。なんとなくだけど少しずつ状況が読めてきたわよ!

 

「フフ……そう、それはいいことを聞いたわ」

「……えっと、紫様?」

 

 ”春”を集めるというワードが未だによく分からないけど、ニュアンス的には春という季節を形成する上で必要な素材のようなもの……それが藍の言う”春”っていう感じがするわ。多分、きっと。

 そしてその”春”を妖夢が回収している。ここまでくれば妖精でも分かるわよね?

 

 そう! 妖夢と幽々子は散り散りになった”春”を一箇所に集めて、春を取り戻そうとしてくれてるのよ! 多分! きっと!

 あの子たちったらホント桜が好きだからねぇ、こっちのいつまでも膠着しているこの状況を見かねて異変解決を手伝ってくれてるんだろう。なんだかんだで世話好きな一面もあるし。

 しかもあの子たちの戦闘力なら、たとえ誰が異変の黒幕でもあっという間に鎮圧できる。妖夢は勿論だし、幽々子の能力は最強よ!

 

 花見桜に貴賎なし! 万人が楽しめる桜を例年通りに咲かせてあげたいという見事な心意気! あっぱれな慈善活動ね幽々子、妖夢!

 

「妖夢には感謝しないといけないわね。勿論、幽々子にも。あの子たちは本当によくやってくれてるわ。そうは思わないかしら?藍」

「……へ?」

 

 藍は素っ頓狂な声を上げた。

 ちょっと何よそのとんでもないバカを見るような戸惑いの目は!

 ていうかなんで藍はさっさと妖夢の名前を出さなかったんだろう?別に言って困ることなんて何もないはずなのにね。

 あっ、もしかして人知れず行っているボランティア的なものだから言っていいものかどうか迷ってたのかしら。

 それに幽々子はお茶目さんだからサプライズとして驚かせてくれようとしてるのかもしれないし! 持つべきものはなんとやらとはこのことね!

 

 フフフ……幽々子と妖夢が協力してくれるなら、霊夢のやる気スイッチの点灯を待つ必要もないわ! いい加減寒さも鬱陶しくなってきたし、この異変をさっさと終わらしちゃいましょう! いつ萃香が暴走するか分からないしね!

 取り敢えず幽々子と話さないと。そして協力体制を作り上げて一気に異変を終結させる! 仲間になると心強い友人だわ!

 

 そうと決まれば早速行動開始よ!

 

「少しだけ出かけてくるわ。……貴女はどうする? 休んでてもいいのだけれど」

「わ、(わたくし)は勿論、紫様のお側に!」

 

 藍は慌てた様子で外出の準備を始めた。徹夜で働いてくれてたのにホント悪いわぁ……。何か労ってあげたいものだけど……。

 

 行く直前に藍が一つの方向を見つめていたので何事か聞いてみると、なんでも烏がこちらを見ていたらしい。気配察知が化け物級ね。

 

 

 

 ────────

 

 

 

 白玉楼に向かう前に博麗神社へとやって来た。一応霊夢の様子を確認しとかなきゃね。

 妖夢を手伝うにしても、今更になって霊夢のやる気スイッチが点灯してたらこっちの身が危ない。おちおち外出もできないわ。

 異変解決中の赤い通り魔と化した霊夢に言葉は通じないからね。うん。

 

「霊夢、いるかしら? それともまだ寝てるの?」

「……なによ」

 

 障子越しに声をかけると、かなり不機嫌そうな声が返ってきた。まだ寝てたみたいね。

 パンッ! と、勢いよく障子が開け放たれる。霊夢は寝装束の上からちゃんちゃんこを羽織って、ガタガタと震えていた。

 

「ごめんなさいねこんな朝早くから。少しだけお話をいいかしら?」

「……ならさっさと上がってちょうだい。お茶くらいは淹れてあげるから」

「いやいや、そんなに時間はとらせないわよ? このままで結構ですわ」

 

 余談だけど博麗神社のお茶は……ぶっちゃけ不味い。淹れる側の問題というより茶葉の問題ね。つまり頗る古いのよ。もう烏龍茶が作れちゃうぐらいに。

 私は麦茶と紅茶しか飲めないの。ギリギリでジャスミン茶ってかんじ。

 

「あっそ。なら早くしてくれない?隙間風が入り込んできて寒いんだけど」

 

 霊夢は本当に寒さに弱いのね。まあ私もいい加減寒いし、さっさと話を終わらそう。

 

