幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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恥ずかしながら完結です


パラレルエンド:【エイプリル秘封倶楽部】

「……今日の夢は一段と変だったわね」

 

  マエリベリー・ハーンは欠伸を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 科学風水都市『京都──kyouto』

 なんやかんやあって吹き飛んでしまった東京に代わって、現在日本国の首都として機能している。だが、観光都市としての機能は停止した。

 

 科学社会のそこらかしこに怪奇が潜んでおり、住民たちに少なくない被害を日夜与えている。

 しかし政府はその事実を認めようとせず『マヤカシ』として処理。またそれらの秘封を暴くことは法によって禁止されているのだった。

 だが、あまりにもあからさま過ぎるため何らかの思惑があるのは確実であり、陰謀論が囁かれて支持率は各政権で軒並み低下。政権交代はこの10年で延べ31回というハイペースを叩き出していた。

 

 

 そんな未来都市『京都──kyouto』には世界に誇る名門大学、京都大学が設置されている。

 さらにさらにその京都大学に、とある変わった1サークルが存在した。人はその存在を認知すらしないが、そのサークルに所属する二人の女学生はこう呼んだ。

 

『秘封倶楽部』……と。

 

 

 

 

 

「──……ふーん。それでそれで?」

 

「最後はみんなで宴会をして終わったわ。まあ、グッドエンディングじゃない?」

 

「締まらないねぇ」

 

 いきなり呼び出したかと思えばこれだ……と、宇佐見蓮子は嘆息した。

 

 二人が話しているのはとあるカフェ。

 臨む外では紫色の夜空に爛々三日月が浮かぶ。ビルは山々のように連なり、まどから溢れるネオンの光が闇を切り裂き、擬似的な昼を演出していた。

 見ての通り夜であり、就寝準備中だった蓮子をマエリベリー・ハーン───蓮子呼んでメリーが電話で無理矢理呼び出したのだ。

 曰く、「奇妙な夢を見たと」

 

「蓮子、気付かない? これまでの夢と今回の夢の決定的な違いを」

 

「うーん……登場人物がいっぱい? 巫女さんやら幽霊やら天狗やら……最後の方は色々とカオスなことになってたし」

 

「まあそれもあるわね。つまり、今回の夢はそれだけの登場人物が出れるほど、すこぶる長かったのよ。それはもう何十年──いや、何百年とその夢の中で暮らしてきたように」

 

 蓮子は眉をひそめた。

 今日一度メリーと別れた時、時刻は8時を回っていた。《能力》で確認したから間違いない。そして現在の時刻は10時。

 つまり、メリーがどれだけ早くベットに入ったとしても寝ることができるのはせいぜい一時間。あまりにも短すぎる。

 

「胡蝶の夢というには壮大ね。けどそれってただの夢だったんじゃないの? 境界とかそんなんじゃなくて、貴女の疲労による…ね」

 

「いいえそれはないわ。だってあまりにも生々し過ぎるんですもの。あの1日1日が今でも細部まで思い出せてしまう。楽しい時、悲しい時、辛い時……確かに私は歩んできたのよ」

 

 またもや蓮子は眉をひそめた。

 メリーの口ぶりは一人称視点のそれだった。

 

「じゃあ……今話した物語は貴女の実体験になるってわけ? 胃腸炎で毎日吐いてたの?」

 

「吐いてたわ。滅茶苦茶な住民たちに毎日振り回されてね、ストレスで胃と腸がマッハ。だけどなんだかんだで楽しめてたから良いかなー……って今は思えるの。長いようであっという間だった」

 

「それはようございました。けど意外ね〜……貴女がそういうキャラだったなんて」

 

 物語の主人公はおっちょこちょいでお調子者。すぐに弱音を吐くし人任せな面が大きかった。周りのことを思えるほどの優しさはあったものの、それに見合った動きは結局できなかった。

 メリーとは全く違う人柄と言える。

 

 夢とは意識の無意識。

 メリーにもそういう一面があったのかと蓮子は勘ぐった。だがそれは当の本人であるメリー直々に否定される。

 

