幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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萃香「ぶるあぁぁぁ……」



オニゲーム

 霊夢はふらつく頭と体を抑え、とにかく前へ前へと飛行する。遠目からでも分かる博麗神社の惨状は霊夢の気分をより一層沈ませた。

 これまで博麗神社を献身的に支え続けた土台となる小山は頂上から砕かれ崩落し、爆心地となった境内は粉々になって、神社の原型はもはやひっくり返った屋根だけだった。

 

 もしも藍と橙が結界の保護を行っていなければ、博麗大結界は瓦解し、幻想郷は夢と現の狭間に引きずり込まれていただろう。ここでもまた、博麗の巫女としての役目を果たせなかった。

 

 着地し周りを確認するが、微かに妖力の残滓を感じるだけで辺りは静寂に包まれていた。萃香の姿はどこにもない。

 

「夜まで待つしかないか…」

 

 時は夕暮れ時、宴は近い。

 地面に座り込んで霊力を漲らせる。なるべく回復力を高めて来るべき時に備えておくのだ。今度こそ萃香を降して、霊夢が巫女である為に。

 絶対にぶっ倒す、と息巻く。

 

 

 

 そこへ、巨大な飛行物体の影が今無き境内に投影される。空に浮かぶ岩石のような物は夕陽からすっぽりと霊夢を覆い隠した。

 霊夢は空を見上げ声を漏らす。

 

「忘れてた…」

 

 

「……御主人様、ご無事でございましたか」

 

 岩が唸るように喋る。

 しかし岩は喋らないので頭上の物体は生き物ということになる。そして霊夢はその生き物の正体を把握していた。

 ───亀である。長寿のうちに様々な神力を身につけ、飛行仙の技で自由自在に宙を飛び回る。年齢は本人も千から先は覚えていない。

 

 霊夢は皮肉を投げかけた。

 

 

「あら生きてたの。池は影も形もなくなっちゃってるから、てっきり山が崩れた時に死んだのかと思ってたわ」

「なっなな! いつも戦闘が起こる際には身構えておりますとも! まったく、縁起でもないことを……。爺がこの程度で死ぬわけがございましょうか! そんなヤワな身体ならばとうの昔に……」

「だってアンタ硬くて浮けるだけのおいぼれ爺さんじゃない。いつ死んでてもおかしくないわ」

「この玄爺まだまだ現役です!」

「さっさと隠居しなさい」

 

 実際、霊夢はこの玄爺を疎ましく思っている節がある。まだ霊夢が空を飛べなかった頃から世話になってきたお目付役のような存在なのだが、それゆえに小言が過ぎるのだ。

 義務感とともに霊夢を思っての言葉なのだろうが、望まずして縛られることを嫌う霊夢には中々その想いは伝わらないようだった。

 

 

「おお、なんとおいたわしい姿に。何故鬼と正面から拳を交えたのですか……この爺には理解できませぬぞ。普通、鬼退治は様々な前準備を行うものです。突然の出来事ということもありましょうが、それでもあの対応の仕方はかなり悪手でした。御主人様の身体は幻想郷の宝なのですから、大事にしていただかなくては」

「煩い五月蝿い! 私は私、私が何を考えてどんなことを行動に移しても……そんなの私の自由でしょ。爺の価値観で縛るんじゃないわよ」

「──やはりあの隙間妖怪に毒されておるのですね。おお嘆かわしや……この玄爺、初代様に合わせる顔がございませぬ!」

「あいつは関係ない! あんまり根も葉もないことを言ってるといい加減しばくわよ」

 

 いい加減嫌気がさした霊夢が、お祓い棒を振り上げてようやく玄爺は口を噤む。

 この老亀にはそれなりの実力があるのだろうが、その立場上巫女に対してそれを行使することはまずない。玄爺が生まれた瞬間から宿命付けられた、義務。またの名を呪いである。

 

 