「なら単刀直入に言うわ。……貴女、もうこの異変からは手を引きなさい」

「……はぁ? なに言ってんのあんた」

 

 霊夢は先程までののほほんとした雰囲気を霧散させ、剣呑な眼差しを私へと向ける。

 藍がそれに応じて瞬時に妖力を練り上げてゆくが、慌てて手で制す。私たちは霊夢と争いに来たわけじゃないのよ。

 

「別に貴女が力不足だから……なんてことを言っているわけではないわ。何時でも私からの貴女への評価は最高よ。ただ今回は────」

「……巫女としてのしきたりや仕事ならいくらでもいいなりになってあげるわ。だけど、博麗の巫女としての決定は、あんたにも口出しはさせない。そこんところよーく分かってよね」

 

 霊夢のまぎれもない確固たる意志。その決意はひしひしとこちらにまで伝わってきた。

 その姿に目頭がどんどん熱くなってゆく。あんなに小さくて私の後ろを付いてくることしかできなかったあの子が、こんなに立派に……!

 成長したのね霊夢……私は嬉しいわ!

 

「霊夢、その言葉を聞けて満足よ。貴女はしっかりと巫女としての務めを果たせているのね。……貴女が博麗の巫女で良かった」

「……今更ね。まあ、そういうわけだから。そのうちこの異変も解決するわよ。だからあんたはおとなしく冬眠でもして待ってなさい」

 

 うーん、こりゃ霊夢を説得するのは無理っぽいわね。

 だからと言って幽々子の懇意を無下にするわけにもいかないし、これは秘密裏に解決しちゃうしかなさそうだ。それなりにリスクも大きいけど。

 

「気をつけなさい霊夢。この異変のために動いているのは貴女や魔理沙だけではないわ。そのことをしっかりと把握しておかないと……この異変、そう簡単には終わらないわよ?」

 

 それとなく協力者がいるようなことを仄めかしておくわ。

 万が一、春回収中に霊夢に見つかっても、この言葉が脳裏をよぎってくれれば見逃してくれるかもしれない。

 まあ、霊夢がなにも分からないうちに異変を解決しちゃうのがベスト────

 

『────紫様、近くを妖夢が彷徨(うろつ)いています。恐らく博麗神社の春を回収しているものと見えますが……』

 

 おっと、藍から念話が入った。

 妖夢が近くにいるのは都合がいいわね。すぐに会いに行きましょうか。

 

「それじゃあね霊夢。風邪をひかないように気をつけるのよ」

 

 霊夢に別れを告げた後、手を振りながらスキマを開いて中に潜る。

 

 

 

 すでに藍が中継して繋げていてくれたようで、開いた先にはこちらに背を向けせっせと何かを回収している小間使いの姿があった。

 

 彼女が動くたびにその銀色の髪ははらりと舞い、雪に反射する日光を受けて星屑のような輝きを振りまいていた。

 実に見惚れるような綺麗な姿だけど、周囲を浮遊している半霊のなんとも言えない間抜けさに気分を削がれた。

 そう、それが妖夢なのよ!

 

「ふふふ……あともうひと息……」

「はぁい、通りすがりの庭師さん。随分と元気そうじゃない?半分ばかり」

「ッ!?」

 

 妖夢は振り返ると同時に目を見開いた。

 いつの間にか右手は刀の柄に当てられている。つまり私がもし彼女の敵だったらすでに縦横に4等分されていたというわけだ。

 ……今更驚かないわよ。

 

「紫様っ!? 冬眠中ではなかったのですか!?」

「あら、失礼な言い方ね……熊じゃあるまいし。どうも今年は冬が長いようで寝飽きたところなのよ」

 

 正確には冬眠じゃなくて冬篭りね。寒い中わざわざ外に出るような真似は避けているだけよ。いやホント、熊じゃないんだからさぁ。

 

 と、少しして藍がスキマを開いて現れた。

 すると妖夢はなにやら慌てた様子で視線を右往左往させる。なんか動揺してるわね。

 

「こ、これはこれは奇遇なことですね……お久しぶりでございます。紫様に、藍さんまで。どうして御二方がこんなところへ……?」

「それはこっちの台詞よ、妖夢。なんで貴女がこんな幻想郷の端っこにいるのかしら? この時間帯は貴女も色々と忙しいでしょう?」

 

