幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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またせたな(迫真



メリーと紫の神隠し*

 値踏みする視線は霊夢と魔理沙を交互に行き来する。這うような寒気を二人は背筋に感じていた。

 そして白羽の矢は───

 

「うーん……よし。次は魔理沙ね」

 

 紫の軽い宣言とともに、魔理沙に立った。

 胸が跳ね上がり、若干呼吸が荒くなる。冷や汗が吹き出し目の前がグラつく。

 

「…私かぁ」

 

 魔理沙は口をひくつかせながら唸った。

 頭の中はヤケにクリアである。なぜならこれから自分が取るべき行動は単純に二つしかないからだ。

 

 〈戦う〉か。

 

 〈逃げる〉か。

 

 実にシンプルな二択である。

 

 正直、目の前の化け物相手ではその二つ全てが無謀であるような気がしてならない。

 幾多の妖怪を持ち前の圧倒的な魔力による絶対的な火力で退治してきた魔理沙であるが…久々に、自分は元々ただの人間であったことを思い出した。

 

 自分は隔絶された存在に対して、ことごとく無力であることを思い出したのだ。

 だが、彼女には意地がある。そして同時に、格上に対する恐怖を知っている。

 戦うことも嫌だし、背を向けることも嫌だった。

 

 

「魔理沙。アンタは逃げなさい」

 

 

 ──だから、霊夢のこの言葉だけには従いたくなかった。

 その言葉が逆に魔理沙の火を点けた。

 

 魔理沙の代わりに前へ進もうとした霊夢を押し退け、紫の眼前へと立つ。

 あくまで魔理沙は気丈だった。一呼吸おいて、いつものようにふてぶてしい笑みを浮かべる。この余裕淡々な姿こそが霧雨魔理沙だ。

 

「さて、始めるか。妖怪退治から殺し合いまで何でも来いだぜ」

 

「あら、どうせなら霊夢と同時でもいいのよ? 生憎、私は非力な人間を弄ぶような趣味は持ち合わせていないから」

 

「ハッ、勝手に人の評価を付けるんじゃない。私の魔法はそこんじょそこらの人間とは、一味違うぜ? 忘れたわけじゃあるまいに」

 

「奢りね。大海を知りながらもなお、井の中の蛙であり続ける貴女は相当に愚か。……魔法使いの成り損ないが使う魔法も、どこぞの悪霊が使う魔法も、私から見れば殆ど同じよ。まあ、貴女がそれを望むならば───」

 

 

 

「黙れ、恋符『マスタースパーク』 」

 

 それ以上の発言は許さなかった。

 魔理沙は流れるように八卦炉を構えると、紫へ何の躊躇いもなく極太レーザーを放った。仰々しい破壊音が摩天楼に響く。

 

 紫を飲み込んでもレーザーはなお拡大を続け、その規模と威力を増してゆく。

 それに伴って魔理沙の背中から魔力が吹き出し、左右に紅い月と青い星がペイントされた漆黒の翼が生え出る。魔理沙がフルパワーの魔力を放出する時のみ形成する、現段階での本気の姿だった。

 

 アスファルトを抉り、破壊する。あまりの熱度に黒い大地が赤に発光し始めた。

 

 こんだけ火力が出せるんなら西行妖の時に出せよと霊夢は思ったが、同時にその桁違いの威力も認めていた。

 これほどの超火力は霊夢では出せないだろう。

 

 破壊の音が摩天楼に響き渡る。

 前方のビル群が薙ぎ払われた。

 レーザーが発射途上で枝分かれし、見当違いの場所を攻撃していた。

 エネルギーが対象を破壊できず、勢いを活かすために周りへと飛び散っているのだ。

 

 その対象とは、もちろん八雲紫のことである。

 

「嘘、だろ……」

 

 レーザー越しに見える馬鹿馬鹿しい光景に、魔理沙は唖然として呟いた。

 

「愚かな魔法使いが行き着きやすい失敗ね」

 

 ただ一点。

 

「魔力はただ垂れ流せばいいってものじゃないでしょうに……滝の瀑布は大きな力を持つけれど、せいぜい水と岩を割る程度の些細な力。本来ならもっと大きな力を秘めているはずのにねぇ」

 

 指先の一点のみで、魔理沙渾身のマスタースパークは支えられていた。

 バチバチ、とスパークが魔力の残滓となってアスファルトへと降り注ぐ。紫はせいぜい眩しさに眼を細める程度だった。

 

「そんな……莫迦なことがあってたまるかよ! 私の火力が────」

 

「当然でしょう? 懐中電灯の光で火傷するような妖怪なんて存在しませんわ。まあ、冬場の寒い日にはちょうどいいかもしれないわね」

 

「ふ、巫山戯るなッ! 私の、私の力は……! どんな奴だって、絶対に……!」

 

 魔理沙の激昂とともに、感情に煽られたレーザーが一回りも二回りも太くなってゆく。

 それに乗じて威力も数倍に膨れ上がる。魔理沙の前方は閃光に覆い尽くされていた。

 

 だが、それでも紫が動じることはない。

 相も変わらず指一本でマスタースパークを抑え込む。小細工なし、正面からの力技。封殺、そして完封。

 霧雨魔理沙の心と矜持をへし折るには、十分すぎる絶望であった。

 

「止めろよ……こんな悪い夢を見せるのは! だって、私のマスタースパークはこんなもんじゃないんだぜ!? なのに……」

 

「ねえ、魔理沙」

 

 紫はレーザー越しに魔理沙を見やる。冷たい瞳と隙間這う瞳が魔理沙を射抜く。

 絶対零度の眼差し。それとともに感じるのは何かを求める熱視線。

 

 紫は軽く首を傾げた。

 

「貴女はなにを恐れているの? 何に囚われているの? 何を得るために、力を捨てているの? 貴女の自慢の師匠は、貴女に何を教えたの?」

 