「ったく……まあいいわ。それよりもいいところに出てきたわね。ちょっと爺に聞きたいことがあったのよ。アンタ何でも知ってるんでしょ?」

「ほう、御主人様が爺に力を借りたいと!? それはなんとまあ、珍しいこともあるものですなぁ。身にあまる光栄ですぞ」

「借りたいのは力じゃなくて知恵よ。時間はそれほど取らないわ」

「ふむ……鬼の弱点ですかな? 一番有名なものならば炒った豆でしょう。他にも鰯の匂いや柊の葉などが効果覿面とされ、現在まで広く伝わっております。……あの鬼に通じるかは微妙なところではありますが……」

「そんなことは聞いてないわ。私が聞きたいのは……これのことよ」

 

 お祓い棒を地面に打ち付け八卦の模様が浮かび上がる。そこより球体が半ば回転しながら現れた。白と赤が混ざり合い、陰と陽の対極と調和を示す。博麗神社の秘宝、陰陽玉だった。

 その存在に玄爺は老いてしょぼくれた目を大きく見開いた。玄爺は霊夢よりも遥かに長生きで、勿論陰陽玉のルーツも知り得ているだろう。

 

 玄爺は淡々と語り始めた。

 

 

「……陰陽玉は、使う人の力に影響されて、その力を吸収します。十分に力を吸収した陰陽玉は、その絶大な力を1回だけ放出するのです。それは、正の方向にも、たとえ、負の方向だとしても…。そのあとは、また元に戻り、再び吸収しはじめ────」

「それは何度も聞いたわ。小さい頃からアンタや紫から何度もね。だけど、それだけじゃないはず。だってこの玉から霊力を吸い取られたことなんて私は一度もないわ。それに霊力の放出なんて何度でもお手の物よ。……この霊力はどこからきているの? まさか無限に湧いてくるわけでもないし」

 

 霊夢の言葉に玄爺は明らかに渋った。

 

 

「……何故そのような話を? 霊夢殿らしくない。いつもなら些細なことだと切り捨てるような案件でございます」

「必要になったのよ。それに、ちょっと気になることをとある妖怪が言ってたわ。陰陽玉は妖怪と人間が作ったとか、妖怪を封印するとか……。本来ならくだらない戯言だって一蹴するところなんだけど、いやに色々なことと辻褄が合うのよね。……爺、何か隠してるんじゃない?」

「いやはや、そこまで……。──っ! そうか、八雲紫か。おのれ……まさか彼方から約束を違えてこようとは……! やはり信じるべき相手ではなかった」

 

 悔やんだ玄爺の真意は分からない。しかし何かを隠していたのは確定的であるようだ。霊夢はそれが気に入らない。なぜ当事者である霊夢に黙るような事柄があるのか。紫と玄爺は共謀して何を霊夢から隠そうとしているのか。それを伝えてくれたのが紫もどきという点も含めて……全てが気に食わない。

 

 

「知ってること全部話しなさい。今の私にはこのチカラが必要なの。もう夢想天生にかまけている場合じゃないわ」

「し、しかしですな……物事には順序というものがあります。そして御主人様には時期尚早でございましょう。その疑問は一度忘れて、鬼との闘い方を一から考え直すのです」

「……ッ! 玄爺!」

 

 話を逸らそうとしていた玄爺を怒鳴ると、首と手足が甲羅の中に引っ込んでしまった。玄爺は都合が悪くなると甲羅に閉じ籠る。スキマに隠れる紫と合わせて、霊夢は「大人は汚い」と子供ながらに毎日思っていた。

 だが今日ばかりはなあなあで済ませるわけにはいかない。新たなチカラを霊夢はらしくもなく欲していた。お祓い棒でガンガン、と甲羅を殴りつける。

 

「隠れてないで出てこんかい! いい加減にしないとスッポン酒にするわよ!」

「言えませぬ! 例え焼かれようが蒸されようが、口を割ることはできませぬ! 全てを知ることが必ずしも貴女様の為になるとは限らない」

 

