幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷な話ですわ……いや割とマジで   作:東方兎流陽寿

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プロローグ


東方穢嫌焦
月見草に身を投げて


 はて──「あいつ」が変わってしまったのはいつ頃からだったか。

 いかんせん、昔のことで曖昧だ。

 

 月から帰ってきたあたりだったか?

 有史において最大規模にして、最悪の負け戦。地上と月の優劣をありありと見せつけられた敗北。

 私は立場上参戦する事はなかったが、伝聞だけでもその戦いの苛烈さは伝わってきた。

 

 そうだ……「あいつ」への違和感と変容を悟ったのはこの頃か。

 

 見る影もなく寂滅した覇気と妖力。そして奴の存在そのもの。なおも特別な力を感じるものの、従来に比べれば微々たるものだ。

 元々の「あいつ」は完成形と言っても過言ではなかった。逆に言えば伸び代はないってことなんだが、まあ関係ないだろうな。

 私の能力では干渉できない次元。

 故に、奴は完成形なのだ。

 ……だからこそ、今の「あいつ」はどこまでも未完成。どうしようもない不完全。

 

 

 残念に思ったな。

 私は失意に堕ちた。

 

 自信満々に笑いながら「月を手に入れてみせる」なんて大口叩いていた奴の顔を思い出すと、どこかやるせない気持ちになった。

 無様に敗走したのみならず、何かがきっかけで壊れてしまったのか。

 

 ……ただ、果たしてアレが敗走であったのかどうかは、今となっては永遠の謎だがね。

 結果的には大敗北だが、それが「あいつ」の敗北に直結するのかどうかは、また別の話。

 

 何にせよ「あいつ」は間違いなく弱くなっただろう。私なら小指で殺せてしまう程に。

 

 あれっきり力を行使する事はめっきりなくなってしまったし、物腰が若干硬くなった。

 下手すれば記憶すらも消失している。

 

 もはやそこらの妖怪となんら変わりはない。

 

 だが同時に「あいつ」は自分以外の力を加え始めた。時に牙を抜いて手懐け、時に力を与えて籠絡する。そして手駒を増やすのだ。

 上手くやるもんだよ。洗脳なんてせせこましい搦め手は一切不要と言わんばかり。

 羨ましいものだ。

 

 

 

 朋友程度には思っていた。

 完全には相容れぬ関係でありつつも、お互いを認め合える程度には。現に私は今も昔も変わらず、「あいつ」のことを一目置いている。

 

 故に無念に思った。

 

 変わってしまったヤツは私の力の源泉となる一部の秘匿を、配下や友に分け与えた。北斗七星を除く星座の力を私から奪ったのだ。

 私のテリトリーだと知っていたのか、否か……そんな事はどうでもいい。

 失った力など今の私には必要なきモノ。

 

 大切なのは私に名分を与えたことだ。

 

 こう言えばいい。

 私と争うつもりなのかと。ともに太平を語る事はもはやできないのか、と。

 さも悲観げにな。

 

 嬉しく思った。

 一度お前を負かしてみたかったんだ。

 

 

 ……ああ、違うな。私は何も思っていない。

 ただ「あいつ」で愉しみたい、それだけ。

 

 かつての友の成れの果て。「あいつ」の形をしたお前をめちゃくちゃにしてやりたい。

 「あいつ」なら到底やらないような面白いことを次々とやってのけるお前を辱めたい。

 

 お前を私の手駒として扱ってみたい。

 

 嗚呼、興味が尽きぬ。

 私の中の様々な神格が喚き立てるのだ。

 愛したい、殺したい、庇護したい──。

 渾沌たる私の感情がせめぎ合うのだ。

 

 

 能じゃあるまいてな。

 

 おかしな話だ。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

「月を隠すとは、げに面白き異変だな因幡よ。貴様が向かう終着点は何処にある?」

「……判ってるくせにさ」

 

 竹林の一画での背中合わせによる邂逅。

 向かい合わせよりも危険な死の間合い。バックドアの能力の前には敵対者に安全圏など与えられない。それが摩多羅隠岐奈の確固たる抑止力である。

 

 因幡てゐは別段慌てる様子もなく飄々と言葉を返す。しかしそれに反して、内心は決して穏やかなものではなかった。

 此度の異変に関して敵対するであろう勢力はしっかりと吟味していたのだが、まさか訪問第一号がバランスキーパーの隠岐奈になろうとは。

 