「お前、何を言って……」

 

「そう、怖いのね。自分を捨てることを無意識のうちに貴女は恐れているのよ。

 霊夢を信じきれない。そして、**を信じきれない。その自己不信が貴女の枷になっている。実に勿体無い。実に……愛おしい」

 

 ジリジリ……と何かが焦げる音がした。音は徐々に大きくなり、マスタースパークの発射音をかき消してゆく。

 音の正体は魔力の消滅音だった。紫の指先に充実される魔力の密度の前に、マスタースパークの魔力が霧散しているのだ。

 

「魔理沙ッ逃げ」

 

「だーめ。逃がさない」

 

 霊夢の叫びが呑まれた。

 渾身のマスタースパークは消滅し、代わりに紫の指先から放たれた妖力波が容赦なしに魔理沙を吹き飛ばした。

 魔理沙は被弾直前に翼で自分を覆い防御形態へと移行していたが、それすらも関係ないと言わんばかりに妖力波は翼を焼き尽くす。勢いそのまま、魔理沙ごとビルを貫通し果てへと消えてゆく。

 

 

 

 再びあたりに不気味な空気が流れ、ビルの倒壊音があたりに響き渡る。

 沈みゆく滅びを背景に紫は愉快に笑う。最後の一人である霊夢を圧迫する。

 

「魔理沙に足りないもの……それは覚悟。捨てる勇気を持たぬものが一体なにを得られようか? 彼女は人間として愚直過ぎたのよ。羽を生やしたくらいじゃ、私には到底敵いませんわ」

 

「……」

 

 霊夢は無言でお祓い棒を構える。周囲に陰陽玉を浮かせ、さらに指の間に風魔針を装備。極め付けに空を覆うほどのお札を投擲した。

 目の前の相手を完膚なきまでに滅する場合のみ解禁する霊夢の『夢想天生』状態に次ぐ本気の構え。溢れる霊力にアスファルトが内側からめくれてゆく。

 

「さて、最後は貴女だけども……まあ、魔理沙と咲夜に比べれば良くできてるわ。あの子たちはどうしようもなく未熟だったけど、貴女はしっかり色々な点を把握できている。私の教育の賜物かしら?」

 

「アンタの……じゃないわよね?」

 

「もちろん♡」

 

 くすくすと笑いをこぼした。

 霊夢の記憶にある紫の笑みと全く同じ。だが、その裏にある想いは全く別物だった。

 

「その顔で笑うな。アンタがどんな存在であったとしても、私はアンタを八雲紫とは認めない。……アンタは決して八雲紫にはなれない」

 

「それで結構。その代わり、貴女の八雲紫は決して(八雲紫)にはなれないのだから」

 

「それこそ結構!」

 

 霊夢の能動思念によって陰陽玉から霊力波が放出される。どんな妖怪でも一度の致命傷は逃れられない強大な力。しかし、紫に対してはドレスを靡かせる程度にしか効果はなかった。

 顔を顰め、風魔針を投擲。同時にお札を紫へと殺到させ更に自らがお祓い棒で殴りかかる。

 

 全てが無意味。

 風魔針も、博麗の札も、刺さりもせず張り付きもせず紫の体を這うスキマへと消える。お祓い棒の一撃は紫の扇子によって楽々抑え込まれていた。

 霊夢はつばぜり合いに持ち込むが紫は眉ひとつ動かそうとしない。紫の瞳で霊夢の顔をまじまじと見るだけであった。

 その目が、霊夢をさらに追い込んでゆく。

 

「その目で、私を見るな!」

 

「いやあね〜。私に目を瞑って戦えと? むしろ良く見るべきは貴女の方よ、霊夢」

 

 妖力によって霊夢に圧迫がかけられる。

 何かされたわけではないが、身にかかった莫大な重圧は霊夢に反射的な後退という行動を引き出させた。額から滲む汗を軽く拭う。

 

「確かに、貴女は他二人と比べてよく自分のことを理解できている。だけど、そんなものじゃ私は全然納得できないわ。よーく考えればさらに成長できる糧がそこらじゅうに転がっているのに!」

 

「余計な御世話! アンタなんかにつべこべ言われなくても人間は勝手に成長するわ。妖怪がお節介してんじゃないわよ!」

 

 ああダメだ、と紫は嘆きながら額を抑える。

 どこまでも不気味で胡散臭い。だが、泣いたり笑ったり、悲しんだり怒ったり……紫はとても感情的であった。そして、どこまでも感情を感じなかった。

 

「違う、違うのよ。なんでその陰陽玉がそれだけの力を込めていると思う? 貴女の得意技の『夢想封印』だって、なぜ”封印”なのか分かってる? いいや、貴女は気にも留めていない」

 

 紫は饒舌に語る。

 

「自分のことを理解してるのはいいけど、貴女は外部に対して無関心すぎる。それが貴女の足りないものよ。あっちの私にお熱なのはいいけど、もっと周りを見てみなさい? 霊夢が必要とすべきモノがたくさんあるから」

 

「だから、余計なお節介だって言ってんでしょうが! 霊符『夢想封印』!!」

 

 色様々なホーミング大玉弾幕が紫に殺到する。

 霊夢の霊力のみで構成された超過密霊弾。局地的純粋な威力で言えば魔理沙のマスタースパークを上回るだろう破壊力だった。

 

 それでも紫には通じない。

 何気ない扇子の一扇ぎで特大の霊弾は木の葉のように押し返されてしまう。

 

「ほらね? こんなにも弱い」

 

 紫は嘲笑った。

 軽く一蹴されたことに霊夢は驚きつつも、『夢想封印』が通じないであろうことはハナから分かっている。これはむしろ布石だ。

 特大の霊弾なだけあって、弾幕の一つ一つが紫の視界を大きく遮っているだろう。その間に霊夢は新たなスペル、神霊『夢想封印 瞬』を発動した。

 光の如き速さで紫の胸元にまで接近。そして手に持った陰陽玉を紫へと叩きつける。

 

