幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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椛のうそつきー!



うつろわざるあなたへ

 祝☆スペルカードルール実施決定!

 

 もうね、私泣いちゃいそう。年甲斐もなく目頭がどんどん熱くなってきちゃう。

 思えば苦労の連続だったわ。

 幻想郷を平和にしたい一心でうん十年も前から活動し続けてきた。

 スペルカードの普及の為に徹夜のフル作業で藍と一緒にスペルカードを作り続けたりしてね、それを無料配布。

 その後は土下座外交を繰り返し、色々なモノや権限を周りに散財しながら十年前にはようやく実施一歩手前まで辿り着くことができた。

 

 しかし、レミリアによる忘れ難き幻想郷侵攻のおかげで流れちゃったのよ! あの時の絶望ときたらもうね、五回は魔女になれるわ。

 藍からは慰めというていの皮肉や脅しのオンパレード。あんなに協力させておいて寸前で案が流れちゃったんだもん、仕方ないわ。

 仕方ない。仕方ないけど、なんだかなぁ!

 

 ていうかその頃から霊夢の反抗期が始まっちゃったのもあってしばらく活動ができなかったのよね。

 だっていきなり髪を紫に染めて色んな所で暴れだしたのよ? 心配で仕事に手が着かないわ。

 ……霊夢がグレた時期って、魔理沙とつるみだした時期と合致するのよね。つまる所、全部金髪の子が悪いってこと!

 

 

 ……っと、話がずれちゃった。

 要するに私は浮かれてた。だからね、ちょっとした出来心を助長させてしまったの。

 調子に乗り過ぎてしまったと、後悔してももう遅いのだ。……手遅れなのだ。

 

 

 宴会と喧嘩と罵倒は幻想郷の華。そんなのもはや常識よねぇ? 太古の時代、阿求の先祖である稗田阿礼だって古事記にそう書いてある。

 

 あの連中どものコミュニケーションはそのいずれかで行われているのは周知の事実だろう。この三つ以外じゃ中々会わないのよねあいつら。

 逆に言えば突発的に出会って変な関係を結んじゃう私の方が異端だと言ってみたり。……いやまあそんなことはどうでもいいや。

 

 つまり私が言いたいのは、良いことがあったからって考え無しに宴会は開くなってこと。

 そして宴会を開く時は場所とメンバーをよく考えようってこと!

 

 目の前に転がる死屍累々を見下ろしながら、私は固い決意を抱いたのだった。

 

 

 

「おのれ伊吹萃香ァッ! 姿を見せろ……角の髄まで叩き斬って楼観剣のサビにしてくれるわぁ!!」

『姿を感じられなきゃ対象を斬れないのかい。こりゃとんだ三流剣士だなぁ』

「卑怯者めぇぇぇ!!」

『未熟者め』

 

 私には風を切る音が聞こえるだけで何をやってるかはよく分からないんだけども、乱れ舞う白銀の星屑がとても風美だ。

 隣に座る幽々子もそれを肴にしながら酒を飲んでいるようである。流石は風流人。

 しかし、半狂乱になりながら虚空を何度も切り裂く妖夢の姿はちょっとだけ滑稽だった。

 剣筋は良いんだと思う。だけど萃香にいいように転がされているのが現状だ。

 

 

 今宵の宴会場所は白玉楼。博麗神社は賢者会議の直後では目を引くだろうという理由で私と萃香がチョイスした。

 当の管理人である幽々子は快く了解の意を示してくれたので、ここまでは非常にスムーズだった。藍と橙と妖夢のおかげで設営もすぐ終わったしね。

 問題はここから。

 

 気を良くした私はスペルカードルール同意書にサインしてくれたみんなに招待状を出してしまった。……出してしまったんです。

 おい、何やってんだ私。いくら気分を良くしてたからって限度があるわよおい。

 

 そしてなんということでしょう! あっという間に萃香乱心異変の再来である!