 回転した甲羅が霊夢の一撃を打ち払い、その隙に玄爺は裏手へと消えてゆく。博麗神社の裏には様々な結界の重なり合った空洞、ゲートと呼ばれるものが存在する。そのゲートの中に玄爺は隠れたのだろう。亀には相応の土地勘もある。

 

「あっコラ、逃げるな」

「おいおいそんくらいにしといてやれよ。狼狽するなんて、お前らしくないぜ?」

 

 すかさず追いかけようとしたが、背中にかけられた声に足を止める。居たのは魔理沙で、手にはいつもの物より一回り大きな八卦炉が握られていた。

 すると霊夢は、大きく肩を落として地面に座り込んだ。魔理沙もその横に腰掛ける。そして時折霊夢を気にするように顔を覗き込む。

 

 

「亀に構ってる暇なんかないだろ。藍から話は聞いたからな、お前の負けヅラを拝むためにすぐに駆けつけてみれば……私は止めはしないが、せめて体は休めろよ。治るもんも治らない」

「分かってるわよ。ってかあの狐……もしかしてそのこと言い回ってるの?」

「そりゃ盛大にな。このままじゃ明日の朝刊のトップは多分【博麗の巫女敗北!】だぜ。──おっと、早まるな早まるな。記事の内容は今夜にでも変えれるだろ。そのために今は体を休めるべきだ。

 ……しかし、あの亀の言う通りなんかおかしいぞお前。いつものお前なら人の意見なんか聞く前に自分で全部終わらせちまうはずだぜ?」

「そんな独善的じゃないわ」

 

 霊夢はガシガシと頭を掻いた。

 

「はぁ……ダメね。どうにも最近調子が狂っちゃってる。スランプって、ヤツなのかしら」

「そうだろうな。……私にもそういうのはあったぜ?」

「あっそう」

「全部が上手くいかなくてなぁ、自分の弱さと周りの高さに打ちのめされて、自分に価値が見出せなくなっちまうんだ。昔の自分が羨ましくてしょうがなかったりして、そりゃホント辛いもんだった」

「……」

 

 それは霊夢にも共感できる話で、確か少しばかり昔には、打ちひしがれた魔理沙が仕切りなしに神社に訪れて、自分に色んな質問を尋ねていたことを思い出した。その時は適当に追い返していたんだけど、今思えば少し冷たかったかな、と思う。

 

 霊夢は言葉を返した。

 

「で、アンタはどうやってそれを克服したの? いつも無駄に自信満々な態度なんだから、今も悩んでるってわけじゃないんでしょ?」

「言葉が悪いぜ! たく……私は乗り越えた自覚なんかない。むしろ今も悩んでる。お前に勝てたためしが無いしな。違うのは、そんなこと、とうの昔に忘れちまったってことぐらいだな」

 

 乗り越えるのではなく、忘れる。

 逃げたのでは無い。魔理沙はそれを自分のあるがままとして受け入れた。

 だから彼女は普通を保つことが出来る。普通の魔法使いとして幻想郷で生きていくことが出来るのだ。

 

 

「お前は今まで負けたことなんてなかったんだろうけどさ、そりゃ運が良かっただけだ。誰だって負ける時は負けるし、勝つ時は誰にだって勝てる。ほら、あの時紫に勝てたのだって奇跡みたいなもんだろ? まあ、今のお前とやりあっても私は負ける気しないけどな!」

「……」

「それにこう見えても私は悔しがってるんだぜ? お前を最初に倒すのは私だって、ずっと言ってたろ? ポッと出の鬼にそれを横取りされちゃあなぁ」

 

 

 

「だからさ、お前が落ち込まないでくれよ。お前は私の目指す博麗霊夢であり続けてくれ。……頼むぜ、霊夢」

「……魔理沙」

「さて、この話は終わりだ。ちょっと酒を探してくる。もしかしたら無事なのが一瓶でもあるかもしれんからな」

 

 瓦礫を一つずつ蒸発させてゆく。

 

 自分から振った話を無理矢理断ち切った魔理沙だったが、別に悪い気はしない。魔理沙は霊夢のことをよく分かっていた。

 自分が期待されるような存在では無いことを自覚していても、気持ちを柔らかくさせるあたり、やっぱり魔理沙は親友だった。

 

 

 

 ×◆*.