 だが、霊夢の一撃は空を切った。

 

 瞬間、背後に強い衝撃を受け霊夢はアスファルトを抉りながら転がることとなる。

 紫は霊夢の背後へと回り込んでいた。

 

 スペルも能力もない、ただ単純な力の暴力。

 大妖怪、八雲紫としての格。

 

「さあ見つめ直す時よ、霊夢。あまり私をがっかりさせないで?」

 

「化け物め……! こうなったら、『夢想天──』」

 

「それじゃ成長できないでしょ」

 

 絶対無敵の奥義、『夢想天生』は発動できなかった。ぬらりと接近した紫が体の中からピンクの傘を取り出し、スペルカードを打ち払ったのだ。

 数多の弾幕を回避してきた霊夢の反応速度を持ってしても、紫の動きを捉えることはできない。

 

「くッ…!」

 

「まあ、私が止めなくても発動するのは無理だと思うわよ。貴女は夢想天生を使い過ぎた。使い勝手がいいのは分かりますけど、頼りすぎ」

 

 もっとも、と付け加える。

 

「発動したところで私に通じるかどうかは甚だ疑問ね。全ての事象、境界から解き放たれたとしても、それはただ単に世界から自分を誤魔化しているだけ。私からは丸見えですわ」

 

 博麗の陰陽玉とお札も、魔の者を必ず貫くと謳われた風魔針も、伝家の宝刀『夢想封印』も、無敵の『夢想天生』も。

 魔理沙の火力も、咲夜の能力も、霊夢の才能も。

 紫は歯にも掛けない。

 全てが通用しない。

 

「貴女は歴代の博麗の巫女の誰よりも優れていると同時に恵まれているわ。時期も才能も、誰もが羨む境遇よ。だから、貴女には私が必要なの」

 

 紫はゆっくりと手を伸ばす。それとともに霊夢は頭に微量の違和感を感じた。

 ゆっくりと何かをこじ開けられているような、そんな感覚だ。

 

「やめ、なさい……!」

 

 お祓い棒で紫を叩くが、勿論ダメージは一切ない。それどころか力が抜けてするりとお祓い棒は手から落ち、膝をつく。

 目の焦点が合わない。

 

「あぁ…」

 

「こういうのは性に合わないのよねぇ。だけどこれが一番手っ取り早い。少しだけ貴女の細胞に眠る記憶を───」

 

 

 

「死ね」

 

 短くも、想い全てが集約された一言だった。

 ぽつりと呟かれた言葉とともに、紫の胸からナイフが飛び出し、さらに追い討ちとばかりに心臓部分が消し飛ぶ。

 ゆっくりと後ろを振り向いた紫はわずかに目を見開き、笑った。

 

「あらまあ、これはお早い───」

 

「死ね。時符『プライベートスクウェア』」

 

 咲夜によって射出された四本のナイフが紫を囲む空間の四隅へと突き刺さり、霊力を噴出するとそのまま長方形に空間を切り取った。

 紫の体は一瞬で消滅し、唯一突き出されていた左腕だけが切断され、その場にぼとりと落ちた。

 

 奇妙な工作から解放された霊夢が立ち上がり、いつの間にか帰ってきている咲夜をまじまじと観察する。一見どこかが変わったようには見えないが……。

 そんな霊夢の考えは咲夜の一言で砕かれた。

 

「霊夢、霊夢ぅぅ……」

 

「……は?」

 

「やっと会えたぁぁ…」

 

 咲夜は霊夢の手を取ると泣き崩れた。恥ずかしげもなくポロポロと涙を流しながら泣き噦る。

 

「温もり、温もりが……」

 

「ちょっ……これは……」

 

 霊夢が咲夜に抱いていた気丈で冷酷、そして、一定の友好ラインは決して越えてこないという、ある意味での堅物イメージとはまさに真逆の光景が目の前にあった。

 

 もっとも、霊夢は勘がいいので咲夜がなぜここまで豹変してしまったのかは大体見当がついた。簡単に言えば『全部紫が悪い』

 咲夜は一体、どれだけの時間をあの世界で一人過ごしてきたのだろうか。何を思い、何を糧に生きてきたのだろうか。

 

 こんな状態の咲夜をレミリアに合わせたらどんなことになるのか、想像すら憚られた。

 

「停止時間に閉じ込められてたんでしょ? どうやって脱出したの」

 

「もうあんまり思い出したくないけど、何万、何億通りの色々なことを試したの。能力の試行錯誤を繰り返して、それで……今日やっとあそこから出れたのよ」

 

「うわぁ……」

 

 流石の霊夢もドン引きした。

 縋り付く咲夜に深く同情する。普通人間がそんな状況に置かれれば、気が狂い自らの命を絶つ選択を必ず選ぶはずだ。

 決して脱出することを諦めず自分を高め続けた咲夜の精神は、賞賛すべき黄金色だろう。

 

 また、紫が望んだ結果でもある。

 千切れた左腕がひとりでに動き出し、横に空間を裂く。宙にシミのような黒い線が浮かび上がり紫に染まった妖力を吹き出す。

 やがて妖力は形付けられ、紫へと再生する。

 

 境目に隙間あり。

 体を丸ごと消滅させたところで紫を倒すには遥かに事足りない。

 

「おかえりなさい。どうやら貴女は次のステップに進めたみたいね」

 

「戯言はいい。殺すわ」

 

 視界に紫が入った途端、咲夜の目の色が変わり紫の体に数多の風穴が開けられる。全ての攻撃がスキマのない、生身の部分を正確に撃ち抜いていた。

 もっとも紫は痛くも痒くもないが。

 