 萃香が喧嘩を売って沸点の低い連中がどんぱち始める。そして完全再建間近の白玉楼はあえなく倒壊し、妖夢がブチ切れてこの始末というわけだ。

 

 なおさとりからは「なに夢見てんだ行くわけねーだろ」と言われた。誘いを口早に屁理屈で断る霖之助さんが相対的にマシに見えたわね。あくまで相対的に。

 ちなみに知り合いの賢者たちにも誘いを入れてみたんだけど断られた。阿求とおっきーなからは「またの機会」、華扇は「無理です絶対ムリ」と。

 てゐ? 天魔? 誘うわけないでしょうが!

 

 なんにせよちょっぴりカオスなことになっちゃったわけね。

 

 ……私のせいかなー?

 

「霊夢さん。止めなくていいの?」

「いいのよ。ここは幻想郷じゃないしいくら壊れようと結構。気に留めるだけ面倒くさいだけよ。こっちに攻撃飛ばしてきたらぶち殺すけど」

 

 ご飯に夢中な霊夢は小傘の問いをばっさり切り捨てた。まあ、間違った判断ではないけど……なんというか、もう少し手心を。

 あーあ、霊夢が動かないなら駄目ね。周りの面子を見てもわざわざあのいざこざに進んで首を突っ込もうとする奴はいない。

 アリスや幽々子は乱闘の観戦を楽しむタイプだし、いつの間にか宴会場に紛れ込んでいるブン屋はシャッターを切るのに夢中だ。

 こんな時、変に介入して事態をややこしくさせるいつもの困ったちゃん枠、レミリアはというと。

 

「器の小さな、オエッ……連中よ……っ。奴らには些か品が足りんな……オロロ」

「お嬢様どうかご安静に」

 

 グロッキー状態でメイドに寄りかかっていた。そんなレミリアの姿は、はっきり言って品がない。こいつこんなに下戸だったかしら。

 けどその割には度数の高そうなワインがぶ飲みしてたような……。風邪かな?

 

「成長期だからね。その弊害が私に押し寄せてるのさ。グフッ……気持ちわるぅ……」

「お嬢様に汚らしい視線を向けるな」

 

 ナチュラルに思考を読まれた。いやいやさとり妖怪なんですかね貴女。

 てか体調悪いならなんで来たのよ。今からでもぶっ倒れてる門番を引きずって帰っても誰も文句は言わないわ。その代わりフランを連れて来てね。

 この宴会場には癒しが圧倒的に足りない。

 

 はぁ、幽々子は怒ってないけどこれ以上の揉め事は勘弁。そろそろ藍に仲介を頼もうかしら。

 ……ていうかさぁ。

 

「どうせ喧嘩するならスペルカードルール……弾幕ごっこでやってみて頂戴な。それがこれからの決闘方法なんだから」

『私はね、心苦しく思っているのさ。ついにこの鬼の剛力を使えなくなる日が来るなんて、ってね。それならルールが開始する日までは好きにやっていいじゃないか! 鬼なんだもの!」

「そこか死ねぃ!」

 

 私の目の前で実体化した萃香を剣閃が斬り裂いた。切っ先が鼻をかする。

 だが私が仰け反るよりも早く、妖夢が仰向けに後頭部からぶっ倒れた。ぐったりと四肢が力を失う。意識が飛んじゃったみたい。

 どうやら藍の仕業みたいだ。

 嗚呼、また一つしかばねが……。

 

「紫様に刃を向けるのは流石に看過できないな。少し頭を冷やすといい」

「きゅ〜……」

「───あっはっは! 動きがまた一段と速くなったじゃないか藍」

「お前もいい加減にしろ!」

「おっと!」

 

 今度は藍と萃香か。何これ幻想郷最強決定戦でもおっぱじめる気なんですかね?

 観客どもは野次を飛ばしながら二人の勝敗をギャンブルしている。貴女たちの気楽さを欠片でも分けて欲しいわちくしょう!

 ていうかホントさ、スペルカードで戦ってくださいお願いします。何の為の署名と会議だったと思ってるのよ!