 

 

 

 とまあ、木陰に隠れて望遠鏡で博麗神社周辺の様子を伺っていた私だったが、あまりの急展開に私はカチンコチンにフリーズしていた。

 ちなみに同じく木陰に隠れている(というよりもたれ掛かっている)霖之助さんは、興味が無いようで本に目を通していた。アウトなインドアというやつか。訳がわからないわ。

 

 確かあの亀は博麗神社の小池に住んでいた個体だと思う。だけど喋って飛ぶなんて知らなかったわ。対応を見たところ霊夢も魔理沙も知ってたみたいだし、あれか、私ってのけ者か。

 

 いやいや、そんなことよりもだ。

 亀って飛んだっけ?

 

 水・陸・空をものともしないなんて、それなんてズゴック? いや、むしろズゴックのスペックを凌駕している! ええい博麗神社の亀は化け物か!

 まず空を飛ぶ亀なんて妖怪でも聞いたことが無い。まさかガメラ以外に存在するなんて。 古臭いなんて言った奴はスキマで東映に投げ込んでやるんだから。

 

 

「……メリー君、魔理沙も来たみたいだし僕たちもそろそろ行こう。いい加減そこらの妖怪に襲われかねない。悪いが君を守れるほど僕は強くも器用でも無いんでね」

「貴方オトコでしょうが。そんなそこらへんの雑魚野良妖怪なんて目で殺しちゃうのよ! 目で!」

「僕がそんな武闘派に見えるのかい?」

「いいえまったく。けどほら、丸腰の私よりかは剣を持ってる霖之助さんの方が戦えるに決まってるわ。なまくらだけど」

 

 霖之助さんが腰に携えているのはいつぞやかに魔理沙から不法に騙し取った錆だらけの剣。値打ちがありそうなだけで役に立つとは到底思えないんだけどなぁ。持って行くと言って聞かなかった。あれかな? 久しぶりの宴会で舞い上がっちゃってるのかな?

 まあ私も結構身嗜みを決めてるけどね。ほら、レミリアとか幽々子っていいとこのお嬢様だから普通の着物じゃ失礼かなーって。

 ちなみに、いつでも正体をバラしてもいいように紫色のドレスを霖之助さんに新調してもらったわ。元々のドレスを少しばかりアレンジした感じになるわね。あとアリスのスカーフを巻いてる。聞けば霊夢の巫女服や魔理沙の魔女服を作ってるのは霖之助さんだそうで、そんなこと知らなかった。

 

 こんな調子で実力者たちに媚びを売って安定した幻想郷生活を手に入れてみせるわ!

 

 それにしても今日は妖怪が怯えきっているような気がする。そのおかげかまだ誰にもエンカウントしてない。これって多分萃香たちのせいよね。わたしゃ悪くない!

 

 

 

 

「霊夢ぅー! 魔理沙ぁー!」

 

 手を振って私たちの来訪を伝える。霊夢は座ったままこっちを見て、眉を顰めた。次に魔理沙が振り返る。私を見て嬉しそうに微笑んだ後、その後ろの霖之助さんを見て固まった。

 うん、分かるわその気持ち。

 

「メリーと……まさか香霖か!? いやしかしなんだってこんなところに。なんかすごく新鮮だな。そして違和感が」

「だってよ霖之助さん」

「酷い言われようだね」

 

 逆にこれ以外の言われようが果たしてあるのだろうか? ぶっちゃけないと思う。

 魔理沙と霖之助さんが話し始めたので、手持ち無沙汰になった私は霊夢の元へ向かうことにした。夜までにはまだまだ時間があるしね。

 

 霊夢は開口一番に私へ告げた。

 