「成長出来たようでなによりよ。殺意も真っ直ぐなものになっちゃって、良い意味で悪魔の従者に近づいたんじゃない?」

 

「黙れ、死ね」

 

「止めときなさい。むやみに攻撃してもあいつはただ笑うだけ……弄ばれてるのよ。はっきり言って付け入る方法がない」

 

 咲夜を止めたのはいいものの、紫のことを考えれば考えるほど思考がドツボに嵌ってゆく。

 押してダメなら引いてみろというが、そもそもドアノブにすら手を付けれていないような状態である。

 

「さて、そろそろもう一人も帰還する頃かしら。あの子の引き金(トリガー)は案外チープなものなんだけどねぇ」

 

 何くわぬ独り言を呟いた。

 瞬間、紫のことを足元のアスファルトが膨れ上がり爆発。豪炎と火柱が膨れ上がり紫を易々と飲み込んだ。

 魔力を紫の足元へと集約させ、無理矢理術式のタガを外すことによって魔法を意図的に暴走させたのだ。

 こんな乱暴な魔法を使う魔法使いなど彼女をおいて他にいない。

 

「さっきのお返しだぜクソ妖怪」

 

「効かないけどね」

 

 爆煙からぬっ、と紫が現れる。

 魔理沙は分かってたと言わんばかりに大きく鼻で笑うと一気に下降して霊夢達に合流する。

 

「なんだ……お前さんたち少し見ない間にやけにボロボロになったな。まるで使い古されたボロ雑巾みたいだぜ」

 

「アンタが一番ボロ雑巾みたいよ。ほらその羽なんて千切れかけてるじゃない」

 

「私は白黒だからいいんだ。紅白でボロ雑巾はいけないぜ。 ……それにこの羽は十分に役目を果たしてくれたさ。少しすればまた生やせるようになる。……悪いがそのナイフで羽を切ってくれないか?」

 

 魔理沙の頼みに頷いた咲夜は魔理沙の羽を切断する。切り離された羽は空気に霧散し、切り口から魔力がこぼれ落ちる。

 魔理沙は「軽くなった」と笑った。

 

 

 

 さて元の頭数に戻ったわけだが、何一つとして状況は好転してない。

 じわじわと紫に痛めつけられ体力と気力を削がれているだけだ。なんとかいっぱい喰わせてやりたいものだが……。

 

「無駄無駄。撃つ、斬る、衝く、放つ、殺す……何を取っても私には効きません」

 

 霊夢、魔理沙、咲夜の思考を読んだのか、紫がすかさず自分の弱点について言及する。もちろん、アンサーは「そんなものありはしない」だった。

 そしてさらなるダメ出し。

 

「それにお気づきかしら? 私はまだ能力を爪の先ほども使っていませんわ。その気になれば貴女たちを今にでもアスファルトの一部にすることもできるし、認識の境界を弄って私の操り人形にすることもできる。なんなら細胞の結合を解いて幽子レベルまで分解してあげてもいい。私に勝つなんて無理難題を課す必要はないわ。貴女たちは為すがまま素直にジッとしてればいいの」

 

 事実上の降伏勧告だった。

 だが闘志は消えない。

 

「巫女の名が廃る。妖怪一匹退治できないで博麗の巫女が務まるわけないでしょ」

 

「お前がこれ以上何もしないなら考えてやらんこともないぜ。もっとも、そんなはずはないってことぐらい私はよーく分かってる。それに私が今、どこまでやれるのか試してみたい」

 

「私怨的な恨みがあるのは言うまでもない……まさに数千年分のね。だけど、今はそれ以上に貴女の危険度が恐ろしくて懸念している。貴女みたいな意味の分からない不気味なスキマ妖怪をお嬢様方に近づけるわけにはいかない。よって殺すわ」

 

 闘志、ヤル気、殺気に当てられた紫はさらに大きな笑みを浮かべた。

 結局彼女たちの返答も紫の計算通りなのか。

 

「これだから人間はいい。久しく忘れていた何かを思い出させてくれる。ふふ……いつまでもこうして貴女たちとじゃれ合えたらいいのに」

 

 ──だけど

 

「時間がないのよね。所詮なけなしの妖力を注ぎ込まれただけの器だもの。ここまで保つのも凄いことなのよ?」

 

 言葉とともに紫の体が崩れ始める。世界も同様に終末を迎えようとラグが走りその形を失おうとしていた。

 

「時間制限アリか。それなら……」

 

「勝機はある?」

 

「さあね」

 

 大きなアドバンテージを得ることはできた。しかし、この状況変化は決して三人の有利には働かない。

 何故なら──……

 

「さて、それじゃ時間もないしちゃっちゃと終わらせちゃいましょうか。貴女たちの現状も、伸び代も把握することはできた。あとは完膚なきまでに私の力を味わってもらうだけですわ」

 

 八雲紫の受身が終わるからだ。

 為すがままに三人の攻撃を受け流し続けた紫だったが、ついに彼女の攻勢が始まる。

 

 不気味に揺らめくだけだった紫の妖力が空気を伝播し迸る。不可視の衝撃に三人は数メートル後退りした。

 

「勇んだはいいものの、参ったなこりゃ。どうすればあいつを……。我らが巫女様に何か名案はないか?」

 

「ないわ。───だけど勝ち筋がないわけじゃない。……時間さえあればね」

 

 はっきりとしない言い方。だが、魔理沙と咲夜は霊夢に揺るぎない自信を感じた。

 彼女の力は誰よりも二人が認めている。

 

 咲夜がちらりと魔理沙を見やる。魔理沙は若干渋い表情を作ったが、やがては諦めたように紫へと向き直った。

 

「最初からそう言えばいいのよ。私の世界を見破ったその巫山戯た観察眼でどうにかしてちょうだいね。ほら魔理沙、行きましょう」

 