 

「いてて……実力勝負じゃ鬼にゃまだ敵わないか。根本的な力負けもそうだが、私のスピードが封殺されちゃ万に一つも勝ち目がない。悔しいな」

 

 酒と力にのされていた魔理沙が起き上がった。

 彼女と萃香の戦闘における相性はおそらく最悪なんでしょうね。魔理沙お得意のスピードとパワーが萃香には全く通じないから。

 萃香に並ぶには彼女を上回る圧倒的な暴力か、問答無用で敗北を与える反則級の能力のいずれかを保持しておかなきゃならないわけだけど、果たしてこの両方を兼ね備えた存在が幻想郷には何人いるのか、甚だ疑問。

 やはり触らぬ鬼に祟り無し、ね。

 

 さて、そんな魔理沙にエールを贈ろう!

 

「真正面から萃香と戦って勝てる者なんて殆どいませんわ。貴女のように食い下がることができるだけ大したもの──寧ろ誇っていい」

「……私は勝ちたいんだがな」

「殴り合いで勝てなくとも、鬼を降す方法は幾らでもありますわ。そしてスペルカードルールは貴女のような不器用な魔法使いの本領を、発揮させるルールなのです」

 

 魔理沙の強みは火力とスピードだけじゃない。

 彼女が人間の身でありながらここまで躍進し生き残ることができたのは、数多の死線を掻い潜ってきた回避力にある。これに限るならば暫定トップを名乗っていいのかも。

 そして尚も努力によって成長していく、刹那の命を燃やす瞬き。人間としての強みだ。

 

 魔理沙の姿は限界に挑み続ける人間としての、在るべきモデルケースなのだ。

 霊夢とかメイドはね……うん。もう殆ど人間じゃないからね……。

 

「そうだ弾幕勝負は私の土俵、負ける道理はないぜ! 霊夢は兎も角な!」

 

 うん、それね。

 私もルールを考える途中で気づいたんだけど、弾幕ごっこで霊夢を負かすことはほぼ不可能なのよね。夢想天生とかいうブッ壊れ奥義のおかげで。

 つまりスペルカードルールの普及は、博麗の巫女至上体制を大きく拡大させることになる。こういうのを棚ぼたって言うんでしょう?

 

「そうね。霊夢以外に勝てるよう頑張りなさい。陰ながら応援してるわ」

「へえそうか。なら一つ私の黒星を増やす手伝いをしてくれよ妖怪賢者。スペルカードルール実践の1号は私とお前でどうだ?」

 

 わ、私!?

 いやまあ……そりゃ普通に殺り合うよりは善戦できるかもしれないけど、ぶっちゃけ勝負になる気がしないわ。

 ほら、サッカーのルールを考えた人はサッカーが一番上手いのかって聞かれると、これまた違うでしょ? そんなもんなのよ!

 それに私のスペルカードって未完成のモノが多いの。完成作の結界『生と死の境界』を破られたら即敗北ってわけ。

 

「ほら早くやろうぜ。上へ来な」

「ちょっと待ってまだ(心の)準備が……」

 

 ええい最近の若いのはせっかちなんだから!

 ぐぬぬ……こうなったら召喚型スペルを即興で作るしかない!

 名付けて式神『八雲藍』! 私の代わりに藍に戦ってもらうという最強のスペルカードよ!

 美しくない? ルール違反?

 ふんっ、そんなの知ったことか! これぞ開発者のみに許された最強の技、『俺ルール』なのだ!

 

 さあいくぞっ。

 八雲(藍)の力──見せてくれるわ!

 

「あらあら紫? この後は私と大事な話をする約束だったでしょう? 私との先約をきっちり守ってもらわないと困るわよ〜」

「へ?」

「そんな魔法使いは捨て置いて早く私の元へいらっしゃい。まさか、親友である私を裏切ってまで優先することじゃないわよね〜」

 

 私の決心ってすぐダメにされるわね。我が心が弱いわけでは断じてないのだ!