「彼女は多分私じゃないわ。まあ、彼女は似てるし境界にまつわる力を私と同じく有していた。私と繋がる部分はあるんでしょうけど」

 

「そんな感覚的な話しをされても困るわ。取り敢えず()()()ちょうだい」

 

 メリーは蓮子の目に触れることによって、彼女と夢を共有させることができる。

 蓮子にしてみれば、それはあくまで幻像であり決して実像ではないのだが。

 

 メリーは少し蓮子に手を伸ばしかけ、しかし途中で引っ込めた。

 

「やめておいた方がいいでしょうね。なにせ数百年のお話だから」

 

 それに、と付け加える。

 

「あの夢の中で私は別人だった。なら()()()()()()()んでしょうね?」

 

「……観るのはやめとくわ」

 

「賢明よ」

 

 メリーは含み笑いをしてコーヒーを口に運ぶ。蓮子はまだ何か考えるようなそぶりを見せながら紅茶を口に運んだ。

 

「……今の時間にコーヒーなんて飲んで大丈夫? 明日も講義があるでしょ」

 

「いいの。今日は寝たくないから」

 

「……そう」

 

 ちらりとメリーの顔を覗き込むが、青色に光る瞳は眠たそうに揺れていた。

 

 

 そしてしばらくの沈黙。

 次に口を開いたのは蓮子だった。

 

「それじゃー……貴女が夢で見ていたのは誰の夢? 誰の記憶なの?」

 

「難しい質問ね。実は彼女の顔も名前も覚えてないのよ、私」

 

「夢は隅々まで鮮明に覚えてるんじゃなかったかしら? ハーンさん」

 

「いえいえ宇佐見さん、分からないのはそれだけで他は全部覚えてるの。なーんか変な感じなのよね〜」

 

「もういっそのこと、その彼女は貴女ってことで良いんじゃない? 普通の夢ってそんなものよ。今までが特別だっただけで」

 

「……そうね。そういうことにしときましょう。彼女からは懐かしい感じがしたし。……けど、彼女はもしかしたら貴女かもしれないわね」

 

「なんで?」

 

「懐かしい感じがしたから」

 

 無意識のうちに自分でブレーキしてしまっているのか、それともメリーへ何らかの干渉が行われているのか。

 所詮観測者に過ぎないメリーに知る由はありはしないし、それですらない蓮子にこれ以上の考える余地はなかった。

 

 

 

 メリーのおごりで勘定を済ませカフェの外へ出る。冷たい風が自動ドアの隙間から流れ込み、蓮子は身を震わせた。

 闇に浮かぶ電灯が瞬く。

 

「わざわざこんな時間にゴメンなさいね。でもどうしても今言っておかないといけないと思ったの。初めてのことだったから」

 

「……面白い話ではあったけど夜に呼び出された分の価値に見合うかは微妙なところかしらね。ま、そこは私たちの仲だし許してあげる」

 

「本当にゴメンね? それじゃまた明日」

 

「うん、また明日」

 

 二人は背を向け家路につく。二人の姿は闇に吸い込まれ、見えなくなる。

 ふと、蓮子が後ろを振り返った。

 

「ねえメリー!」

 

「……?」

 

 闇に沈んでしまって姿は見えないが、メリーが振り返ったような気がした。

 蓮子は口の端を上げる。

 

「絶対に、また明日だから!」

 

「……ふふ」

 

 メリーは手を挙げた。

 

「また、明日ね」

 

 青に光るメリーの瞳は蓮子から遠ざるとともに影へと埋もれ、徐々に(むらさき)に。

 そしてやがては見えなくなってしまった。

 




夢オチっていいよね……
秘封娯楽部は永遠だ!
てなわけでエイプリルプールというものに乗っかってみた作者でございました。

なお今話は本編に直接的な関係はございません。オマケでございます。間接的な関係はあるやもしれません。ちょっと考えてみるとなかなかに楽しい話であります。

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