「アンタは帰ったほうがいいわよ。余波で死なれちゃ目覚めが悪いから」

「そんな修羅場に霊夢を残していくわけにはいかないわね。貴女が大人しく香霖堂に帰るなら話は別だけど、それは無理なんでしょ? よって私は帰らない」

「……やめておいた方がいいと思うけど」

「大丈夫大丈夫。私にはとっておきの秘策があるからね! まっ、もしも霊夢が負けちゃった時は助けてあげるわ!」

 

 私も流石に自分の命は惜しい。だから状況をよく観察して、私の身の上を告白するかどうか判断するわ。萃香が折れてくれれば一番楽なんだけどねぇ。

 

 すると霊夢は呆れた様子で袖下から一枚の札を取り出すと、私に握らせた。

 肌が焼けるとかそういう外傷は無いけど、背筋が凍るような戦慄を感じた。私が持つには絶対に釣り合わないとても強力なお札だ。

 

「これを持ってなさい。鬼の攻撃を食らっても何発かは耐えれるようになる。……絶対に死ぬんじゃないわよ」

「う、うん」

 

 大変頼もしい限りではあるけど、逆に霊夢の念入りにふつふつと恐怖が再燃してきた。これから起ころうとしている戦いのヤバさが十二分に伝わってくる。

 ……本音言うとすっごく逃げたい。だけど、娘や友人を見殺しにするのはもっと嫌なの。ほら膝が笑ってるけどこれは武者震いに決まってる。

 

 

 

 暫くしてさらなる来訪があった。やって来たのは現在魔界に帰省していたはずのアリスだった。なんでも魔理沙からの連絡で予定を切り上げて帰ってきたそうだ。幻想郷の存亡に駆けつけるアリスは間違いなく輝いてるわ。

 アリスもまた私に帰るよう勧めたが、勿論拒否。悪いけど今の私には覚悟があるから。いざという時は幻想郷を私が守るのよ。

 

「しょうがないわね……それならコレを持ってなさい。無いよりかはマシだから」

 

 展開された魔法陣から一つの人形が落ちてくる。アリスの側から上海人形が飛んできて私に手渡してくれた。一体なんぞやと人形を手に持って弄ってると、アリスが説明を入れてくれる。

 なんでもそれは『呪いのデコイ人形』と言うらしく、死を一度だけ肩代わりしてくれるんだって。その効力のほどは魔理沙が保証してくれた。

 ヤバい、霊夢やアリスからの優しさが私の涙腺を刺激する。いつの間にかこんなガチ装備になっちゃって……これなら幻想郷が滅びても生き残れるかもしれないわね。しかし安堵よりも娘たちに対する嬉しさの方が先行しちゃって。

 

 

 だが、私の感動は間もなくやって来た次なる来訪者によって粉々に砕かれた。

 

 彼女が足を踏み出すたびに地面にクレーターが作られてゆく。体から滲み出るドス黒いオーラと飛び回る深紫色の危険な蝶を見ていると頭が痛くなってきた。その横では刀を携えた辻斬り従者がビクビクと震えていた。

 

 幽々子様のおなりである。登場の仕方にお嬢様らしさを微塵にも感じない。顔に青筋を浮かべるのは止めた方がいいと思う。

 ていうかあの子ったら滅茶苦茶怒ってる。一体萃香は何をしやがられたんでしょうねぇ? 萃香を改心させることができてもこれは……ダメかも。

 

 取り敢えず幽々子を大きく迂回して妖夢に話を聞いてみることにした。

 

 

「も、もしもしそこの半分幽霊さん。初めまして私メリーと申しますわ」

「おや新入りさんですか? これは丁寧にどうも魂魄妖夢と申します、お見知り置きを」

「ええ。ところでそちらの完全幽霊さんはどうされたんです……? ちょっといけないものが漏れ出してるような気がするんですが」

「……鬼に(白玉楼)と西瓜を砕かれまして」

「あっ……」

 

 萃香、それは賽を投げたんじゃない。賽を幽々子の眉間に打ちかましてる。見なさい妖夢の表情を。この世の絶望を全て内包したようなイイ表情をしてるわ、可哀想に。

 

「貴女……苦労してるのね」

「あはは……紫様助けてぇ……」

 

 妖夢は半泣きで笑いながら幽々子の方に行ってしまった。……助けたいあの笑顔。

 ていうか幽々子さん。いくら怒っていても戦闘が始まったら無差別に能力を発動(大量虐殺を開始)するなんてことはないよね? ね? ね?

