幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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お話回


藍と霊夢と博麗神社

 遅れての開花となった博麗神社の桜は、これでもかと今までの分を取り戻すかのように咲き誇り、彩りをより一層深めている。

 私の記憶が正しければ多分この規模は過去最高ね。その証拠に春告精が頭上で狂乱している。……邪魔かしら。あとで追い払っておくことにする。

 

 また、桜に釣られたのは春告精だけじゃなく、春雪異変が終結してすぐにたくさんの有象無象どもが神社に押しかけてきた。人間もちらほらいるみたいだけどメンツがメンツで凄い(まば)ら。取り敢えず見境がなくて危険なルーミアとチルノは追い払った。

 中には白昼堂々と日傘を差して境内に居座るレミリアと愉快なメイドや、春雪異変の首謀者である西行寺幽々子と半分おばけの姿もある。……これじゃあ普通の人間は寄ってこないわね。

 

「せめてあいつらが賽銭を入れてくれれば話は違ってくるんだけどねぇ。ふわぁ……」

 

 春の陽光にあくびが漏れた。流石に3日連続での宴会は体に堪えるようだ。だけど今は酒を飲んでないとやってらんないわ。

 紫のやつ……本当に失踪するなんて。今頃どこらへんをほっつき歩いてるのかしら。……まだあの紫擬きに体を乗っ取られてるのかも。紫がいなくなるっていう事は紫擬きからしか聞かされていない。

 

 

 

「浮かない顔ね。まだ悩んでいるの? さっさと決心して、私の眷属になっちゃいなさいよ。ほらほらほらぁ〜!」

 

 見当違いなことをほざきながらレミリアが近づいてきた。それに合わせて日傘とともに咲夜も追随する。口の端を釣り上げて若干上機嫌なのが不気味。

 レミリアの言葉にいちいち反応する気も起きないから、適当に目線であしらった。

 

「無視は堪えるわ……」

 

「ならばお嬢様も無視なさればよろしいかと。その空白はこの咲夜めが不肖ながら務めさせていただきます。どうぞなんなりと」

 

「え…あ、うん。ありがと」

 

 こそこそとレミリアが耳元に口を寄せる。

 囁きがこそばゆい。

 

「ねえ……咲夜ってどうしちゃったの? 異変解決からずっとあんな調子なんだけど。迎えた時なんてみんなに泣きついてきたのよ?」

 

「全知全能とか言ってた無敵の能力でどうにかしなさい。私は部外者」

 

「そんなぁ……」

 

「お嬢様! その巫女にあまり近寄ってはいけません。犯されます!」

 

 落胆するレミリアを咲夜が慌てて抱え上げた。

 なんていうか……従者というより保護者よね。実際咲夜もレミリアのことをお子ちゃまって思ってる節がある。

 二人の関係は見方によっては姉と妹のように見えるし、母と娘にも見える。言葉に言い表せない……複雑な関係なのかしら。よく分かんないわ。

 

 

「紫は帰ってくるわよ」

 

 

 突拍子もなくレミリアが言った。視線を向けるとレミリアは怪しく微笑んでおり、咲夜はチッと舌打ちをしていた。気持ちはわかるわ。

 

「なに? それはアンタの例の……」

 

「能力じゃないわよ。もう無闇矢鱈に能力を使うことは止めたの。つまり今のは勘。……あいつにフランの事を放り捨てさせることは絶対に許さないわ。何処へ逃げても絶対に逃さない」

 

 ……紅霧異変の時にフランドールとレミリアにあんだけ言っちゃったんだから、紫はこいつらが死ぬまではおさらばできないだろう。まあ、紫の自業自得ね。

 

 その後レミリアから色々な愚痴を聞かされた。咲夜のこととか、最近勝手に外出しているフランドールのこととかね。面倒臭いったらありゃしないわ。

 

 少しして懐中時計を見た咲夜が言う。

 

「ほらお嬢様、お昼からは妹様を探すご予定でございましょう? そろそろ……」

 

「あっ、そうだったわね。出発するわよ! じゃあね霊夢。呼ばれておいて悪かったわ。……眷族になりたくなったらいつでも紅魔館に来ていいのよ?」

 

「帰れ」

 

 いなくなるまで五月蝿いヤツ。今回はフランドールに感謝するべきなのか。別個で面倒臭いことをされてちゃたまらないけど。

 

 ていうか……『呼ばれておいて?』 そんなことをした憶えは勿論ない。

 なーんか久々に私の勘が疼いたけど、面倒臭いし敢えて流すことにする。

 