 この秘神、恐らく賢者の中でもかなりの切れ者だ。同時にヤリ手でもある。

 

「幻想郷に仇なすつもりはない……って言っても信じるはずないかな?」

「生き残ることを第一に考えて生きてきたお前が急にこんな事をしでかしたのではな。武力による侵略を極力控え、裏での籠絡による勢力拡大を旨としていたはずだが……ついに決心ついたか?」

「打倒八雲紫かい? まさか」

 

 てゐに主敵は存在しない。商いや腹積りなんて如何に相手を仲間を引き込むかに限る。

 ただ紫とはなるべく敵対しておいた方が何かと利益を享受することができるのは確かだ。裏の協力者は紫の事を好いていないようだし、天魔率いる妖怪の山との関係を上手く調節することができる。

 紫傘下の人間の里なんて恐るるに足らない。薬を売りさばく兎のいい収入源だ。

 

 もっとも、秘神がどのような腹積りでいるのかは今のところ検討もつかない。

 

「私の動機なんてどうでもいいさ。実質一夜限りの異変なんだ、害はない」

「だが口実は与えてしまったな。紫は竹林征伐の大義名分を得たのだ」

 

 背中合わせである表情は見えないが、声音からだいたい予想はついた。

 ……愉しんでいる。

 

「奴ら、どれだけの規模で来るのやら。スペルカードルールに恭順した錚々たるメンバーがお前と敵対する……。一夜限りの好カードになり得るかね?」

「なーんだ、お前は参加しないのか」

「ん? ああ……私は観戦だな。どちらが勝とうが私には何の影響もないんだから」

 

 紫や自分とは戦うつもりはない、か。

 やはり摩多羅隠岐奈は八雲紫側の神なのだろうか。自分と敵対する腹積りなのであればここで消すのもアリだったが……。

 いや、八雲紫との戦争が確定しているこの状況でさらにもう一人賢者を敵に回すのは正直キツイ。最高なのは此方側に引き込む形。

 

 ……ならば少し探ってみるべきか。

 

「スペルカードルールの真の狙いは何だと思う? 幻想郷の被害軽減──妖怪と人間のバランス取り──手駒を増やすこと──。

 限定するわけじゃないけど、全てが紫の想定通りに動いたのだとしたら、副次的な効果で私たちは窮地に立たされることになる」

「……ふむ?」

「選別かな。幻想郷は狭いようでかなり広い。今さら土地が半分減ろうが大した影響は出ないんだ。スペルカード対象地域の選定は特定の勢力を孤立させる結果をもたらすだろうね。……何にせよ八雲紫主体の枠組みを定めたんだ、あいつの影響下から逃れることはもうできない」

 

 妖怪の山が恭順するはずがないと見ての行動だったことは間違いない。また無名の丘などの危険地域を隔離する意図も感じられる。

 

 八雲紫は最近の情勢を鑑みた上で、幻想郷の改革に乗り出している。

 吸血鬼異変を皮切りにこれまでの傍観主義を一転させ、確実に己の力を拡大させているのだ。

 思えば人里から新たな賢者を擁立させることによって、独立性を向上させたあの決断。

 あれでほぼ大勢が決まってしまった。

 もはや幻想郷運営の決定権はほぼ紫が有しているようなものだ。

 

 ただ賢者の中に天魔のように対決姿勢を露わにする者は居なくとも、少なくない不満を持っている者たちが存在するのも確かで、その上で一番今後の動向での不確定要素となり得るのが、摩多羅隠岐奈という賢者なのだ。

 

 

 この秘神……嘗ては紫と壮絶な争いを繰り広げたという。今でこそ紫に同調する発言が多いようにも思えるが、てゐにはお見通しだ。

 隠岐奈はハナから紫に同調するような賢者ではない。況してや恭順など……。

 

「チャンス……とは思えない? ここで紫を退ければ幻想郷のパワーバランスは一気に傾くよ。勿論、お前の好きな方向にね」

「ほう、私を誑かすか。悪くない……が、まさかそんな簡単に成し遂げられることだと思っているなら、甚だ愚かなことだ」

「完勝する必要はないさ。ただ奴さんに泥をつけてやればいい。紫の求心力は月面戦争以降の完全無欠とも言える行動に裏付けられている。一度だけ負かしてやれば、紫は今ほどの勢いは維持できなくなるだろうね」