 

 

 さて、そんな感じで雰囲気が頗る重くなってしまった博麗神社跡地。こんな状態で決戦なんて全然締まらない。

 ここは空気を緩和させる意味で紫ちゃん渾身の一発ギャグでもやってみようかな? ……やめとこ。

 

 多分萃香の口ぶりからしてレミリアたちも来るみたいだし、前途多難過ぎる。ぶっちゃけこれ以上人数が増えたら収拾がつかなくなるような。

 だって、白玉楼が殺られたってことは紅魔館が殺られてるのは確定的だし……これは第二第三の異変が起きてもしょうがないかもしれない。

 

 

 だが私の憂いは珍しく良い形で裏切られた。

 

「クックック……酷い有様じゃないか。霊夢、貴女の気持ちはとても理解できるわ。だって私もさっき紅魔館を破壊されたばかりだからな! さあ鬼退治を手伝ってあげるわ、紅魔館の総力をもってして伊吹萃香を叩き潰してやろうじゃないか!」

「帰れ」

 

 やけに上機嫌なレミリア。しかもその周りには図書館の秘書補佐さん(小悪魔)とフランを除いた全員がいる。門番までいるけど大丈夫なのかしら? ……あっ、紅魔館はもうないからなのかな。

 集結した紅魔館メンバーだが、その様子はメンバーによってマチマチだ。例えばあのメイドはレミリアと同じくニッコニコしてる。傷だらけの門番も右に同じ。秘書さんは面倒臭そうにふよふよ漂っていた。なんだか霖之助さんと同じ匂いがするわね。

 

 なんにせよ懸念材料だったレミリアがこんなにも丸くなってて良かったわ。だってレミリアが一番なにをしでかすか分からないもの。ガキっぽいから。

 ただ私の方を見て目つきを鋭くしたのは一体何だったんだろう? 彼女と言えば運命を操る能力だが、まさか私が八雲紫であることを見抜いたのかしら?

 ……まあいいわ。私はレミリアがフランをDVしていたっていう弱みを握っているからね! あっちも迂闊には手を出さないはず。もっとも刺客を送られたらおしまいだけど。守護(まも)ってアリス!

 

 

 また少し遅れて藍と橙がスキマを開いて現れた。萃香と戦って尚且つ幻想郷を飛び回りながら結界を維持していたんだろうに疲れた様子を全く見せていない。その姿はまさしく幻想郷の賢者としてあるべき姿そのものだった。

 ……私が賢者の座を譲った方が幻想郷って平和になりそう。ていうかなる。

 

 

「どうやらこれで全員みたいだな。日も沈んだし……そろそろか」

 

 魔理沙が呟く。

 私もそう思うわ。だって辺りの雰囲気が段々と剣呑なものになっていくんですもの。萃香が現れようとしているのかもしれない。

 

 博麗神社跡地に集まったのは霊夢、魔理沙、アリス、レミリア、十六夜咲夜、パチュリー・ノーレッジ、門番さん、幽々子と妖夢、藍と橙、そして霖之助さんと私か。後半二人が完全に場違いのような気がしないこともない。

 ……そういえば小傘ったらどこに行ったのかしら? 恐れをなしたならそれはそれでいいと思う。異変への参加は強制されたものじゃないからね。彼女は私も関わらなければ関係ない立場だったんだし。

 

 

 

『ようこそ、私の宴へ! 歓迎しよう!』

 