「グググ……! しょうがないな、こんな役目は今日で最後だからな!」

 

 魔理沙と咲夜がとった行動は正面からの突貫。速さという面では幻想郷においてほぼ全ての追随を許さない二人による、スピード戦法だ。

 しかし、紫相手では下策と言わざるを得ない。

 

 咲夜は時を止めて紫を牽制しようとした。だが紫は当たり前のように咲夜の世界に侵入。固まる咲夜に妖しい笑顔で微笑み、指を横に切る。

 咲夜の胴体が切り離された。

 

「──ッ! 咲夜!?」

 

 時が動き出すと同時に魔理沙の目の前に紫が現れる。視界の隅では二分された咲夜が血を吹きながら崩れ落ちていた。

 魔理沙は慌てて箒を傾けトップスピードで旋回する。そして、紫を避けながら八卦炉の照準を合わせた。ほぼゼロ距離によるマスタースパークを放つ。

 

「どうだ!?」

 

「無駄よ」

 

 紫は平然とマスタースパークの中を歩き、八卦炉を掴んだ。互いの指が交錯する。

 

「貴女の枷はこれ(八卦炉)かしら?」

 

 ──ピキィ……

 

 幽かな音を立てて八卦炉にヒビが入る。そしてそれは徐々に広がってゆき、砕け散った。

 パラパラ、と八卦炉の破片が魔理沙に降りかかる。

 

「沈みなさい」

 

 魔理沙の胸元を掴み、アスファルトへ打ち付けた。衝撃のまま魔理沙は地面へと沈んでゆく。それとともに辺り一帯が陥没した。

 魔理沙と咲夜が突撃してからこの間、約3秒。

 

 

 紫は一仕事終えたように白手袋を脱ぎながら霊夢を見る。霊夢は道路に座り込み、目を閉じて神経を研ぎ澄ませていた。瞑想に近い。

 その姿が紫には滑稽に見えたらしい。

 

「何をやるのかと思えば……貴女の言う勝ち筋は蜘蛛の糸よりも細く長いものなのね。これじゃわざわざ時間稼ぎを買ってくれたあの二人が浮かばれ───「勘違いしないで欲しいな」

 

 アスファルトから光が溢れ出し…爆発。霊夢の居る場所を除く全てがことごとく消滅する。

 紫は相も変わらず無傷の状態を保ったまま、真下で手を広げている魔理沙を見下ろした。

 

「霊夢はあくまで保険だ。本命は私だぜ」

 

「やっぱり貴女って()()()()()()()()()()のね。ほら、拘りを捨てれば簡単に強くなれた」

 

「五月蝿い……たまたまだ。それよりも後ろに気をつけた方がいいぜ」

 

 咲夜は既に時空を渡っていた。

 ナイフで紫を頭から一刀両断する。だが紫から血が噴き出すことはなく、半身ずつがそれぞれ咲夜へと振り返った。

 

「「初めまして?」」

 

「ッ! 半分にされたんだから、大人しく死になさい! 傷魂『ソウルスカルプチュア』!!」

 

「よし、斬り刻んだらすぐに離れろよっ! ふぅ……コールドインフェルノッ! からの、『ワイドマスター』ッ!!」

 

 咲夜が紫を素粒子レベルまで斬り刻む。そして魔理沙が絶対零度の冷気を吹きかけ紫の再生を妨害しつつ、止めの前方広範囲を消滅させるマスタースパーク。

 

 これだけやれば───。

 

 

 

「お疲れ様」

 

 風が二人の間を通り抜けた。

 そして軽い着地音とともに二人は地面に仰向けで倒れる。受け身すら取れなかった。

 

「……!? ぐ、くく……」

 

「八雲、紫……!」

 

「【疲労と限界の境界】を操ったわ。これで貴女たちは指一本動かすことはできない」

 

 極限の疲労により二人の意識を奪う。

 これで魔理沙と咲夜は強制ゲームオーバー。

 残るは霊夢のみ。

 

 

 二人の敗北にも気づかず瞑想に更けていた霊夢だったが、紫の視線に気づくとゆっくり立ち上がる。目が何故かとろんとしている。

 霊夢の後ろからは陽炎のような紅い霊気がゆらゆらと立ち込めていた。白い巫女袖が赤く染まり、風に煽られはためく。

 

「……私の番?」

 

「ええ、彼女たちの奮闘空しくね。それで何か名案は浮かんだかしら? 私はあと2分は動けるわよ?」

 

「2分? アンタの寿命ってあまり残ってないのね。ならちゃっちゃと決めちゃいましょ」

 

「……そうね」

 

 強がっているのかと思えばそうではない。さっきまでの霊夢とは一味も二味も違う。

 姿形、霊力は先ほどとまったく一緒なのだが、身に纏う雰囲気と気迫が異質なものになっていた。

 

 流石、と言う他なかった。

 霊夢は一定の環境さえ整えれば短時間でここまでの成長が可能なのか。

 

 夢とは意識と無意識。

 霊夢は自分の内なる意識と向き合っていたのだ。そしてイドの泉を探求していた。

 

 そして紫は気付いていた。

 今の霊夢なら。

 

 

 

 

 

「倶利伽羅剣」

 

 今の自分に届き得ると。

 

 

 

 *◇*

 

 

 

 夢想封印。

 その存在は物心ついた時に知った。

 確か紫が倉庫から古い巻物を取り出してきて、覚えるように言われたんだったと思う。生まれながらに夢想天生が使えた私には朝飯前で、あっという間に覚えたわ。あの時の紫の顔は今でも覚えてる。

 

 陰陽玉は初めての異変解決の時に紫から渡された。確か……魔理沙とどこぞの悪霊が起こした異変だったかしら。

 妖怪を見つければ自動で攻撃してくれるからとっても便利なんだけど、時々いらない敵を呼び寄せるからプラマイゼロぐらいにしか思ってなかったわ。

 