 妖夢の目的は知ってるけど敢えて意地悪をしてみた。すると彼女は目に見えて動揺する。その様子がとても面白いの。

 うふふ、妖夢は私がいじくれる数少ない存在なのよ。優しいし、ちゃんと敬ってくれるし! ちょっと情緒不安定なところはあるけど。

 まあ、いじくるにしても流石に怒らせないように配慮はするけどね。あくまで妖夢は格上だから。それにあまりにもいじくり回してると幽々子に怒られる。

 

「い、いやぁ最近は日課で朝の散歩を始めたんですよ! どうにも刀を振るだけじゃ体が鈍っちゃって! で、今日は幻想郷まで足を延ばしてみようと思った次第でして……別に怪しいことなんてしてませんよ? ホントですよ?」

 

 ……やっぱり面白いわこの子。これでこそ、からかいがいがあるというものよ。もはや一種の天然かしら?

 けど流石は妖夢ね。あくまで春集めは影の仕事、ボランティアであって、周りに知らしめようとはしない謙虚な姿勢を、若干ブレながらも貫いている。

 

「へえ、そうなの。こんな桜吹雪舞う中ご苦労様ね。ところで────春を集めている者が幻想郷にいるらしいのよ。最近幻想郷まで足を延ばしている貴女なら、何か心当たりがあるんじゃなくて?」

「……っ」

 

 妖夢はたじろいだ。

 ハハハ、可愛い奴め!まさに図星って顔をしてるわ。この子に嘘は合わないのね。

 さてと、妖夢いじりはこんぐらいにして本題に入らないと────

 

「……紫様、後ろへ」

 

 突拍子もなく藍が私の前へ進み出た。

 それと同時に妖夢の視線が鋭くなり、殺気と闘志が滲み出る。そして刀の柄を掴み、自然体で構えた。いつでも斬れるという意思表示だ。

 突然現れた巨大なエネルギーの熱量によって、周りの雪が溶けている。

 

 も、もしかして怒らしちゃった? いつもの妖夢ならこんぐらい許してくれるのに……。

 

「……貴女は幽々子様の大事な友人様です。私にとっても、尊敬すべき方であると言えます。……しかし幽々子様に仇なすならば……私は、貴女を斬らざるを得ない!」

「そうはさせない。もし紫様に危害を加えるのならば、いくらお前といえども決して容赦はできない。もう一度考え直せ」

「……あんな幽々子様の顔は、初めて見たんです。絶対に桜を咲かせなきゃならない、なんとしてでもあのお方の望みを叶えてあげたい!」

 

 え、なに? なんなのこの状況?

 なんで一触即発みたいなことになってるの!? もっとほのぼのしてもいいでしょ!?

 

 えーと……多分妖夢は何か勘違いをしてるのね。だって私たちが貴女たちのボランティアを邪魔するわけないじゃない!

 取り敢えず二人を仲裁しないと!

 

「落ち着きなさい。私は争いに来たんじゃない────幽々子へ協力しに来たのよ」

 

 私の言葉とともに二人はピタリと動きを止め、同時にこちらへと振り返る。二人の表情は驚愕に彩られていた。

 

「……え、えぇっ!?」

「ちょっ」

 

 よし、嫌な雰囲気が収まったわ。私って仲裁の才能があるのかもしれないわね。

 なんにせよこれで本題を切り出すことができる。しっかりと要件を伝えないと。

 

「私は貴女たちの活動を手伝いに来たの。あぁ、取り敢えず……幽々子に会うわ。色々と話したいことがあるのよ」

「そ、それは大歓迎です! 元々人手不足で困ってましたし、紫様が力を貸してくれるのならば百人力だ! ……あ、えっと……信じてもいいんですよね? いきなり攻撃とかしてきませんか?」

「……八雲紫の名に誓うわ。私と幽々子は永劫の友人、裏切りは私自身が許さない」

 

 妖夢を安心させるように多少大袈裟に答える。

 まず攻撃しても返り討ちにあうのがオチだしね。ていうかなんで妖夢はこんなに怖がってるのかしら。藍も様子が変だし。

 

 まあ取り敢えず幽々子と話さないことにはなにも始まらないわ。さっさと白玉楼に向かいましょう。スキマを開けば一瞬よ。

 

「今から幽々子のところに行くけど、貴女も来る? 飛んで帰るよりかは速いわよ?」

「あ……お願いします」

 

 妖夢はおずおずと頭を下げた。

 

 

 

 ────────────

 

 

 

 スキマを開いた先は花の嵐だった。

 気温もぽかぽか暖かくて、さっきまでの寒さが幻だったと勘違いしそうになるくらいの見事な春。舞い散る桜が眼前を埋め尽くし、これでもかというほど春を彩っている。

 白玉楼の桜は今まで何度も見てきたけど、ここまで咲き誇ったことは一度もなかった筈だ。記憶のものを遥かに超える。

 なるほど、これが集めた春の力ってわけね! 季節の力は偉大だわ!