「なんだ存外考えてるようだな。だが裏の思惑も見え見えだぞ因幡よ。紫を止めたいのならあの天魔とでも協力するといいじゃないか。私は天狗と手を組むつもりはさらさら無いし、お前と考えを共にするつもりも無い」

 

 てゐはここで隠岐奈の懐柔を諦めた。

 もともとはダメ元で探ってみただけに過ぎないし、隠岐奈の主観は統治者というよりも神──バランサー。妖怪同士のいざこざに首を突っ込むつもりなどあるわけがないか。

 

 しかし、隠岐奈の望む展開は自ずと分かった。

 その為に今、こうしてわざわざてゐの背後に現れたのだろう。

 

 話が紫と戦う方向に誘導されていた。隠岐奈は紫とてゐの潰し合いを望んでいるようだった。

 恐らく隠岐奈はてゐのバックに潜む強大な力に勘付いている。それを炙り出すつもりなのだろう。しかも自分が火傷しないように上手く立ち回って。

 

 浅はかな。

 

「隠岐奈殿は共倒れをお望みかね。残念だけどそれは間違いさ、私たちは万に一つでも紫に負けることはない。なんなら()()()()()()()()と戦っても勝てるだろう。多少は苦戦するだろうけどね」

「おおっ、大きく出たな。くふふ……お前がそこまで言うほどの軍事力を備えていると言うのなら、紫はもしかすると手を出さないかもしれんな」

「それに越したことはないね。なんにせよこの幻想郷では現状維持が一番だ」

 

 何かが軋む音がする。

 

「私はね、逃げるばかりで生き残ったんじゃないのよ。勝つべき戦い、取るべき地位、局所局所を確実にモノにしてきた。これが長生きの秘訣だよ」

「あははっ、説得力が違うな! ならばなおさら見届けたくなったぞ!」

 

 余興のつもりか、と。腹ただしく感じたてゐは隠しもせずに舌打ちした。

 

「協力も敵対もしないのならどうでもいいよ。さっさと去れ。……まさか、それ以外に余計な事をするつもりなのか?」

 

 語尾を強める。

 牽制と威嚇の意が満遍なく込められていた。

 

 話していた間に配下の兎たちによる包囲は完成している。空間跳躍弾は異次元に逃走する者までも確実に追い詰める優れものだ。如何に隠岐奈であろうと看過することはできない装備だろう。

 勿論、月面戦争後に開発された月の技術をとあるルートより流用したモノである。

 

「恐ろしいな。これじゃ月の兎と何も変わらないじゃないか。やれやれ、触らぬ浄土に穢れ無しか」

「……往ね」

「健闘を祈ろう」

 

 軽い締めの後にバックドアの消える音。

 隠岐奈の消失を確認し、周りの兎へ合図を送った。即座に部隊は散開し元々の配置へ。

 

 これで漸く一息つくことができる。

 まだ何も始まっちゃいないのに。

 

 これだから賢者の連中は嫌いだ。

 

 

「やってらんないよ全く。なんで私が好き好んであんな連中と付き合わなきゃなんないのさ。裕福なんて二の次、全ては平穏が為に……」

 

 お金を稼ぐのも、賢者になったのも、兎のボスになったのも協定を結ぶことになったのも──全ては我が平穏に繋がるが故だった。

 しがらみは人も妖怪も弱くする。最たる例は協定相手の薬師だろう。

 判断力を鈍らせ、実力を発揮できなくさせる魔の繋がり。てゐには縁なきものだった。

 貧窮に喘ぐ兎たちを救ったのは同族が故の情け。迷いの竹林と組織力を糧にして賢者になったのは、これまた同族と協定者への慈悲と打算が故に。

 

 一定の距離を置いた関係だった。保つのが最善だけれど有事には断ち切る覚悟ができるほどの。

 

 なのに……何故こうして彼女たちの為に戦うことになってしまったのだろう。

 高飛車で我儘で自信家で。

 調子に乗るし見下すし、心が弱いあの兎。

 あいつなんかの為に。

 

 今回の異変は到底平穏とは程遠い戦いになる。何もかもを差し引いても因幡てゐは……これまでと正反対の道を歩もうとしている。

 