 

 さて、レミリアがいなくなった事でようやく再び一人静かに花見ができるわ。適度な騒がしさが一番好きだけど、今日は静かに物思いに耽りたい。

 

 

 

 だけどわざわざ神社にやってくる連中はそれを許してくれないようで。

 

「はあい。辛気臭そうな顔してるわねぇ」

 

「ご無沙汰してます」

 

 レミリアがいなくなったのを見計らってか幽々子と妖夢が近づいてきた。

 こいつら…数日前に殺し合いをした割には平然としてるのね。いい性格してるわ。幻想郷の連中は他人との距離の取り方がとても大雑把なんだけど、幽々子の奴はもっともそれが顕著だと思う。まあ、こいつは冥界暮らしだけど。

 私も別に気にしてないが。だって私が万が一にも殺されるはずないし。

 

「はいはいこんにちは。素敵なお賽銭箱はあっちよ」

 

「あら? 妖夢、そんなのあった?」

 

「い、いえ……桜の花びらが沢山詰まった箱が一つだけだったと思いますが」

 

 ……化け狸か化け狐の仕業か。

 今時に博麗神社へ悪戯を仕掛ける輩なんて相当限られてくるけど──まあどうでもいいわ。次見かけたときにとっちめてやればいい。

 気分が乗らないのか、諦めの境地に至ったのか、不思議とイライラはなかった。

 

「知ってる? 紫は春の次に冬が好きなんですって」

 

 そんな矢先に幽々子のこの言葉である。

 どうでもいいように思える上に、その名前は狙って出したように思える。

 

 思わず睨みつけた。幽々子は優雅に微笑み、妖夢はその間であたふたしていた。

 

「紫はいっつも言ってたわ。『冬は閑寂、だからあの子の声がよく聞こえる。春は贅沢、だってあの子が朗らかに笑うのだから』……あの子って、貴女のことじゃなくて?」

 

「そうだったらこっぱずかしいわね」

 

 アイツ…人前で何言ってんのよ。いやまあ幽々子は人じゃないけどさ。

 それにそのあの子ってのが私だったらいい迷惑。別人にしろどっかの誰かさんを誑かしてるってことだし……こういうのってなんて言うんだろう?

 尻軽女?

 女誑し?

 

 どっちにしても気に入らないわ。

 

「それで、アンタたちはどういう目的でうち(博麗神社)に来たの? 花見なら自分の家で事足りるでしょうに」

 

「一人の花見と大勢での花見なら、ね。結局花見の楽しみなんてどれだけ狂うことができるかなんだから。そうでしょ妖夢?」

 

「花より団子ってわけですね」

 

「そういうこと」

 

 うふふと笑い、突然舞い散る花びらの中で舞い始めた幽々子。こいつが一番花見を楽しんでそうよね。その傍らで妖夢は深いため息をこぼした。

 幽々子はご機嫌な様子で私を流し見た。足取りは徐々に離れていっている。

 

「ついでに言うと私って古い友人からお呼ばれされたのよね。彼女は紫とも馴染みが深いし、ここで待って(舞って)ればいつか紫が来るかもしれないって思ったの。さーくーらー、さーくーらー」

 

「あっ、待ってくださいよ!」

 

 幽々子もお呼ばれ……。そういえば私が宴会を連日で始めたのも酒や道具がいつの間にか用意されてたからだし、やっぱり何かあるみたいね。

 どうせなら片付けも手伝ってくれればいいのに。

 

 さて、幽々子もいなくなったことでようやく静かな花見が戻ってきた。だけどいざ始めてみるとどうも気分が乗らない。

 

 なんだか花見すら面倒臭くなっちゃった。レミリアはどこかに行っちゃったし、幽々子は一人で楽しんでるし、魔理沙とアリスは用事があるそうで花見には来ないらしいし……他に来るって言ってた奴いたっけ?