 

「幽々子様はあちらの方にいらっしゃいます。ご足労ですが、何卒」

「構わないわ。行きましょう、藍」

「……はい」

 

 桜の絨毯を踏みながら妖夢が指し示した方向へと歩みを進める。ちらりと、桜を見物するフリをしながら二人の顔を覗き込んでみた。

 妖夢からは緊張したようなぎこちなさを感じるものの、頬が高揚して興奮しているように見える。なんでかしらね。

 藍は先程からずっと無表情。何かを深く考えているようにも見える。また難しい数式でも考えているのかしら?こんなときくらい息抜きしてもいいんじゃない? 煮詰めすぎると体を壊すわよ?

 

「……幽々子様。紫様をお連れしました」

 

 襖の先へと妖夢が声をかけた。しかし返答はない、ただのしかばねのようだ。

 妖夢は首を傾げて襖を開く。

 そこには机にもたれかかって、眠りにつく幽々子の姿があった。

 

「幽々子様、ゆーゆーこーさーま! 起きてください! お客様ですよ!」

「う、んん……あと5分……」

「幽々子様、幻想郷の茶屋で買った極上の羊羹があるのですが……」

「妖夢、お茶をお願いするわ。貴女の分も淹れて四人分よ」

 

 微睡んでいた幽々子だったけど、妖夢が懐から羊羹を取り出すと同時にハイスピードで起き上がった。流石ね、幽々子。

 幽々子は妖夢にお茶の準備を指示し、ニコニコ上機嫌な様子でこちらに向き直る。穏和な表情が春の陽光に照らされて、実に映えていた。

 

「おはよう幽々子。睡眠中にゴメンなさいね」

「あらいいのよ、私と紫の仲じゃない。ていうか随分と久しぶりねえ、藍ちゃんも。橙ちゃんは元気にしてる?」

「手にあまる元気っぷりですよ」

 

 んーいい感じの雰囲気ね。幽々子は上機嫌だし、藍は橙の話を出されてにやけてるし。このままの状態で話を終えたいと切に願うわ。

 

「まあ、世間話はこれくらいにして……この春について話し合いましょう」

「……そうね。やっぱりその件よね」

 

 せっかくのいい雰囲気が凍りついた。仕事モードの幽々子さんマジぱねぇですわ。

 藍も対抗して変な重圧を出さなくていいから! 大人しく! 大人しくしてでちょうだい!

 

「なにやら面白いことをやってるみたいじゃない。私も居ても立っても居られなくなって、思わず来ちゃったわ」

「あら、これはほんの前座に過ぎないわよ? もっともっと面白くなっていくのはこれから。……そうじゃなくて?」

「ふふふ……違いないわね」

 

 ボランティアを楽しいと言ってのける幽々子様! そこに痺れるッ憧れるゥッ!

 私の中での幽々子株がうなぎのぼりだ。凛々しく美しくもあって尚且つカッコいい! さらには崇高な共助の意志まで兼ね備えている! 貴女と親友で心底よかったわ私!

 

「それで、貴女はどうするの? この異変の終結にはまだ準備が必要よ。それまで貴女が大人しくしてるとは、到底思えない。だからこそこうして私の元までやってきたんでしょう?」

 

 物分りが良くて助かるわ。そう、私は貴女を手伝いに来たのよ! みんなで力を合わせて異変を解決しちゃいましょう! もしも黒幕がいた時はそのチート能力でテーレッテーしちゃってちょうだい!

 しかしそんな私の思いは届いていないのか、幽々子の視線はどんどん冷たくなってゆく。彼女の周りを危険な死霊が徘徊し始めていた。

 

「私が一番知りたいのは貴女の考え。いつも通り影の観客に徹するのか、それとも私が整えた晴れ舞台を思い切って台無しにしてみせるのか……。貴女の選択によってはそれなりの抵抗させてもらうわ」

 

 いや、後者の選択はないでしょ。台無しって……なんで私がそんなことをするのよ。

 あっ! もしかして幽々子に異変の黒幕じゃないかって疑われてたりするの私!? ヤバイヤバイ、すぐに誤解を解かないと!