 この二つはなんだかんだで思い入れが深い。だからほとんど日常の一部と化してしまっていてそのルーツなんてどうでもよかった。

 今になってよくよく考えてみると、いくつか不思議な点があったのよね。

 夢想封印はまるで意思を持っているかのように対象を追尾するし、陰陽玉は湧き水のように次から次に霊力が湧き出す。

 便利だなーってくらいにしか思ってなかってなかったけど、これって結構異常なことよね。いつも魔理沙が言ってたことも納得できる。

 

 そして今回、紫もどきが言った「これらの謎を知ろうとしないことが私に足りないモノ」という言葉が私の意識を深みへと向けた。

 今の状態の私なら何かが掴めそうな、そんな気がしたの。ただそれには時間が必要だった。よく考えることができるだけの時間が。

 

 魔理沙と咲夜が私に託してくれた短いようでとても長い時間。若干の不安はあったけど本気で集中してみたら案外いろんなことが分かったわ。

 

 陰陽玉は独立した意思を持っている。それも複数が個々に点在している。

 その意思は強烈なものから微弱なもの、善意を持っているものに悪意を持っているものと実に様々だ。中には懐かしいようなものまで紛れ込んでいる。

 

 陰陽玉、夢想封印……何かが掴めそうなのよね。

 

 取り敢えず時間が迫っているから内一つの意思に飛び込んだのよ。なるべく善良そうで強烈なのにね。

 その意思の中には強そうなのが居た。一応彼女? と意思疎通を図ってみた。うまくいかなかった。だけどこの場の協力をあっちからお申し出てくれたわ。

 どうも紫並みに胡散臭くて信用ならないが、まあ、強そうではあったからね。承諾した旨を言うと一気に意識を元の世界へ戻された。

 

 

 

 それで気がついたらお祓い棒が紫もどきを横に切り裂いていた。あっという間のことだったわ。

 それに至るまでの動作は私とは全くの別物。流れるような一閃からは卓越された技術が見て取れた。私が言うのもなんだけどね。

 

「……タイムアップか降参か。その二つしか貴女たちに打つ手はないと、そう思っていましたわ。はっきり言って、これは予想外」

 

 紫もどきはそう言うと体を消滅させてゆく。今の一撃が致命傷になったのか、再生しているようには見えないわ。自分の全霊力と()()を過密に練り込んだ一撃なら、紫もどきを倒せるかもって頭の中に急に浮かんできた。

 ……もしかして殺っちゃった? いや、この紫が死ぬのは良いんだけどいつもの紫まで死んじゃったらさすがに困るわ!

 

「死ぬの?」

 

「いいえ、あるべきところに帰るだけ。……ああ私の心配はしてないのね。心配しなくても彼女は無事よ。明日には目を覚ますでしょうね。……貴女たちの前からはしばらく姿を消すと思うけど」

 

「は? なんでよ。あいつがそんなことする理由なんてないじゃない」

 

「そんなことをしなきゃならない理由ができてしまうのよ。察してあげなさい。貴女たちが自分を見つめ直すことで成長できたように、彼女にもまたその時間が必要なのよ。彼女は貴女たちの理想で在れても理想に成ることはできないんだから」

 

 意味が分からない。何故こいつが知ったような口を利いているのかしら。

 そもそもこいつはなんなのよ? 紫の姿をしているだけで雰囲気と言動が似ても似つかない。二重人格? 双子の姉妹?

 

「双子の姉妹は新しいわねぇ。答えはノー」

 

「心を読むな」

 

「ふふ……私の正体を今知ったところで双方に利はない。悪いけど教えることはできないわ。その代わり、良いことを教えてあげる」

 

 紫もどきが手を翻すと、私の体を覆っていた霊力と妖力が空気に霧散する。多少の疲労感を感じたけど、今も地面に転がっている魔理沙と咲夜を見ればまだマシな方でしょうね。

 紫もどきはなおも消滅を続けながらも、ぽつぽつと語り始めた。

 

「博麗の陰陽玉は、博麗の巫女のためにとある高名な陰陽師と物好きな妖怪が作ったものよ。文字通り、力を合わせてね」

 

「人間と……妖怪が?」

 

「ええ。陰陽玉は妖怪を滅ぼし、妖怪を封ずる力を持つ。そして夢想封印は、封じられた妖怪たちの力を少しだけ拝借する技なのよ。つまり、今までの夢想封印は貴女の霊力のみで構成されていた空弾を撃っていたに過ぎない。知らなかったでしょ?」

 

 知らなかったというか何というか……知らなくても十分やっていけたしねぇ。

 取り敢えず他にも気になったことがあったから紫もどきに聞こうと思った、その時だった。

 

 紫もどきの右目が弾け飛んだ。

 

「うっ……ごめん、なさい。もうちょっとだけ答えてあげたかったけど、時間みたい」

 

 紫もどきは体の中のスキマを外に放出した。そして私を通り越して未だ地面に突っ伏している魔理沙と咲夜を飲み込んだ。

 紫もどきの崩壊が激しくなっている。姿が掻き消えつつあった。あんなにしぶとかったのに、消える時は儚げなのね……。

 

 なら最期にこれだけは聞いとかないと。

 

「アンタは結局何がしたかったの? 藍をぶっ飛ばしたり橙を泣かしたり、私達を変な空間に引きずり込んで戦わせたり……最後まで目的が分からなかったわ」

 

 紫もどきは苦悶の表情を見せながらスキマを展開する。そして私を包みながら、どこか寂しげに言った。

 

「ただのエゴよ。───ゴメンなさいね」

 

 

 紫もどきと周りの風景はすぐに見えなくなった。そして私たちは白玉楼に放り出された。

 

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 真っ暗。何処を見ても真っ暗。ああ、あれか。私とうとう死んじゃったのかな。

 あはは……まあ、変な低級妖怪を信じちゃった私がいけないのよね。うん、良い方向に考えよう、痛みを感じなくて良かったなって。

 しかし、あの世って、随分とまあ、真っ暗なのね。もっとこう明るいところ想像してたわ。轟々と炎が燃えていてね、説教&乳臭い閻魔から小言をネチネチ言われ続けるのよ。そんで次なる強敵に備えるために蛇の道を走らされるの! ヤバい地獄だわ!