 いないならそろそろお開きの準備に……

 

 

 

「や、霊夢。元気そう…ではないかな」

 

「ん? ……えっと、藍?」

 

 そういやこいつがいたわね。てっきりまだ寝込んでたものだと思ってたわ。

 妖獣なだけあって持ち前の回復能力でどうにかしたんだろうけど、頬には絆創膏が貼られていて首には包帯が巻かれている。多分服の下にも巻かれてるんだろう。私たちの中じゃ一番重症だったはずだ。

 それと一緒に雰囲気が元々とかなり違っている。紫と紫擬きの違いとまではいかないが、異変前の藍から何かがごっそり抜け落ちている。

 

 馴染みの帽子を被ってないし……なんていうか九尾の一面が全体的に押し出されているような。

 ふと後ろを見ても9本の尻尾があるだけで橙の姿が見えない。いつもは金魚のフンみたいに後ろにこそこそ追随してるのに。

 そんな私の視線に気がついたのか、藍は苦笑しながら言った。

 

「……ああ、橙には賢者様たちの春雪異変における臨時会議に出席してもらってる。まだ早いような気もするが…まああの子なら大丈夫だろう。あの紫様にも臆さなかったと幽々子様から聞いている」

 

「はあ? なんで橙をそんなところに……。紫はいないから仕方ないのはわかるけど、アンタがいるでしょ? ここで呑気に花見をしてる場合じゃ……」

 

「もう私は部外者だからね」

 

 その言葉で私はやっと気づいた。

 藍には式が憑いてない。主人格というべき八雲の証が藍にはなかったのだ。つまり目の前の藍は式神じゃない、ただの九尾ってこと。

 式が解除される状況なんてかなり限られる。例えば術者の意思の元に放棄されたとか、術者が死に至っている場合とか……。

 

「御察しの通り、私の式はいつの間にか消えてしまったよ。眠りから覚めたらいつの間にか…ね。橙の方の式は私のものなんだが、それには紫様の力が同時に複雑に介在している。八雲の性こそないものの証としては問題ない」

 

 藍は早口にそう言うと、私の顔を覗き込んでにやりと笑った。初めて見た彼女の姿はいつもの彼女と比べて少しだけ子供っぽい。

 

「心配しなくても紫様は死んでないさ。さっきも言ったが橙の中にある紫様の力は生きている。私の式だけが切り離されただけさ」

 

「あいつの安否なんて気にしてないわ。ていうかそれって……まさかクビってこと?」

 

「そう言うことだ」

 

 ……藍は有能だ。

 紫の仕事なんて詳しくは知らないが、普段スキマに篭ってる紫と違って藍は幻想郷の隅から隅までを飛び回って『八雲の表の顔』を務め続けていた。

 そんな決断を下すのは流石に紫は本当は無能なんじゃないかと疑わざるを得ない。

 

 そもそもだけど……

 

「それってあの紫擬きがやったことでしょ。なら気にすることないわ。本物の紫が帰ってきた時にまた式を張り直して貰えば───」

 

「待て。霊夢……多分、魔理沙も咲夜も妖夢もだろうけど、お前たちは何か勘違いをしているよ。あの時私たちの前に現れた紫様は紛れもなく本物だ」

 

「……はあ?」

 

 なに言ってんのこいつ。明らかにあの時の紫は普通じゃなかったでしょ。まずそもそもだけど、紫擬き自身が自分のことを別人だと言ってたじゃない。

 

「あんたの頭も落ちぶれたわね。まさかあの時のことを忘れてしまってるなんて」

 

「……確かに多少は劣化したかもしれんが、私は私さ。その記憶に間違いはない。ふふ……あのねぇ、紫様に本物も偽物もないんだ。確かにあの変わりようはびっくりするだろうけど……私は不思議と違和感はなかったね。あの紫様は紫様として、いつもの紫様も紫様として受け入れることができるよ」

 

 ……藍の微笑みを見ると何故か胸がチクリと痛くなる。他人の気持ちなんて滅多に考えたことなかったんだけど、今は不思議と藍の気持ちがスルスルと心の中に浮かんではまた現れる。

 健気なのは好きじゃない。

 

「……紫はあんたを捨てたりはしないと思うけど。あいつなんてアンタがいないだけでダメになっちゃうような妖怪よ」

 

「どうだかね。紫様は家事から仕事までなんでもこなされてしまうお方だからな。私なんていなくても変わらないだろう」

 

 んー…言われてみればそうよね。胡散臭いくせして変に万能なのよあいつ。

 思い出してみると酒の席で藍から何度も自分の存在意義について愚痴られたことがある。あの頃から本気で悩んでたのね。

 

「ふふふ……まっ、クビになったものは仕方がない。これからは幻想郷の一妖怪として橙を監督しながら見守っていくことにするよ。さて、私はそろそろお(いとま)させてもらおう」

 

「アンタももう帰るの? 少しくらいゆっくりしていったら?」

 

「今日はお前の顔を見に来ただけだし、橙が会議から帰ってくる頃だ。早くマヨヒガに帰って夕飯の準備をしないと。……それに、()()()のお呼ばれに乗る気はまだないからね」