 一瞬だけ空気が圧縮され私たちは霧に呑まれた。そして現れたのは双角の小鬼。今回の異変の首謀者であり、鬼の考え方では被害者になるのかもしれない伊吹萃香であった。勿論と言うべきか、酔っ払っている。

 気づけば浮かれていた各々が戦闘態勢に入っていた。物理で殴るものたちは指の骨を鳴らし、魔法で戦うものは魔力を練ったり本を開いたり。そして本来非戦闘員である私は数歩だけ後ろに下がった。具体的に言うとアリス&魔理沙の後ろくらいまで。

 

 萃香は饒舌に語る。

 

 

「ふむ、数は思ったより少ないね。この人数だけで私を殺すことができると思ってるのかな? もしそうなら、嘗められたもんだね私も」

「いいや、お前が私たちを嘗めているだけだ。ここにいるほぼ全員がお前と戦えるだけの力を有している」

 

 藍の言葉になんだか肩身が狭くなる私だった。

 

「ふーんそう。……それじゃあ始めようか。幻想郷の存亡を賭けた戦いってヤツをね。この宴会におけるルールは簡単、私を戦闘不能にすることさ。全員で掛かって来ても文句は言わない。ただしこの場にいる私以外の全員が敗北したら私の勝ちだ」

 

 なんというデスサドンデス。どっからどう見ても萃香の圧倒的不利よね。

 萃香は、もしかしたら自殺したいんじゃないかと思ってしまうほどだ。

 

 と、ここで藍がとんでもないパワーワードを言い放った。

 

「紫様が来られた場合は? お前は戦闘不能になってくれるのか?」

「……来れば、ね。ないと思うけど」

「ふふふ、分からないさ」

 

 はーい来てまーす! まだ言わないけどね!

 霊夢あたりが萃香を殺さずに封印してくれれば最高なんだけど……果たして事が上手く動いてくれるのか。

 

 

「さあ、そろそろ始めよう! 誰が来る? それとも全員で来るか!?」

「私よ。今度こそ退治する」

「いいや私ね。貴女を一体一体地獄に送り返してあげる」

「ふふ、ここは私がやってやろう。貴女たちは私の最強の体術を目に焼き付けなさい」

 

 一番に進み出たのは霊夢、幽々子、レミリアの三人。現在における武闘派三人って感じね。ちなみに幽々子が自分から動こうとするのは相当珍しいことなのよ。妖夢の顔が面白いことになってる。

 

 

「やっぱりお前たち三人か。なら同時に掛かって来な、それでも私は勝ってみせよう」

「あん? あんたら二人は引っ込んでなさい。どうせ私に負けた雑魚なんだから」

「ふん、あの頃の私と一緒にしないでもらいたいわね。今なら霊夢なんて一捻りよ」

「あぁ、私は別に負けてないから」

「……まだかなぁ」

 

 まあこの三人が共闘なんてするはずもなく、順番をめぐって一触即発状態に。ホント面倒臭いわねこの子たち! 萃香も呆れてんじゃない!

 周りの連中も「霊夢いけー!」だとか「お嬢様ファイトー!」だとか「幽々子様どうか落ち着いて……」とか野次飛ばしてるし。

 

 

 

 

「あれ、誰もいかないの? ならわちきからいかせてもらおうか!」

 

 言い争ってる霊夢たちを除く全員の視線が声の主に集中する。私は『わちき』の時点で頭を抱えた。登場のタイミングが悪すぎるわよ小傘ェ……。

 

「ね、ねぇ小傘? 悪いことは言わないからやめといた方がいいと思うの私。お昼に完膚なきまでに瞬殺されたばっかじゃない」

「だけどここらでお遊びはいい加減にしろってところをみんなに見せてやらなきゃ……」

「ダメ、それ絶対ダメ」

 

 このまま進行したら小傘は間違いなく酷い目に遭うわ。セリフからそれが滲み出ていた。それかミスターサタン的ポジションになってしまうだろう。それで萃香に一撃でのされて藍か魔理沙に「まだレベルの差に気がついていないのか……馬鹿の世界チャンピオンだ」とか言われちゃうところまで見えた。