 

 有無を言わせぬ幽々子の物言い。勿論、そんな約束をした覚えはなかった。

 悪戯っぽく微笑んでるのを見れば分かる通り、十中八九言っていることは嘘だろう。だがしかし、何を言わんとしたいかは把握したわ。

 

「ああそうでしたわね。勇んでいるところ悪いけど、私との弾幕ごっこはまた今度……今日は別の相手とやってちょうだいな。そうねぇ、例えばアリスなんてどう? 私なんかと戦うよりもよっぽど得られるモノがあると思うわ」

「「はあ? なんで私がこいつと」」

 

 はい仲良しのシンクロニシティ! 互いにツンケンしててもこの私の目は誤魔化せませーん!

 この二人は正反対だからこそ噛み合うものがあると思うの。その組み合わせの相性たるや、私と霊夢にも匹敵するかもしれないほどに!

 アリマリなのかマリアリなのかについては検討の余地ありだけどね。

 

 んじゃ駄目押し。

 

「ところで二人は仲が良いから実現しないかもしれないけど、もしもよ? 互角の二人が戦ったらどっちが勝つのかしら? 気になるわねぇ」

「おいおい紫。私の力はよーく分かってるだろう? 人形なんか使って小細工を弄するような奴に負けるはずがないぜ。私のマスタースパークで一撃だ。てかこいつには勝ったことがあるしな」

「どんだけ昔の話よ。そんなの戦績の内に入らないわ。ていうか貴女みたいなレーザー馬鹿に私が負けるはずないじゃない。星魔法についても無駄が多いし燃費が悪い。魔法使いの風上に置けないようなこいつが七色の魔法使いである私に勝てるはずないわ」

「七色じゃなくて親の七光り魔法使いだろ」

 

 あっ、ビキィってなった!

 魔理沙の煽りスキルは天下一品ね。煽り耐性の強そうなアリスをイラつかせたのは素直に凄いわ。まあ、見習いたくはないけど。

 

 さてこうして記念すべき弾幕ごっこ被験体第一号は魔理沙とアリスになった。魔理沙のゴリ押しかアリスの手数か……注目の好カードだ。

 しかし観戦は宴会の後にさせてもらう。文が撮っているであろう写真を見ながら思いを馳せるとしよう。

 今はわざわざ”親友”とかいうパワーワードを投げかけてきた幽々子への対応が先ね。

 

「これであちらはひと段落。正直助かったけど、私が困っていることによく気づけたわね」

「何年の付き合いだと思ってるのかしら? 私をあまり舐めないでよね」

 

 頼もしい言葉ではあるが、意味合いによってはかなり悪質よこれ。

 だって私が今までの幽々子の行動に困り果てていることに気づいておきながらってことでしょう? 天然腹黒おそろしや。

 

「それじゃあ約束通りお話しましょう。外でも歩きながらね」

「……約束通り?」

「約束に前後なんて関係ないわ。大丈夫、ちょっとだけだから」

 

 うむむ、分からん。私と何かを話したいのは分かったけど……約束に前後? どゆこと?

 幽々子の言葉は独特のニュアンスが多くてねぇ、私が彼女に対してイエスマンになり易い理由の一つでもある。

 もう少し解り易く話してくれないものか。

 

 

 白玉楼の木々は嘗ての生命力を失い、茶色の体躯を心寂しげに晒している。

 異変は完全に終了したのだ。

 あの花の嵐は私の知らない間に何処へ行ってしまったのだろう。冥界から更に行き着く場所なんて、一つしかないのに。

 

 裏手に来るだけでこうも雰囲気が違うのか。

 遠くから聞こえるみんなの喧騒がさらに侘しさを助長させている。

 

 私と幽々子の冥土を踏みしめる音だけがよく耳に入ってくる。

 

「ごめんなさいね紫」

「どうしたの? 藪から棒に」

「いえ……そういえば今の貴女には謝っていないことを思い出したのよ。聞いていたのなら二度手間になっちゃうけど」

 

 まーた意味の分からないことを……。今の私って……夢の中かなんかで私に謝ってたの?