 

「また”お呼ばれ”か。もしかして異変なの?」

 

 藍は少し考えておどける様に肩を竦めた。

 

「異変……かもしれないが害はないよ。我慢ならなくなったら適当に解決してあげるといい。あいつも満足してくれるだろう」

 

 紫直伝の遠回しな言い方で藍はアドバイスをくれた。はっきり言ってなんの参考にもならないわ。

 

 伝えるだけ伝えたのか藍はくるりと背を向けて歩き出し……なにを思い出したのかまたくるりと反転。お賽銭箱の前に立つと中に一枚の葉っぱを入れて私ににいっと笑顔を向ける。

 そして今度こそ寂しげな後ろ姿を背にマヨヒガへ帰っていった。

 

 

 

「『冬は閑寂、だからあの子の声がよく聞こえる。春は贅沢、だってあの子が朗らかに笑うのだから』……か。……なんだかなぁ」

 

 あくる日の紫の寝顔と髪の感触を思い出しながら

 私は賽銭箱をひっくり返した。

 

 

 

 *◇*

 

 

「『冬は閑寂、だからあの子の声がよく聞こえる。春は贅沢、だってあの子が朗らかに笑うのだから』……はぁ。なんだかねぇ……」

 

「おやメリー君、それは詩かい?」

 

 藍への恐怖と申し訳なさで鍛え上げてきた私の家事スキルを存分に発揮し、パタパタと棚の上を室内箒で叩いていると、カウンターで本を読んでいる霖之助さんに声をかけられた。一応私はお手伝いさんらしいから手伝ってとは言わないけど、少しくらい労ってくれてもいいんじゃないかしら……。

 

 それにしても歌かぁ。

 

「あーこれ? うーん…どんぐらい前だったか、どっかの誰かが私に言ってた歌だと思うわ。つまるところあの子っていうのは私のこと…になるのかしら?」

 

「……へえそうかね」

 

 霖之助さんは興味をなくしたのか読んでいた本へ目を戻した。自分から聞いておいてこれよ。

 それにしてもいい歌よねぇ。つい口走っちゃった時は幽々子も藍も褒めてくれたし! 私が作詞したわけじゃないけど嬉しかったわ!

 

 っと、お掃除終わり。次はお洗濯ね。

 

「もう洗い物ない? 洗濯しちゃうけど」

 

「ふむ洗い物か……そうだ。洗濯機とやらで洗ってみてくれないかい?」

 

 霖之助さんは立ち上がると店先に置いてあった洗濯機をバンバン叩いた。

 

「どうやらこの白い箱は洗濯機という名前のものらしいが、衣類を洗浄する機材らしいんだ。ところが洗うための水は自分で汲んで来なきゃいけないし、中に衣服を入れても人の手なしでは洗うことはできない。そこでだメリー君、僕にお手本を見せてくれないかい?」

 

「残念でした。電気と水道管がないと洗濯機は動かないわ。私のお家なら動くわよ? 自動でごうんごうんってね、動くのよ」

 

「また”電気”か。外の世界はなぜそんなものをいちいち利用しなきゃならないんだろうね。洗濯板なら自分の労力だけで済むのに」

 

 霖之助さんは再び本へと視線を戻す。

 彼もなんだかんだで幻想郷脳なのよね。自分でやった方が早くて楽っていう。

 別名脳筋。

 

 私は楽できるところは楽したい派だから洗濯機でも掃除機でもセ○サターンでも…なんでも使うわ。けど古き良き時代の風習や産物にも同時に理解と敬意を表している。

 だから洗濯板もなんのその!

 

 どんな汚れもこの八雲ゆか、ゲフンゲフン! メリー様の手にかかればちょちょいのちょいよ!

 鼻につくわ、この頑固な汚れ。ほらほら美しく残酷にこの大地から住ね!

 

「らーらーらーららーん♪」

 

「……楽しそうに家事をするもんだなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 拝啓、藍へ

 

 文々。新聞を読みました。失踪ってことはつまるところ「表に出てこなかったら見逃してやる」っていう慈悲よね? 見逃してくれてありがとう。

 私はこれからの妖生、エンジョイします!




幻想郷エンジョイ勢に入門したゆかりん。つまり死の恐怖を乗り越えたゆかりん
いやあ天空璋というのはいいものだ……。てか小鈴チャン妖怪化したホントなの……?

いやぁちょっと忙しくなってまいりました。投稿頻度はそこまで変わらないと思いますが、モチベーションが上がれば……!
感想評価オナシャス!

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