 

「幽々子。私と貴女は親友よ」

「……ええそうね」

「どうして親友の決意を無駄にさせようか。寧ろここは手を貸す場面じゃなくて? ────貴女の春集め、私も手伝わせて貰うわ」

「……え」

 

 幽々子が凄い表現しずらい微妙な顔をしている。……もっと喜んでくれてもいいんじゃないの?

 なによその予想外の返答がきたって感じの反応は! 私ってそんな薄情な妖怪じゃないわよ! 親友の手伝いぐらいいくらでもやらせてもらいますよ!

 もしかして頼りないからなの?私スキマ使えるよ? どこにだって移動できるのよ? ……それだけしかできないけどね!

 

「どうしたの? 私は不要かしら?」

「そんなことないわ。とても嬉しい申し出よ。だけど、貴女は幻想郷の賢者でしょう? 私が言うのもなんだけど……大丈夫なの?」

 

 ああ、そんな重要な役職に就てるのにこんなことしててもいいのかってこと?

 確かに異変解決は賢者の仕事ではないわね。博麗の巫女が解決するのがベストであることは私も重々承知してるわ。

 けど霊夢がいつ動くのか分からないこの状況で、一番に行動を起こしてくれた幽々子にはそれ相応の敬意を示さなきゃならないでしょ?

 なのに私が胡座をかいて見守るって……色々とダメな気がするのよ。

 

「あら、勿論無償じゃないわ。ちゃんとメリットがあるから参加するのよ。……貴女との縁は万金に値する。異変如きでそれを覆すことはできないわ。その代わり、ちゃっちゃと終わらしましょうね?」

「紫……ありがとう」

 

 少しだけ顔を伏せた幽々子は、私の手をしっかりと握った。とっても柔らかいわ。

 

 しかし、これでまた私たちの仲は深まったというわけね。

 男は拳と心意気で友情を深めるという。ならば女は語り合いと行動で友情を深めるのよ!

 ああ、そうそう。幽々子の元に辿り着けたし、藍には帰って休んでもらいましょう。徹夜明けのボランティアは相当キツイだろうから。

 

「藍……貴女は帰っててもいいわよ? ここから先は賢者の仕事でもなんでもない、ただの私の思いつき。貴女を巻き込むつもりはないわ」

「いや、私は残りますよ。貴女様を守るのが私の使命ですからどこへだって付いていきます。勿論、橙だって一緒です」

 

 らぁん……!貴女って子は……!

 今まで心の中で酷いことを言ってごめんなさい。貴女たちは最高の家族よ!

 

 少しして妖夢がお茶を持ってきた。

 しかしお茶はなぜか冷めていて、どうにも生ぬるい。幽々子がそれとなくそのことを追求していたが妖夢は申し訳ございませんと謝るだけだった。

 よく見るとばっちり着こなしていた緑の服が若干乱れている。何をしてたんだろう?

 幽々子がお茶をすすりながら尋ねた。

 

「激しい運動でもしてたの?お茶を持ってくるのも遅かったし」

「いえ、大きな烏がこちらを盗み見ていたものですから、退治しに行ったのですが……逃げられてしまって……」

「烏くらい放っておきなさい。小骨が多くて食べれたものじゃないわ」

 

 ふーん、烏ねぇ。最近の幻想郷には烏が増えているのかしら?

 烏ですら生きられないほどに外の世界は荒廃したのか……賢者である私は憂うばかりである。

 あーお茶が美味しい。

 

 

 

 *◇*

 

 

 

 ────……いる。

 

 この時をどれだけ待ちわびたか。

 固まった想いにじんわりとしたものが流れ込んできた。

 これは興奮……いや、恋慕かしら?……もうこの際どうだっていい。

 

 

 さあ、こっちへいらっしゃい。

 

 私が元へ……────。

 




頭が回るバカ、発動

冬?そんなもの根性で掻き消せ!
……やっぱ無理です。冬を体感するたびにレティさんが大妖怪に思えて仕方がない。お願いしますレティさん、少しは手加減して……。

感想、評価をいただくたびに作者の頭が春になって作業が進みます。頭空っぽの方が夢詰め込めますからね!

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