 

 ん~…しかし、あの世って気持ち良いわね。特に私の頭の部分。なんていうか、柔らかいっていうか、ふかふかっていうか。

 あの世でも柔らかいって感覚あるんだ。しかも温かいまであるんだ。そりゃあの世で修業も出来るわよね。本当、世界は摩訶不思議だわ。

 でも、ここまで揃ってて世界が真っ暗だっていうのはちょっと……ああ、なんだ、もしかして私、ただ目を開けてないだけかしら。

 あ、何かそれっぽい。試しにゆっくりと瞳を開こうとすると眩しい光……まではいかないけど、ぼんやりと明るさが取り戻されてきて。

 

 

 ……汚い天井ね。

 そこら中にカビやシミができてしまってて、空気はどこか埃っぽい。

 何故か怠いので体を動かさず首だけを動かして状況を確認してみた。私は現在布団の中に居て、頭の柔らかいものは枕だった。周りには幻想郷ではまず見かけない、と言っても外の世界でもそうそう見かけないガラクタがたくさん積まれている。

 

 何時ぞやかの冷蔵庫、何時ぞやかの初期カラーテレビ、何時ぞやかの黒電話、何時ぞやかのオ○ロマルチビジョン、結構ハイテクな動く幼女の肖像画。

 最後の以外はまあ……昭和臭いライナップよねぇ? 動く肖像画はすごくぬるぬる動いてるけど。なんとも混沌とした空間である。

 

 

「気がついたかい?」

 

 ひゅいっ!? 男の声!?

 説明しましょう! 私こと八雲紫は実はあんまり男性と面と向かって話したことがないのよ! 男の賢者と話すときはいつも目を逸らして話してるし、なんか上がっちゃうのよね。ほらうちって女の子ばっかだし? あんまり外に出ないし? 普通に喋れたのは妖忌ぐらいかしらね。

 

 恐る恐る声がかかった方を見てみると、そこには眼鏡を掛けた銀髪の男が居た。

 風貌からして外の世界の住民ではないわね。そしてただの人間ってわけでもなさそう。まあ、あまり強そうじゃないから警戒はしなくてよさそうね。

 

「あ、貴方は……? それにここはどこなの?」

 

「名前から答えようか。僕の名前は森近霖之助。そしてここは香霖堂、魔法の森の手前にある僕の店だよ。巷で聞いたことないかい?」

 

「ないわね」

 

「……そうか」

 

 魔法の森……私なんでそんな所にいるの? だって白玉楼に居たのに……え?

 まさか藍に捨てられた!? そんな……確かに私って八雲家の穀潰しだからいつ捨てられるのかビクビクしてたけど、このタイミングで!?

 ま、まあ殺されるよりかは遥かにマシだけど! 命があるだけでもありがたく思わなきゃ!

 これから私は独りで強く生きていくのよ!……無理ですよねー。決意は2秒で崩れたわ。サバイバルなんてもう懲り懲りよちくしょう!

 

「ふむ……混乱しているようだね。補足しておくと君が倒れていたのは《無縁塚》だ。野晒しにしておくのもどうかと思って連れてきたんだが……迷惑だったかい?」

 

「む、無縁塚!? なんでそんな辺境に……いえ、まずはお礼を言うわ。わざわざごめんなさいね」

 

 お礼は大切。上半身を起こして頭を下げようと思ったんだけど……私は言葉を失った。

 

 服が紫色のドレスじゃない! 寝装束に変わってる! つまりこの男、私の服を脱がしたということである。……恥ずかしい。

 

 いや、それよりも……見るも無残な平原。お腹まで垂直落下。文字通りのぺったんこがそこにあった。……私の胸がなぁぁい!!?

 私の双丘が……私の数少ない自慢が!

 これ下手したら萃香……いや橙以下じゃない? う、うわぁ……。

 

 なんでこんなことになってしまったのかは分からないけど、怪しい奴なら一人いるわ。

 目の前の男、森近霖之助ェ!!

 

「何よこれ!? 私に何したの!?」

 

「……服かい? 君が来ていた紫色のぶかぶかなドレスは泥だらけだったからね、着替えてもらったよ。ああ、勿論だけど僕が着替えさせたんじゃなくて通りすがりの妖怪の子に頼んだんだ。恥ずかしがらなくても───」

 

「今そのことはどうでもいいのよ! なんなのこの何もない胸は!」

 

「……僕に何の意見を求めてるんだい? 胸も何も君は元々から───」

 

「嘘おっしゃい! 私のボンキュッボンはそれなりの定評があったんだから! 返せ! 私の胸を返してよぉぉぉ!!」

 

「……横を見てごらん」

 

 憤怒しつつ言われるがまま横を見た。そこにはさっきも言った動く幼女の肖像画があった。寝装束を着て、布団に入ってて、金髪で、薄紫の目で────あれ? もしかして鏡?

 

 ……私、若返ってる?

 

 

 

 

 

 

 

 よし、クールダウンクールダウン。取り乱して変な叫び声をあげちゃったけど心の整理はできたわ。開き直りとも言うけどね!

 まさか黒の組織が実在してたなんて……いや、スタンド攻撃の可能性もあるわ。こりゃFBIか財団の知り合いを早く作らなきゃ。ついでに発明家をバックアップに付けて……って逃避するんじゃない私! 戦わなきゃ、現実と!