 いや、けど春雪異変の件については私の早とちりが災いした部分もあるし、謝ってもらう必要はないわよ。うん。

 

「……私はね、あの時の異変で貴女に甘え過ぎたと思ってるの。貴女が西行妖の復活に協力するって言ってくれた時、とても嬉しかった。だって怒られるとばかり思ってたから」

 

 ちょっと待った。なんで私の胸に罪悪感が募っていくんですかね!?

 これじゃ「そんなつもり全くありませんでしたー!」とか言えないわ……!

 くっ、辛い!

 

「謝らないで幽々子。そのことで謝られたら私と貴女は友達じゃなくなってしまう。共に決心したことなんだから、ね?」

「……そうなの?」

 

 そういうことなんです。だからこれ以上古傷を抉るのはやめてくださいお願いします。

 過ぎたことは全部流すに限るわ!

 

「貴女がそこまで言うなら仕方ないわね。私は謝らない……感謝だけに留めておくわ」

「うんありがとう。やっぱり友情に責任なんて堅苦しいものは要らないわね」

 

 よしすっきり。んー……やっぱり私って調停者の才能があるわね!

 賢者適正の高さに慄く私であった。

 

 

「……変わらないわね」

 

 いつの間にか目的地に到着していたようだ。幽々子は愛おしそうに大きな古木を撫でている。

 この古木は、確か私が異変の最後に見たアレだったはず。ひっそりとしてて寂しいわね。

 

「いつから立っていたのかも分からないくらいの代物よねぇ。確かに、初めて見た時から何も変わっていないわ」

「変わっていないのは西行妖だけじゃないわよ。貴女も私も昔のまま……ここだけあの頃みたいねー……」

 

 ああ、そうか。

 幽々子の言葉で思い出した。ここは……私と幽々子が初めて出会った場所だ。

 四季映姫の紹介で知り合ったのよね私たち。

 

「いいえ、表面上や外見は兎も角、幽々子も私もかなり変わったと思うわよ? 少なくとも、性格は今ほど明るくなかったわね」

 

 懐かしいわー。あの頃はなんか調子が悪くてねぇ、右も左も分からないまま手探りで生きていたような、変な感覚に囚われてた。

 多分藍が居なかったらそこらへんの妖怪に殺されてたんじゃないかしら。

 一方の幽々子もなんか初々しくてね。死んでる彼女に言うのもなんだけど元気がなかった。

 

 ふふ、妖怪も幽霊も成長するのよ。

 

「そうね。完全にあの頃に戻ることはできない。だけど、根本的な部分では何も変わってないと思うの。全部あの頃のまま」

「と、いうと?」

 

 幽々子は楽しそうに笑って西行妖の根元にうずくまる。そして振り返ってこちらを見ると、キョトンとした様子で首を傾げる。

 

「『あら……貴女はどちら様?』」

 

 戸惑った。

 幽々子の行動もそうだが、私の脳裏に駆け巡るあの日のデジャブが言葉にできない感情を心に生み出している。

 私と幽々子の瞳が交錯する。

 

「『完全に死んでいない者を見るのは初めて。貴女は、生者なのね?』」

「……『そうですわ。今もしっかり、穢れを身に纏いながら必死に生きてる生者よ。ふふ、冥界の箱入りお嬢様には初めての体験だったのね』」

 

 私が答えると幽々子の笑みが深くなる。とっても無邪気な、可愛い笑顔。

 ああ、やっぱりこれがしたかったのね。初心に帰ろうってことかしら。

 

「『羨ましいわ。……生前の事なんて何もわからないから想像で補うしかない。だけど、生きているって事が何なのかが分からなくてね、今の私も一体何者なのか、考え付かないわ』」

「『生きている事を証明するには死んでいるものが必要で、その逆もまた然り。つまり、私の存在が貴女の存在を裏付けているのよ。もっとも、生死の境なんて些細な事、私にしてみれば何ら関係ありませんが』」

 

 顕界と冥界なんてスキマでひとっ飛びな私には、何も変わらないのよね。むしろ今となっては幽々子が幽霊だって事を時々忘れてしまうほど。

 そう考えると本当に生者と死者の違いなんて何もありはしないのかもしれないわね。

 