 だけど……。

 

 もしもあの薬師──八意永琳が()()を狙っていたのだとしたら、実に大した策士だ。

 

 てゐは疼く胸を抑える。

 人参のアクセサリーが淋しく靡く。

 

 

「……これが私の平穏、でいいのかな」

 

 と、感慨に浸る暇もなくてゐに通信が入る。相手は同僚の月兎だった。

 

「あいあいもしもし?」

『何処で何してんの! 第一侵入者が北西部から来てるわよ! サボってる暇なんかないのにあんたってヤツはなんでこうも!』

(北西部に第一号…あれ? 隠岐奈には気づいてなかった? ……まあいっか)

 

 あの秘神のことは一旦脳の隅に置いておこう。目下の敵はそちらに在り。

 さて、まずはそいつらから返り討ちにしてやろう。相手は紫配下の妖怪か、イレギュラーか……それとも月からの刺客か。

 なんにせよこの平穏を保つのに邪魔となる存在なのならば、全てねじ伏せてやる。

 

「了解したわ。鈴仙は手筈通り永遠亭まで下がってて頂戴ね」

『ふふん、あんたの撃ち漏らしは全部私が倒してあげるけど、あんまり不甲斐ない結果にはさせないでよね! あっ、あんまり酷い被害が出るまで無理しちゃダメよ?』

「まあ、適度に頑張るよ」

 

 がんがん耳に響く通信を断ち切って、直ぐに配下の妖怪兎に通信を繋げる。

 てゐの予想どおり彼方ではすでにかなりの騒ぎになっているようだ。

 

「侵入者だってね。風貌は?」

『吸血鬼だと思うのと人間が居る! まだ戦闘は始まってないけど、指揮系統がやばいよー!』

「すぐ行くからあまり事を荒げないように。適当に談話して時間稼ぎ」

『了解ー!』

 

 第一陣は吸血鬼。紅魔館に住まう夜の女王。

 今でこそ様々な催し物を始めたり異変直後の混乱期には治安維持に努めたりと丸くなった印象だが、嘗ては幻想郷の全勢力に喧嘩を吹っ掛けたまごう事なき化け物だ。

 

 気を抜けば自分は兎も角、部下の兎たちはあっという間に命を刈り取られてしまうだろう。

 慎重にやらねば。

 

 ……ここだけの話、てゐはぶっちゃけこのままノータッチで永遠亭まで連れて行くのがベストなのではないかと考えている。

 闇雲に戦力を減らす必要はないし、鈴仙か永琳が全て始末するのが一番楽な形だ。

 

 けれど姫に対して過保護な永琳と、自分に対して自信過剰な鈴仙。二人から言わせれば今回は前座を用意する必要があるらしい。

 心底くだらないと思った。

 

 だが生憎、それ以外にもてゐ本人の事情も相俟ってすごすごと迷いの竹林を通らせるわけにはいかないのだ。

 因幡てゐは竹林の元締め。然るべき対価を払わせなければならない。

 例え誰が相手でも。

 

 さあ、しまっていこう。

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 平和な夜だった。

 蟋蟀が歌い、優しい風にススキが揺れる。

 とても安らかな気分になりながら夢見心地に月を眺める。

 

 漆黒の宵闇を浮かぶ丸々としたそれは、余りにも完璧すぎて、風情になり得ることはない。如何にも浄土の者たちが好みそうなモノだ。

 

 

 八雲紫は知っている。

 月の美しさと醜さを。

 無知と狂気の織りなす浄土の地獄を。

 

 そして、他の何よりもそれを欲していたことを。

 

 

「春夏冬……どれも騒がしい季節だったわね。それに比べれば、なんと素晴らしいものか。……中秋の名月がとても映えるわ」

「そうですね。確かに、月見にはピッタリだ」

「月の楽しみ方は多種多様、どれを選択しても心を潤わせるに充分過ぎる。萃香は並々の酒に月を映し、飲み干すことを好んだ。幽々子は団子を月に見立てて食べてしまうのが楽しみだそうよ」

「月より団子……そのままですね」

 

 藍も微笑みながら応える。紫の言う通り、今日はとても心地のよい日だ。

 だから、それだけに残念に思う。

 