 それにさっきスキマの中に閉じ籠って逃避しようと思ったけど当然のごとく能力は使えなくなってるし……。逃げ場はない。

 

「……落ち着いたかい? 見たところ君も妖怪みたいだし、精神的動揺はなるべく避けたほうがいい。何に動揺していたのかは知らないがね」

 

「お気遣いありがとう。君も……ってことは霖之助さんも妖怪なの? そうは見えないけど」

 

「僕は半妖だよ。まあ色々と複雑なんだ、あまり聞かないでくれると助かる。……そういえば聞きそびれていた。君の名前は?」

 

「名前? ……八雲───」

 

『紫』が出る直前だった。私の超優秀な頭脳が警鐘を鳴らしたので咄嗟に言葉をストップさせる。そして頭の中でシュミレーション。

 

八雲紫は賢者である

 ↓

敵がいっぱいいます

 ↓

藍が守ってくれてました

 ↓

捨てられました

 ↓

追い討ちのゆかりん無力な幼女化!

 

 あ、危なかった……このまま名乗っていたら死んでしまうところだったわ!

 

「八雲……?八雲といえばあの賢者……」

 

 違う違う! 私八雲じゃありまへんがな!

 なんとか誤魔化さないと……、

 

「い、いやー蜘蛛(八雲)が壁を這ってるわ! この店の衛生はどうなってるの!? 仮にもお店やさんならしっかりしなさいよね!」

 

「蜘蛛? ……家屋が古いからね、蜘蛛の一匹や二匹はいる。別に害は無いし、不要な虫を食べてくれる気の良い同居人だよ。そう、蜘蛛で思い出したが、蜘蛛というのは昔ながら不摂生の象徴だった。疫病を操っていたとされる土蜘蛛もまたその例に漏れず、世相をよくあらわした妖怪だね。しかし、蜘蛛は自前の糸で巣を作ることから建築上手の象徴でもあるんだ。そのことから家の守り神として民間信仰されていた例も少なくない。それに蜘蛛が不衛生な場所にいるのは、不衛生な場所に害虫がいるからであって蜘蛛が不衛生である理由にはならないんだ。昔の人間も君みたいに鶏と卵の関係を逆に見てしまった、浅はかな見解だよ。そう、それに関連して建築の神と言えば───」

 

 上手くごまかせたと思ったらいきなり蘊蓄が始まった。あーうん、私知ってるわ。こういうのを変人って言うのよね。

 てか話が少彦名とか萃香とか変な方向に飛んでっちゃってるわ。

 取り敢えず適度に「な、なんだってー!」と相打ちを入れてあげた。……キバ○シ?

 

 

 

 

 

「……それで、結局君の名前は?」

 

 やっと蘊蓄が終わったわ。

 けどどうするべきかしら……偽名を使わなきゃならないけど、いざ考えるとなると中々浮かばない。周りから何かヒントを得られないものか……。

 

 冷蔵庫…テレビ…黒電話………黒電話?

 そう言えば……。

 

 

 

 ===================

 

 

 

「あらこいしちゃん。何をしているの?」

 

「ん? メリーさんごっこ!」

 

「メリーさんって……あの都市伝説のメリーさん? 変わった遊びね……ってあれ。こいしちゃーん? どこに行ったの?」

 

「ゆかりんの後ろにいるの!」

 

「ひょわっ!?」

 

 

 

 ===================

 

 

 

 これだっ!

 

「め、メリー! 私はメリーさんよ!」

 

「メリー? ふむ……外国の妖怪かい?」

 

「そう! えーっと……ぎ、ギリシャ出身で最近ここに来たばかりなのよ! だから土地勘が無くて、アテもなく彷徨ってるうちに花の下で眠っちゃったの!」

 

「へえ、ギリシャか。ギリシャといえばオリュンポスの神々の中でもひときわ変な───」

 

「蘊蓄はもういいわ!」

 

 蘊蓄を阻止しつつ内心ほくそ笑む。

 そう、これから私はメリーちゃんとして生きていくのよ! そんでもって魔理沙に今回の異変のことを全部チクってやるわ! 霊夢には今回の異変の件で疑われていて話が通じないだろうけど、魔理沙はちゃんと話を聞いてくれるから。そんでもって一緒に霊夢を説得してもらうのよ! そして私はぬくぬく博麗神社で暮らしていくわ!

 イッツ パーフェクトプラン!

 

 だけども迂闊に外に出たら危ないし、魔理沙っていっつも幻想郷を飛び回ってるから霧雨魔法店まで会いに行っても会えるかどうか分からない。

 だからまずは潜伏して情報を集める。そして機を見て魔理沙に接触してみせるわ。

 

 だから……

 

「霖之助さん! ここで働かせてちょうだい!」

 

 




たくさんの投票ありがとうございます!一つ言えることはみんな神綺ママが大好きなんだね。おいらも大好きでゲス!

さて、氾濫するネタの引き出しを整理しなきゃ。そういう意味では香霖堂はとてもいい休憩スポッツ!
もしかしたららんしゃまと幽々様の過去編とか霊夢の話とか(色んな意味で)爆発する紅魔館とかからやることになるかもしれませぬが……。お楽しみに

ちなみに

レティ…A
橙…B−(変動アリ)
アリス…B→?
リリカ…C−
メルラン…C+
ルナサ…C
妖夢…B+
幽々子…A
藍…A(変動アリ)
紫…?

ロリゆかりん(メリー)…H

とかいう設定で書いてました。プリズムリバー三姉妹は画面外脱落だしリリーはまともに出てないのでアレですけど。
レティさんがやたら強いのはとある理由があるのと出落ちだからです。
そして作者は2面ボスが大好きです。ロリコンちゃうねん

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