「『私が死んだ証になるのが貴女? 生きた証に?』」

「『貴女がそれを望むのなら。だけど私も案外早くこっちに来ちゃうかもしれないわね。死神からは死相が出てるっていつも言われるから』」

 

 差し出した手を幽々子が握った。

 

「『素敵な話ね。──…ああ、随分前にそんな話を聞いたような気がする。思い出せないけど、とても大切な事だった』」

「『奇遇ね、私もよ。もしかしたら……私達は初めましてじゃないのかもしれないわね』」

 

 

 そしてこの後は……うーん。

 なんか恥ずかしい!

 

 

「もうこれくらいにしましょう。あの時の事は互いに一片たりとも忘れていない……それだけの事実で十分じゃない?」

「あら紫ったら、こんな時だけ恥ずかしがるのね〜。普段はもっと臭い台詞をつらつらとあの子達に掛けてるくせに。それはもしかして、私が特別だから?」

「さあ、どうかしらね」

 

 あと私が普段掛けているのは臭い台詞じゃないわ。ほんのお世辞とごますりよ。

 それにね、私って実は恥ずかしがり屋なのよん。寝る前に1日を振り返って枕に頭を叩きつけるのはもはや日課なのだ!

 そもそもスキマに閉じ籠る能力って時点で察して欲しいんだけどなぁ。

 

 つまり、レミリアみたいな陽気な連中の相手は元来苦手とするところ。萃香の時なんて慣れるまでに何回五臓六腑を痛めた事か……!

 その点、幽々子は比較的楽なのよ。とある時間帯(主に飯時)はアクティブになるけど普段は大人しい大和淑女だから。

 つまり幽々子とは境遇からしてなるべくして親友になったような、そんな関係。

 

 ……もっとも、時折言ってることが意味不になる事を除けば、の話だけどね!

 

「ああ楽しかった。在りし日の思い出がまるで蘇ったみたい! ね?」

「まったくよ」

 

 私も幽々子も、あの時から何百年も経ってるのによく隅から隅まで覚えているものだ。

 私の記憶力って効率悪すぎぃ!

 

「ふふ……これからもよろしくね。そして願わくば、貴女と……──」

 

 可憐に微笑む幽々子の姿に見惚れながら、何かを迎えようとしている。

 だが、次なる言葉はなかった。

 

「あっ───それじゃ宴会場に戻るわね。わざわざ付き合ってくれてありがとう 紫」

 

 幽々子の身体が薄れて空気に溶ける。そのまま霊体は消滅して、私だけが残った。

 イヤに不完全だ。そして気味が悪い。

 

 ……そうか、そういう事か。

 だから幽々子は逃げたのか……!!

 

 

「随分と楽しそうな酒宴を設けているみたいじゃないですか。その道楽、はたして貴女が成した勤めに見合うと思いますか? ねぇ、八雲 紫」

「げえっ」

 

 うわぁぁぁぁぁ!!?

 し、しし……四季映姫だぁぁぁ!!

 

 説明しよう! このガキンチョ閻魔 四季映姫・ヤマザナドゥは私の……いえ、幻想郷の天敵なのである! その圧倒的権威と戦闘力()たるや、鬼の四天王が裸足で逃げ出すレベルなのだ!

 私からすれば一般兵士から見る呂布みたいなもの。ゆかりん主観 口喧嘩したくないランキング堂々の第1位よ! ちなみに2位はさとり。

 

「無礼講は結構。たまにはハメを外すのも宜しいでしょう。しかし貴女のような業の深い妖怪は表立つべき存在ではない。そう、貴女は少し目立ち過ぎる」

「それもまた一理──」

「黙りなさい。説法に耳を貸さぬ者は馬畜生にも及ばぬ愚か者です。さて話を戻しますが、貴女の行動理念には些か考えが足りない。大層なことを望むは良し、だが知恵が足りない」

「斯様な事を申されますが──」

 

 睨まれたので口を噤む。

 もうヤダァ! 紫おうち帰るぅ!