 こんなに素敵な夜なのに、大切な、それも決定的なモノが欠けているのだ。

 紫も藍も、それが残念でならない。

 

「何時の世も行き着く答えは同じ…か。幽々子の言う通り、何も変わっちゃいないわね」

「と、言いますと……?」

「このまま夜を明かすのは勿体無いわ。満月の夜は私たちにとって特別なモノなんだもの」

「……! そう、ですね。おっしゃる通りです。少なくとも私にとってはかけがえのないモノと言えます。忘れることなど、あろうはずがございません」

 

 藍は紫の何気ない言葉がどうしようもなく嬉しかった。あの時のことを思い出すだけでじんわりと目頭が熱を帯びる。

 ああ、覚えていてくれたのか、と。

 

 一方の紫も藍の言葉が嬉しかったようで、笑みで顔を綻ばせた。理由は同じだった。

 

「あの月を見ているとどうにも落ち着かないわ。貴女には分かるかしら?」

「仮に私がアレに気付けなかったのなら、その時は八雲の式を辞退せねばならないでしょう」

「ふふ、流石よ藍。こんなにも月が淡々しいのだから……とても永い夜になるわ。その全てを物思いに費やすのもまた一興。だけどどうせなら、皆が楽しめるよう華を添えるとしましょう」

「……はい、畏まりました」

 

 紫の意を汲み取り、恭しく跪いた。

 主は異変の解決を決意なされた。

 今宵の夜を台無しにした何者かによる贋作の月、すり替え隠された本物の月。それらをすべて元に戻すように、と。

 

 闇夜を照らす月は、夜を生きる者たちにとって何よりも大切なファクター。

 今回の異変は幻想郷に対する宣戦布告そのものだ。統治者がコレを看過できるはずがない。

 

 藍にとっても望むところである。

 胸の内を焼き焦がす式の熱。決意に想いを漲らせ、昂ぶる高揚感を押さえつける。

 

 袖から伸び出た指がひらりと舞う。

 

「それでは華を添える為、少しばかり出かけようと思います。ご安心ください……夜は消して明けさせません────」

 

 藍は思考の裏で境界を操作し、昼と夜を固定することで昼夜の逆転を禁じた。

 これで月が降ることはない。

 

 今回の異変は大丈夫、と。

 根拠のない自信だが、煮え滾る決意こそが紫への噓偽りない忠心の証であった。

 故に主人の助けは不要。

 

 何処の馬の骨が始めた異変なのかは知らんが、よくぞこの最悪なタイミングでしでかしてくれたものだと、内心、藍は嘲笑った。

 

「あら、私は手伝わなくても大丈夫?」

「勿論です。紫様の手を煩わせるまでもございません。この藍に全てお任せを」

 

 やはり頼れる式だ。藍がここまで言ってくれるのだ、心配する必要は皆無だろう。

 紫もまた内心、ほくそ笑む。

 

「……分かったわ。なら霊夢も誘っておきなさい。あの子ったらこんな月見日和なのに何もせず眠っちゃいそうだから」

「そうですね、了解しました。……我々で成し遂げてみせます。必ずや」

 

 

 

「お願いね、藍」

 

 何時ものように恭しく頭を下げながらスキマに消えた藍を見送る。

 そして一人になった紫はそっと呟いた。

 

 

「月見が楽しみね」

 




憑依華での夢華扇ちゃん曰く「内心隠して実は臆病なのが紫」だそうで。
ふーん? まさかねぇ?



「藍だ。博麗神社の再建が終わって一安心だと思ったらまた異変か。まったく、手間をかけさせてくれる。私と紫様が再会したのは満月の日。故に私にとって満月とはとても大切なモノなのだ。管理者としての立場もそうだが、私情でもこのまま捨て置くわけにはいかない。
だが今回は比較的楽に終わるだろうね。毎回幽々子様や萃香クラスの連中が出てこられても困る。
それに関連してどうも最近幻想郷にきな臭い匂いが蔓延してるように思えるんだが、紫様はどう思われているんだろうか……。
敵対勢力ですら、幻想郷の活性化の為なら残しておかれるのが紫様というお方だから。

さて次回は紫様が幻想郷の支配者たる勇姿を見せてくれるそうだ。流石は紫様!

私も負けてられない。さあこんな異変なんてチャチャっと終わらせてしまおう霊夢!」
「面倒くさ」

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