 

「負けちゃって悔しいのは分かるけど、ここは抑えて抑えて」

「ぐぬぬ……けど…!」

「ほら、誰が一番に戦うのか決まったみたいよ」

 

 見ていられなくなったのかアリスが話に介入した。感謝の拍手喝采を送りたい。

 萃香たちの方へ視線を戻すと、霊夢が前に進み出て、レミリアと幽々子が若干肩を落としてそれぞれの従者の元へ戻っていた。

 決定方法はジャンケンかな? それなら霊夢には勝てないわね。凄まじい動体視力を持ってる藍ですら霊夢には勝てないんだもの、仕方ない。予知能力を持ってるレミリアを降すあたり博麗の勘の理不尽さが窺える。

 

 

「……一番はお前さんか。昼の時みたいな期待ハズレな動きはしないで欲しいな」

「チッ……」

「紫はえらく巫女のことを買ってたよ。とても信頼してるんだろうねぇ。私には、お前さんのどこを信頼すればいいのか全く分からないが」

「紫の名前を出すな。私を動揺させようしてるんでしょうけど、無駄よ」

「どうかな……?」

 

 開始の合図もなしに二人は消えた。少なくとも私の視界からは消えた。

 

 不気味な風切り音と破裂音があちこちに響き渡る。時折衝撃で地面や木が抉れていた。

 なんていうか、辛い。魔理沙とアリスがなんか冷静に戦況を話し合ってるのが辛い。

 なるほど、これが巷で言う『ヤムチャ視点』なるものか。

 

 やっぱ生きてる世界が違うのよね、私とあの子たちって。私は大人しくこっち側の世界の住人である霖之助さんと一緒にのんびり観戦してましょう。うん。

 

 

「はぁい霖之助さん! なにか見え───」

「悪いが静かにしていてくれ。中々おもしろい局面でね、見逃すのは損だ」

「……あっそう」

 

 霖之助さんも向こうの人か。そっか。

 少しもそんなそぶり見せなかったから知らなかったわ。ってことはインフレに取り残されてるのは私だけ? みんなスーパーサイヤ人なのに私だけヤムチャなの? 急に心細くなっちゃった。

 

 と、私のすぐ横の地面に超スピードで何かがぶつかった。私に当たってたら間違いなく粉々になるってレベルの勢い。

 そのぶつかった何かは愛しの霊夢だった。地面に仰向けにめり込んでいる。

 

 

「くっ……!」

「れ、霊───っ」

「ほらほらもっと気張ってくれよ! こんなもんじゃ前の繰り返しじゃないかッ! 鬼神『ミッシングパープルパワー』!!」

「嘗めるな! 夢符『二重結界』」

 

 巨大化した萃香の拳が亜音速の速さで結界に撃ちつけられる。ビリビリと衝撃が空気を伝播し、あたり一帯を吹き飛ばす。

 つまり私の目と鼻の先で爆発が発生したわけで、視界が反転した。と思ったらいつの間にか四つん這いで地面に這い蹲っていた。何が起こったのか解らずに横を見ると、綿のたくさん詰まってそうな人形たちが浮いていた。またアリスに助けられたようだ。

 

 ふと胸に違和感を感じる。

 手を突っ込んで違和感の物を取り出してみると、それは先ほどアリスから受け取った『呪いのデコイ人形』の残骸だった。

 

 

 ……私の勇気は木っ端微塵に砕け散り、こんな戦場(カオスフィールド)に来てしまったことへの後悔が心を埋め尽くした。

 

 




イレギュラー→霖之助、小傘

ゆかりんの勝負服は香霖堂スタイル
ちなみにレミリアの機嫌が良かったのは家出していたフランがいつの間にか帰ってきていたから。ただいま地下室で爆睡中

ちょっとだけ投稿ペースを上げれないか頑張ってみる。評価感想を頂ければもっと頑張れる。時間を捻り出せ……!

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