 

「──つまり、貴女は自分の力を理解し有効に活用すること。これが今の貴女に積める善行だと何度言えば分かるのです?」

「発言の許可を」

「ふむ……どうぞ?」

「その、宴会に誘われなかったのを実は気に病んでたり……?」

「ば、馬鹿者! ハブられて寂しいとかそんなんじゃ決してありません! 変なことを想像しないでください不愉快です」

 

 ならなおさらタチが悪いわ。

 このままじゃ数時間居座られて説教地獄が始まってしまう……その前になんとかして納得させるか追い返すかしなければ……!

 四季映姫相手では助っ人を期待できないのが辛いところだ。彼女の説教は人数を選ばないのだ!

 

「私もこの度は少しハメを外し過ぎたと反省していたところです。どうかご容赦をば」

「……嘘ではない。ふむ、ちゃんと反省はしているのですね。しかしそれを次に活かせないのが貴女です。私は誤魔化せません」

 

 よう分かっていらっしゃるわ畜生!

 

「さてそれでは──といきところですが、貴女には先日に説法を説いたばかり。連続して聞かせるには少々効果が薄れてしまう。残念ですが、説法はまたの機会にしましょうか」

 

 お? おおお!?

 

「今日のところはもう特に用は有りません。私は是非曲直庁に戻りますが……先に言ったことを決して忘れず心に留め、常に善行を積むことを考えなさい。特に貴女はね」

「有り難い説法でしたわ。またいつか」

 

 やったぁぁぁ! 流石えいきっき話が分かるー!

 ぶっちゃけ安心感で四季映姫に言われたことの殆どが消えかかってるがそんなの関係ない。私の五臓六腑が救われたのだ!

 

 ひゃっふぅ! 今夜は宴よぉ!

 

 

 ──ドンッ、という破壊音とともに地が震える。

 音がした方向では濛々と馬鹿でかい黒煙が立ち昇っていた。間違いなくあいつらだ。

 いや、今は何をやらかしたかなんてどうでもいい。それよりも……。

 

「……まだ話は続きそうですね?」

 

 四季映姫は実に清々しい笑みを湛えていた。私は妖生何回目かになる絶望を味わうのだった。

 何処からか、幽々子の「ごめんね」という声が聞こえてきたような気がした。

 

 そしてこの後めちゃくちゃ(ry

 

 

 

 

*◇*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は生きている。その私が貴女とこうして話している。つまり、貴女は生きている。……回りくどい証明かしら? だけど確実ですわ」

 

 もう力の入らない掌を握ってくれた。

 

「幽々子。例え貴女が遠くに逝ってしまっても、私がすぐに会いに行ってあげる。そうすれば貴女は永遠に生き続けるでしょう?」

 

 もう何も見えない瞳に暖かさが溢れた。

 

「生と死の境界なんて私が無くしてあげるわ。貴女と私を妨げるモノなんて何もない」

 

 疲弊し切った心に希望と夢を与えてくれた。

 

「だからいつかまたこうして桜の下で、楽しく語らいましょう。大丈夫、ほらこうして側にいるから。死んでもずっと一緒よ」

 

 喪おうとする命に意味を込めてくれた。

 

 こんな御時世で幸せに逝けるなんて……私はそれほどの善行を今世ではたして積めたのだろうか。みんな死んで、私一人生きるより……。

 

 斯様な人生……死に際で……。

 

 紫……また……───

 

 

 

「……いい子ね、よく頑張ったわ。もう苦痛なんて感じなくていい。私だけを想いながら、私の胸の中でゆっくりおやすみなさい」

 

 花が落ちるほどに優しい手櫛。

 

 彼女の指と一緒に、するりと浮かぶ。

 




ギャルゲーだったらゆゆさまルート間違いなしですねこれは。作者も心が揺らぐ揺らぐ!
ゆかゆゆのガチレズっぽい雰囲気すき

さて次回は……。



次次回からあの異変が始まるらしいです

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